【未来のぼうし】
[2話] ~Aパート-2~
道頓堀にやってきた。
帰ろうにも電車が止まっているので、そこで時間を潰そうと思ったのだ。
いつもは賑わっているこの場所も、地震のせいなのか今は人通りが少ない。
ブラブラ歩きながら、また物思いにふけっていた。
「かばんとぼうし」を書き終えた私が、次回作の準備をしていると、
とあるプロデューサーが尋ねてきて、アニメ化したいという話を持ち掛けてきた。
その人の第一印象は「頭の切れる野心家」だったが、
ぜひ会ってみてほしいと紹介されたアニメ監督は、輪をかけて「仕事に情熱を傾けている人」だった。
そして信じられる人たちだ、と思った。
その後、そのプロデューサーや製作委員会の担当者とも打ち合わせをし、本格的にアニメ化は進んでいった。
私は純粋に「自分の作品が動く」かもしれないことにワクワクしていた。
そんな中での監督との打ち合わせは、文字通り#ココロオドルものだった。
面白いアイデアが次々に提示され、形にして見せてくれた。
何より、私の作品を私以上に深く理解している、と感じられたので「お任せします」と伝えた。
一方で事務的な話はつまらないし、よく分からないものだった。
クレジットを原作or原案のどちらにするかとか、グッズの印税がどうとかいった、権利関係の話だ。
そちらは「お任せします」とだけ言って、深く考えることを放棄していた。
時は流れ・・・
アニメは大成功を収め、劇場版の話も出たのだが、その辺りから歯車が狂い始めた。
私にも取材やインタビューの仕事も増え、作家活動が思い通りに出来なくなっていた。
そんな中、私の発言に良くも悪くも過敏に反応する人が増え、
「私の意向」が私の知らないところで独り歩きを始めていたのだ。
いろんな人に「任せて」しまった私の落ち度でもあったが、
内部では派閥が生まれ、外部ではアンチが生まれていた。
恐らく情報のすれ違いやボタンの掛け違いが原因だったんだろうけど、様々な混乱が起こった。
例えば、アニメ監督に関して「感心して目から鱗が落ちる」というつもりで
未来「感覚が違い過ぎて常識が壊されますね(笑)」と発言すると、
監督を貶しているとか、逆に監督の品性を疑ったり、なぜか才能をやっかんでる、という意見まであった。
監督は劇場版も担当すると意気込んでいたが、
主役の声優が降ろされ、代わりに「私が推した」というジャニタレが起用されることが決まると
プロジェクトから去っていった。
確かに、あるインタビュー記事で「好きなジャニーズタレントは?」と訊かれたことは過去にあったが、
別の好きな俳優の名前を挙げる訳にも行かず
その頃 名前をよく聞いたタレントの名前を口にしただけなのだが、
当時は、まさか声優の人事に影響を及ぼすなんて思いもしなかった。
人事担当もきっと悪気はなく、そのインタビューを元に、私に忖度したつもりだったのだろう。
(劇場版の興行成績自体は微妙な数字だったが、評判は決して芳しくなかった)
この降板劇も、監督自らしたorさせられたか、を巡って内外で騒動が起こった。
そういったゴタゴタの数々に外野の人は、いちいち説明を求めたがったが、
すべてを
結果、適当にお茶を濁すか、黙るしかなかった・・・
私も無力感に苛まれながらそれらを黙って眺めるしかなかった。
そして「自分の手には負えない」と思い、徐々に疎遠になっていった。
また私は逃げ出したのだった。
未来「こんな話、つまらないですよね」
サバ「いきなり本編に戻ってきて、回想の感想を私に振らないでよ!」