【LB・GT】
「君の名前を教えて 君は何が見たい?」
かばん
「か、かばんって言います。 図書館が見たいんですけど…」
僕はこの時、かばんを「君」と目上呼びし、お客さん扱い・・・
ーすることを隠れ蓑に実はミライを重ねて見ていた。
今思うと悪いことをしたと思う。
でもこの時の僕は「ガイドロボ試験の続きが受けられる」という考えで頭がいっぱいだったのだ。
「わかった、としょかんまでのルートを検索するヨ
その前にジャパリパークについて話すネ
ジャパリパークは気候を元にして幾つかの地方に分かれているヨ
それぞれに動物 植物が展示されているんダ
まず大きく5つの気候帯に分離、
フレンズと呼ばれる生き物達で彼女らは動物やその遺物と… あ・・・」
いけない。
ミライから
「ラッキーはガイドに夢中になると周りが見えなくなるところがありますね」
とよく注意されてたんだっけ・・・
???
「えー、おほん! テストテスト!」
サーバル
「あれ?」
???
「えーテステス。 聞こえますか? こちらさばんなちほーです」
続けて<発作>まで起こしてしまった。
サーバル
「びっくりしたよー。 ボスが喋れたなんて・・・
初めて聞いたけど、不思議な声してるんだね」
(マズい・・・)
サーバル
「みんなボスとお話したいと思うよ。 なんで今まで喋らなかったの?」
僕はこれ以上変に思われたくなくて押し黙り、呼び掛けられても無視を押し通し、
それでいて本気で怒っていないかと顔色を窺うしかなかった・・・
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明くる日。
ガイド試験の課題は、
『かばん(と付き添いのサーバル)をジャパリとしょかんに連れて行くこと』
に決まった。
もし、かばんが
「ぼくが何のフレンズか分かりますか?」と聞いていたら、その場で終わっていたところだ。
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いざ始まってみると、試験内容は散々なものだった。
最初の方こそちゃんとガイドも出来たと思うし、かばんたちも観光を楽しんでいたが、
じゃんぐるちほーではツタに絡まり、橋が落ちていたことに落ち込み、
バスの充電のために山を登ろうとしたらロープウェイが無くてパニクったり、
さばくでスタックした時は砂嵐が目前に迫っていたこともあり、頭(どころか全身)が真っ白になってしまった。
これ以外にも、バスを目前にした途端、いの一番ではしゃいでしまったり、
ガイドにかこつけてトキにささやかな報復をしたことで、かばんを危険に晒したり・・・
「もうボスにはガイドを頼まない!」と言われても仕方ないような仕事ぶりだった。
実を言えば、バスさえ手に入れれば僕がいなくてもオートで任意の場所に送り届けることは可能だった。
なのに、それを申し出なかったのはもちろん解雇を恐れて、だ。
でも悪いことばかりではなかった。
ミライも言っていた。
「観光はアニメと同じで生き物です。
景色1つとっても初見では気付かなかったこと、2周目以降では新たな発見があったりするんです。
お客さんによっても何に注目するかが違う。
だからガイドは紋切り型で案内するだけではなく、
お客さん1人1人に寄り添いつつ、楽しむ手助けをするべきなんです」
この時は『ちょっと何言ってるか分からない』状態だったが、今なら分かる気がする。
「ほら! 大きい川に出るよ!」
きっとジャガーも渡し船の仕事をツライとは思ったことはないはずだ。
それは、乗るお客さんと『楽しみ』を共有することが出来ていて、
『ツアーコンダクターとしての喜び』をそこに見い出せていたからではないだろうか?
かばんたちも、僕の披露するパークや動物の知識には素直に感心してくれたし、
新たなちほーに入るたび変化する景色に驚いたり・・・
ちょっと気を抜くとガイドという立場を忘れ、一緒に観光を楽しみそうになっている自分がいた・・・
ついに(なんとか、だが)かばんをジャパリとしょかんに送り届けるという任務を果たす瞬間がやってきた。
・・・達成感はもちろんあったが、同時に不安も覚えていた。
自分でも薄々気付いていたが、『ガイド失格』という烙印を押されたら・・・
僕はどうしたらいいのだろう?
