【ベルセルクフレンズ】23
「ぶへっくしょい!」
地平線すれすれに太陽のてっぺんが見える早朝のさばくちほーに、大きなくしゃみの声が走った。
「寒いのだ...」
くしゃみをしたアライグマは、手のひらをこすり合わせながら白い息を吐く。
「さばくちほーは昼は暑くて夜は寒いからねー。」
二人は白い毛皮の謎のフレンズを追いじゃんぐるちほーからさばくちほーまで来ていた。
しかし、来る時間が早すぎたせいかまだ太陽はでておらず、さばくちほーは凍えるような寒さになっていた。
「はっくしょい!凍える寒さなのだ……
どうにかしてこの寒さをしのがなくては、アライさんとフェネックの命の危機なのだ!」
鼻水を垂らしながらアライグマが叫んだ。
「穴を掘ってその中に入れば寒さはしのげるけど、掘り終わるころには寒さで凍ってそのまま元の動物に戻って……」
「そんなのダメなのだ!何とかして今すぐ穴を掘らないと……」
アライグマがオロオロと歩き回る。
「だだだ!?」
アライグマが何かにつまずいて転んだ。
「アライさん大丈夫ー?」
「ぬうう……。なんなのだこれは……」
アライグマが自分の足を引っかけた何かをにらんだ。
何やら光沢のある板が地面から突き出ていた
「うーん。掘り出してみないとわからないねー。」
そう言うとフェネックはその板の周りを掘り起こし始めた。
掘り起こす穴が深くなるにつれ、その”何か”の全体像が明らかになってくる。
「これは……」
「シャベルだねー。」
フェネックがシャベルを掘り起こした穴の底から引っこ抜いた。
「シャベルって言うのはね――」
「アライさんには分かるのだ! こうやって『お話する』ことなのだ!」
腰に手を当てて自信満々に答えた。
「それは『喋る』だね~」
秒で間違いを指摘されたアライグマはその場でコケた。
「ぬぬぬ……。シャベルって一体何なのだ。」
「シャベルって言うのは、こうやって穴を掘る『どうぐ』だよ~」
フェネックが実際にシャベルを使って穴を掘る真似をした。
「なら、その『どうぐ』を使えば速く穴を掘れるのかーーー!???」
アライグマが目をきらめかせながら立ち上がった。
「つまりはそういうことだねー。」
「よーし……。早速穴を掘るのだーーーーー!」
フェネックからシャベルを渡されたアライグマは元気よく穴を掘りだした。
フェネックも同じように素手で掘ろうと砂に手を突っ込もうとした瞬間……
「ん?」
遠くのほうから聞こえる異音を感じ取った。
「どうしたのだフェネック?」
「……セルリアンがいるね~」
「のえ?」
「でも何かかしいな~。セルリアンの音とは反対の方向からも大きな音が……」
「うーむ……何なのだこの音は……。」
アライグマもセルリアンの音と謎の異音をキャッチした。
「とりあえず急いで穴を掘って隠れようかー」
「分かったのだ!」
二人は急ピッチで穴を掘りだした。
「……ものすごい速さでこっちに向かってきてるねー」
「え?」
「ももっとはやく、少しでも深い穴を掘らないとね~」
「ぐぬぬ!急ぐのだ―――!」
アライグマは残像が残るくらいのものすごい速さで穴を掘りだした。
そして、地平線の向こうにセルリアンの頭のてっぺんが見え始めたのと同時に穴掘りを終えた二人は急いで中に身を潜めた。
まだ砂埃の充満する穴の中で息を殺してセルリアンが通り過ぎるのを待つ。
セルリアンの動く音が次第に大きくなっていく。
「フェネック……」
アライグマに肩をつつかれたフェネックが振り返る。
「(砂埃を吸ったせいで……くしゃみが出そうなのだ……。)」
「(ええ!?アライさん我慢我慢!)」
この状況下でくしゃみをしたら確実に見つかってしまう。
フェネックがアライグマの口を塞ぐ。
「(|ぐぐっぐう!?ぐぐぐうぐぐううう!!!《フェネックぅ!?くるしいのだーーー!!!》)」
「(もう少しの辛抱だから我慢してアライさん!)」
アライグマの口を押えながらフェネックは外の様子をうかがうために穴から顔を出した。
視界に入ったのは、大小さまざまな大きさのセルリアンが集まってできた、4本脚の巨大なセルリアンの塊だった。
「!!!???」
フェネックは体中の毛が逆立つのを感じた。
このとき驚いたせいで体中の力が抜けてしまい、アライグマの口を押える手を放してしまった。
「ㇵッ……ハッ……」
「あ。」
時すでに遅し
「ぶへっくしょい!」
巨大なセルリアンを構成する無数のセルリアンの目、が二人の隠れる穴のほうを向いた。
アライさ〜ん、またやってしまったね〜