アナザーワールド・サンドスターストーリーズ
第9話 〈悪魔と奇跡が出会うとき〉
部屋の真ん中にポツンと椅子がある。
そこにサンドさんは座った。
ヒグマ「えー……はい、面接官のヒグマです……コレでいいの?」
キンシコウ「大丈夫ですよ、同じく、面接官のキンシコウです」
リカオン「そんなこと大声で言っていいんですか……?同じく、面接官のリカオンです」
僕とサーバル、サンドは共に【ハンター】になるための面接を受けにきた。
ハンターになるためにきたわけではなく、ただの様子見のため。
ヒグマ「えー……と、じゃあまず、氏名の方を」
サンド「ヌトゥル・サンドです」
ヒグマ「……ヌ……ヌトゥル?」
僕たちは別室で待機している。
サンド「はい」
ヒグマ「あれ?海外の人……?」
サンド「はい」
ヒグマ「あれ?出身地書いてない……?出身地ってどこですか?」
サンド「スペインです」
ヒグマ「す……スペイン……日本語がお上手で…」
もちろん嘘。
サンドはなにかと嘘が上手いようで
ヒグマ「では年齢の方を」
サンド「数えてないです」
ヒグマ「は?」
サンド「32歳です」
ヒグマ「け……結構歳いってるね……若く見えますよ」
サンド「そりゃ歳をとらないからね」
ヒグマ「は?」
サンド「ジョークっすよ、フランスジョーク」
ヒグマ「え?スペインじゃ……」
サンド「同じヨーロッパじゃないですか」
ヒグマ「ああ……それならいいんですが……」
キンシコウ「では、自分の長所と短所を」
サンド「長所は俊敏かつ、一撃一撃が重く、サポート面にも優れた戦い方ができます」
リカオン「はぇ〜……意外ですね……」
キンシコウ「ん?」
サンド「短所は、スイーツが好きでよく食べてたせいか、最近になって太り始め、戦闘にも影響が……」
キンシコウ「あ、私のことじゃないですよー」
サンド「ああ、すみません。【自分】の感じ取り方を間違えました」
リカオン(き……キンシコウさんのことだったんだ……)
ヒグマ(マジか、太り始めたんだ……)
リカオン&ヒグマ(てか……)
リカオン&ヒグマ「なんでそれ知ってんの!?」
キンシコウ「いや……えぇ……と……面接は以上です」
リカオン「終わらせたぁ!!」
キンシコウ「次の方どうぞ」
ヒグマ「次に進めたぁ!!」
〜数分後〜
ヒグマ「えぇ………まず、お名前を……」
サーバル「私はサーバルキャットのサーバルだよ!よろしくね!」
ヒグマ「え…はは、よろしく……」
キンシコウ「年齢の方を」
サーバル「年齢……?えーっと……1…2……3……うーん……この前かばんちゃんに誕生日ケーキ買ってもらったから……16くらいかな?」
ヒグマ「書類より2歳若返ってんだけど……」
サーバル「じゃあ18歳?ありがとう!ヒグマさん!」
ヒグマ「ははは、大丈夫かこいつ」
キンシコウ「では、自身の長所と短所を」
サーバル「ちょーしょ?たんしょ?」
リカオン「あー…自分のいいところと悪いところってことですよ」
サーバル「いいところ?だったら……うーん……」
ヒグマ「フリーダムだな……」
キンシコウ「ほら、ここでは戦闘とかメインに取り扱いますし、戦闘面で得意なこととかあれば…」
サーバル「戦闘面……?だったら走るのが得意だよ!あとね、高くジャンプすることもできるよ!!」
ヒグマ「はぇ…攻撃面とかは?」
サーバル「爪でひっかくこととかできるかな?セルリアンとかも一撃だよ!!」
キンシコウ「爪ですか……なかなか……」
ヒグマ「早く移動できるかつ、ジャンプ力も高い………リカオンの爪ともかぶる……リカオンより多能かな?」
リカオン「え?ちょっと待ってくださいよ!!」
キンシコウ「これで面接は終わりです」
リカオン「え!?ちょっとクビだけはやめてくださいよ!ちょっと!!」
ヒグマ「次の方どうぞー」
リカオン「ちょっと!!!短所は!?」
〜数分後〜
リカオン「……まずお名前を……」
かばん「はい、人のフレンズのかばんと申します」
ヒグマ「ん?かばん?なんだそれ?」
かばん「あ…すみません……それあだ名で…慣れててつい……ミライと申します」
ヒグマ「ミライねぇ……年齢はいくつですか?」
かばん「先ほどのサーバルさんと同じく18歳です」
キンシコウ「では、自分の長所と短所を」
かばん「長所は、栄養士免許を取ってるので、栄養のバランスのとれた食事を提供することや、日常的に家事などを行なってるので、掃除や洗濯などは一通りできます」
ヒグマ「おお、こういうの欲しかった。で?戦闘面とかでは?」
かばん「戦闘面では、あまり役に立たないかと思います。強いて言うなら、逃げ隠れが得意だとか……」
キンシコウ「それって大丈夫なんですか…?」
かばん「ああ、少し昔に拳銃なら触ったことがあります。あまり上手く使えなくて……」
キンシコウ「ヒグマさん、これって……」
ヒグマ「いやいや、家事ができるだけでも強いな。自炊とか怠ってたし、コンビニ弁当や外食には飽き飽きしてたんだよ」
かばん「え〜……短所は、運動音痴なところです……」
キンシコウ(なんでハンターになろうと思ったんでしょうか……?)
