虫喰いでないフレンズ
「君達は、強い魂と聞いて何を思い浮かべるか?どの様な魂が強い魂であると思う?」
「私は、強い意志を持つ者こそが強い魂を持つと考えます」
「そうか。そう考える理由を聞こうか」
「強い意志を持つ者は、大いなる使命を帯びて周囲を巻き込み、集団を成します。そのような集団とは何人にせよ一人以上の力を発揮するものです。周囲の意志はより強い意志に魅了あるいは翻弄されて、惑星の引力に導かれる衛星のように付き従うでしょう。
つまり、強い魂を持つ者は運命を歪める力が強く、強い意志をもって一人以上の力を発揮しようとすると考えるからです」
(……なんでこんなにすらすらと…よくわからないことを………)
何の前置きもなく、悪の秘密結社の幹部が手下に忠誠心を確かめるような問答が始まった。
圧倒的場違い感に竦み上がる。
「強い魂……そう。
さも問いに多様な答えがあるかのような問いかけをしたが、これから話すことは、私が言う固有名詞としての『強い魂』だ。
強い魂とは何か?
強い魂を持つ者は、
スタンド使いのことだ。
スタンド使いの間では次のような言葉が語られている。
『スタンド使いとスタンド使いはひかれあう』
この言葉が知られていることが、君の言う引力が発揮されている証拠だ」
「スタンド使い………?主任、質問がありますが、“スタンド使い”とは?まさか、特殊能力が実在すると……?」
「知らなかったの?コノシマ研にいるのにねェ?『珍しいこと』もあるものですね主任」
何とか理解しようと質問を投げたのにも関わらず、状況は悪化してゆく。
同僚が、自分が知らない意味を含むのであろう単語を、自分が知らないこと自体について『珍しいこと』と呼んだというのは、もはや脳の処理の優先順位の遥か遠くに追いやられてしまった。
「君は周囲にスタンド使いが居なかったようだな。それで気付けなかったのだろう。ーーーーーー、これからその力を私に貸してくれないか」
一方、フレンズ・オランウータンの貨物船内部に閉じ込められたドブネズミは、脱出の手掛かりを探すため、壁に耳(ヒト耳と獣耳両方)を当てて音を聴いていた。
聞き慣れない低いうなり声の正体に少しでも心当たりがあればと聞き続けていたが、聞こえるのがうなり声だけではないことがわかる。
甲高い笑い声に足踏み、何かしらの単語の羅列を叫び続けるといったことも聞こえてきた。
しかしこれらの音を結び付けるだけの知識が、ドブネズミにはない。
「くそッ、これ以上聞いてると頭がどうにかなりそうだ。
上で私たちがオランウータンに抵抗してる間も下の部屋でこんなドンチャン騒ぎやってたとすると、オランウータンの趣味か何かが放置されてるといったところか?
まあ、こんなことを聞き続けて平気でいられるとは恐れ入ったものだ。
それはさておき、もっと詳しく聞くには隣に突入するしかなさそうだな」
ラットを構えながら壁を叩き、叫んで壁の向こうの相手に存在を知らせる。
そして、スタンドを構えて壁破壊と壁向こうからの奇襲に備える。
敢えて位置を教えることで、来るかもしれない攻撃を受けやすくするためだ。
見えない空間の『視える』だけのところから、できるだけ対策するのがドブネズミのやり方である。
「壁破ったら敵が現れると思ってやるが………そうでないならどうするか考えとかないとな。
『ラット』!まるく形をえがけ!」
ラットの毒針は、発射されてから物体に当たった後何メートルも進み続けるほどのパワーを持たない。
しかし、金属のように硬いものに跳ね返されても着弾点はしっかり溶かされた。
このように毒の強さという点においてドブネズミのドス黒い精神性が露わになっている。
円形状に切り取られた壁の断面に手をかけ、ゆっくりと引いてこちら側に倒す。
鉄板の下敷きにならないよう後ずさりつつ、開けてゆく視界に注目すると、得体の知れない影が寝そべる様子が飛び込んできた。
「GOOOOH………」
「おい………何なんだ………?あ、セイウチ!セイウチか?」
「……………」
「OGH? GOAAA?」
「…………ぇ…」
「え?おい、なんだあれは?そもそも、なんでおまえがここにいるんだ?」
「………………気にしないで、敵じゃない」
「なに?すると、あれはもしかしておまえのスタンドか?」
「………あれは確かに私のスタンド」
「海岸の岩場から動こうともしなかったにおまえが、どうしてここにいるのか知りたいが、答えてくれるか?」
「……………なんでか知らないけど連れてこられた。何が私を連れてきたのかわからないけど」
「なるほど。ありがとう。
こんなことになったワケを知ってそうな、あのエテ公に問い詰めてやるよ。
そのつもりでわたしはここにいる。
そう、おまえはどうしたい?
ここにずっといる気は無いよな?」
「そうね。出なくても良いなら出ない」
「は?出ないって、おかしくないか?
