朝、目が覚めて一番にササコの寝顔を見る。
そして自分が正常であることを再確認した。
「……うん」
ササコの顔をずっと見ていても、激しい動悸や頭が茹だるような熱を感じない。
だから今の私はきっと、"いつもの"私だ。
彼女のよく知る「ゴイシシジミさん」だ。
そう思うと少しほっとした。
今なら分かる。
昨日の私は、本当に風邪をひいていて、熱も動悸も全部その風邪のせいだった。
目を閉じれば蘇る記憶も、薄く蕩けて判然としないものばかりで。
自分がいつ眠りについたのかすら鮮明に思い出せない。
だけど昨日何があって、その後どうなったのかはちゃんと覚えている。
その記憶の所々はぼんやりとしていて、夢でも見ていたのではないかと勘違いしそうになるけれど。
でもあれは間違いなく自分で考えて決めて、この口から発せられた言葉だと言える。
……私は、ササコに「好き」を伝えなかった。
彼女に何が好きなのかと訊かれて、「なんでもない」と答えたのだ。
今思えば、少し素っ気なかったかもしれない。
「あなた」でも、「ササコ」でも、どちらでも言えばそれで良かった。
でも私は口を噤んだ。
その時はそうするべきだと思ったから。
茹だり切った頭で唯一冷静に考えられたのは、今の自分がいつもササコが見ている私じゃないということ。
それだけ解っていれば、もうどうするべきかは考えるまでもなかった。
……でもそれも、熱の冷めた今だから言えることで。
本当のところは、ただ怖気付いただけかもしれない。
「…………」
このままササコの目が覚めるのを待って、いつも通りのおはようを言おう。
そうすればきっと何も変わらない。
二人で朝の挨拶をして、これまで通りの日常を過ごすんだ。
……別に、何も名残惜しくなんかない。
私にとって一番大切なのは今、隣にササコかいることだから。
いつか来る、二人で一緒にいられる最後の日まで。
私はずっと彼女の隣に居続ける。
今ここで、改めてそう心に誓った。
誓いの口付けは必要ない。
私は彼女の騎士じゃないから。
「……私は、あなたの友達になれたのかな?」