前回>> 675
バァン!!
放たれた銃弾は見事的の真ん中に当たった。
11月26日、雲行きがあやしい。
ハシビロコウ「うん、最近調子がいいね」
かばん「わかった気がしたんです。鉛のわがままってのが」
庭の椅子に座っていたハシビロコウは立ち上がり、僕に言った。
ハシビロコウ「じゃあ、実戦…行こうか」
かばん「実戦……?」
◇
とあるビルの上
ナーチャ「うーん……実戦ってそう言うことねぇ……」
ハシビロコウ「流石にハンドガンだけ習得してもほとんど意味ないし、悪人を殺す感覚だけでもつかんでほしいからね…」
かばん「で……でも!人を殺すなんて聞いてないですよ!!」
ハシビロコウは腕時計を確認する。
そして、その後にスマホを確認した。
ハシビロコウはケースの中に入ったライフル銃を取り出した。
ハシビロコウ「たしかに、言ってなかったのは悪かったね。ごめん。だけど、これも必要なことなの…」
かばん「そ……そんな……」
ナーチャ「おっと、いいとこすまんがまた少し用事が入った」
ナーチャは何かを感じ取ると、すぐにどこかへ飛んで行った。
少し前からナーチャはこの調子
ハシビロコウ「いや…先にこれを見せたほうがよかったね……」
ハシビロコウは一枚の紙を僕に渡した。
ハシビロコウ「ターゲットの情報。過去に数え切れないほどの誘拐、強姦を繰り返し、その被害者を殺した動画を被害者の親族に送るなどと言う悪行を繰り返した悪人……」
かばん「これを……今から……」
ハシビロコウ「なんども言うけど、私は無差別に人を殺してるわけじゃない。警察が機能しないこの街で、私は法律の代わりをする。明らかにこの人は死刑に等しい罪を犯してる」
僕は悩んだ
その人の情報を見て、気分が変わってしまうのは人として仕方がない。
だけど、人を殺してしまうのには変わりがない。
きっと、罪が心にまとわりつく
だけど……
動画を送られた両親の顔を想像すると、涙が出てきた。
きっと、大切な家族だったんだな…
かばん「わかりました……やります……」
ハシビロコウはホッとし、僕に銃を渡す。
ビルの端
僕はライフル銃の接眼レンズに目をつける。
レンズの先、さっきの紙に書いてあった男が、黒いスーツを着て、何かを受け取っている。
ちゃんと頭が中心に来るように合わせる
完全に仕留めた。
トリガーに指を添える。
あとは引くだけ……
ハシビロコウ「どうしたの…?」
あとは……引く……
引けない…
やっぱり無理だ。
僕にこの罪は重すぎる。
ハシビロコウ「早くしないと雨が降ってくる。雨が降ると相手は傘をさす、標準を定めされなくなる」
わかってる
今知ったけど、早く撃たないといけないのはわかってる。
・
だけど、僕に勇気はない……
・
ハシビロコウ「……チッ……どいて…!」
ハシビロコウは僕を手でどかし、ライフル銃を取り上げる。
素早くライフル銃を構え、即座に標準を合わせた。
銃を持ってから3秒ほど、銃弾が放たれた。
多分当たったのだろう。
僕には分からなかった。
接眼レンズからハシビロコウは目を離す
ハシビロコウ「最初は仕方ない。だけど…」
ああ、確かに仕方がない
僕にもそれはわかる。
銃をとって、殺そうと撃った先はいつも木で作られた的だった。
だから、実際の人相手で戸惑うとは人の心理かもしれない。
しかも、憎い相手でもない、事情も知らないのに、ただ、実質金のために人を殺すなんて……
ハシビロコウ「守るんでしょ?守れる力がここにあるのに…」
ハシビロコウは僕に対し、早口な、罵倒するような早さで言った。
ハシビロコウ「君は盾になるためにここにきたんじゃないでしょ?非力で、弱々しい、それが嫌だから……」
わかってるんだ。
だから……
ハシビロコウ「あなたには何一つ能力がない。フレンズなのに、得意不得意で言ったら何一つないじゃない」
わかった
だから…やめてくれ……
ハシビロコウ「働いたり、普通の生活を送りたいならいい、でも君は違うでしょ?」
いや、僕はわかってない
かばん「必要ない……」
ハシビロコウ「……いま、なにを……」
・
・
かばん「必要ないって!!言ったんですよ!!!」
・
・
僕は驚くハシビロコウに対し怒鳴った。
かばん「あなたにはわからない!僕は殺し屋になりたいわけじゃない!!僕は……強くなりにきたんだ!!」
相手の気持ちなんてこれっぽっちもわからない。
なぜなら、そんなもの必要ないから
僕が守りたいのは法律じゃないんだ
法律なんかより、よっぽど大切な友情なんだ
かばん「人を殺して、他人の復讐のために自分を捨てるあなたと違って、僕は自分のためにやってるんだ!失ったら悲しいから!失って悲しかったから!!!いまなら声を大にして言いますよ!この【人殺し】!!!」
ハシビロコウ「か……かばん……落ち着いて……」
落ち着け…?
