市内に厳戒態勢と交通規制が敷かれる中、
ネオンライトや窓からの明かりで雑多に照らされる街を
チェコ軍の機甲部隊がゆっくりと前進していく。
高層ビルから大量の視線が注がれている。
指揮車輛を先頭として、軽装甲車、トラック、ジープが続く。
上空にもガンシップを始めとした大量のヘリコプターが展開していた。
市内に設置された大型モニターから、
一般家庭のテレビから、学生が持っているスマートフォンから、
ありとあらゆる情報機器でトラスト政府からの緊急放送が流されている。
「チェコ及びトラスト政府からの緊急放送です…」
「信頼のおける部隊に治安維持を要請…」
「この要請を受け、現在展開中の部隊は…」
チェコのMPは交通誘導用に配置済みだった。
ホイッスルを鳴らしながら赤色灯を振り、
計画通りに部隊を展開させていく。
「ブラボー1より本部、タンゴ1及び2 秀嶼区到着確認 どうぞ」
現地からノンストップで届いてくる各部隊の報告に、
現地司令部の人員は全員黙殺されていた。
凄まじい勢いで整理されたデータが総合作戦司令所に届き、
それらは中央のモニターに表示された画面に入力されていく。
画面の中には各部隊を示す師団章が表示されており、
その全てが高速で動いていた。
「こちらチャーリー3。キロ、シエラ到着。オーバー。」
「こちら本部了解、展開せよ。アウト」
上空から汎用ヘリがライトを照らす中、
各種車両から歩兵が展開していく。
それを確認している下士官が、上空の汎用ヘリに
チェコ航空のマークが書き込まれていることに気づいた。
「チェコ航空も動員してるのか?
……何が起こってんだ、一体… 冗談じゃないぞ…」
湾岸にあったいくつかの主要な市街はたった5時間で占領された。
占領と言っても完全なものではなく、
重装備を保有している本隊の到着まで市街を守り通さなければならない。
最初に1人の機銃手が言った通り、この任務はオールナイトで進行していた。
…少なくとも最初の夜は成功だ。
ルドヴィーク・イングル……チェコクリパニア陸軍作戦本部長は、
総合作戦司令所の中でモニターを見ながら1人呟いていた。