しかし試験の合否は伝えられなかった・・・
当然だ。
ガイド試験だと思っていたのは僕だけで、かばんたちにそんな気はさらさら無かったのだから。
・・・落胆と、そして安堵を覚えていた。
僕はどうしたいのだろう?
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一方で、かばんたちは次の目標を設定し、旅を続けることになった。
僕は「ヒトがどこにいったのか」を質問されなかったことをいいことに、頼まれてもいないガイドを続けた。
追試が受けられる、と思い込むことにして・・・
この時の僕は本当に自分勝手で、かばんやサーバルの気持ちなんてこれっぽっちも考えていなかったのだ。
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ヒトの足跡を辿るというはっきりしない目的
ーに付け込んで、実質はミライとの思い出の地を巡っていた。
ミライ・・・
かばんもいずれはミライのように島を出て行ってしまうのだろう。
その時はサーバルもさばんなに帰ってしまうだろう。
そうなってしまえば、ガイドとしての僕は・・・?
考えたくないことだった。
『それまでの時間』を少しでも伸ばしたかった。
いっそビジネスとしてでなく、この2人と自由に旅が出来たら・・・
みずべちほーでPPPからヒトの情報を得た後、
直接「みなと」に行くことも出来たのに、あえて遠回りしたのは、そんなエゴも働いていたかもしれない・・・
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「いや~、セルリアンの調査に来て、温泉が見つかるとは~…」
「こんにちはー 今日はロッジにやってきましたよー」
<発作>の回数も目に見えて増えていた。
ミライがパークを去った後、録音された音源をよく再生して想い出に浸っていた。
初めの頃こそ『いつか戻ってくるに違いない』というモチベーションに繋がっていたが、
『もう戻ってこない』という諦めに変わってからはヤメていた。
ーはずなのだが、ミライの帽子を発見してから意図せず再生するようになってしまった・・・
もしかしたら、かばんにミライだった頃の記憶を取り戻して欲しかったのかもしれない。
<失敗>も相変わらず続けていた。
ゆきやまではスタックを解消して調子に乗っていたらフリーズ(物理)してしまったし、
ろっじでは例の<発作>のせいで、かばんに濡れ衣を着せるところだった。
それでもやっぱり2人は、
ヒトでもフレンズでもない僕をのけものにしたりはしなかった。
時間稼ぎも限界に達し、ついに『みなと』に着いてしまった。
それまでも予感はしていたが、かばんはそこで決定的な言葉を口にした。
「サーバルちゃん…
僕、海の外に人を探しに行ってみたい」と。
正直、失望した。
かばんはやはり島を出るつもりなんだ。
ミライと同じように、僕たちを置いて・・・
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黒セルリアン、そしてハンターたちと出会ったのち、
僕はヒトにとって都合のいいパークの維持・管理・安全に関する条項を盾に、
サンドスター山に1人で行くことにした。
しかしそれは表向きで、実質は職務(かばんたちのガイド)の放棄だった。
何をするつもりでもなかった。 ただ現実から逃避したかっただけだ。
二度も捨てられるぐらいなら今度は自分の方から、という気持ちもあったかもしれない。
一人になりたかった僕の気持ちと裏腹に、かばんたちは付いてきた。
表面上こそ かばんたちを気遣うようなことを口にしていたが、内心穏やかではなかった。
かばんは周囲をよく観察し、僕の<発作>からも情報も得て、
黒セルリアンと対峙するハンターのサポートをしようとしたり、四神のレリーフを探したりと、
僕なんかよりよほどガイドらしいことをしていた。
そこまで考えが至った僕の感情は、とうとう暴発を起こしてしまった。
「大量のサンドスターローが放出されました。
超大型セルリアンの出現が予想されます。
パークの非常事態につき、お客様は直ちに避難して下さい。
ここからの最短避難経路は『ひので港』になります。
非常事態につき、お客様は直ちに避難して下さい」
かばん
「ラッキーさん、今はそんな場合じゃ…」
まったく、かばんの言う通りだった。、
パークを、そしてフレンズを守ろうとしている、
自分より能力的に優れたかばんに嫉妬し、追い出そうというのだから・・・
でも、この時の僕は完全に我を失っていた。
ボス
「だめです。
お客様の安全を守るのが、パークガイドロボットのボクの努めです。
直ちに避難して下さい」
どの口が言うんだろう?
