ポケモンにまつわる怖い話を集めようというトピック。 実話も創作も伝聞も感想もOK。
「そうです。神話に語られ、カンナギタウンの壁画などにあらわれる二柱の神です」 サヤは右手の指を二本立てる。 「時間も空間もない虚無の混沌の中、最初に生まれた神が自らの分身を生み、時間と空間が動き出した。このときの分身がその二神です。でも……」 サヤは三本目の指を立てた。 「もう一柱、分身が生まれたという神話もあるんです」 「初めて聞いた」 「前に姿を変えるポケモンの話を少ししましたよね。そのポケモンこそ三柱目の分身ですよ」 なるほど、わたしはサヤの言いたいことがわかってきた。 「つまり……」 「ええ、シンオウにはいろんな言い伝えや神話があります。わたしたちとは違う神を祀っているところだってあります。先ほどのお祭りもその一つです」 それがサヤの目的だった。踊りの中心に祀られる三柱目の神、その姿を見たいのだ。わたしは、その姿を変えるポケモンの話をしたときにリカが言った「骨が肉をつけて帰ってくる」話を思い出して背筋がぞくりとした。いったい、それはただの踊りなのだろうか。
いつものように空を飛び、何度かポケモンセンターに泊まり、どうろをたどってリッシこのほとりをこえ、214ばんどうろに降り立つ。 そのどうろの途中で右に見つけた狭い道。そこから先の森の中にその集落はあった。 来るまでに何度か行き来する車とすれ違った。歩いていると、ミミロルと散歩する人とすれ違った。田舎ではあったが、ひとけはあるようだ。大きな街から離れていることもあり、人の少ない寂れた村落を想像していたので驚いた。ところどころ真新しい家も建っている。 「祠っていうのはどこにあるんだ?」 「詳しい地図があるわけじゃないのでよくわからないのです。探しましょう」 集落の幹線となっていると思しき道をみつけてそれに沿って歩くと、商店などが並ぶ道幅の広がった場所に出る。ここの中心地に近いのだろう。
その小さな商店に近づくと、中から二人組が出てきた。 サヤがさっそく話しかける。 「あの、こちらのかたですか?」 すると、一人が答える。 「いや、外からきた。君たちも?」 「はい」 サヤが言うと、その人はふーんとうなずきながらサヤにきいた。 「お祭りを見に来たの?」 驚いた。どうしてわかったのか。有名なお祭りなんだろうか。 「気を付けたほうがいいよ」 彼がそう言って、二人組は去っていこうとする。 「どこでやるんですか?」 サヤが引き留めた。 「うーん」 さっきの彼が悩むように唸(うな)ると、一枚の紙をポケットから出した。近づいてそれを見る。
地図だった。 詳細だ。わたしたちが歩いてきた道、この商店がすぐわかる。いくつかの家には現在の当主だろうか、名前が書いてある。いったいどこが作ったのだろう。もちろん、タウンマップの延長といった規模ではない。少なくとも個人名らしきものが書かれている以上は、もっと念入りな調査に基づくものだろう。 「祭りをするのはこの集落の端の祠だ。ここ」 地図の一か所を指でさす。 「今いるのはこの商店。以上だ」 彼は紙をしまい、今度こそ立ち去った。なにやらもう一人と言い合っているようだが、聞き取れずよくわからない。 「紙ごとくれればいいのに」 とリカが文句を言う。 「渡せない事情があるんでしょう。ただ、だいたいわかりました」 サヤはそういうと、小腹を満たすため商店に入っていく。店頭のお婆さんになにやらきいていたようだが、顔を見る限り収穫はあまりなさそうだった。 「場所はわかってますし、大丈夫です……でも」 「どうしたの?」 「いや、どんな祭りなのかとたずねたんですが、『もどりまつり』だと言ってたんです」 「もどり? 神様が戻ってくるからお祭りするってことかな」 「そうかもしれませんね。普段は違う場所にいる神様を迎え入れるお祭りなのかも」 話しながら件の祠のあるという村の東端へと歩く。入ってきた方向と反対側の端。 「もう行くんだ」 「人が少ないうちに調べたいじゃないですか」
「これがその祠?」 「そのはずですが……」 集落の外れの広場の中央。そこにあったのは祠……というより、小さな門のような構造物だ。 「他に社殿があるのかも」 と、祭り前の人のいない敷地を探すも他に建物はない。いくつか住民の物なのか小屋があったけれども、当然社殿などではなく、祭神の手掛かりはない。念のために藪(やぶ)の中もポケモンの手を借りて探るが無駄足だった。 「はぁ、姿くらいは拝めるかと思っていたのですが」 と、最初の祠を見上げながらため息をつくサヤ。 「神様の像くらい彫ってくれればいいのに」 リカがつまらなそうに門の各所をのぞいている。 「まあ、しかたないです。これから聞き込みをしてくるので、ここで待っていてくださいね」
