カタルーニャ王国、帝国有数の港湾都市から西にしばらく西に離れたこの地域に広がる果樹園は今も昔も変わらない。舗装された道路にトラックを停めて、木々にぶら下がるぶどうの様子をうかがう。
「…いい実り」
今年はいい出来だ。
『…ピッ…"気分がよさそうだな"…ッー』
後ろ、杖をついた女性から機械を通した声が聞こえた。
「ここは足場が悪いですから…、車で待っていただいてよかったのですよ」
『ピッ…"なに、多少なら見えるさ"』
彼女は地面に張り巡らされた大小の木の根を器用に避けつつ果樹園の中に入った。…彼女は目が見えていないはずなのに。
『ピッ…"今年の出来は?"』
「いいですよ、これならいいワインになりそうです。モナストレルですから卿も気に入られるかと」
『ピッ…"楽しみにしておこう"』
卿は微かに口角を上げた。あの機械に感情表現を声色へ変換する機能はないが、きっと嬉々として話しているのであろう。ーーー、
《…本日のニュースをお伝えしますー、続くサウジアラビア戦役はECSC側の優勢でー…、》
果樹園を後に、トラックに揺られながら、ラジオから流れるやや物騒なニュースに耳を傾ける。景色は変わらず、日光がギラギラと照りつけ汗が体を伝ってくる。
「卿がこちらに来られるとは以外でした」
『ピッ…"こちらに休暇に来ていたのだが、出張中のシナノに伝言を頼まれてね。近くにいたものだからと、迷惑だったらすまなかった"』
「いえいえ、それで伝言というのは…?」
『ピッ…"そうだな、君の指揮下にルェンという者をいれるそうだ"』
「ははは、私設部隊をそんな拡大してーー…、っまて…え?ルェン?」
妙な事を聞いたようだ。気のせいだと信じて聞き返してみるが…
《ー、ニーナによる南アメリカ最大の海上都市建設が…ー、》
『ピッ…"ルェンだ。私が何か言い間違えたか?"』
聞き間違いじゃなかった。
「…あの、…龍の?」
『ピッ…"リバティニアのルェンだ。他にいないと思うが"』
「……、まじですか…」
リュドミラとリューさんのお話。
「」がリュドミラ、『』がリューさん。
《》はラジオ音声。
リュドミラは農家出身なので出兵がないときなどはこうして手伝いをしています()