お前、こんな何もないところでずっと生きられんのかよ」
「出る必要があるか、確かめてきて。
あなたが」
「え?おい、流石にそれは無っ、、、、!?」
34話の決定版となります。
先日の投稿の内容に満足いかず、再投稿となりました。
予告なく削除してしまい、申し訳ありません。
返信へ↓
「出る必要があるか、確かめてきて。
あなたが」
「え?おい、流石にそれは無っ、、、、!?」
「!??」
ドブネズミが反論を諦めたように見えたが、自らの身体の異変を感じ取ると、その訳を理解した。
二人の全身から吹き出す光が部屋を照らす。
面倒くさがりのセイウチでも、こればかりは焦らずにはいられない。
「なんだ!?アイツの攻撃か!?いや、ありえん………」
「なに………これ…………」
「何なんだ、これは!ああ、このままだとマズいぞ。確証はないがマズい!」
「どうなるの?私たち………」
「何するにも、まずここから逃げ出すしかない!もう何と言われようとお前を連れ出す!来い!」
船外に脱出するべく、部屋を出て廊下を走り抜ける。
だが、ドブネズミが感じた通りに、不安は現実となる。
力が抜け、勢いのまま転倒した。
連れてきたセイウチに弾き飛ばされ
「ギャアス!」
被ダメージボイスを出す。
セイウチの安全を確認するべく立ち上がろうとするも、やはり抗う術もないまま、床に伏した。
「どこだ、セイウチ!、脚(うで)にも力が入らん………」
身体を捩り周囲を見ようと振り返ると、頭上からセイウチでない誰かが声を掛けてきていることに気がついた。
「たすけ………て………せっかく……アフリカゾウを手に入れたのに……こんなの………」
「待て…っっ!お前にはみんなの安全を守る義務がある………」
「ハヤブサ!」
「おまえは……よくも!、いややめだ。オランウータン、外に助けを求めるんだ!空飛んでるフレンズいるかどうか探すとかしろ!」
「それができたらこんなことなってないよう!うぅっ…」
壁に身体を預けどうにか立っていたオランウータンも、ついに臥した。
意識の狭間に沈みゆく中で、壁そのものが溶けるように崩れる。
船そのものを支配するオランウータンの意識が消えつつあるからだ。
何も予兆なく訪れた危機のなか、オランウータンは寝言のようなことを口走った。
「遠……すぎた………
捕ま…りたくな…いから………
島………離れると………ダメなんて…知らなくて……」
「……!?」
<アニマルガールの身体は島から離れれば離れるほど不安定になり、最後には元の動物に戻る>
研究所の廊下に研究内容を説明した掲示物があった。
学術的なことに疎い自覚がある者なら目を背けそうな堅い内容のそれに、その一文が含まれていた。
ドブネズミは、そんな青天の霹靂に打たれた。
わたしにはそんなこと言わなかったぞ。
アフリカゾウは知ってるのか?
知ってたらこんな所来ないんじゃあないか?
知ってるとしたら、こうなることを覚悟してオランウータンを追いかけて……
それならアフリカゾウを助けなくては!
耐えてくれ、この身体!
こんなところで終わってなるものか!
死体であったはずのネズミの執念が燃え上がる。
そうして、姿を保とうとする意志に応えるかのように、救世主は現れた。
「お前達が消えると俺が困るからな。俺のためだ」
消えゆく意識の幕切れに、捨て台詞を残しながら半透明の物体を纏いつつある虫喰いの姿が残された。
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「おまえに借りができたな」
「俺はお前と貸し借りをしたつもりはない」
「おまえは、本当はそうやってフレンズ助けしてきたんじゃあないのか」
「誰に聞いても答えは同じだ
俺が乱入して勝手に手出しただけのこと」
「ね、ねえ!虫喰い………さん。
ありがとうね。セルリアンを使ってフレンズを襲ったりしてないのは私達が体験した事実だから。私からもイエネコちゃんに言っておくね」
「…………」
ドブネズミたちはセルリアンに包まれながら地中に潜る虫喰いを、帰省先から実家へ帰る親戚を見送るように名残惜しそうに見守り続けた。
「しかし、どうやって虫喰いがわたしたちを助けたのか、見てたか?だれか知らないか?」
「しらない………みてない」
「どうやってあんな所から5人も同時に………」
「ま、アイツ以外考えられないけど」
「こっちの『寝そべり』はいいの?」
「むにゃ………ぐふふふふ………おねーさん?おれとあそばなーい?」
「「「………」」」
「こんなの連れてったらどんなメに遭うか知ったことじゃあないな。セイウチはそこで寝転んでるし、ズラかろう。イエネコ拾わねーとだしな」
「ー!なーにしてたのよー!あんたたちはー!」
「噂をすればなんとやら、だね」
「あれー?アフリカゾウまでそんなタイドなんて、私はやっぱり邪魔者なのね」
「わ、悪かった。そんなつもりは!な、アフリカゾウ!」
「そそ、その通りだよ!」
「ふん、せーぜー私のご機嫌とりに精を出すことね」
やがて一団が浜辺を発ち、セイウチも安眠場所を求めて去る。言 つ。
最後に寝そべり昆布を被った酔っ払い擬きが残された。
そこに、一人の人影が舞い戻り、見下ろしながら独り
「俺自身が一番大事なんだ。セルリウムを制御する、俺だけが使える、あの守護けものにすら許されない力がな」
to be continued………
決定稿更新おつかれさまでしたのだ🫡