しばらくリカと世間話をしたりゲームをしたりして時間をつぶしていると、少しずつ人が集まってきた。気が付くと空は夕焼けに染まっている。 「もうそろそろかな」 「うーん、サヤ遅いね~」 なんて言っていると、集まる人に混ざってサヤがやってきた。 「すみません、なかなか聞き出せなくて……神様の名前くらいわかるかと思っていたんですが」 どうも、祭りのことを老人にきいても、由縁や祠の縁起にまつわる話を知っている人は居なかったようだ。 「宮司の家も見つかりませんでした。お手上げです。話してくれるのは踊りのことばかりです」 「そうそう、どんな踊りなんだ。踊るからには多少知っておきたいんだけど」 「詳しい振りはわからなかったんですが、踊りについてはいろいろ聞きましたね。死んだもんと踊るだの不思議なことが起こるだの」 そっちには興味がないらしいが、さらっとすごいことを言ってる気がする。 「え、それってどういう……」
その時、大きな太鼓の音が響いた。 「お! 始まった始まった??」 リカがテンションを上げて立ち上がる。 夕闇の残滓の中、お面を着けた人々が祠に集まり始める。火のあかりに祠の門が黒い影を落としている。 歌はない。祝詞もなかった。時折掛け声があるのみで、ただ太鼓と金物、聞いたことのない音程の笛が響いている。いつの間にか始まっている踊りに、サヤがくれたお面を掛け、誘われるように輪に入っていた。
見よう見まねで踊っていると、輪の外が騒がしいことに気が付いた。何人か面を手に持った人が誰かを探すように走っている。視界の隅で話し合っている二人組が見えた……お面越しに目があった。 一人が近づいてきて、輪からわたしを軽く引っ張る。 「こっちに来なさい」 「……」 わたしは輪を振り返る。無言でいると、もう一度、来なさいと言ってきた。 「あの……えっと」 すると、もう片方の腕をつかまれた。
リカだった、隣にサヤもいた。 わたしはうなずく。 「行こう」 リカが言うと、三人で人混みの中を去った。 ムクホークに乗る。地面が遠くなる。 「なんだか、懐かしいような、不思議な感じがしたな。もっと……踊っていたかった」 「何があったんです?」 「わからない。人を探していたようだったけど」 考えてみたら、ただ人に呼ばれただけなのに逃げてきてしまった。何が起きたのかも気になったが、これではわからない。 「結局、なんのお祭りなのかわかりませんでしたね」 「でも踊れて楽しかったよ!」 リカがさっきの踊りのまねをしようとする。ムクちゃんがバランスの変化を感じたのか、戒めるように鳴いた。 わたしは日の沈んだ山脈の赤い空を眺める。 「少し、わかった気がする」 「どうしました?」 「さっき、死者と踊るって言ってたよな」 「ええ」 「本当にそうなのかもしれない」 あの薄暗がりのなかで、昼と夜の間で、ふと、門の影を思い出す。 「あの門は、どこを向いていたんだろう」
この話に続きはない。何もわからなくて、終わり。サヤはこれからまた調べるかもしれないけど、たいしたことはないだろう。 そういえば、あのとき商店で道を教えてくれた二人組……。彼らはどうしたんだろう。数日後、家に帰ってからそう考えていると、サヤがパソコンの画面を見せてきた。 「これ、あの人たちですかね」 どこかの情報交換ページらしい。「祭りに行ってきたけど、あの三人大丈夫だったかなあ」と書いてある。 「もしかしたら、この人のほうが詳しかったりして」 そう言うと、サヤはじっと画面を見つめて、うなずいた。 「いつか、話をきいてみましょう」 長旅はもうつかれた、ただ、面白いならぜひ着いて行こう。
「ねーナユタ」 リカが肩をつつく。 「あの踊り、不思議だったよね」 「今思うと……ちょっと怖い」 あのときには全く感じなかった。なにも感じず、ただひかれていた。 リカもその怖さがわかるようで、ちょっと肩をすくめる。 「次行ったら、最後まで踊ろうね」 行く気満々なのにあきれるが、不思議と笑いが込み上げてきた。 「そのときは着いて行く」 「あったりまえじゃんかー」 そして、一緒に笑った。 ふと、お面のことを思い出した。あのお面はどこに落としてきたんだろう。三人とも別で、青とピンクと黄色だったのは覚えている。でも、あの死のにおいがする踊りを思い出しそうで、なくて正解だったかも……なんて思ったり。 シンオウ怖い話/異教
「神はいる」 ぼくは、よく先輩の家に入り浸っていた。本を読んだり、めいそうをしたり。 やたら物知りな先輩は話が尽きない。ぼくもなにか面白い話を持っていくと、楽しそうに乗ってくれた。 先輩といっても、同じ職場や学校に居たわけじゃない。本当に年上かもわからない。ただ、なんとなくそう呼んでいるだけだ。 その先輩が何度も言うのが、「神はいる」だ。 「神と言っても、神話の神だけじゃないよ。要するに、不思議な力だ」 ぼくは、正直よくわからなった。 「ほら、敷居を踏むなとか囲炉裏(いろり)には神様がいるとか、はたまた豊作や雨を願ったりとかそういう神だよ」 「……いるんですか?」 そして、ある日言うのである。 「神を見せてあげよう」 と。
