「1時方向、家屋2階RPG!!」
叫び声と同時に携行対戦車火器独特の射出音が聞こえる。砂で覆われた大通りを滑るように弾頭が迫ってくる。
「全員伏せろ!伏せろぉ!」
近くに着弾、目眩と耳鳴りが私を襲う。少し回復した視界は降り注ぐ砂と何か有機的な赤いモノを捉える。考えちゃいけない。
「4が死んだ!!」
クソッタレ、あいつはこの分隊で唯一の料理要員だっつーのによ。あいつのシチュー美味いんだよ。
仲間が何か叫んでいる。次弾か隠れろの指示か。
どっちにしろ今は遮蔽物に隠れるほかはない。
アスファルトを蹴り、砂埃が上がる。重い装備とライフルをガチャガチャ言わせながら大通り沿いの半ば瓦礫のような廃墟に滑り込む。目を向けると、他の隊員は自分と反対側の建物に逃げ込んだらしい。それに若干だが12時方向の市街地中央方面に銃を持った男たちが見えた。分隊無線機を使い、
「おい、他に死んだやつは?」
『いない。だが2が重症だ。肩と股関節のあたりに破片が食い込みやがった。』
ファック、股関節はまずい。大動脈が切れてると厄介だ。肩の無線機をいじり、作戦司令サイトへの直通回線を開く。
「こちらキロ0-1リーダー。西の大通りを警戒中に接敵、RPGをぶち込まれた。敵大規模部隊も中央方面に見えた。増援を要請、出来なければ撤退を。コードレッド、オーバー。」
『こちらブレインヘッド、増援は東の火力支援に回っている。だが撤退は許可できない、引き続き通りの封鎖を続行せよ。オーバー。』
「0-1リーダー、ネガティブ。こちらは14人しかいない上に奴さん40人近い。テクニカルで突っ込まれたら壊滅間違いなしだ。」
『こちらブレインヘッド、撤退は許可されない。繰り返す、撤退は許可されない。アウト。』
「このクソッタレがぁ!」
思わず悪態をつくが、廃墟に響くだけで虚しい。部隊に命令を出さなければ。
「0-1よりオールキロ。撤退は許可されない。封鎖を続行しろとのお達しだ。2をメディバックで運べるよう要請する。耐えるぞここが正念場だ。」
『隊長、俺たちは生きて戻れますか?』
「大丈夫だ。航空支援がもうすぐくる。それまで耐えるぞ。」
嘘だ、支援がくるはずない。東は激戦で損耗が多いと聞いた。上は向こうにだけ目を向けているんだろう。ああ、できればまたあいつのシチューが食いたかったな。
そんなどこまでも目の前の景色にそぐわないことを考えながら、ライフルを構え直した。
ファルージャ西の大通り封鎖を担当していた第5歩兵連隊E中隊キロ分隊の隊長の記録。当該部隊はこの記録の20分後に作戦能力を喪失し、2人を残して全滅した。