テクネチウム「ふう…」
Phantom-worksの代表取締役のテクネチウムは一通りの仕事を片付けてやっとこさ一息つく。彼の机の上には大量に積み上げられた書類の束。基本的にはパソコンでの業務が多いのだが、直筆のサインを必要とする事が多い為、紙媒体での業務を余儀なくされている。
内容は…最近完成しているブレイン・ソルジャーの”ゾルダート”関連がほぼ全てである。Phantom-worksは国営で唯一の複合軍事企業である。どの子会社もひっきりなしでこの”ゾルダート案件”に追われている。そしてその余波はもちろんこの会社のトップであるテクネチウムにも来ているのである。
運用方法、倫理的問題、生産や維持に関する設備や技術…それらは積もりに積もって山と成していた。
テクネチウム「初期生産されたのはおよそ100体、つまり1個小隊の規模で試験をしているが…やはり北クリーニングラード共和国のコマブロイド軍団のようにゾルダートのみの軍隊としての運用は、やはり実用化には至ってないか。」
彼らがコマブロイドのみで軍隊を運営できるのは、スーパーコマブロイドを初めてとした縦社会が形成されているからである。これは、北クリーニングラード共和国が何年という長い年月をかけて積み上げてきた努力の結晶であり賜物である。そこらへんの国が一朝一夕で出来るような物ではない。
テクネチウム「とはいえ、彼らから学ぶことは多い。今は我々のような人間を主とみなしてついていくだけではあるが…その主が死亡あるいは行動不能に陥った時に彼ら自体も動けなくなる。可能性がある…。」
今の”ゾルダート”は主従本能に従って、ファントム統合軍の軍人…主に陸軍の歩兵を主とみなして共に行動している。今の人間等のように、自ら考えて行動するといったことは出来ない。主が倒れた時が、彼らの倒れる時となるのだ。
テクネチウム「そんなのは駄目だ…戦場で共倒れになる事が最悪の展開になる。それでは何のための兵士の名を関する生体兵器だというのだ…主を守る為、敵を倒す為に動いてもらわなければ困る…。その為には彼ら自身を導くリーダー的存在が必要不可欠になる。」
その解決法として、”ゾルダート”の同種内で彼らを指揮する上位個体が必要である。そんな都合の良い個体がいるわけが…
テクネチウム「確かに時間はかかるが、一例がないわけでは無い。こちらに関しても研究と調査を進めておかないとな。」
彼は書類の山からクリアファイルに入った紙束を取り出す。そこには『ブレイズロッドを投与した”ゾルダート”の突然変異で発現した特殊個体について』といった題材の論文である。ゾルダートを作る際に複数の実験が行われていたが、これはその中の一つである。
基本的に”ゾルダート”はブレイズロッドを加工したブレイズパウダーをエネルギー生成器官で熱エネルギーに変換して稼動するのだが、それを加工する前のブレイズロッドの状態で投与したのだ。その結果、投与された”ゾルダート”は最初こそ普段とは違って生成される数倍の熱エネルギーに苦悶の声を挙げていたのだが、変異によってブレイズロッドの生じるエネルギーに適応した。エネルギー生成器官は更に肥大化し効率化、更にいつもとは違う大きいエネルギーによって代謝が増長し、細胞分裂が活発化したことによって体格が発達しより強力な個体へと進化したのであった。
これを仮称だが”ゾルダート・フェイズ2”と名付ける。
テクネチウム「専門家は遺伝子変異を抑制する制御因子を組み込んでいなかった為に起こった、必然的な進化と考えている。研究段階だが彼らが”ゾルダート”のみの軍隊運用の成功例になってくれるかもしれない。」
統合国家ファントムの新たな1ページとして。彼らは彼らの為すべきことをするだけだ。
>>”ゾルダート”の歩兵運用試験が開始<<
ちなみに、自分は大学時代に酵母とか放線菌を取り扱っていたのですが、実験に何かしら影響を与える遺伝子は別の遺伝子(塩基配列が同じ奴)と組み替えられます。
そもそも教授が色々とできる用に遺伝子組み換えした酵母を用意してくれてはいるのですがね。(隙自語乙)