虫喰いでないフレンズ 四話
三話は>> 317
ドブネズミとアフリカゾウの二人は歩き通して(それほど遠くなかったが)なんとか研究所のすぐ近くに到着した。
二人がセルリアンを撃滅したときは既に夕焼け空であったため30分ほど歩いたときには辺りは暗闇に包まれていた。
ドブネズミ「研究所の匂いを憶えているとはな。わたしよりも鼻が良さそうだ」
アフリカゾウ「うん!ありがとう!匂いを嗅ぎ分けるのは得意なんだ。それに、私がよく行くところだからね」
ドブネズミ「そっか、ここはアフリカゾウの縄張りなのか?」
アフリカゾウ「ううん、ここじゃあないの。本当はずうっと向こうにあるんだ。まぁ、ここも縄張りみたいなんだけど」
ドブネズミ「わたしは縄張りを出て活動するなんて考えられん。縄張りを広げるため移動するのならわかるけど」
アフリカゾウ「ふふふ、どうしてか知りたいでしょ?」
ドブネズミ「ま、まあな。でも今はいい。そろそろアレが見えてきたしな。」
アフリカゾウ「そーだね…っとあの穴はもしかして例の穴?」
ドブネズミ「お、そうらしいな。でもあそこには近づきづらいな」
ドブネズミが研究所の建物を脱出したという話は既にアフリカゾウに暇つぶしがてらにしてあった。
建物を見ると灯りが点いていたためぽっかりと穴があいているのがわかった。
修繕が間に合っておらず応急処置に何かを内側から被せてあるだけの現場がドブネズミの目に映ると、その光景に違和感を覚えた。
(わたしがあんなに壊してきたのに直す素振りも無い?それとも直せないのか?)
(………直す?)
ドブネズミは目の前の光景と一見無関係な何かを思い出しそうになったが、アフリカゾウの声に呼び戻された。
アフリカゾウ「ねえ、ドブネズミちゃん。ここに入りたいなら入り口が有るんだけど」
ドブネズミ「入り口?」
アフリカゾウ「そう。入り口は今いるここの丁度反対側にあるの。私たちは呼ばれたフレンズなんだし入り口から入りましょう。回りこめば入り口だよ」
ドブネズミ「おう」
建物の窓が少ないため漏れ出る光が少ない上に外側に金網のフェンスがあり建物が遠く足下照らすのが月明かりのみであるこの状況にも関わらず、知りたいという欲望によってドブネズミのフレンズは夜道を進んだ。
研究所正門前にたどり着いたときにはドブネズミが小腹が空いたと思うほど時間が経っていた。
正門では看板がライトアップされていて明かりに蛾などの虫が集っているところを見ると…
ドブネズミ「~~~っ……なんて読むんだ?」
アフリカゾウ「これのこと?」
ドブネズミ「んん」
アフリカゾウ「『サンドスター・アニマルガール・セルリアン等先端技術研究センター』、『ジャパリ新半島支所』だってさ」
(下のやつは読めないや…)
ドブネズミ「ながっ」
ドブネズミはアフリカゾウが看板の文字列を読み上げたところでどこからともなく会話に加わろうとする声が聞こえてきた。
??「うんうん、私もそう思う」
ドブネズミ「そうかアフリカゾウ、そう思うだろ」
アフリカゾウ「?私はそう言ってないけど。ここから聞こえてこなかった?」
ドブネズミ「マジ…?」
アフリカゾウ「この黒いところからだよ」
ドブネズミにはインターホンが見えていないようだったが言われてから気付いた。
??「失礼。私の声はここだ。アフリカゾウ、ドブネズミ」
ドブネズミ「どういうことだ…?」
??「まずは『ドブネズミ君に』自己紹介しよう。私は当センターのアニマルガール発生研究の責任者で主任のコノシマ・マイだ」
アフリカゾウ「マイ!」
ドブネズミ「知ってるのか、アフリカゾウ」
アフリカゾウ「うん!そりゃもう、私はマイに『フレンズ化』してもらったんだよ!もしかしなくても、ドブネズミちゃんもマイが『フレンズ化』してもらったんじゃないのかな?」
マイ「ふふ、是非とも話をしたいところだがそこにいてもらうのは良くない。そこで、今から私の部屋に来なさい。建物に入ってからは案内を付けよう。では失礼」
そう言ってマイはインターホンの通話を切った。
アフリカゾウ「うん!ありがとねー!良かったね、ドブネズミちゃん」
ドブネズミ「…アフリカゾウ、今のはわたしをどうしたっていうのか問い詰めることになりそうだ。おまえと『そいつ』は仲がいいみたいだが、わたしは『そいつ』から情報を引き出すため何をするかわからないが止めないでくれよ」
アフリカゾウはドブネズミが釘を刺すしたのにも関わらず、特に返答せず自動で開いた門に入っていった。
ドブネズミ(今のはマズかったか、いやしかしここまで来て引き下がる訳にはいかないんだ)
ドブネズミはアフリカゾウに続き無言で門をくぐった。
門の中は真夜中で人影はなく、音も匂いも無かった。
ドブネズミとアフリカゾウの二人は敷地内の車両通行路を歩いて明かりの点いた入り口へ向かっていた。
ドブネズミはアスファルト舗装路のセンターラインを踏んだり跨いだりして余裕がありそうだったが、アフリカゾウは黙々と歩いている様子であった。
ドブネズミ(アフリカゾウが急に静まり返った…何故かはまた聞くが気になるな)
ドブネズミ「アフリカゾウ、アフリカゾウ!わたしがさっき言ったことで傷ついたならわたしが悪かった。このあとマイ?と会って話をしたいから、マイの友人のおまえにも来てほしいんだ。」
アフリカゾウ「ええっと、私になにかある?『傷ついた』ってなんのこと?」
ドブネズミ「なんだって?」
