黒の革靴が、白いリノリウムの廊下を叩く。小気味いい音と共に灰色の軍服を着た男が歩き、やがて金属製の横開き戸の前に辿り着く。開ける。
「諸君、おはよう」
その声と共に、部屋のざわめきが消える。大学の講義室のような見た目をしたその部屋には、数十人の軍人がいた。その胸に「北米空軍」のパッチをつけて。
「さて、君たちは各部隊から引き抜かれた優秀なファイターパイロットたちだが、実践経験のあるものは?」
挙手するものは1人としておらず、そこには沈黙が横たわる。
「なるほど、それはそうか。では講義を始める前に一つ。君たちは敵機に向けてミサイルを、あるいは機銃を放つ時、何を狙っている?」
1人の若そうなパイロットが小馬鹿にするような笑みを携え、挙手する。
「それは敵機です。自分で言ったことをお忘れですか?教官」
部屋には嘲笑するような笑い声が、クスクスと聞こえる。男は諦観したような、何かを失ったような目をして、
「それは違うな。君たちは撃墜するんじゃない。殺すんだ。わかるか?イジェクトさせるな」
ざわめき。明らかな人道違反的発言に、若手たちは目を開き、驚愕する。
「別にベイルアウトした敵を撃つわけじゃない。人道的配慮もあるからな。だから、イジェクトさせるな。殺せ」
1人の女性パイロットが声をあげる。
「何を言っているんですか!?」
「敵の戦力を潰せと言っているんだ。君たちの仕事は敵機を撃墜するのではなく、搭乗員を殺すことだ」
「ミサイルならばコックピットを吹っ飛ばせ。機銃ならばキャノピーを赤く染め上げろ。レバーを引く暇を与えるな」
『生徒たち』は尚も驚愕で動かない。
「ふぅむ、時間を使いすぎたな。では講義を始める。言い忘れたが、私は旧財団パイロットのウィリアム・マクレリー少佐だ」
男は教鞭を振るう。諦観に満ちた目の裏に、炎に包まれる街と、地上に照らされる夜空、赤く染まる雲を描きながら。
男の戦争は終わらない。