「…このクーデター、そこまでする必要はあったのでしょうか…」
曇り空の下、薄暗い部屋の中でつけられたテレビを眺めながら、この国を治める帝はつぶやいた。
《ー、サラゴサにて発生した軍による発砲事件を受けて臨時政府のシナノ大宰相は緊急会見を開きーー》
どのチャンネルも、国内の状況を報じている。バラエティー番組もやっているがその画面の隅では、随時情報がスライドで流れてきて嫌でも目に入る。数日前までは書類に目を通し、各地を訪問し、忙しくも毎日にやりがいがあった。
長官はクーデターを必要なことだと言っていたが、本当にそうだったのだろうか。血を流させまいと、国民へ呼びかけたがそれも叶わなかった。
『陛下、もう休まれては…?』
親衛隊の将校の人が心配そうにサビーネに話しかける。もう日付が変わりそうだ。体は疲労を訴えるが、どうしても寝る気にはなれなかった。
「国民が傷ついているのに…、同じ国の人同士で血を流しあっているのに…、私にできることは…。もっと被害を少なくする方法は…」
『…、』
将校は気まずそうにその場に佇んだままその光景を眺めることしかできなかった。そんな空気の中、口を開いたのは…
「陛下、陛下のお言葉で救われた者も多くおります。私もその一人です。陛下がお言葉を述べられるだけでも変わるものはあるのです」
「シナノさん…、ですが…」
「このクーデターは確かに間違った選択だったかもしれません。犠牲も出ました。もっと良い方法があったのかもしれません。ですが、私が経験した内戦と比較すればこちらの方が何百倍もマシだと思います。内戦で私は家族も、友人もすべて失いました。この選択が一番犠牲がでない方法であると、私は考えています」
「…」
「陛下の願いに添えるよう、私は全身全霊を尽くす限りです。ここは我々にお任せください」
女帝は納得したようには見えないが、頷いて部屋を後にした。慌てて将校の一人がサビーネに続いて部屋を出ていく。
少ししてから、将校の一人が悔やむように口を開いた。
『陛下は思い悩んでおられるようです…、立場上致し方ないかもしれませんが…』
「陛下は若くして皇帝になられましたから、こうした経験もあまりありません。軍と政治家に任せる他ありませんからね。陛下にとっては衝撃的な事件でしょうが…、犠牲を少なくするためには仕方ありません。陛下にあの地獄のような内戦を経験させるわけにはいきませんから。持てる力すべてで尽力したしましょう」