「シンオウにはいろいろな神様がいるね。神々の研究はシンオウ内にとどまらない。エーテル財団って知っている?」 聞いたことはあった。 「名前だけは、少し」 「アローラ地方のポケモン保護研究団体だ。そこの研究員もけっこうシンオウに来ていてね。一人と仲良くなったんだ」 そして先輩は一枚の地図を見せた。 「彼らが調査に訪れた地の一つで、ギラティナを祀る村だそうだよ」 聞きなれない単語が聞こえた。 「ギラティナ?」 「シンオウの神の一柱だよ。ある言い伝えには、時空を操る二神と共に生まれたらしい。そして伝えられた名前が『ギラティナ』だ」 「はあ、じゃあ、ギラティナを見に行くんですか?」 先輩はいいや、と笑う。 「神を見に行くんだよ」
先輩の車に乗って件の村まで来た。同じシンオウ東部とはいえ、山の中の運転に三時間付き合うのには疲れた。 「知り合いのツテを借りてね」 と言って民家に上がらせてもらったが、家主からの視線がなんとも居心地が悪い。食事付きだと先輩は笑っていたが、本当に飯をくれるんだろうか。 そんな心配に反して、昼食はけっこうなごちそうをいただけた。これでは逆に不安になる。脅し紛いのことをしていないといいが……この先輩がそんなことはしないと信じたい。 「ついて来い」 先輩に従って家を出る。
先輩についていく。 家並みは思いのほかきれいで新しい。ときおり時代を感じさせる一軒家が建つ程度だ。写真を仕事としている自分としては残念でもあった。そういった田舎の風景がアローラで受けるのだ。エーテル財団について名前を聞いたことがあったのも、写真で関わりがあるからだ。 「神を見るというのは?」 「この先に件の祠がある」 先輩は地図を見せながら言う。 「だが目的はそっちじゃない」 やがて一つの屋敷の前で立ち止まった。 「研究員からもらったノートがなかったらたどり着けなかったと思うよ」 先輩によると、ここが祠をつかさどる宮司の住む家だという。社務所も兼ねているというが、祠からは離れており傍目(はため)にはただの屋敷だ。
「エーテル財団も苦労したらしい。ここいらを扱う行政機関のトップに手を借りてようやくつかんだのだそうだ」 先輩によると、行政なり役所なりには小さくとも祭祀(さいし)の記録があるものだという。タウンやシティでなくとも、このくらいの規模の町であれば調査があっただろう。 門の前にずっと立っているので先に入ろうとすると「こっち」と裏手に手招きされる。なるほど……悪さをしようというわけだ。 「なんでこんな隠れるように祠の管理をする必要があるか、もちろん理由がある」 屋敷の裏の塀をよじ登って忍び込んだ先輩は、隅の小屋の戸にかけられた錠前をたのしげに触っている。 「燃やせ、ブリッツ」 そう言われて、先輩のパートナー、ゴウカザルが器用にそれを溶かした。 「さて、神はここに居るよ」 小屋を先輩が開ける。ゴウカザルの炎に照らされて中が浮かび上がった。 そこに居たのは、後ろ手に縛られた少年だった。
彼を助けると先輩は語った。 「ギラティナはあの世と関係があると考えられている。実際にそうかはともかく、そう信じられていた」 民家に停めていた車に三人で乗っている。少年は先輩が買った水を飲んでおり、飲む合間に何度も「ありがとうございます」と繰り返していた。 「この地はギラティナの住むどうくつの近くにあって、影響を強く受けているそうだ。研究員の調べによると、ここでは人が消えたり、ときに消えた人が戻ってきたりしたらしい。それで、今でも死者をよみがえらせるための祭りが行われている。 実際にギラティナは別の世界と行き来できるらしい。もしかしたら、本当に死人が別世界から来ることもあったかもしれない。だが……」 先輩は運転しながらぼくと少年の座る後部座席へと目配せする。 「そんなことが毎回祭りの度に都合よく起こることはなかった。そこで、信仰が薄れるのを恐れた昔の人々が始めたのがそれだよ」 先輩は言っている。神が神であり続けるために、このようなことを人が続けてきたのだと。 「存在するかわからない、そんな神のために神という容(い)れ物を構築する力。これこそ神そのものだとは思わない?」 村の入り口までくると、先輩は捕らえられていた少年を車から出した。 少年によると、五年ものあいだ宮司の家に監禁されていたらしい。そして「戻った」あとも絶対にこのことは他言しないようにと言い聞かされていた、こっちはおまえの舌を抜いて返すこともできると脅して。 少年の手から何年ぶりかのモンスターボールが投げられ、飛び立っていった。 「さて、祭りが楽しみだ」
民家へ戻る途中、商店に寄った。 「ポケモンセンターがあったらな」 さっきのでゴウカザルのPPが切れたらしい。ピーピーエイダーを買うと出てきた。 「放っておき過ぎなんですよ」 「やせいのポケモンともよく闘うんだ。仕方がないだろう」 先輩はぼくの知らないうちにもけっこう冒険をしているらしい。たぶん、ここに訪れたのも初めてではないのだろう。 そして車へ戻ろうとするところで誰かに声をかけられた。声の方を見ると三人組の少女のようで、ぼくらがここの住民かたずねている。
