意を決して「管理官執務室」と書かれた金属製の扉を開ける。
「今日は早いのですね。アイリスさん。」
「そうっすねぇ…」
開幕そうそう沈黙が場を支配し、執務室にこれまでないほど重々しい空気が立ち込める。自分の腰のあたりに手を置き、ひどく冷たい鉄の塊『拳銃』の存在を確認する。
「どうしたんすか管理官。そんな所で立ち尽くして?」
「…そうで…すね。」
ぎこちない足取りで椅子に座る。いつもと何も変わりない光景が、なんとも恐ろしい。
「単刀直入に。あなたは何故向こうに手を貸したのですか?」
「理由は言えませんね。これは私の信念であり、存在意義ですので。」
驚いた。いつも特徴的な話をしていた彼女が、笑顔を消し、畏まった、いや、明確な「警戒心」を持って話ている。
「我々はやり過ぎたんですよ。無意味に生命を失いすぎた。」
「だからと言って虐殺だなんて」
「革命には痛みが伴う、これは自明です。争いを無くすために殺す。そこに矛盾を感じるのはあなた自身が矛盾しているからです。」
「命を奪うと言う行為に正当性はな」
「では何故あなたは武器を作る?」
「それは…」
「それが矛盾です。まぁ、あなたには私を撃つ必要があるのでしょう?その腰に携えた拳銃を、使うのでしょう?」
いつもの彼女なら、笑って冗談を言う。だが今は違う。彼女は間違いなく『革命家』であり、『煽動者』であり、『思想家』だった。
腰から拳銃を抜く。彼女に銃口を向ける。彼女は動じない。
「その場に伏せて下さい。」
「…。」
彼女はゆっくりと手を、彼女の胸元へ動かす。
「伏せてください。でなければ撃たなくてはなりません。さぁ、早くっ!!」
久しぶりに声を荒げた。彼女の手は止まらない。
撃つか?撃つのか?撃つしかないのか?撃てるのか?
他人に銃を持たせ、命を浪費し、紙上の文字だけを処理してきたこの私が?
「伏せて、早くっ!!」
引き金に指をかける。ハンマーコックは降りている。その瞬間、彼女の手は素早く胸元へ動く。だが、
引き金を引く指の方が速い。
乾いた音が響く。カラン、と薬莢が床に落ちる。彼女は倒れる。その一瞬は永遠だった。