調査と言ったら聞き込みが基本。
何の知識だったか分からないが、ヤマバクは基本に従って調査を開始する。
と、言うわけでヤマバクはとりあえず目についたフレンズに片っ端から質問をしていく。
「ここら辺で怪しいものを見掛けませんでしたか?」
「変なもの見掛けませんでしたか?」
「怪しい影を見ませんでしたか?」
─────────────
数時間後……
「成果ゼロですか……」
何人ものフレンズに聞き込みを行ったが、ヤマバクは有力な手掛かりを手に入れることが出来なかった。
「平和過ぎですね。良いことなんでしょうけど」
ジャパリパークってもう少しバイオレンスだったような気がするなんて思いながらヤマバクは道を歩く。
辺りは既に夕焼け色に染まっている。
半分面倒臭くなってきたヤマバクは最後にもう一人だけ聞き込みを行って帰ろうと、
その辺にいるフレンズに質問をした。
「この辺でセルリアンを見掛けませんでしたか」
「……」
ヤマバクに聞かれたフレンズは困ったような顔をして首を傾げる。
これはダメそうですね……
内心そう思ったときにフレンズはヤマバクに取って衝撃的な事を口にした。
「“セルリアン”……って何?」
「は?」
「何かのキャラクター?」
ヤマバクは一瞬自分の耳がおかしくなったかと思ったが、
続けられた言葉を聞いて聞き間違いでないと確信した。
「な、何を……もう、冗談はよしてくださいよ。
セルリアンを知らないなんて世間知らずにも程がありますよ」
「え!? そんなに有名なの!?
もしかして、流行に乗り遅れた!?」
食い違ってる。
何か致命的な部分でヤマバクと大きく食い違ってる。
いや……
食い違っていたのは初めからだったかもしれない。
その致命的なズレに目眩が起こるような感覚を覚えながらも、
ヤマバクは目の前のフレンズに対して再度尋ねる。
「セルリアンは……フレンズを食べるんですよ?」
「フレンズを食べる? そんなのこの平和なジャパリパークにいるわけないじゃん」
「……」
言葉を失って立ち尽くすヤマバクを不審に思い、そのフレンズはヤマバクから立ち去って行った。
セルリアンがいない?
ヤマバクはそんな訳がないと首を振る。
セルリアンはフレンズになってから最初に教えられるフレンズ達の天敵だ。
ヤマバクだってフレンズになってからセルリアンに襲われた事は一度や二度ではない。
それはヤマバクだけでなく、ほぼ全てのフレンズが同じと言えるだろう。
ヤマバクが“知ってる”ジャパリパークでセルリアンを知らないフレンズはいない。
ならここは……
「ここは……この場所は……わたしの“知らない”ジャパリパーク……」
気付いた。
気付いてしまった。
気付かなかった方が良かったのに……
「帰らないと……わたしの“知ってる”ジャパリパークに!」
ヤマバクの視線の先にはジャパリパークで一番高いと言われている山がある。
探すのならば高いところから。
ヤマバクは“記憶と違う形をしている”山に向かって駆け出した。