先輩が「いや、外からきた……」などと話したのち、「気を付けたほうがいいよ」と言って戻ってきた。 もしかしてあの三人も? とぼくがきこうとしたところで再び呼びかけられた。 「どこでやるんですか?」 先輩は振り返って一人に地図を見せる。 「ちょ、ちょっと」 止めようとしたが遅かった。 「祭りの場所を教えたんですか? 小屋から人が消えているのに気が付いたら彼女たちも怪しまれるかもしれませんよ」 歩いていく先輩に詰め寄る。あの三人も村の外から来たのだろう。 「別にそのくらい良いだろう」 よくあんな、監禁され脅された子どもを見たあとで言えたもんだ。 「彼女たちも遠路来たのだろう。探せば祠くらいすぐ見つかる。それとも、ここから帰るよう説得しろと?」 「それは……」 「ま、あとはのんびりしよう」 と言っておきながら、先輩は民家に車を停めるなりまたどこかへ行ってしまった。
ひとり視線のきつい家に残されてしまったぼくは、仕方がなくゲームでもすることにした。あんな話を聞かされたあとでは、外へ出て写真を撮る気も起きない。ふと、当の祭りについて先輩に言われるがまま付いてきた自分が全く無知なことに気がつく。 ぼくは思い切って家の人に声をかけた。 「こちらは先輩……さっきの彼とはどういう関係のお宅なんでしょうか」 まずはそう言うと、家主のおじいさんは本当に困ったような顔をして、 「わからん」 と首を振った。 「お祭りがあるってきいたんですけど、何をするんです?」 「なんでそんなことを」 「だってこれじゃ失礼ですよ。せめて一緒にお詣りくらい」 そう頼むと、一息置いて話してくれた。 「……ありゃ、死者を現世に戻すための儀式だ。お面を被って踊っているうちに、いつのまにか死者が紛れ込んでいる。神様のおかげで死者が戻ってくると。でもな」 おじいさんは遠い目をして言うのだ。 「たとえ神が居たとしても、都合よく自分のことなんて助けてくれないって実感したよ」と。 そう言って、おじいさんは亡くなった奥さんの写真を見せてくれた。
「さ、見に行くか」 先輩は帰ってきたなりそう言って、ぼくを祠まで引っ張っていった。 広場の中心に立つ祠は、祠というより門だ。まさしく、そういう場所なのだと思う。既に太鼓が鳴っていて、人々が門の周りを踊りながら回っている。 素速くこの空間を写真に収めた。松明(たいまつ)のあかりに浮かび上がる門。そして回る面。 そうか、お面越しならば死者と生者は区別はつかない。そういう祭りで、そういう踊りなのだ。夜なのもそのためかもしれない。 ぼんやりとしたあかりの中で、誰が誰だかわかりにくくなる。人々の境界がぼやけて揺れている。幻想的な光景は、真実幻想なのかもしれない……気がしてくる。
――。 ふと、太鼓が乱れた。ぼくは自分自身もその微睡みの中にいたことにハッとする。小屋の少年が消えたことにもとっくに気付かれているだろう。自分たちも危ないのだ。慌ただしくなりつつあるなかから先輩を探す。 「せんぱ……」 呼ぼうとしたそのとき、腹に響く音が聞こえた。大きなポケモンの鳴き声のような、金属の擦れるような音。 門の方角だ……。そう思い振り返る。
風景が見えた。まぶしい青空だ。高い建物が並んでいる。赤い光が並んでいて……あ、青になった――。
「うそだろ……」 先輩の声で我に返った。 ぼくは尻もちをついていたが、「行くぞ」と先輩に起こされた。 面をつけた人たちが門を囲っている。そして、その中に子どもが倒れているのが見えた。あの先輩とともに助けた少年とは全く別人だ。 先輩に肩を押され、祠の立つ広場の前の坂を降りるうちに、太鼓の音が遠くなっていく。 本当に境界がぼやけてしまった――のだろうか。 もしそうなら。 ぼくはあの倒れた子を思い出す。自分たちと服装も大差ないあの子どもは……いったい……。
それから、すぐここを発(た)つのかと思いきや、先輩は夕飯をいただいたのちに「まだ調べることがある」と次の日まで民家に泊まり、ぼくたちは客用の寝室に通していただいた。 次の日、先輩の車に揺られながら、これからどうするか考えて、そして祠で撮った写真をフォトクラブにアップロードすることに決めた。 ぼくはあの門の前に現れた子どものことが気になっていた。あの場に居て、なにかを見た自分が手助けできることがあるときに、誰かが気づいてくれることを祈って投稿した。 それに、なによりあの子どもに会って、きいてみたい。かつて居た世界のことを。 そのあと、店の前で出会った三人組を思い出した。きっと、先輩と同じオカルト好きなのだろう。少なくとも先輩に話しかけたあの子は。 先輩の普段使ってるオカルト情報収集ページにそれとなくちらつかせてみた。 なんともなかったと思うけど、もしなにかがあったらと思うと、自分にも少し負い目を感じた。 そしてあの飛び立った少年。無事に逃げられたのだろうか。今はどうしているだろう。彼につながる方法はない。いや、先輩はなにか知ってるかもしれない。 一人では生きていけないだろう。ただ、飛び立つときに見せた優雅なエアームド。それを思い出して、すこし安心した。きっと彼は一人じゃない。 シンオウ怖い話/神
