「はあッ、はアッ、ハあッ…」
ぺちゃぺちゃと身についた粘液を地面に垂らしながら一人の男は身を起こした。
「…ここは…どこ…?…ボク…僕…いや…”私”は誰だ…?」
稚拙だった言葉遣いが一瞬のうちに丁寧な言葉遣いへと変わる。
「ここは…”幻想国家ファントム”の国内だ…」
後ろから声が掛けられ、彼は振り向いた。
「…あなたは誰ですか…」
彼の目に映ったのは”無機質”。黒い石棺のような物を取り囲んで複数のチューブやら機械が繋がっている。しかしそこから発する声は、自分と同じ”人の声”。
「お前を”造った”者だ。好きに呼べばいい。」
「…」
彼は少しだけ黙った後、周りを見回してこう言った。
「この”人達”は誰ですか?」
そこにはズラリと並んだ”培養槽”その中に入っていたのは胚の段階から赤ん坊、子供、大人と少しずつ成長しているヒトガタの生物。
しかし、胚〜赤ん坊の状態の骨は真っ黒で肉は茶色い、しかし成長するに連れて段々と”普通”になっている。どんな手品を使っているかは分からないが、この景色に初めて恐怖という感情を覚えた。
しかも…
「お前の”弟達”だ。いずれ来たるべき時に生まれるだろう。」
答えは考えるよりも先に
なるほど、だから皆同じ顔をしてるわけだ。
「この”隣にいる人達”もですか?」
培養槽は1列だけではない。その隣にも、更にその隣にも、隣隣隣隣….ズラリと並んでいる。しかも自分と同じ、様々な状態で培養液の中で揺らいでいる。
「似たような存在だ。ざっくり言えばお前の”弟妹”に当たるか、お前を長として力を貸してくれるだろう。」
この時間の間に頭に情報が入り、段々と分かってきた。自分が生まれた意味を、成さなければ行けない事を。
「”H-017”…いや”ハイドロジェン”、お前が生まれた意味が分かるな。こことは違う世界で国を作れ。もうこの”世界”は長くない、発展させ豊かにし、この世界のバックアップ先となるようにするのがお前の役目だ。」
「やるべき事は分かりました…最後にいいですか?」
「何だ?」
「あの人達は誰ですか?」
彼が指さしたのは…大量に積み重なった生物の死体…概ねヒトガタではあるが…どれもこれも自分のような姿形からかけ離れている。
「お前達になれなかった成れの果てだ…遺伝子的に言うなら…お前達の”両親達”だな。」
それと同時に彼の隣にある培養槽達が破れ、多数の”ニンゲン”が溢れる。
中には自分と同じように目を覚ます者が少数…。大半は目を覚まさずにぐったりと寝そべっている。
「さあ…仕事の時間だ。”元素達”。」
〜〜〜
「どうしたのですか、首相?」
隣で秘書のセレンが尋ねる。
ずっと目を瞑っていたのを心配されたのだろう。
「ううん。ちょっと考え事をしてただけ、心配してくれてありがとう。セレン。」
「いえ…ではお仕事に戻りましょうか。」
「そうだね。」
成すべき事を成せ。まだこの世界は始まったばかりなのだから。
題名:Birth Day
>>生命の誕生が必ずしも尊いものとは限らない。<<