アフリカゾウ「私になにか言いたいことがあるんじゃないの?」
ドブネズミ「そ、そうなんだ。わたしとアフリカゾウとマイでこのあと話をしたいからアフリカゾウにも来てほしいんだ。おまえが居ないとわたしに良くないから頼む」
アフリカゾウ「そうなの。私はドブネズミちゃんとマイの話を聞いていればいいかな?」
ドブネズミ「そうなるだろう。マイもおまえに会いたいかもしれないからな」
アフリカゾウ「マイといていいのね。ありがとう。ふふん」
アフリカゾウの反応からして、アフリカゾウは傷ついていないばかりか楽しそうにしているように見えた。
『コノシマ・マイ』に会うのが楽しみなのか。アフリカゾウは。
そんなアフリカゾウの様子をみてドブネズミは「心配して損した」とこぼしたがアフリカゾウはこれからの楽しみに浮かれており何も聞こえていないだろう。
そんなことがあるうちに二人はで明るい入り口の目前に立った。
ドブネズミはアフリカゾウが立ち止まったのを見て一緒に立ち止まっていた。
入り口はよく見ると色がなく匂いもしない薄い物に閉ざされていた。
アフリカゾウが二つ並んで浮いている縦長の物に触るとそれがそれぞれ左右に平行移動した。
ドブネズミはなにが起きたか一瞬戸惑い両方のそれを交互に見比べていた。
アフリカゾウ「なにやってるの!あ、そう言えばドブネズミちゃんは『自動ドア』は知らないのか。まぁいいや。早く!」
ドブネズミ「お、おお」
ドブネズミは自動ドアを初めから知らずアフリカゾウの導きで無事通過できたのは幸運というべきことだった。
エントランスに入った二人は立ち止まり辺りの匂いを調べていると幸運の名を冠する者が出迎えた。
アフリカゾウ「あ、ボス」
ドブネズミ「ボス?…え?」
昼間に見たラッキービースト(ボス)が何も持たないでやってきたので一瞬は警戒したが他に変わったところがないため平常通りに接した。
ドブネズミ「ボスって何でここにもいるんだ?」
アフリカゾウ「えっと、それはね、ボスはさっき見てきたこと以外にもいっぱいできることがあるからだって」
ドブネズミ「なるほど、役立つからいると」
(こいつは自分のためにここにいるのか?役立つことが生き残るための手段なのか?)
ラッキービーストⅠ型「こんばんは。ぼくは今からキミたちフレンズを案内するラッキービーストだよ。よろしくね。目的地はコノシマ主任の個室だよ」
ドブネズミ「…なあアフリカゾウ、こいつ今さっきラッキービーストって言ったんだがこいつの名前だよな?なんでボスと呼ぶんだ?」
アフリカゾウ「ああ、それね。ボスって名前の響きがカワイイしラッキービーストって長いじゃん」
ドブネズミ「カワイイ…か?」
ドブネズミがカワイイという概念をはっきりとは理解していなかったということもあるが、アフリカゾウの言いたいことを理解できたのに共感できないと思った。
そのように話しているとラッキービーストは何の合図もなく廊下の一本へ歩き出した。
ドブネズミ「って、あいつあっちに行ってんぞ!」
アフリカゾウ「マッテー」
ラッキービーストは決して速くなかったためすぐ追いつき後ろを歩いた。
その後は一階の角のエレベーターで四階まで上がって長い廊下を歩く。
途中、両側の壁に穴が空いたところがあったがラッキービーストは気にもとめずにガイドに専念したので二人はついて行くしかなかった。
そして遂に、目的地周辺に到着した。
『此島 真一』
ラッキービースト「案内はここまでだよ。右手の部屋が目的地だよ。お疲れ様」
アフリカゾウ「ボスもお疲れさん!ありがとねー」
ドブネズミ「ここは…わたしの目覚めたところじゃあないが」
アフリカゾウ「もう、マイが部屋に来なさいって言ってたでしょ。ほら入るよ」
アフリカゾウはドアを三回ノックをして開けた。
アフリカゾウ「マイ!ただいま!」
マイ「おおアフリカゾウ!お帰り!」
ドブネズミ「…」
マイ「えっと、ドブネズミ君は?」
ドブネズミ「…」
ドブネズミには初めてマイを見た気がしなかった。
だが記憶では目の前にいる『ヒト』は目覚めたばかりのときに一瞬見かけたかどうかという程度だったからか、ほとんど初対面と同じ感覚でマイを見つめた。
マイ「やあ、ドブネズミ君。やっと出会えたね。初めまして、改めて自己紹介しよう」
ドブネズミ「…」
マイ「わたしの名はコノシママイ。君にフレンズとして再び命を吹き込んだ張本人だ」
←to be continued…
言い訳ばかりなのでラベルに畳みます
遂に人間のネームドキャラクターが出てきました
漢字表記の名前がありますが、実を言うと性別をどちらとも解釈できるようになっています。
『マイ』を女性だと思えば女性になり『真一』を男性だと思えば男性になるわけです。
○しゅら男爵のようなことにはなっていないのでどちらかで解釈していただくことにはなります。
なぜこんなことになったかと言うと、『女性研究者』のイメージで作るつもりが書いているうちに女性研究者と思えなくなってしまったからです。
「別に口調関係なく女性研究者にしても良いのでは?」
と言われると気まずいので説明すると、「必ず女性研究者でなくてはならないと思ってはいないから」となります
あと、タイトルの「ラボ」は今回二人が来た研究所と同じところを指しています。
劇中で誰も言ってないのに言い換えるのは良くないかな…と思ったんですがタイトルがどうしても欲しくて勝手に言い換えました
次回も宜しければお付き合いください。