私は頭を抱えている。天井のLEDライトに照らされた大理石の床を見ながら、目の前の女、私の秘書官になるとか言ったこの阿呆に。
「貴様…脳みそまでカビたか?」
「え、あ、すみません!」
「…まともな教育を受けてここにいるのか?」
こいつ、突然この部屋に入ってきたと思ったら一言目に『秘書にしてください!!』とか言ったぞ。
何を考えているかはわからんが、摘み出さなければ、そろそろ迎えが来てしまう。
「おい、お前の様な阿呆がなぜユニオンの本社にいるのか知らんが、ここがなんの部屋かわかっているのか?」
「え、はい。確かVIP控室だったかと。」
「わかってて言っているのか貴様。はやく出ていけ。」
「いえ、私を秘書官にして下さい。」
思ったより強情なやつだ。その度胸は認めてやる。だが今はそれどころじゃない。
「この私はISAFの特殊連絡将校だぞ?この服とバッジを見てわからんのか?」
今の私はタンカラーの軍服に、特殊連絡将校のバッジ、そして中佐の階級章を付けている。ガキでもそれなりの立場の人間だとわかるはずだ。
なのにこのバカ。
「はいはい、存じ上げています、ジョージ・L・シリング中佐。その上で私を秘書に置いて欲しいのです。」
秘書…とこいつは連発しているが、ISAFの連絡将校は補佐を付けられる。とはいえだ。
「早く戻れ、そろそろ迎えが来る。私はユニオンの会議に軍事顧問として陸軍からよこされたんだぞ。貴様に構っている暇は」
突如、自分の背後にある無駄に豪華な黒樫の扉が開く。入ってきたのは黒いスーツを着た男。白髪混じりの頭に髭が少し。しかしどこと無く冷徹さと情熱が入り混じった様な目をしている…が、にっこりしている。
「わざわざご足労いただきありがとうございます。
シリング中佐。おや、補佐の方もいらしたのですね。ユニオンの皆様がお揃いです。お迎えにあがりました。」
「いえ、この者は補佐で」
「それではこちらへ。」
老人は背を向け扉へ歩き出す。名前も聞いていない阿呆と目を合わせる。とんでもない厄介ごとだが、この私にかかればどうという事は無いだろう。多分。
「貴様…あとで覚えておけよ。仕方あるまえ、来い。」
「は、はい!」
なんで俺がこんなことをしている?
ISAF:財団では無く独立国家連合軍。シリングはユニオンと正規軍の仲介をする連絡将校である。
会議:ユニオン各企業の重鎮が集まり、これからの技術開発、研究方針などを話し合う定例会議。今回は正規軍からMBT開発の要項を聞くため、シリングが呼ばれている。