「The deep sea fish loves you forevre」
「なんだ?」
「私が好きな曲の一節さ。我々は『Thinker』だからね」
「…はぁ…」
突然歌い出すヘックスを横目に深くため息をつく。眼下には大海が広がり、船体が白い航跡を残して進んで行くのがよく見える。現在地はパナマ湾沖海上、タスクフォースランサーの一部である第2艦隊第28輸送艦群所属ゴールドイーグル級輸送艦5番艦ズィルバーの後部甲板。この艦は民間の輸送船を軍が購入し再塗装したもので、兵装としては対空、汎用銃火器が少数のみ搭載されている。しかし物資や車両などの積載量は目を見張るものがあり、資金問題でなかなか新型艦の設計に着手できなかった海軍にとっては非常に魅力的なものだったという。
「波が穏やかで良いね。後ろに沢山の兵士と戦車が無ければ君とのデートができそうだったのにな」
ヘックスはわざとらしいキメ顔で語りかけてくる。
「お前はなにを言ってるんだ」
「そのまんまさ」
風で帽子が飛んでゆかないよう、彼女が右手で抑える。いつものように、楽しそうに笑みを浮かべて。
「この船に乗った部隊はこれからパナマを制圧し、治安維持を担当する優秀な海兵だ。飛行場を奪取し次第輸送機で追加の陸軍タスクフォースも来る」
彼女の髪が潮風に揺れる。
「それを横目に、私たちは武器商人とトップの野郎を始末するわけだがね」
「…なぁ、結局動員する部隊はなんなんだ?」
未だに『夜明けの下作戦』で動員される部隊は明かされていない。それだけ今回の作戦は機密情報が多いのだろうか。
「そうか、まだ言っていないんだったか。忘れていたな」
「協力者に作戦の詳細を教えない組織があるか…いや、よくあるな」
昔見たパラレルワールドが舞台の映画に、協力者に全てを伝えずに都合が良い所のみを伝える『CIA』という組織があったのを思い出した。似たようなものか。
「この作戦では2つの部隊が動員される。一つはヘリで兵員を輸送する『第120特殊作戦航空連隊』。もう一つはうちお抱えの特殊作戦部隊『スレッシャー・デバイス』が出る」
「『スレッシャー・デバイス』?そんな部隊があったのか。ティアは?」
聞き覚えのない部隊名に思わず聞き返す。ティア1の部隊までアクセスできる私が知らないということは、新設された部隊なのかもしれない。
「ティア?あぁ、ティアは無いさ。なんせメディア露出の多いデルタやDEVGRUとは比べものにならないくらいだからね」
「出たな
それもそうだと彼女は笑う。
複数の戦闘機が私たちの正面から背後に向けて通過する。いよいよ始まるのだろう。
「さぁ、始まるぞ。クリスマスパーティーの前哨戦だ」