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Splatoon3- スプラトゥーン3 攻略&検証 Wikiの附属掲示板です。
「そうです。神話に語られ、カンナギタウンの壁画などにあらわれる二柱の神です」
サヤは右手の指を二本立てる。
「時間も空間もない虚無の混沌の中、最初に生まれた神が自らの分身を生み、時間と空間が動き出した。このときの分身がその二神です。でも……」
サヤは三本目の指を立てた。
「もう一柱、分身が生まれたという神話もあるんです」
「初めて聞いた」
「前に姿を変えるポケモンの話を少ししましたよね。そのポケモンこそ三柱目の分身ですよ」
なるほど、わたしはサヤの言いたいことがわかってきた。
「つまり……」
「ええ、シンオウにはいろんな言い伝えや神話があります。わたしたちとは違う神を祀っているところだってあります。先ほどのお祭りもその一つです」
それがサヤの目的だった。踊りの中心に祀られる三柱目の神、その姿を見たいのだ。わたしは、その姿を変えるポケモンの話をしたときにリカが言った「骨が肉をつけて帰ってくる」話を思い出して背筋がぞくりとした。いったい、それはただの踊りなのだろうか。
いつものように空を飛び、何度かポケモンセンターに泊まり、どうろをたどってリッシこのほとりをこえ、214ばんどうろに降り立つ。
そのどうろの途中で右に見つけた狭い道。そこから先の森の中にその集落はあった。
来るまでに何度か行き来する車とすれ違った。歩いていると、ミミロルと散歩する人とすれ違った。田舎ではあったが、ひとけはあるようだ。大きな街から離れていることもあり、人の少ない寂れた村落を想像していたので驚いた。ところどころ真新しい家も建っている。
「祠っていうのはどこにあるんだ?」
「詳しい地図があるわけじゃないのでよくわからないのです。探しましょう」
集落の幹線となっていると思しき道をみつけてそれに沿って歩くと、商店などが並ぶ道幅の広がった場所に出る。ここの中心地に近いのだろう。
その小さな商店に近づくと、中から二人組が出てきた。唸 ると、一枚の紙をポケットから出した。近づいてそれを見る。
サヤがさっそく話しかける。
「あの、こちらのかたですか?」
すると、一人が答える。
「いや、外からきた。君たちも?」
「はい」
サヤが言うと、その人はふーんとうなずきながらサヤにきいた。
「お祭りを見に来たの?」
驚いた。どうしてわかったのか。有名なお祭りなんだろうか。
「気を付けたほうがいいよ」
彼がそう言って、二人組は去っていこうとする。
「どこでやるんですか?」
サヤが引き留めた。
「うーん」
さっきの彼が悩むように
地図だった。
詳細だ。わたしたちが歩いてきた道、この商店がすぐわかる。いくつかの家には現在の当主だろうか、名前が書いてある。いったいどこが作ったのだろう。もちろん、タウンマップの延長といった規模ではない。少なくとも個人名らしきものが書かれている以上は、もっと念入りな調査に基づくものだろう。
「祭りをするのはこの集落の端の祠だ。ここ」
地図の一か所を指でさす。
「今いるのはこの商店。以上だ」
彼は紙をしまい、今度こそ立ち去った。なにやらもう一人と言い合っているようだが、聞き取れずよくわからない。
「紙ごとくれればいいのに」
とリカが文句を言う。
「渡せない事情があるんでしょう。ただ、だいたいわかりました」
サヤはそういうと、小腹を満たすため商店に入っていく。店頭のお婆さんになにやらきいていたようだが、顔を見る限り収穫はあまりなさそうだった。
「場所はわかってますし、大丈夫です……でも」
「どうしたの?」
「いや、どんな祭りなのかとたずねたんですが、『もどりまつり』だと言ってたんです」
「もどり? 神様が戻ってくるからお祭りするってことかな」
「そうかもしれませんね。普段は違う場所にいる神様を迎え入れるお祭りなのかも」
話しながら件の祠のあるという村の東端へと歩く。入ってきた方向と反対側の端。
「もう行くんだ」
「人が少ないうちに調べたいじゃないですか」
「これがその祠?」藪 の中もポケモンの手を借りて探るが無駄足だった。
「そのはずですが……」
集落の外れの広場の中央。そこにあったのは祠……というより、小さな門のような構造物だ。
「他に社殿があるのかも」
と、祭り前の人のいない敷地を探すも他に建物はない。いくつか住民の物なのか小屋があったけれども、当然社殿などではなく、祭神の手掛かりはない。念のために
「はぁ、姿くらいは拝めるかと思っていたのですが」
と、最初の祠を見上げながらため息をつくサヤ。
「神様の像くらい彫ってくれればいいのに」
リカがつまらなそうに門の各所をのぞいている。
「まあ、しかたないです。これから聞き込みをしてくるので、ここで待っていてくださいね」
しばらくリカと世間話をしたりゲームをしたりして時間をつぶしていると、少しずつ人が集まってきた。気が付くと空は夕焼けに染まっている。
「もうそろそろかな」
「うーん、サヤ遅いね~」
なんて言っていると、集まる人に混ざってサヤがやってきた。
