戦車小隊長「撃て!!」
主砲が火を噴き、”ウォーデン”を確実に死に至らす存在が高速で”ウォーデン”に向けて殺到する。
ダイバー1「よし、これで!!…!?」
ピグリン兵の手を引き走り続けたダイバー1が”ウォーデン”の様子を見よう振り返った。しかし、そこで彼らが見たのは”ウォーデン”が自分たちに向けられた胸に空いた大きな口。そこからは青い光が漏れ出していた。
ダイバー1「まずい!!」
既に衝撃波が今にも放たれようとしており、このままでは衝撃波によって二人が撃ち抜かれるのは確か。なら自分がすることは…
”ドンッ”という強い衝撃と共に自分を吹き飛ばしたのは、さっきまで自分の手を掴んで走っていたピグリン兵。人間が持つ膂力をはるかに超える力でダイバー1を衝撃波の範囲外に突き飛ばしたのだ。
衝撃波が迫りくる中でピグリン兵は…笑っていた。そして衝撃波は突き飛ばした影響で若干ずれたが…彼の下半身を跡形もなく吹き飛ばした。
ダイバー1「…!!??」
叫ぼうとした瞬間に、衝撃波の余波と主砲が”ウォーデンに”着弾した際に生じた衝撃で吹き飛ばされてしまった。体が宙を舞い、何度も地面に体を叩きつけられる。
ダイバー2「ダイバー1!!大丈夫か!?」
その衝撃はダイバー1を援護していたダイバーズ達の元にも届いていた。吹きすさぶ突風と砂煙に煽られながらも隊長の無事を確認する為に声を張り上げる。
ダイバー1「大丈夫だ!!…俺は…しかし…!!」
ダイバー1は辺りを見渡し、砂埃が視界を塞ぐ中、自らの命を救ってくれた”英雄”を探しまわる。…そして、彼の足がある物の前で止まる。
ダイバー3「隊長!見つかりましたか…!?」
ダイバー1の後を追ってきた隊員達が目にしたのは…下半身を消し飛ばされ、臓物と血が飛び散り、ぶちまけられていた…ピグリン兵の残った上半身の部分であった。
ダイバー1「…!医療キットを持ってこい!止血作業をする!!」
彼はそう言うとピグリン兵の元に駆け寄り必死に圧迫し血を止めようとする…が、もはや間に合わない…いや間に合うわけがない。すでに上半身しかない状態で、多くの臓器が失われ…また欠損している状態だ。体の断面が損傷部分である以上、人の手での止血など焼石に水。実際、彼が合わせている手の周りからは血があふれ出ているではないか。
ダイバー2「ダイバー1…もう…彼は無理だ…」
困惑した彼の口からそう、言葉が出る。医療キットを取りに行ったとて、延命出来るわけでは無い。悪い言い方だが、無駄な行動であった。
ダイバー1「無理ではない!今からでもまだ間に合う!!」
そう言って懸命に治療を行おうとするが…ダイバー1自身も間に合わないことは分かっている。しかし、だからといって諦められない。いや、諦められるわけがない。
ピグリン兵「…だ、だいちょう…ざん…?…よがっだ、ぶ…じで…」
”ヒューッ、ヒューッ”という息も絶え絶えなピグリン兵はそう呟いた。自分の事よりも他者を気遣う。優しい彼だからこそだろう。
ダイバー1「喋るな!!お前は死なせない…だから!!」
そう言って止血作業を続行するダイバー1の手にピグリン兵の手が添えられる。
ピグリン兵「もう…だいじょうぶ…だべ…た…いちょ…うさんが…ぶじな…ら」
あの時…あの作戦以来、たいちょうさんは生気もなくただただ死に急いでるように見えた。心配だった…だからこそ彼の為に何かしてあげたい…そう思ってこの作戦に参加した。他の自分と同じピグリンの仲間達にも止められたけど…それでも行きたかったのだ。
ダイバー1「駄目だ…駄目だ駄目だ駄目だ!!…一緒にホグリンのカツ丼を食うんじゃなかったのか!?」
そう、たいちょうさんに手を取られながら言われる。
作戦開始前に彼に言われた言葉。まさか故郷で飼っていたホグリンの肉がこんなにも美味しいものになるとは思っていなかった…何度も食べるくらいに自分のお気に入りの料理だった。…でも。
ピグリン兵「もう…おい..ら、はおなか…いっぱ…いだか…ら。あと…は、たいちょ…うさんが…たべて…ね…」
それが彼の最期の言葉だった。力を無くした手がダイバー1が握っていた手から落ち…地面に落ちる。彼の最期の顔は…穏やかな笑みを浮かべていた。
ダイバー2「ダイバー1…」
ダイバー3「隊長…」
ダイバー1の心境や如何に…隊員達が彼に声を掛ける。ダイバー1は力なく遺体の前に座り込む。
ダイバー1「…あ、ああ…ぁぁぁあああああああああ!!!!」
両こぶしを地面に叩き、何も救えず後悔と悲しみと怒りに苛まれ、虚しい叫び声が戦場に響き渡る。時刻は午後4時、戦闘から6時間経過し斜陽が照らす夕方の時であった。