今更なにを取り繕っているのだろう?
僕の本心は・・・
「どうせかばんは。
ミライと同じように。
そしてお客さんがおうちにおかえりになるように。
僕たちを捨ててパークを出ていくんだ!」
ーのクセに・・・
かばん
「ラッキーさん、ぼくはお客さんじゃないよ・・・
ハッとした。
やっと気付いた。
そうだ。
叶うことのないパークガイドの立場にしがみついていたのは僕だ。
『パークの掟に縛られること』に不満を持ちながら変えようとしなかったのは他ならぬ僕だ。
僕(しもべ)に甘んじていたのは、この僕の方だ。
だけど、
かばんは、
サーバルは、
お客とスタッフではなく、
上も下もなく、
同じ目線で僕と接してくれていたじゃないか!
かばん
「・・・みんなにすごく助けてもらったんです。
パークに何か起きてるなら、みんなの為に出来ることを…したい」
「・・・留守をよろしくね。
そしてラッキー、私はあなたとも出会えて本当に幸運でした。
私はもう、あなたに何もしてあげられないけど・・・
これからは、ガイドとかフレンズとかじゃなく、あなたの思うままに生きて欲しい」
なぜ忘れていたのだろう?
こんな大事なことを・・・
やっと冷静さが戻ってきた。
多分、ミライとの繋がりは『ガイドであること』しかない、
それを捨てたらミライとの別れを認めてしまうことになる、と思い込んでいたからだろう・・・
自分を偽ることで自分を守ろうとして、大事なものを見失っていた。
そし目の前の大事なものを自分から失おうとしていた・・・
僕は、かばんとミライを重ね合わせて見ていたことを今更ながら申し訳なく思った。
ミライはヒトの原作で、かばんはフレンズ。
同じでありながら違う存在なのだ。
そんな簡単なことに気付かなかった自分が情けなかった。
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でもかばんは、サーバルは、そんな僕のそばに居てくれた。
僕の居場所を作ってくれようとしていた。
僕の居場所を守ってくれようとしている。
ここを離れる決意をしたミライと、島を出ることを諦めたかばん。
どちらの選択が正しいかは分からない。
それぞれに出来ることを精一杯しているだけだ。
それなら僕は…?
いや『ボク』にしか出来ないことは・・・?
「分かったよ、かばん。
かばんを暫定パークガイドに設定。 権限を付与・・・」
実を言うと、そんな権限はボクには無い。
でも敢えて、そうウソをついた。
1つはフレンズたちを守ってくれるであろう、かばんに自信を持って行動してもらうため。
だからフレンズより格上に。
もう1つはボクがこれからやろうとすることに異を唱えられては困るから。
だから正ガイドであるボクの下に置いた。
誰に認められなくても、自分でそう決めた。
利用されるのではなく、利用する。
これまでは従僕として盾になる立場を求められていたが、
これからは上の立場としてフレンズたちを守る。
それがパークのガイドのもう1つの意味『導き手』としてのボクの役目!