「すみません、なかなか聞き出せなくて……神様の名前くらいわかるかと思っていたんですが」
どうも、祭りのことを老人にきいても、由縁や祠の縁起にまつわる話を知っている人は居なかったようだ。
「宮司の家も見つかりませんでした。お手上げです。話してくれるのは踊りのことばかりです」
「そうそう、どんな踊りなんだ。踊るからには多少知っておきたいんだけど」
「詳しい振りはわからなかったんですが、踊りについてはいろいろ聞きましたね。死んだもんと踊るだの不思議なことが起こるだの」
そっちには興味がないらしいが、さらっとすごいことを言ってる気がする。
「え、それってどういう……」
その時、大きな太鼓の音が響いた。
「お! 始まった始まった??」
リカがテンションを上げて立ち上がる。
夕闇の残滓の中、お面を着けた人々が祠に集まり始める。火のあかりに祠の門が黒い影を落としている。
歌はない。祝詞もなかった。時折掛け声があるのみで、ただ太鼓と金物、聞いたことのない音程の笛が響いている。いつの間にか始まっている踊りに、サヤがくれたお面を掛け、誘われるように輪に入っていた。
見よう見まねで踊っていると、輪の外が騒がしいことに気が付いた。何人か面を手に持った人が誰かを探すように走っている。視界の隅で話し合っている二人組が見えた……お面越しに目があった。
一人が近づいてきて、輪からわたしを軽く引っ張る。
「こっちに来なさい」
「……」
わたしは輪を振り返る。無言でいると、もう一度、来なさいと言ってきた。
「あの……えっと」
すると、もう片方の腕をつかまれた。
リカだった、隣にサヤもいた。
わたしはうなずく。
「行こう」
リカが言うと、三人で人混みの中を去った。
ムクホークに乗る。地面が遠くなる。
「なんだか、懐かしいような、不思議な感じがしたな。もっと……踊っていたかった」
「何があったんです?」
「わからない。人を探していたようだったけど」
考えてみたら、ただ人に呼ばれただけなのに逃げてきてしまった。何が起きたのかも気になったが、これではわからない。
「結局、なんのお祭りなのかわかりませんでしたね」
「でも踊れて楽しかったよ!」
リカがさっきの踊りのまねをしようとする。ムクちゃんがバランスの変化を感じたのか、戒めるように鳴いた。
わたしは日の沈んだ山脈の赤い空を眺める。
「少し、わかった気がする」
「どうしました?」
「さっき、死者と踊るって言ってたよな」
「ええ」
「本当にそうなのかもしれない」
あの薄暗がりのなかで、昼と夜の間で、ふと、門の影を思い出す。
「あの門は、どこを向いていたんだろう」
この話に続きはない。何もわからなくて、終わり。サヤはこれからまた調べるかもしれないけど、たいしたことはないだろう。
そういえば、あのとき商店で道を教えてくれた二人組……。彼らはどうしたんだろう。数日後、家に帰ってからそう考えていると、サヤがパソコンの画面を見せてきた。
「これ、あの人たちですかね」
どこかの情報交換ページらしい。「祭りに行ってきたけど、あの三人大丈夫だったかなあ」と書いてある。
「もしかしたら、この人のほうが詳しかったりして」
そう言うと、サヤはじっと画面を見つめて、うなずいた。
「いつか、話をきいてみましょう」
長旅はもうつかれた、ただ、面白いならぜひ着いて行こう。
「ねーナユタ」
リカが肩をつつく。
「あの踊り、不思議だったよね」
「今思うと……ちょっと怖い」
あのときには全く感じなかった。なにも感じず、ただひかれていた。
リカもその怖さがわかるようで、ちょっと肩をすくめる。
「次行ったら、最後まで踊ろうね」
行く気満々なのにあきれるが、不思議と笑いが込み上げてきた。
「そのときは着いて行く」
「あったりまえじゃんかー」
そして、一緒に笑った。
ふと、お面のことを思い出した。あのお面はどこに落としてきたんだろう。三人とも別で、青とピンクと黄色だったのは覚えている。でも、あの死のにおいがする踊りを思い出しそうで、なくて正解だったかも……なんて思ったり。
シンオウ怖い話/異教
「神はいる」囲炉裏 には神様がいるとか、はたまた豊作や雨を願ったりとかそういう神だよ」
ぼくは、よく先輩の家に入り浸っていた。本を読んだり、めいそうをしたり。
やたら物知りな先輩は話が尽きない。ぼくもなにか面白い話を持っていくと、楽しそうに乗ってくれた。
先輩といっても、同じ職場や学校に居たわけじゃない。本当に年上かもわからない。ただ、なんとなくそう呼んでいるだけだ。
その先輩が何度も言うのが、「神はいる」だ。
「神と言っても、神話の神だけじゃないよ。要するに、不思議な力だ」
ぼくは、正直よくわからなった。
「ほら、敷居を踏むなとか
「……いるんですか?」
そして、ある日言うのである。
「神を見せてあげよう」
と。
「シンオウにはいろいろな神様がいるね。神々の研究はシンオウ内にとどまらない。エーテル財団って知っている?」
聞いたことはあった。
「名前だけは、少し」
