サミュエル・H・ノートンが思っていた以上に留置所での生活は退屈なものだった。毎日決まった時間に配給される食事を食べ、小説を読むなどをして暇を潰し、寝る、それ以外にない。しかしその退屈にも終わりが訪れた。
「時間になってしまいました。元帥閣下」
3名ほどの職員が彼に手錠をかけ共に刑場に向かうよう歩き出す。歩いて行く途中ブライアン、レジナルド、ジェームズ。見慣れた顔を持つ者たちが見えたが、彼らも皆先ほどまでのノートンと同じように何かしらをして暇を潰していた。そして職員が扉を開け彼に拘束具を着用させると数分ばかり話し始めた。
「このような結果になってしまい本当に悲しく思います。元帥閣下」
『私もそう思うよ。だがこれは祖国が決めた事だ、軍人である以上私はそれに従うしかない』
「しかし、あなたの守ってきた我々国民はそれに納得することは出来ないでしょう。我々は閣下を今すぐにでもここから連れ出すことができます」
『いや、いいんだ。どうせ死ぬのなら潔く死にたい。こんな老人のことを思ってくれて嬉しく思うよ』
おそらく将軍と思わしき人物が扉の向こうから6名の兵士を連れ現れる。肩につけられた階級章を見てみると銀の延べ棒のようなものが一つついていることからおそらく中尉なのだろう。彼は兵士達をノートンから5m先ほどに並べると彼らに向けて一喝する。
「構え!」
一歩一歩堂々とその中尉はノートンの下へ歩いていき、一言尋ねることにした。
「最後の一言は?」
ノートンは表情一つ変えずただ緑色に輝くその両眼で中尉の顔を見つめる。その反応が気に食わなかったのか、不機嫌そうに中尉は元の位置へ戻るとまた兵士達に命令を下す。
陸軍に入隊してからこのような運命になる可能性があることは重々承知していた。おそらくここにいる兵士達の多くは人を撃つのは今日が初めてなのだろう、表情が様々な感情が入り混じったものへと変わり、動きが固くなっているように見える。最後にライフルの銃身がこちらを向いた時この時の為若い頃から決めていた一言を兵士達に向け叫んだ。
「祖国万歳!」