先程まで熱気に包まれていた管制塔は、今ではこの上ない緊張感と静寂に包まれている。管制塔の任務は既に終了した。残りの任務はポラリス6号の宇宙飛行士らのものである。そしてその重要性は彼らが最も理解していた。
人の一生において、最も重要な時間とは場合によっては何ヶ月も掛かることもあるし、数分で過ぎ去ることもある。ポラリス6号の船長であるアイザック・ランバートはそれを十分に理解していた。
「逆噴射開始」
目の前の高度計を見ながらダニエル・J・シモンズは言った。不安と緊張により脳からの命令に背いて震える手をなんとか動かして手元のコントロールパネルを押し逆噴射を作動させる。着陸体制に入る宇宙船の船内は激しい振動に見舞われたが、それでも船員たちは少しの間、外に広がる広大な灰色の大地に釘付けになっていた。最後にランバートが着陸脚のスイッチを押した後、宇宙船は下から来る大きな振動をどこも壊す事なく受け止め約束通り三人の冒険者を目的地に案内してみせた。
「…本当に月に着いたのか?」
「あぁ…、俺たちは月に着いたんだ」
アイザック・ランバートは宇宙船から降り、人類で最も大きな功績を残した人物の1人となった。世界中で同時中継されたこの映像は人々を感動に包み込み、人類の可能性を示すものとなったのだ。街では人々の歓声が他の音を打ち消し、管制塔にいる全ての人が今までの自分たちの仕事の成果が、歴史の一つになったのだと改めて理解する事となった。
低重力で、少し跳ねながらランバートは一歩一歩、自分が歩いた印を残して歩き始める。懐から取り出した三色旗を大地へ突き刺した後カメラに向かってランバートは言った。
「我々は次の世代への一歩を踏み出したのだ」
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