かばん「黙れ!!金が裏切らないんだったら一生金ばっかり信じててくださいよ!!!」
僕はその場を逃げ去った。
階段のあるドアを開け、勢いよく階段を駆け下りる。
涙は流さなかった。
悔いもなかった。
だけど、心なしか虚しかった。
自分のために笑顔を作り、僕に拳銃を教えてくれた。
そんなハシビロコウの笑顔が忘れなれなかった。
一瞬の罵倒が、僕を狂わせ
狂った僕がやった行動がなぜか悪行に思えてくる。
違う、殺してもそれは善行じゃない
僕は二階まで駆け下りた。
ビルは七階まであった。
窓があり、そこを覗き気分を落ち着かせようとした。
気づかないうちに雨が降っている。
自分の心のように豪雨だ。
僕に残ったのはスッキリとした気分ではなく、どんよりとジメジメした罪悪感だけだった。
かばん「僕は……なにも……」
守るための力ならもうこの手にある。
撃たなかっただけで、あの弾は確実に悪人の脳天を撃ち抜いていた。
もうなにもできないヒトじゃない。
僕はもう、守れるんだ。
かばん「ハハ……得意不得意がなんなんですか……?」
一人、誰もいないビルの中で、窓を眺めながら独り言を繰り返す。
かばん「なんでもない……得意不得意なんてなんでもない……」
そうだ、得意不得意がなんだ?
そんなの関係ないし、必要ない
かばん「そうだよ……なにも得意じゃなくても、今まで生きていけたじゃないですか……」
やっと頬が緩んできた。
馬鹿らしくなったからだ。
かばん「じゃあ……」
何故か、僕の頭の中に昔の記憶が蘇る。
・
・
僕は偶然発見された人のフレンズ。
どうやら僕は、自殺しようと崖から飛び降り、死にかけのた人にサンドスターが当たってできた。
いわゆる【ゾンビ】のような存在だった。
森の中、僕が彷徨ってるところを見つけてくれたのがカコ博士だった。
病院に連れていかれ、しばらくそこで研究も兼ねて入院した。
【輝き】とは、いわゆる生命エネルギーのようなもの
それが乏しく少ない状態でフレンズ化したわけだから、何かしら僕は暗かった。
僕の噂はたちまち広がり、僕は酷く気持ち悪がれた。
「ゾンビだ」「死体ちゃん」
飛び交う罵倒の中、そっと一人
サーバル「ねぇねぇ!」
ヒト「え……なんですか…?」
サーバル「君、名前はなんて言うの?」
ヒト「わかりません……まだ…決まってないらしいです……」
サーバル「私はサーバルキャットのサーバル、君は鞄を背負ってるから【かばん】ってどうかな?」
ヒト「えぇ……安直すぎません……?」
カコ「【かばん】……か……悪くないんじゃないかな?」
ヒト「えぇ……カコさんまで……」
カコ「かばん、命名はそんなに難しく考えなくていいんだよ。所詮、誰かを決めるただの名称なんだからね。君の名前ももうすぐ決まる。そんなに嫌なら、これが君の名前じゃなくてあだ名のような存在でいいと思うよ」
かばん「あだ名……ですか……」
サーバル「じゃあ、かばんちゃんでけってー!!」
僕を【かばん】と、半分悪口のような名前で呼んでくれるフレンズがいた。
彼女はいろんなフレンズと親しく接し、みんなと仲良く遊ぶ、そんな元気な子だった。
僕に声をかけてくれて、彼女は僕にいろんなものを見せてくれた。
・
かばん「みんなは……何のために……」
深く考えた。
かばん「僕は……得意なんてない……」
関係ない。
そうだ
実際そうだ。
だから、今まで生きてきたのは自分のおかげでもなんでもない。
カコ、サーバル、コノハさんやミミさん、アルパカさんがいたから今まで生きていけたのかもしれない。
誰かが指をさして、その方向に僕は行った。
所詮、僕は線路の上を走っていただけ
誰かが作った。
僕のために作られた。
緩んだ頬に塩っ辛い水滴が滴る。
僕の涙だ。
かばん「カコさん……アルパカさん……サーバルちゃん……みんな……」
僕は何に悲しんでるのかわからなくなった。
ただ、今の自分が過去の自分にこう言わせたくなっただけ
・
かばん「みんな……ごめん……」
・
やっとわかった。
僕は完全に悪行を犯した。
みんなの支えを自分の実力だと考えてしまった。
きっとハシビロコウさんも……
何が……何が生きていけただ……
窓の外、車が二台通れるほどの道が見える。
黒い車が一台止まっていた。
誰かが、白い服を着た誰かが黒い服の男たちに連れ去られている。
白い服を着た誰かは暴れる様子もなく、辺りをキョロキョロしている。
雨が降っているのに傘をさしてない。
顔がチラリと見えた。
僕は目を大きく開けた。
驚きを隠せなかったんだ。
声は出せず、乾いたかすれ声が漏れているだけ。
・
・
かばん「あ……アルパカさん………」
・
・
僕は急いで残りの階段を駆け下りた。
無我夢中で、何も考えてない。
何をしようかも、何をしたいのかもわからない。
たた、恩人が連れ去られようとしている光景に、居ても立っても居られなくなっただけかもしれない。
・
第29話へ続く……
とまと「次回の!アナサーは!?」
プリンセス「……そろそろ怒られそうね」
コウテイ「なんか下と言うか、性的な表現が増えたな……」
フルル「本当に大丈夫なのー?」
とまと「大丈夫、今のうちだけだから」
ジェーン「そのうち痛い目見ますよ」
イワビー「昔も下ネタ言って変な目で見られてたな……お前……」
プリンセス「うわ…」
フルル「次回ー〈消えた妖精〉お楽しみにー」