ジェームズ・T・アーキンソンは国防大臣としての仕事の合間を縫い、旧友に会いに行くことにしていた。本来アーキンソンが友人に会いに行くことは非常に少なく彼自身が他人との交流をあまり好いていなかったことがおもな原因だったのだが彼だけはそうとも行かない。施設の中を歩き張り付くような冷たさのドアノブを引いて訓練場に入ると一人の少将と思わしき男の姿があった。
年相応のシワが増えているように見えるがそれでも若い頃の、少佐だった頃の面影が残っている。右足の膝から下を義足にし、失った左腕に杖をはめている様子が特に印象的だった。おそらくかなり前の傷だろう。アーキンソンと別れて丁度数ヶ月後くらいのものだろうか。前にいる兵士達に指示を飛ばしていたがアーキンソンに気付くと少し驚いたような表情を見せた。
「アーキンソンか、久しいな」
『リトルロック、まだボケていないようで嬉しいよ』
「一応お前と俺は同い年なんだぞ?、俺がボケる時はお前も道連れだ」
トーマス・D・リトルロック、アーキンソンと同い年であり彼の同期であった男だ。あえて彼はリトルロックの腕と足のことは聞かなかった。……というよりもおそらくアーキンソン自身も軍人だった以上彼に何があったのかは全て知っていたのだろう。それに直接リトルロックから聞いたところでどのような慰めの言葉をかけても無駄になるだろうし彼もそれを望んでなんかいないと分かっていたからだろう。
一瞬だけちらりと兵士達の方に目を向けてみると設立当初にはいなかった兵士達がいる様に思える。それでも大半は白人で30代ほどの者達ばかりであったが、5名ほど人種が違う者達がいた。何故リトルロックがわざわざ人員を増やしたのか、いくら親友でも10年以上会っていないとあまり予想もつかなくなってくる。ただ一つ分かったことは彼らは間違いなく熟練の兵士達であり、この部隊は最早結成当初の全く異なるということだ。
『俺が見てない間に部隊は随分変わったようだな』
「あれから戦争もあった。他国の人外も色々と明らかになったしお前が用意してきた編成の部隊じゃ、今頃奴らのエサだよ」
『他人の事を見定めるのはお前の方が適任のようだからな。アイツらはどうなんだ?、結成当初は居なかったはずだが』
「あぁ、あの1人は台湾人、二人はヒスパニックの奴がいる。それとロシア系の奴もだ。現状人外がいると発覚している帝国、グラトス、WOLFなどそいつらの言語を話せる奴らが必要だと思ってな。色々と少し訛りがあるが全員歌の歌詞を理解出来るくらいには全員英語を話せる」
『射撃の腕前はどうなんだ?、確か人外の中には仁とかいう狙撃手もいただろう?』
「戦闘記録を見る限りあそこまでの精度は不可能に近いが、それでも1000ヤードまでなら全員狙撃できるよう訓練している。近接戦闘も全てアイツらの頭の中に叩き込ませておいた。今じゃ奴らのエサになるほどヤワな奴らじゃなくなったはずだ」
アーキンソンが嬉しそうな顔を見せる。彼らが現役だった頃の事を少し思い出したこともあるだろうがそれとは対照的にリトルロックは少し顔をしかめて一言こう言った。
「……だが、一つ言える事はな」
「まだまだやるべき事は沢山ある…ってことだな」