服を洗い終えて川から上がると、さっきまでの寒さが嘘のように消えてしまった。
今は、近くにあった木の下で服を乾かしているところだ。
……………………。
これだけびしょ濡れでは、いつまで経っても服が乾くことは無いだろう。
……でも、そんなことはもうどうでもよかった。
「何がダメだったんだろう……」
意識的に口に出したのは、そんな言葉。
それはこの上なくわざとらしい響きを持っていた。
こういうことを言っていいのは、何の後ろめたさも持たない純粋な心の持ち主が、自らが考えうる最善の努力をした時だけだ。
残念ながら、私はそのどちらにも当てはまらない。
最悪な企みをダメなことと知っていながら実行した私に、その言葉を口にする資格はなかった。
だから、本当はこう言うべきなのだ。
「どうすれば、もっと上手くいったのかな」
好意的な言葉は無駄だと知った。
だから、わざと怖がらせるようなことを言ったのに。
「……」
最初は上手くいってたんだ。
恐怖は相手を束縛するのには最適だった。
逃げようとするのは、生きようとする意思があるからだ。
だから、それを奪ってしまえばいいと思った。
生きるのを諦めさせる程の恐怖を与えれば、と。
罪悪感はあった。
でも、それもいつかは無くなるものと信じこもうとして……。
最初の間違いで味をしめた私は、気の弱いあの子に、毎日のように恐ろしい言葉を浴びせかけた。
何度も、何度も、同じ罪を重ねていって……。
……そうして、今に至る。
恐怖はあの子を拘束する以外の意味を持たなかった。
過度な脅かしが、あの子と私を永遠に隔ててしまったんだ。
──ぴしゃん!
……落とした視線の先に、あまりに邪悪な顔が写っていたものだから、反射的に水たまりを蹴ってしまった。
「………………」
最初のうちは、本当に上手くいっていた……と思う。
しつこいようだけど、何度も失敗を経験してきた私が言うのだから、間違いは無いはず。
……。
私は、今回の失敗から学ばなければならない。
こんなことをまだ続けるのかと、誰もが思うだろう。
でも、どうか、安心して欲しい。
次で最後だから。
……何となく分かる。
こんなこと長くは続かないって。
もし次も失敗してしまったら、私はきっと、全部を諦めてしまえるから。
だから、最後にもう一度だけチャンスをください。
……そうは言っても、次の私の被害者には安心どころじゃないのかもしれない。
だったら、私が謝らなくてよくなるほどに、たくさん優しくしてあげるから……。
私に残された時間の全てを、あなたのために使うから……。
だからどうか、許してほしい。
「きっと、うまくいくよ」
後ろ向きになりそうな思考を、前向きな言葉で遮った。
これからどうすればいいのかは、もう分かっている。
私は、足元の水溜まりで素敵な笑顔の練習をしてから木陰を飛び出した。
短く、ストーリーがあまり進展しない
前回のかさましのような11話です
これからはイシちゃん視点で進むのかな?
突然姿を消したササコ…
自暴自棄になって溺れかけるなんて、独りじゃなければ助けてもらえるのに…
自分の不器用さを身にしみて嫌っているのがわかる…
ムカデでもだれかがいればいいのに、と思います
チェック頻度がさがってて10話とまとめての感想になってしまいましたが、楽しませてもらいました
ご明察の通り、ここからはイシちゃんの視点で書いていきます
ササコ視点の時よりも読みづらく、感情移入もしづらいかもしれませんが、どうにか形にするつもりです
ササコやムカデも不器用ですが、イシちゃんはそれ以上に不器用かもしれません。
いちいちチェックしないと更新されているかわからないのは面倒ですよね
投稿期限を決めるというのも考えましたが、期限を守れる気がしなくて……
見ての通り、あまり更新頻度は高くないので、ふと思い出したときにでも見に来てもらえればという感じになっておりますすみませぬこめんとありがとうございます