前回>> 684
〈
かばん「わわわわ!!」
ガッシャ---ン!!!
かばん「わ……割っちゃった……」
床に散乱する何枚もの食器たち
僕は慌てるだけで、何をするべきかわからなかった。
アルパカ「アレェ〜?割っちゃったのぉ〜?」
かばん「ご……ごめんなさい!!弁償しますので……!!」
僕は新入りだった。
汗がいろんなとこから吹き出てきた。
クビにされるのでないかと、恐れている。
アルパカ「そりゃあ何枚も重ねて持ってったらおっこっちゃうよぉ、大丈夫だよぉ。仕方ない仕方ないよぉ〜」
アルパカさんはいつも笑顔だった。
僕がどんだけドジを踏んでも許してくれた。
甘えではなく、教訓を教えてくれて
僕は心の底から尊敬していた。
恩人だと、いつか恩を返したいと
だけど溜まるのは恩だけ
僕はいつの間にか、アルパカさんに会うことにさえ罪悪感を覚え、必死にかき消そうと仕事を専念した。
笑顔で話しかけてくれた時は笑顔で返し、悲しい顔でかけてくれた言葉には悲しさを交えて返した。
それでよかった。
きっと、過度な恩返しはアルパカさんも望んでない。
とても幸せそうに見えたからだ。
いつの日か、そう錯覚していた。
・
そんな僕を、呪い、殺してやりたい。
・
僕は今後悔している。
目の前、走る足を止めた。
口は開きっぱなし、銃を手に取った。
構えて……
人を殺すのだ。
雨の中、僕の恩人を連れ去らおうとするクズを
いくつかの感情が巡った。
僕の頭の中はパンクした。
パンクした結果、僕の頭に残った感情は一つ
本能だった。
銃を下ろし、雨粒が目に入っても知らない、激しい痛みよりもっと失うのが怖い。
表情を変えず、僕はそいつらに向かって走った。
足音に気づいた男たちはとっさにこっちを見る。
アルパカさんがこっちを見る前に、男たちを僕は見つめた。
・
シメた。
・
男たちの頭部から血が吹き荒れる。
引き金はとんでもなく軽かった。
なかったくらい。
男は倒れた。
アルパカさんはこっちを向いた。
銃を向ける、僕の方を
アルパカ「か……かばんちゃん……?」
僕は見た。
雨で涙が雨粒かもわからないのに、アルパカさんは確かに泣いていた。
号泣だ。
目がパンパンに腫れている。
アルパカ「な……なんでここにいるのぉ……」
何も言わないでくれ
僕は、もう何もわからないんだ。
僕はアルパカさんの手を強く引っ張って細い路地に駆け込んだ。
アルパカ「か……かばんちゃん……?」
ここで僕の正気が戻る。
かばん「あ…アルパカさん!!何があったからわかりません……それは僕もあなたも同じです。とにかく逃げましょう…それで……それでいいんです……」
アルパカ「で……でもぅ……」
かばん「でも、なんですか!!??理由を聞いても…絶対に殺しませんよ……」
僕は走った。
長い道だ。
パシュッ!!
アルパカ「うあぁっ!痛いよぅ……」
アルパカさんは膝をついてしまった。
足から血が溢れている。
僕はアルパカさんを必死に抱きかかえ、雨の中走った。
後ろをちらりと見ると、ガタイの大きい男の人が銃を持って歩いてきている。
アルパカ「このままじゃ…かばんちゃんも怪我しちゃうよぉ……」
アルパカさんは僕を心配してくれた。
僕はそれを無視して走った。
眉間にしわを寄せ、涙が出そうだ。
辛い。
もしかしたら殺してしまうかもしれない。
なにか、わからない未来が僕の心を揺さぶる。
・
バシュンッ!!
・
かばん「ぐっ……!」
銃弾は僕の横腹を貫いた。
貫通した穴から血が吹き出る。
痛く、苦しい
スピードが落ちてくる。
痛みと体力の減少のせいだ。
アルパカ「かばんちゃん!!」
かばん「うるさい!」
アルパカ「ふぇ……?」
かばん「ここで……諦めて……死んで……」
僕は足に力を入れる。
目一杯の力だ。
パンパンパン!!!!
