「はぁ……」
ヤマバクの足取りは重い。
今更ながらどうして慣れない木登りなんてしたんだろうと……
後悔したところでやってしまった事実は覆らない。
「おはよ!ヤマバクが早起きなんて珍しいね。こんなところでどうしたの?」
「しーくいんさん……実は……」
バレてるのなら隠しても仕方ないとヤマバクは飼育員に一昨日の夜に木登りをして庭の枝を折ってしまったことを白状した。
「えぇ……どうして木登りなんてしたの……」
「なんだか無性に登りたくなったんですよね」
「まぁ、やっちゃったもんは仕方無いし、ちゃっちゃと謝りに行こうか。で、場所は何処なの?」
「あっちの方ですけど……もしかして、しーくいんさんも付いて来てくれるんですか?」
「頑張るフレンズの後押しをするのも飼育員の役目だからね。最後まで見届けてあげるよ」
「それはそれで恥ずかしいです……」
飼育員も合流してヤマバクは木の枝を折ってしまった件の家へと向かう。
家に到着したヤマバクは玄関の呼び鈴を鳴らす前に折ってしまった木の枝を確認しようと、小さな庭の方へと目を向ける。
「あれ?」
ヤマバクは木に違和感を感じて木の方へ近寄る。
「折れて……ない?」
ヤマバクが折った筈の木の枝はまるで何事もなかったかのようにくっついていた。
「折れてないね。ヤマバク、この家で合ってる?」
「はい。ここで間違いありません」
「じゃあ、気のせいだったんじゃない?それか夢か」
「そんな筈は……だって、しーくいんさんも見ましたよね?わたしのベッドの下にある折れた木の枝を……」
「いや、見てないけど?」
「!?」
「そんなもんあったらジャパリ科学館に行く前にこっちに行かせたよ」
飼育員は木の枝なんて無かったと言うが、ヤマバクは覚えていた。
木の枝が折れる音、傾く身体、落ちて打ち付けたお尻の痛み。
それが全て夢だった……?
確かに思い返してみれば、飼育員もヤマバクから話を聞いたときにはまるで初めて知ったかのような反応を示していた。
「とりあえず、何事もなかったんならそれで良いじゃん。帰ろ帰ろ」
飼育員はそう言って何処かへ去ってしまった。
ヤマバクも釈然としない思いを抱えたまま帰路へ着く。
本当に夢?
考え事をしながら住宅街の中を歩き、気が付くとヤマバクの足が自然と止まっていた。
「……?ここ、こんな景色でしたっけ?」
何の変哲もない住宅街の道。
普段から何度も通っている筈の道なのにヤマバクはまるで初めてここを通ったかのような錯覚を覚えた。
もしかしたら、昼と夜で景色が違って見えるだけなのかもしれない。
「あ……なるほど、そう言うことですか!」
ふと、ヤマバクの脳裏にヒラメキが駆け抜ける。
ジャパリパークで変な事や妙な事が起きる時に必ずとある存在が絡んでいる事を思い出したのだ。
「つまり、夢なんかじゃなくてセルリアンの仕業なんですね!」
フレンズの天敵、セルリアン。
ヤマバクは一連の事をセルリアンのせいだと決め付けて調査を始めた。