↑エーギル自治領(1999年)の衛星写真。イビサ島(画面中央)、フォルメンテラ島(画面下)
過去にいくつかの戦乱によって所有者が入れ替わった記録があるものの、200年の間この地域の記録は残されておらず旧連邦政府軍の測量船「イヴァニチ・グラード号」が1983年に南部アイヴィーサの港に入港し調査した記録が1995年にバレアレス王国政府への統合を巡る戦争危機にて帝国政府が調査に乗り出すまでの間、最新の記録でした。旧連邦はその後の内戦により崩壊し同地の調査も1984年には打ち切られうやむやになっていたものと見られます。
当領は、イビサ島とフォルメンテラ島他いくつかの無人島でピティウザス群島として呼称されています。2つを除き無人島であり人口は6万人程度と推定されます。ほとんどが本土のアステシア人と変わらない血統を有しており民族的な差異は存在しません。しかし、本土から近いにも関わらず群島内では独自の宗教(以下、深海教)が信仰されており帝国の国教であるキリスト教は信仰されず、それを知っている者もいませんでした。原因は不明です。
バレアレス紛争(のちエーギル危機と呼称変更。9日間戦争とも)後の1996年、帝国海上防衛隊(現在の帝国海警)と海軍、学者などの合同による第一次群島調査が行われました。その際、帝国政府の高官が島の代表を名乗る人物と交渉し地位協定を締結。同地は「エーギル自治領」としてバレアレス王国から独立し帝国の領域へ組み込まれました。島内には石造りの中世風な建築が多く残っており、工業化も見らず、通貨制度もなく島内では物々交換が主流のようでした。同地では漁業が盛んにおこなわれており独自に養殖技術を発展させていました。島内で信仰される深海教は、海洋生物を称える宗教のようで海と深く結びついているようです。信仰されている海洋生物の形は島民の間で「とてつもなく巨大なシャコ」や「海そのもの」など意見が分かれているようで、信仰する対象は多数ある可能性があります。島内には階級社会が浸透しており"海の声"を聞き、島民へと伝える司祭(シャーマンのようなもの?)が、島民へ"海の声"を伝えその啓示を下に漁や狩りを行っているようです。事実上の税として教会へ海産物や織物など価値あるものを納める義務が存在しますが、その量に関する規定はありません。ものを納めることで司祭から啓示を受けるという社会構造が島内には深く浸透しているようです。月に一度、各集落から司祭候補を選出する「潮祭」なる行事があり、潮祭から一週間の修行を経て新司祭となります。毎月20人程度が候補として選出され、平均で2名が新司祭となるようですが残る十数名は司祭の啓示の下、"海の声"の餌として海へと投げられる、大漁を祝うために広場で火炙りになるなど常軌を逸した行為が行われています。
帝国政府は翌年から同地開発を名目に南部アイヴィーサに自治領政府の行政府と港湾設備、最低限のインフラを建設し本格的に統治を開始しました。自治領の民は、深海教の信仰の自由の保障・不干渉以外を求めることはなく、他の帝国人などへの深海教の教えを強制しないことなどを規定した教徒保護協定(アイヴィーサ協定)も難なく締結されています。自治領を訪れる帝国人に対する信仰を強制する行為は今日まで一件も確認されていません。
島内にはいくつかの集落が存在しており、第一次群島調査は内陸部のネッケン村と沿岸のハフグファ村にて島民の生活に関する調査を行いました。島内の食文化は海産物が中心となっており、加熱した、また生の海産物にスパイスを加えて食するのが一般的なようです。
司祭はほとんど肌をさらさないようで、顔も独特な模様の刺繍された布で覆い隠しています。島民に墓を建てる習慣はなく、何かしらの原因で死亡したものは例外なく崖からいくつかの供えものと共に海へ落とすことが我々でいう"葬式"となっているようです。
↑「ネッケン村の司祭」のスケッチ。内陸部のネッケン村では陸生動物を狩り、血肉を海に捧ぐ文化があり、骨は司祭を着飾るための道具として加工されるようです
集落ごとに決まりを決定する場合は各集落の住人を集め司祭の助言の下、話し合いが行われています。深海教会は当地の中央政府的な存在であり、大司教が各地の司祭を統括する存在となっているようです。現大司教は帝国政府および自治領政府に対して好意的であり技術提供にも協力的でした。
2000年 Edmund Bradford
2024年現在までに、エーギル自治領の実態調査は12回行われました。
"海の声"の観測はできていないものの、同伴した研究者の中には"海の声"を聞いたと主張するケースが多数報告されています。調査隊の見解としては、一種の精神状態による幻覚症状と見られています。Ag-2019-37によって"海の声"の存在が確認され、現在の定説は見直されています。
第3次エーギル危機以降、調査隊派遣はされておらず帝国政府も渡航へ難色を示しています。
エーギル自治領への渡航はおすすめできません。エーギル自治領ではアイヴィーサと北部の帝国軍駐屯地を除き治外法権が適応されます(帝国政府の高官、駐留軍兵士、認定された企業の研究者等は除く)。事情があってエーギル自治領へ渡航申請し、許可証を持って渡航しても上記の地域から出ることは推奨されず、自己責任となります。