ヒグマ「よし、これで面接は終わりだ。待合室で待っててくれ」
キンシコウ「え?終わらせるんですか!?」
僕が部屋から出ても、彼女たちの会話は続いている
僕は待合室という肩書きの、リビングみたいな場所に行った。
近づくにつれ、ピアノの音色のようなものが聞こえるようになってきた。
待合室に着くと、
サンド「おお!ピアノが上手だね君!」
サーバル「すっごーい!!練習とかしてたのかな?」
ピアノの音が消えると、拍手とともにサンドとサーバルが褒めちぎる声が聞こえた。
かばん「え?知り合いか誰かですか?」
サンド「いいや?」
ミカ「あ、すみません。弾いてくださいと言われて……私の名前は渡辺ミカです」
かばん「あ……はい、僕はかばんと申します」
ミカ「かばん……さんですか……?変わった名前ですね……」
サンド「あだ名だと思えばいいよ」
サーバル「それでねかばんちゃん!この子すっごくピアノが上手なんだよ!!」
サーバルが僕の手を引っ張る。
ミカ「わ……私はこれで……失礼します……」
サンド「えぇー!?もうちょっとだけ弾いてよぉ…」
ミカ「だって……ヒグマさんたち、後ろにいるから……」
サンド「え!?」
かばん「え!?」
サーバル「知ってたけどね」
後ろを振り向くと、そこにはハンターの三人がいた。
ヒグマ「単刀直入に結果をいう。君たちは皆採用だ!」
サンド「やっぱな」
かばん「早くないですか!?」
サーバル「さっき話してたもんね」
キンシコウが微笑み
キンシコウ「ま……まぁ、人手不足が問題ですし、人が増えることが最優先です。強くない弱いはこれから直せば大丈夫ですからね」
かばん「な……なんで面接やったんですか……?」
リカオン「気づいてないと思ってるけど、面接の様子はカメラで撮ってたんです。それを上の方に提出して、どんな人が来たかを確かめてもらう必要性があるんです。決める権利は私たちにありますがね」
かばん「ていうか、こういうのって今決めて今言うもんなんですか……」
ヒグマ「人が少ないんだからしょうがない」
かばん「そ……そんなものでいいんですか……」
ヒグマがゴホンッと咳をする
ヒグマ「寮で生活するかは自由だ、生活する場合明日から何もかももってこい」
サーバル「部屋とかもう決まってるの?」
ヒグマ「大体の部屋がスカス………ああ、前もって決めてたんだ」
サンド「すみませーん、トイレは共同ですか?」
ヒグマ「ちゃんと男子便所がある」
サンド「覗かないでよね」
ヒグマ「なんだこいつ」
本当になんなんだろうか。
この職場は……
本当に、これがハンター?
予想以上に緊張感がなかった……
サンド「まぁ、明日からここでみんな暮らすから。そこらへんはよろしくね」
ヒグマ「随分と態度がでかいな……そうか、ならいいな」
キンシコウ「お引越しはそこまで大掛かりじゃなくても大丈夫です。勤務の時、ここにいるくらいですので、夜勤の多い仕事と思えばいいですよ」
かばん「時々帰ってもいいんですか?」
キンシコウ「はい。まぁ…帰って欲しくはないですけどね……」
キンシコウが頭をかく
サンド「……じゃあ、今日のところは解散かな?」
ヒグマ「ん?ああ、まぁ、今日やることは一通り終わったからな。帰っていいぞ」
サンド「じゃあ帰ろうぜー」
なんだろうか……
サーバル「今日は夜ご飯は何かなー?」
あの……
かばん「ハハ…なんだろうねー?」
あの時、めちゃくちゃ苦労して面接したあの時ってなんだろう……?
あんな苦労なんかせずに、普通にハンターになればよかった……
僕たちは寮を後にした。
家に帰ろうと歩を進める。
一方、寮では…
ヒグマ「ふーん……面接ってこんな感じでいいっけ?」
キンシコウ「いや、よくないですよね」
リカオン「よくないですね」
ジド「まぁ、いいんじゃない?」
・
・
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ヒグマ「え!?ジドさん!?」
キンシコウ「いつから!?」
ジド「今来た。ほれ、面接のビデオちょうだい。渡しといてあげる」
ヒグマ「あ…はい」
ヒグマが、ビデオカメラを渡す。
ヒグマ「ところでジドさん……」
ジド「ん?」
ヒグマ「あの三人ですが……正直言って、言うほど役に立つとは思いません」
ジド「随分とど直球だね」
キンシコウ「ああ、それは私も同意見です」
ジド「まぁ、君たちは魔具というチート武器があるわけだ。少々そう思うのは問題ない」
リカオン「役に立つとは、つまり?」
ジド「今は力がない。条件さえ整えばどれだけでも強くなれる」
ヒグマ「強く?そんな感じには見えないですが…」
キンシコウ「一人に至っては家事専用みたいになってますよ……」
ジド「………深い話をする必要性も、する気もない。この話はまた別の機会にでもしようか」
リカオン「えぇ……なんですかそれ……」
ジド「だが、これだけは言える
ヒグマ「これだけ?」
ジド「これから忙しくなるぞ!」
ジドがヒグマの肩を叩いた。
ヒグマ「痛!え!?」
ジド「んじゃ、僕はこれから用事があるんでね」
ジドはカメラを持って帰っていった。
ハンター達にはまだ何がなんなのかわかっていない。
が、
これから始まることは、忙しいでは表しきれないほど残酷で、過酷であった。
新たな出会いもあれば、別れもある。
それは未来の話。
彼女達はまだそれを知らない。
第10話へ続く……