銃声がなる。
僕の肩と足の二箇所を貫いた。
だが、銃声なんてまるで興味がない。
今やるべきはアルパカさんを生かすことだ。
痛みは感じていた。
だが、それよりも痛い痛みを僕は知っていた。
だからこれでいい。
アルパカさんはもう僕を心配しなくなった。
まるで人形のようにダラーンとしている。
これでいいんだ。
僕はアルパカさんの盾になる。
僕は走った。
必死に、死に物狂いで
銃声は何度もなる。
全て建物をかすめた。
細い路地を右に曲がり、左に曲がり
まるで迷路を進む感覚で、行き先なの知らず走った。
すると、少し広いところに出た。
雨はさらに強くなる。
コンクリートの地面の上に、花瓶が何個も置いてある。
花も添えられていた。
僕は建物にもたれ、そっとアルパカさんを寝かせた。
僕は雨で何も見えてなかった。
目に雨水が入って、もう見える気力もない。
かばん「・・・・」
僕はにも言えなかった。
アルパカさんは何も言わない。
雨水の落ちる音と被せて、とある声が聞こえる。
アルパカ「かばん……ちゃ……」
かばん「アルパカさん……無事で良かった」
僕は安心して、力が抜け、アルパカさんに手が当たる。
不思議な感触だった。
ブヨブヨとして、ぐちゃぐちゃとして
生温い液体が手に付着した。
微笑みながら、僕は手についた液体を見ようとした。
見えない視界が、一気に開けた。
・
血液だ。
・
僕は震えた。
微笑みを崩さず、僕は自分の目をこする。
アルパカさんを見た。
横腹から血が吹き出してる
僕の肩と足を貫いた銃弾
もう一発はアルパカさんの横腹に居座った。
アルパカさんは苦しそうにはしてなかった。
ただ、今にも眠りそうに
かばん「嘘だ……なんで……」
アルパカ「かばんちゃん……ごめんねぇ……せっかく頑張ってくれたのに……」
かばん「なんで……どうして……」
僕は焦り、アルパカさんの銃弾のめり込む横腹に手を突っ込む
アルパカさんは悲鳴をあげた。
もはや、僕はそれさえも聞こえなくなった。
銃弾を取らないと…
止血しないと……
血は僕の顔にまで飛んできた。
黒い手袋は真っ赤に染まり、服は今以上に赤くなった。
アルパカさんは唾液を垂らし、涙を垂らし、鼻水を垂らし、汗を垂らし
必死に、必死に
・
アルパカさんは僕の手を掴んだ。
がっしりと、強く
僕は手を止めた。
かばん「ダメですよ……死んじゃいますよ……アルパカさん!!」
アルパカ「かばんちゃん……」
アルパカの声はかすれ、消えかけている。
血は吹き荒れる。
雨水を濁していた。
・
・
アルパカ「痛いよぅ……」
・
・
僕は完全にフリーズした。
脳に血が行かなくなった。
僕はバカだ。
止血なんて考えてもないじゃないか。
まるで火山の噴火のように吹き出してるじゃないか。
かばん「……ごめんなさい……アルパカさん……本当に……本当にごめんなさい……ごめんなさい……」
僕は顔を自身の胸に押し付けて、後悔した。
アルパカ「ううん……私にぇ……全然怒ってないよぅ……がんばったもんね…仕方ないよぅ……ありがとうにぇ……」
かばん「だけど……僕のせいで……こんなに……僕が余計なことをしなかったら……素直に止血しようとしてたら……」
アルパカ「ちがうよぅ……かばんちゃん、かばんちゃんは何も悪くないんだよぅ……」
かばん「ああ……最低だ……最悪だ……僕は……僕はぁ……………!!!!!」
・
・
アルパカ「かばんちゃん!!!!!!」
・
・
アルパカさんは怒鳴った。
聞いたことのない怒声だった。
あの優しいアルパカさんは……
・
アルパカ「私、死んじゃうのかな……」
・
びっくりした僕の顔を見たのか、アルパカさんは優しく問いかけた。
かばん「死にませんよ……死なせませんよ……そうだ……ハシビロコウさんに……」
アルパカ「かばんちゃん……」
かばん「ど…どうしました……?安心してください…ゆっくり……」
アルパカ「死ぬってこと……案外悪く無いにぇ……」
かばん「ハハハ……冗談を……」
アルパカさんは目を閉じた。
僕そっと、微笑んでる。
・
アルパカ「痛いけど……なんか暖かくて……ほっこりして………」
・
アルパカ「苦しいけど……気持ちよくて……体の中からスっていろんなものが抜けて………」
・
アルパカ「悲しいけど……嬉しくて……楽してく……だんだん体が浮いて………」
・
アルパカ「だって……私鳥さんじゃ無いのに飛んでるんだよぅ……?嬉しいなぁ………」
・
アルパカ「軽くて……軽くて……消えてくように………」
・
・
・
・
・
アルパカ「ほら……今にも手が…………」
・
・
・
・
・
僕は口を開けたまま。
必死にアルパカさんを抱きしめようとした。
アルパカ「ごめんにぇ……私……失いすぎたんだぁ……だからもう……失いたくない………」
かばん「あ……あぁ……」
アルパカ「次の私はきっと……かばんちゃんを幸せにできるはずだよぅ……だから……泣かないで……」
星屑のように、アルパカさんは消えてゆく。
笑顔を見せ、僕はそれを見ない。
もう会えない気がしたから
・
もう、会えないから
・
結局、僕は守れなかった。
血も残らない。
もう何も残ってない。
僕の心も空っぽ。
守れる力なんてなかったんだ。
失望と脱力が立ち込める。
僕は手に持っていた銃を咥えた。
目は瞑らず、引き金を引く
かばん「……死んではいけない……の……?なんで殺してくれないの……?僕は……大罪を犯した………その償いを………なんで………」
弾丸なんて残ってなかった。
かばん「あああ………ああああああ!!」
豪雨のように押し寄せた、台風のように押し寄せた。
その感情は【悲しみ】
・
かばん「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
・
・
かばん「あぁ……あああああ……」
僕はびちょびちょ
雨ではない。
涙である。
僕の目の前に黒い靴が止まる。
見上げる気力はない。
・
パァァン!!!
・
発砲してきた。
僕のもう一方の肩に当たった。
僕はすぐに気づいた。
こいつはあの時撃ってきた男だ。
お前さえいなければ……
お前さえ……
お前さえ……!!
かばん「ハハハ……ハハァ………」
肩なんて上がるわけがない。
筋肉が緩んでる。
だが、そんなこと、知るわけもない。
・
・
かばん「ぶっ殺すっっっ!!!!!」
・
・
バァァァァンッッッ!!!!!
・
・
僕は倒れた。
人形のように
男は死んだ。
腹に大きな穴を開け
・
銃など無い。
弾がないから
だが、僕の手は確かに、拳銃を握っていた。
・
第31話へ続く。
アナザーワールド・サンドスターストーリーズ 第30話を読んでいただきありがとうございます。
今回の話では、人気キャラクターの死や、狂い、その他の残酷な描写が多いです。
注意され次第、このSSは消し、カクヨム版を貼るつもりです。
あらかじめご了承ください。