「むぅ...」
砂金を溶かし込んだかのような煌めきを持つ金髪。シアンの結晶の様な透き通った青緑色の瞳。そして、それらに彩られたビスクドールの様な顏。
そんな要素全てを台無しにする勢いで少女は、ミーナ・シュリヒトは頬をぷっくりと膨らませていた。
(最近お姉ちゃんが構ってくれない...)
6歳のミーナにとって自分と姉の2人で完結した環境は、文字通り世界の全てであった。
物心ついた時から大好きな姉と一緒の生活。一日の始まりは同じ床に収まる姉の呼びかけから始まり、鏡台の前で髪の毛を整えてもらい、簡単な朝食を済ませる。そしたらお昼までお勉強をして、お昼ご飯を食べ、午後からは遊ぶ。
何をするにも姉が居た生活が変わり始めたのは去年の冬頃からだ。
「今日の帰りはちょっと遅くなるかな。ちょうど注文が殺到する時期でさ。お昼の時間には一旦戻って来るけど...」
姉が近所の革細工の工房で働き始めてからは一緒に過ごせる時間が目に見えて少なくなってしまったのだ。
姉が面倒を見ることができなくなった分、工房店主の息子たちが面倒を見に来てくれるようにはなったがそれでも寂しいものは寂しかった。
母親が亡くなってから約1年。これまでは両親の残した金を切り崩し、だましだまし生活してきたものの、これからの生活のことを考えると、何らかの手段で収入を得なければならないと考えた『ミーナ』の姉『エルミナ』は工房店主の好意により革細工製品を製造する工房で働くこととなったのだ。
しかし幼いミーナの心にそんなものはわかるハズもなく、工房の店主に大好きな姉を取られたような気さへしていた。
『───魔女が魔法の粉をサッとひと振りすると、たちまち子供たちは眠ってしまいました』
姉が働き始めてからも、変わることなく続く寝物語。
政略結婚を繰り返す裕福な商家に、ある日突然魔女が訪ねてきてその家の子供たちに魔法をかけてしまうといったものだ。
互いに生涯をかけて愛し合う覚悟を持った者同士の接吻でのみ目覚める永遠の眠りを。
物語としては幾度となく擦られた、ベターともいえる作風ではあるが、この物語に登場する『魔女の秘薬』はミーナの眼にはひどく魅力的に写った。
・この後...→自分がまだ姉から愛されているか、不安に駆られたミーナちゃんは本を元手に『魔女の秘薬』の材料を調べ姉に盛ります()レシピを見ていただければ察して頂けると思いますが完全に毒薬です。ホントウニアリガトウゴサイマス
・年表について→2代目以降の自分にこの記憶を残すことを嫌った初代ミーナが意図的に毒殺から、工房倒壊による圧死へ書き換えました。
・その後...→姉が死んでしまったのは本当に自分のせいなのか。確かめる為に今度はボーイスカウトの真似事をしていた工房店主の息子たちのスープに盛りました()
・その後...→目覚めなかったのは愛が足りなかったからではないかと考え、成人後交際した男女3人に対して盛りました()
・寝物語について→政略結婚について啓発するために書かれた。
・工房店主→狂愛さん過去変に出てくる中では一二を争うぐう聖。
・工房のその後について→大戦末期から終結にかけての期間で店が傾いたものの『差出人不明の援助金』により難を逃れた。