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作戦会議は、かばんに助言するという形で、実質ボクが支配していた。
黒セルリアンは最初からボクが刺し違えるつもりでいた。
しかし黒セルリアンの能力は想定外だった。
サーバルが、そしてかばんが「ああいう行動」に出るのも想定外だった。
緊急通信で他のLBに助けを求めていたところを博士たちに見つかったのも想定外だった。
かばんの救出には成功したとはいえ、そのために多くのフレンズを危険に晒すことになった。
やはりボクはガイド失格なのかもしれない・・・
でも当初の予定通り、黒セルリアンを道連れに炎に包まれた船ごと沈みながら、
フレンズの誰も欠けることなく守り切る、という最低限の役目を果たせたことを誇りに思った。
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ーはずだった。
僕は砂浜に横たわっていた。
ボディこそ失っていたもののメモリーも無事だ。
「3人での旅、楽しかったヨ」
あの時のセリフは思わずこぼれた本心だ。
そして
恐らく耳の良いサーバルに聞かれたことでフラグが折れてしまったのだろうか。
沈みゆく船では、
「サーバル、かばん、
キミたちに出会えて、とても幸運だったよ。
もうキミたちに何もしてあげられないけど・・・
ボクのことは忘れて思うままに生きて欲しい」
ほとんど聞こえなかっただろうけど、そんな遺言のやり直しまでしたのに・・・
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2人はボク(の残骸にしか見えないもの)を手に泣いている。
『感動の再会』を演出するには良い頃合いだろう。
タイミングを見計らって、あえて日常的なセリフで声を掛けた。
ボス
「おはよう、かばん」
サーバル
「うわぁぁぁぁ! シャベッタァァァァァ」 (ノ・ω・)ノ⌒◇
ぽちゃん…💦
ボス
(ヲイ! サーバル、てめぇ! せっかく生き返ったのに殺す気か!)
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かばんたちは予備のボディに換装できないかと知恵を絞ってくれたが、ボクは謹んで辞退した。
むしろこのままの方が、かばんとは離れずに済むからだ。
ついでにボクは、かばん・サーバル・博士・助手に「フレンズと喋ることが出来る」というネタばらしをした。
(そもそもヒトのフレンズである、かばんと喋っていた時点で規約違反だったのだ)
それを聞いて、サーバルは堰を切ったように喋りかけてきたが、
(ほとんどはボクの知っている『この旅』についてのことだった)
そこはネコ科フレンズらしく、一晩話を聞いてやったらまんぞく…した。
面倒だったのは、たまたま『としょかん』に来て、それを聞きつけたツチノコだった。
禁則事項(今となっては有名無実だが)にズバズバ切り込んでくるのはまだしも、
『パークに関するありとあらゆることについて』を尽きることなく聞いてくるのだ。
見かねたかばんが
「ご自分で調べて発見した方が達成感があるんじゃないですか?」
と助け船を出してくれたおかげでやっと落ち着いた。
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そんなこともあって
『限定的であればフレンズと喋れる』
ところを他のフレンズたちの前で見せておいた方がいい、と博士たちが言い出した。
確かにリカオンなんかにバレたら大変なことになるだろう。
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「うーがお たべちゃうぞー」
「たべないでくださーい」
「サーバル、タベチャダメダヨ」
あんなに練習したはずなのに、ちゃばんちゃんたちの演技力ぅは壊滅的だった。
おかげで、つられたボクも機械的な反応になってしまった…
このやりとりは、このあと他の何人ものフレンズに付き合わされたこともあって、
ボクの中では思い出したくもない黒歴史だ・・・
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「ふぅ、最後に一回は乗っておかなくちゃね・・・」
サーバルの提案で乗った観覧車でボクは、ミライの声を再生した。
かばんたちには何のことだか分からないだろうけど、ボクにとってはどうしても必要なことだった。
ボクが前に進むために。 ミライとの決別の儀式として・・・
もう、ミライの声を再生することは無い。
<発作>を起こすこともないだろう。
ボクは音声データをメモリー内のフォルダに仕舞い、厳重に鍵をかけた・・・
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こうしてLBはミライに Good bye & Thank youを告げたのだった・・・
近日投稿(予定)~エピローグ~に続く・・・
泣いた😭
ラッキーさんには少なからず自我があったようにみえましたから、こんな事を考えてサーバルかばんと一緒に行動をしていたのだと思うと泣けてきます
影の主役ですね
いやぁ・・・
今回はいつものギャグをほとんど封印して心情描写に振ったので、
どんな反応が来るか心配でしたが、伝わって良かったです。
丁寧な心情描写での一期の再解釈、思わず映像が頭の中で構成されるほどに魅力的でした👍
エピローグも待ってます。
そう言って頂けて大変まんぞく…