『こちらスーパー6-1、ETA1分後』
夜闇の中を2つの影が走る。北米陸軍第120特殊作戦航空連隊所属のMH-3が、冷たい荒野の空気を切り裂いて進んでいき、徐々に壁に囲まれた廃墟のような建物が見え始める。
エンド・オブ・カティーナ
24 9/15 UTM 01:21 120th SOAR,1st SFOD-D
暗い機内に、7人の黒装束の兵士が座る。銃を確認するもの、光学機器を調整するもの、祈るように天井の緑ランプを見つめるもの。ヘッドセットにポップノイズが入る。瞬間的に2つのヘリにいる計14人が耳を傾ける。
『こちら作戦監視室、参謀総長だ。30秒の遅れがある、何があっても取り戻せ。応答不要、アウト』
陸軍トップからの突然の無線に兵士たちは驚く。
闇が包むヘリの中に軽口が飛び交う。
「参謀総長だってよ」
「昇進できるかもな」
「実際デカい仕事だもんな」
「上さんが見てるんだ、腕を見せつけてやるか」
「まぁ、精々気張ることだ」
既に作戦の最中だと言うのに、軽い空気感を纏っている隊員に対して隊長が水を差す。
「無駄口を叩くくらいならNVGでも見てろ馬鹿ども」
その声と共に空気感が変わり、機内に重く苦しい暗闇が横たわる。2機のヘリが徐々に減速し、着陸に備える。兵士たちはヘルメットに付いたNVGを下ろし、各々のライフルのレーザーサイトを起動する。
『スーパー6-1、タッチダウン』
『スーパー6-2、タッチダウン』
若干の衝撃とともに機体が砂漠へとそのギアを着ける。14人の兵士たちが一斉にヘリの中から駆け出し、砂を蹴りながら目の前の建物を囲む外壁へ張り付く。
「オスカーウッド到着、C2を使用」
兵士の1人が壁にある鉄扉に手早く爆薬を仕掛ける。近くにいた兵士は離れ、ドアに銃を向けてその時を待つ。
「3、2、1、エクスキュート」
閃光と煙、爆音が起こる。外壁に張り付く兵士たちが壁の内部に続々と入っていく。ライフルを斜めに構え、緑色の視界に映るレーザーを四方へ向けて警戒。
「2、右クリア」
「3、左クリア」
部隊は二つの班に別れ、片方の7人の1人が建物の正面扉を蹴り開ける。内部は暗く、ナイトビジョンが生かされる。正面扉から真っ直ぐと廊下が伸び、左右にそれぞれ2つずつ木製の扉がある。
そのうちの右奥のドアが突然開けられ、銃を持った男が飛び出す。飛び出すと同時に、男の胴体には2つの緑のドットが浮かぶ。サイレンサーにより減音された銃声が響き、男は苦しみに悶えながらのたうち回る。
近づいた兵士は無言でその頭にドットを持っていき、引き金を引く。
その間に左右の扉が開けられ、他の兵士がクリアリングをする。6秒後、7人全ての兵士が廊下に出てき、目の前にある階段に向かう。
「7、後方警戒」
「2、上方警戒」
列を成す7人が上方、後方を警戒しながら素早く階段を上がっていく。階段を登りきり、暗く広い部屋が広がる。一つの机と椅子に座る1人の男。
「待ってくれ、まさかこんな早く来ると」
男は言い切ることなく脳漿と血液を壁と机にぶち撒ける。兵士たちは死体に近づき、1人の兵士が取り出した写真と死体を見比べる。
「本人でしょう」
隊長が無線を開き、報告をする。
「こちらトレッド0-1、目標無力化、任務完了」
『こちら作戦監視室了解。帰投せよ』
黒い袋に死体を収め、袋を担いで走る。外で警戒していた7人と合流して壁の外へでると、丁度2機のヘリが到着する。ヘリに死体を乗せ、隊員たちも搭乗を始める。
『こちらスーパー6-1、早く乗れ。死体と一緒にランデブーだ』
ギアが荒野を離れ、ヘリが徐々に高度を上げていく。ヘリは一瞬で暗闇に消え、そこに残ったのはいくつかの死体と、静かになった『廃墟』だけだった。