[最近多発しているセルリアンの被害の規模は日々広がっており……]
テレビの音に、重なるように視界に映るコノハは、なんと見事な土下座をしていたことでしょう
コノハ「サンド、本当にすまないのです。ここのお詫びの心を……助手!お前もやるのです!」
ミミ「だって、これは仕方ないことなのですよ博士、不可抗力です。謝る必要はないのです。そもそもこっちは関係ないのです」
ツチノコ「えっと……?助手…?」
サンド「ああ、茶色い方がワシミミズクの助手だ」
ツチノコ「んで、シャリ博士と」
コノハ「シャリじゃないのです」
ジド宅、ヒグマが横たわっていたベットに、今度はアライグマか横たわってる。
サンド「アライグマをここまでねぇ…見えないところで腕上げた?」
コノハ「いえ、これをやったのは我々じゃないのです」
サンド「じゃあツチノコか」
ツチノコ「ちげーわ、フェネックだよフェネック」
サンド「フェネック!?何があった!?」
コノハ「フェネックの攻撃を庇った。つまりアムルを守ろうとした訳なのです」
サンド「なるほどアムルを…なんでアムルがいなくなった?」
コノハ「それは、我々にもよくわかってないのです。謎の黒い手にやられたかと…」
ツチノコは眉をピクピクさせながら言った
ツチノコ「はい、質問」
サンド「なんだ?」
ツチノコ「アムルって誰?」
コノハ「我々のことなのです」
コノハは顔を上げる。
ツチノコ「は?博士のこと?ドユコト?」
サンド「正確には、博士のもう一つの人格。天界の定を重視した人格がもう一つある。それの名前、仮称だがアムルはそいつのこと」
ツチノコ「はぇ〜…もう一つの人格が勝手に出てきちゃう……フレンズもそういう症状が出る場合があるんだなぁ…」
コノハ「いいえ、それは我々だけなのです」
ツチノコ「え?どういう?」
コノハ「お前は違和感を感じなかったのですか?【天界の定を重視】という言葉に」
ツチノコは頭をかきむしりながら
ツチノコ「いや…博士は天使?なんだから別に違和感は……」
「そういう話じゃない」首を横に振りながらサンドは言う
サンド「つまり、今の人格は定を重視してない。じゃあ、なんで天使なんかになれたんだ?」
ツチノコ「あ……確かに……」
サンド「後は頼んだ。博士」
コノハ「それはですね…」
ミミ「我々は神に助けられました」
コノハは不服そうにミミを見る。
ミミは知らんぷりをして喋り続ける。
ミミ「我々は神へお礼をしたいと申し出て、僕、つまり天使になったのです」
ツチノコは興味深そうに聞く
ミミ「我々は下っ端のやる仕事を次々とこなし、着々と上り詰めて、天罰を下す天使【天秤】になったのです」
ツチノコ「天秤……かっこいいな」
ミミ「だけど、我々は人の情が移ってしまいました。極悪人ならまだしも、惜しくも罪を犯してしまった者、何かのために罪を犯す者。我々には天罰、重い物では【死】を下せなかったのです」
コノハ「だから!!神は我々に定を重視する人格を植え付けたのです!!その人格は、罪人を見ると発動するのです。発動するのには限度があり、一日一度くらいなのです」
コノハは力強く言った
ツチノコ「つまり、あの時の博士は別の人格で…その人格は神様に植え付けられたってこと?」
サンド「そう、あの気持ち悪いのは博士であって博士でない。ってこと」
ツチノコ「ふーん…」
ツチノコは椅子にもたれた。
一瞬の静寂が訪れる。
アライグマ「だから…守ったのだ……」
ツチノコ「うわっ!!びっくりするだろ!」
サンド「起きたか…案外早かったな…」
アライグマ「博士も助手も……今後、大きな戦力になる。フェネックとアライさんだけでは力不足なのだ」
ツチノコ「だから…庇ったのか……」
アライグマ「このままじゃ、フェネックが博士を殺してしまう……そう思ったのだ……きっと博士を殺したら、みんなはフェネックを憎むのだ……」
興味が薄れたのか、ツチノコは少しだらけた目をしてアライグマに質問を投げかける。
ツチノコ「お言葉だが……フェネックってそんなに重要な存在か?いや、別にいらないとかそういう話じゃなくて、単純に命をかけてまで止めにかかる存在なのかなぁ……と」
サンドは呆れたようにため息をつき、ダルそうに言った
サンド「お前、フェネックがどんな化け物か知らないからそう言えるんだろ?」
ツチノコ「そうかもしれないが……野心的にも、奇跡とか速さとかに比べて【氷】ってのが…何というか……」
サンド「まぁ…そう思うのも仕方がないか……俺もそうだったし……」
アライグマはゆっくりと起き上がり
アライグマ「フェネックは怒ると怖くなるのだ…ちゃっちい【ホラー映画の怖い】なんかより、よっぽど深く、本能に近い【怖い】なのだ…本当の怒りに達すると、アライさんですら制御できなくなるのだ」
サンド「【ビースト化】……俺の設計ミスだな……自然体(ネイチャー)には良くあることだ」
ツチノコ「は?ネイチャー?」
サンド「サーバルのように、俺が前以て野心の存在に気づけるのが奇跡工(デザイン)。それ以外に野心を持ち、それを自由に操れるフレンズを自然体って言うんだ。ついでに、俺は自然体が野心を持っていることに気づけないんだ」
ツチノコ「んで?その……なんだ?ビースト化?したフェネックはどう怖いんだ?」
サンド「はっきり言えば制御が効かなくなる。別の言い方をすれば【殺人マシーン】になる」
ツチノコ「今まで制御なんて効いてたっけ?」
アライグマ「ビースト化してなかったら、怒りの基準はアライさんになるのだ。ビースト化すると怒りの基準がフェネック自身になる」
サンド「例えば、今まではアライさんが【やめるのだ!フェネック!】と言えばフェネックはやめてた。しかしビースト化すると、その声が届かなくなり、自分の怒りが沈むまで暴走を続けるようになる」
ツチノコ「なにそれ怖い」
アライグマ「そう、怖いのだ……」
コノハは立ち上がり
コノハ「そんなお前たちに朗報なのです」
サンド「反省モードは終わりか?んで?朗報って?」
コノハ「天界で小耳に挟んだのですが、これは強い戦力になると思うのです……!」
ニヤリと笑みを浮かべるコノハを心配そうにサンドは見つめる。
その後ろで、テレビの音は流れ続けた。
テレビ[いやー……セルリアンの大量出現…この前のビル爆破事件も関連してるのですかねー…あの三名のフレンズだけが助かった事件と……」
テレビのコメンテーターは不安げにそう話す。
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第28話へ続く……