「アローラ地方のポケモン保護研究団体だ。そこの研究員もけっこうシンオウに来ていてね。一人と仲良くなったんだ」
そして先輩は一枚の地図を見せた。
「彼らが調査に訪れた地の一つで、ギラティナを祀る村だそうだよ」
聞きなれない単語が聞こえた。
「ギラティナ?」
「シンオウの神の一柱だよ。ある言い伝えには、時空を操る二神と共に生まれたらしい。そして伝えられた名前が『ギラティナ』だ」
「はあ、じゃあ、ギラティナを見に行くんですか?」
先輩はいいや、と笑う。
「神を見に行くんだよ」
先輩の車に乗って件の村まで来た。同じシンオウ東部とはいえ、山の中の運転に三時間付き合うのには疲れた。
「知り合いのツテを借りてね」
と言って民家に上がらせてもらったが、家主からの視線がなんとも居心地が悪い。食事付きだと先輩は笑っていたが、本当に飯をくれるんだろうか。
そんな心配に反して、昼食はけっこうなごちそうをいただけた。これでは逆に不安になる。脅し紛いのことをしていないといいが……この先輩がそんなことはしないと信じたい。
「ついて来い」
先輩に従って家を出る。
先輩についていく。傍目 にはただの屋敷だ。
家並みは思いのほかきれいで新しい。ときおり時代を感じさせる一軒家が建つ程度だ。写真を仕事としている自分としては残念でもあった。そういった田舎の風景がアローラで受けるのだ。エーテル財団について名前を聞いたことがあったのも、写真で関わりがあるからだ。
「神を見るというのは?」
「この先に件の祠がある」
先輩は地図を見せながら言う。
「だが目的はそっちじゃない」
やがて一つの屋敷の前で立ち止まった。
「研究員からもらったノートがなかったらたどり着けなかったと思うよ」
先輩によると、ここが祠をつかさどる宮司の住む家だという。社務所も兼ねているというが、祠からは離れており
「エーテル財団も苦労したらしい。ここいらを扱う行政機関のトップに手を借りてようやくつかんだのだそうだ」祭祀 の記録があるものだという。タウンやシティでなくとも、このくらいの規模の町であれば調査があっただろう。
先輩によると、行政なり役所なりには小さくとも
門の前にずっと立っているので先に入ろうとすると「こっち」と裏手に手招きされる。なるほど……悪さをしようというわけだ。
「なんでこんな隠れるように祠の管理をする必要があるか、もちろん理由がある」
屋敷の裏の塀をよじ登って忍び込んだ先輩は、隅の小屋の戸にかけられた錠前をたのしげに触っている。
「燃やせ、ブリッツ」
そう言われて、先輩のパートナー、ゴウカザルが器用にそれを溶かした。
「さて、神はここに居るよ」
小屋を先輩が開ける。ゴウカザルの炎に照らされて中が浮かび上がった。
そこに居たのは、後ろ手に縛られた少年だった。
彼を助けると先輩は語った。容 れ物を構築する力。これこそ神そのものだとは思わない?」
「ギラティナはあの世と関係があると考えられている。実際にそうかはともかく、そう信じられていた」
民家に停めていた車に三人で乗っている。少年は先輩が買った水を飲んでおり、飲む合間に何度も「ありがとうございます」と繰り返していた。
「この地はギラティナの住むどうくつの近くにあって、影響を強く受けているそうだ。研究員の調べによると、ここでは人が消えたり、ときに消えた人が戻ってきたりしたらしい。それで、今でも死者をよみがえらせるための祭りが行われている。
実際にギラティナは別の世界と行き来できるらしい。もしかしたら、本当に死人が別世界から来ることもあったかもしれない。だが……」
先輩は運転しながらぼくと少年の座る後部座席へと目配せする。
「そんなことが毎回祭りの度に都合よく起こることはなかった。そこで、信仰が薄れるのを恐れた昔の人々が始めたのがそれだよ」
先輩は言っている。神が神であり続けるために、このようなことを人が続けてきたのだと。
「存在するかわからない、そんな神のために神という
村の入り口までくると、先輩は捕らえられていた少年を車から出した。
少年によると、五年ものあいだ宮司の家に監禁されていたらしい。そして「戻った」あとも絶対にこのことは他言しないようにと言い聞かされていた、こっちはおまえの舌を抜いて返すこともできると脅して。
少年の手から何年ぶりかのモンスターボールが投げられ、飛び立っていった。
「さて、祭りが楽しみだ」
民家へ戻る途中、商店に寄った。
「ポケモンセンターがあったらな」
さっきのでゴウカザルのPPが切れたらしい。ピーピーエイダーを買うと出てきた。
「放っておき過ぎなんですよ」
「やせいのポケモンともよく闘うんだ。仕方がないだろう」
先輩はぼくの知らないうちにもけっこう冒険をしているらしい。たぶん、ここに訪れたのも初めてではないのだろう。
そして車へ戻ろうとするところで誰かに声をかけられた。声の方を見ると三人組の少女のようで、ぼくらがここの住民かたずねている。
先輩が「いや、外からきた……」などと話したのち、「気を付けたほうがいいよ」と言って戻ってきた。
もしかしてあの三人も? とぼくがきこうとしたところで再び呼びかけられた。
