【よかれはひとのためあらず】
3話
「つめたっ」
頭に落ちてきた粒が雨にしては冷た過ぎる気がして空を見上げてみると
白いふわふわした綿のようなものが降ってきていた。
「雪だ」
仲間の誰かが言った。
「そろそろ旅立ちの時が来たようだ」
「そのうちもっと激しくなる。 早い方がいいな」
「しかし集めるには時間が遅い。 今日は知らせるだけにしておいて・・・」
僕も急がないといけない。
こんな時だけは団結力を発揮する仲間たちを尻目に1人、例のあばら家へ向かった。
いつものようにダチョウの羽で作られたという箒で鳥人形たちをはたく。
(なんとなく面白い取り合わせだ。 トリだけに…)
部屋の中をひと通り掃除し終わって外に出たところで声を掛けられた。
「お、こんな所にもいた。 近いうちに出発するってよ」
「何やってんの? 早くしないと大雪になるらしいよ」
僕は板を抱え、はしごを登りながら答える。
「だからだよ。
これまでだって雨が降り込んでただろうし、雪ならなおさら寒いだろうし・・・」
「ふ~ん、人形なんて放っておけばいいのに」
「キミってほんとお節介だよね」
ヨカレ
「・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぱたっ ぱたぱたっ
風に乗って、複数の羽音が聞こえてきた。
仲間たちは気が変わって、今夜旅立つことにしてしまったらしい。
「これでよし、と」
なんとか本格的に降る前に修理の終わった屋根の上で、
僕はその音をぼ~っと聴いていた。
置いてけぼりを食らった形になったわけだが、そのことに後悔はまったく無い。
ただ、彼らにすぐ言い返せなかったことが喉に刺さった魚の小骨のように引っ掛かっていた。
さすがに人形たちは仲間たちのように「余計なお世話」なんて言わない。
そして礼を述べることもない。
そもそも僕のことさえ憶えていないだろう。
それもこれも彼らが人形だからだ。
もちろん『笠地蔵』が夢(に至るまでの)物語であることは重々承知している。
恩着せがましいことを言うつもりはさらさら無いが、それでも思ってしまうことはある。
だったら僕は何のために・・・?と。
雪は相変わらずやまない。 加えて風も強くなってきた。
ふと、このちほーに伝わるなぞなぞを思い出した。
『吹雪がやんだら何になる?』
ーというものだ。
その答えを聞いた当時の僕は、感心…を通り越して感激したものだったが、
仲間たちの反応は一様に「だから何?」という冷めたものだった。
冷静になって考えてみれば、これまでの『春』は僕のために来たものでもなければ、
具体的に何かを与えてくれるものではなかったのは確かだ・・・
すると僕の心を突き動かしたものとは何だろう?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
🌀びゅーー~~っ!
「あ・・・」
そんなとりとめのないことを考えていたら雪交じりの突風が吹き、
すっかり油断していた僕は抗うことも出来ず、吹き飛ばされるしかなかった。
4話 ~出会い1~に続く
ヨカレちゃんは人形たちに何か特別なものを感じているのだ
続きもがんばってなのだ
ヨカレの想いは届くのか…?
こうご期待