ジュノーは相変わらず寒かった。夏にも関わらず気温は13度しかなく、それでも多くの群衆はこの後現れる1人の男の歴史的な就任演説を待ち望んでいる。彼らの中には2度の台湾事変に従軍しその筋肉質な体に痛々しい銃槍を残して戦ってきた英雄やホワイト・パワーという言葉を自らの信条としスキンヘッドにサングラスを掛けを自らが白人に生まれてたことを何よりも誇りに思っている者もいる。しかしそれも1人の男の登場によりアラスカ州議会議事堂の静寂は一瞬にして熱狂へと変貌した。男は群衆の拍手を浴びコツコツとリズミカルな音を立てながら壇上に上がる。マイクが男の深い深呼吸の音を拾うと群衆の間で一気に緊張感が増した。
ついに始まる。
「今日、私はかつてオスカー・“ホワイト”・イーストランドが立った場所に立ちこれより親愛なる州民の皆様に宣誓をします」
「自由連合の発祥地、偉大なるアングロ・サクソンが住む南部の中心地から、我々は本日自由のドラムを鳴らすのです。歴史を通じて、我々の祖先が代々、幾度となく行ってきたように自治の要求に応えようではありませんか」
彼らは勝利を求めていた、
「愛情あふれる血が私たちには流れています。南部の自治を脅かす連合王国政府の介入に対し答えを送ろうではありませんか」
有色人種に対しての絶対的な勝利を。
「この地を踏んだ偉大なる人々の名において私ははっきりと態度を表明したい。暴政には決闘を申し込もうではありませんか」
いつか国中を揺るがすだろう。
「かつて先人たちも私と同様に宣言したことでしょう。私は第36代目アラスカ州知事として今、ここにこれを宣言します……」
「今こそ人種隔離を、明日も人種隔離を、永遠に人種隔離を!」
・ジョセフ・C・シャーラー
国民党右派の白人至上主義者、徹底的な人種隔離政策を公約に掲げトラスト内戦による反アジア思想の広がりを元にアラスカ州知事に就任。モデルはジョージ・ウォレスくん
・スキンヘッド
ネオナチのこと。
・自由連合
第一次プルマー内戦にて蜂起した白人至上主義者達の集まり。
・オスカー・“ホワイト”・イーストランド
第一次プルマー内戦にて自由連合の指導者を勤めた白人至上主義者。ホワイトは本名ではなく政治家となった後につけられたあだ名。
・第一次プルマー内戦
敗戦後の混乱末50年代に勃発した内戦。アラスカ州ではアンカレジを始めとする南部都市が白人至上主義者達の集まりである自由連合に味方した。