「どこでやるんですか?」
先輩は振り返って一人に地図を見せる。
「ちょ、ちょっと」
止めようとしたが遅かった。
「祭りの場所を教えたんですか? 小屋から人が消えているのに気が付いたら彼女たちも怪しまれるかもしれませんよ」
歩いていく先輩に詰め寄る。あの三人も村の外から来たのだろう。
「別にそのくらい良いだろう」
よくあんな、監禁され脅された子どもを見たあとで言えたもんだ。
「彼女たちも遠路来たのだろう。探せば祠くらいすぐ見つかる。それとも、ここから帰るよう説得しろと?」
「それは……」
「ま、あとはのんびりしよう」
と言っておきながら、先輩は民家に車を停めるなりまたどこかへ行ってしまった。
ひとり視線のきつい家に残されてしまったぼくは、仕方がなくゲームでもすることにした。あんな話を聞かされたあとでは、外へ出て写真を撮る気も起きない。ふと、当の祭りについて先輩に言われるがまま付いてきた自分が全く無知なことに気がつく。
ぼくは思い切って家の人に声をかけた。
「こちらは先輩……さっきの彼とはどういう関係のお宅なんでしょうか」
まずはそう言うと、家主のおじいさんは本当に困ったような顔をして、
「わからん」
と首を振った。
「お祭りがあるってきいたんですけど、何をするんです?」
「なんでそんなことを」
「だってこれじゃ失礼ですよ。せめて一緒にお詣りくらい」
そう頼むと、一息置いて話してくれた。
「……ありゃ、死者を現世に戻すための儀式だ。お面を被って踊っているうちに、いつのまにか死者が紛れ込んでいる。神様のおかげで死者が戻ってくると。でもな」
おじいさんは遠い目をして言うのだ。
「たとえ神が居たとしても、都合よく自分のことなんて助けてくれないって実感したよ」と。
そう言って、おじいさんは亡くなった奥さんの写真を見せてくれた。
「さ、見に行くか」松明 のあかりに浮かび上がる門。そして回る面。
先輩は帰ってきたなりそう言って、ぼくを祠まで引っ張っていった。
広場の中心に立つ祠は、祠というより門だ。まさしく、そういう場所なのだと思う。既に太鼓が鳴っていて、人々が門の周りを踊りながら回っている。
素速くこの空間を写真に収めた。
そうか、お面越しならば死者と生者は区別はつかない。そういう祭りで、そういう踊りなのだ。夜なのもそのためかもしれない。
ぼんやりとしたあかりの中で、誰が誰だかわかりにくくなる。人々の境界がぼやけて揺れている。幻想的な光景は、真実幻想なのかもしれない……気がしてくる。
――。
ふと、太鼓が乱れた。ぼくは自分自身もその微睡みの中にいたことにハッとする。小屋の少年が消えたことにもとっくに気付かれているだろう。自分たちも危ないのだ。慌ただしくなりつつあるなかから先輩を探す。
「せんぱ……」
呼ぼうとしたそのとき、腹に響く音が聞こえた。大きなポケモンの鳴き声のような、金属の擦れるような音。
門の方角だ……。そう思い振り返る。
風景が見えた。まぶしい青空だ。高い建物が並んでいる。赤い光が並んでいて……あ、青になった――。
「うそだろ……」
先輩の声で我に返った。
ぼくは尻もちをついていたが、「行くぞ」と先輩に起こされた。
面をつけた人たちが門を囲っている。そして、その中に子どもが倒れているのが見えた。あの先輩とともに助けた少年とは全く別人だ。
先輩に肩を押され、祠の立つ広場の前の坂を降りるうちに、太鼓の音が遠くなっていく。
本当に境界がぼやけてしまった――のだろうか。
もしそうなら。
ぼくはあの倒れた子を思い出す。自分たちと服装も大差ないあの子どもは……いったい……。
それから、すぐここを発 つのかと思いきや、先輩は夕飯をいただいたのちに「まだ調べることがある」と次の日まで民家に泊まり、ぼくたちは客用の寝室に通していただいた。
次の日、先輩の車に揺られながら、これからどうするか考えて、そして祠で撮った写真をフォトクラブにアップロードすることに決めた。
ぼくはあの門の前に現れた子どものことが気になっていた。あの場に居て、なにかを見た自分が手助けできることがあるときに、誰かが気づいてくれることを祈って投稿した。
それに、なによりあの子どもに会って、きいてみたい。かつて居た世界のことを。
そのあと、店の前で出会った三人組を思い出した。きっと、先輩と同じオカルト好きなのだろう。少なくとも先輩に話しかけたあの子は。
先輩の普段使ってるオカルト情報収集ページにそれとなくちらつかせてみた。
なんともなかったと思うけど、もしなにかがあったらと思うと、自分にも少し負い目を感じた。
そしてあの飛び立った少年。無事に逃げられたのだろうか。今はどうしているだろう。彼につながる方法はない。いや、先輩はなにか知ってるかもしれない。
一人では生きていけないだろう。ただ、飛び立つときに見せた優雅なエアームド。それを思い出して、すこし安心した。きっと彼は一人じゃない。
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