虫喰いでないフレンズ
虫喰い
「俺はお前だけ来れば良かったんだ」
ドブネズミ
「みんながどうなってもいいっていうのか?今までわたしだけを直接襲わなかったのはそのためか?あのくそ暑いところではどう考えてもわたしごと葬ろうとしてただろ」
虫喰い
「そんなことがあったのか?砂漠には手を出していないから、野良のやつだろう。まあ、吹っ飛ばしてやったおかげでおまえは予定より早く来られたようなものなのだからな」
ドブネズミ
「それまで計算済みってか」
虫喰い
「ここまでの旅路の土産話は俺にはいらない。逆におまえに言いたいことがあってずっとここにいるんだ」
ドブネズミ
「なに?」
ドブネズミには、虫喰いの言葉は裏の意味を感じる危険なものにしか聞こえない。現に、セルリアンを利用しけしかけられた経験を何度も仲間とくぐり抜けている。
先ほどの虫喰いの言葉については、これまで一緒にセルリアンに対処してきたアフリカゾウとイエネコのことが邪魔だという内容でとらえて返答した。
ドブネズミ
「それは『邪魔なあの二人を片付けて俺とのコンビを組め』ってことか?そんなにフレンズを片付けたいとは、お前も最早セルリアンと同じに見えるな」
虫喰い
「なんでそうなる。イラ立ち過ぎだ。落ち着け。アフリカゾウにはそもそもこの会話は聞こえていない。そこの鳥のやつにもな」
ドブネズミ
「なっ………そ、それはまたおまえの新しい能力か」
虫喰い
「どうだろうな。じゃあ本題に入るが」
ドブネズミ
「そうだった」
虫喰い
「実はさっきのお前の偏見も、あながち間違いじゃあない。いくら非道に走ったとしても、フレンズを排除したりはしない。本当はお前がマイについて思ってるであろーことについて言うつもりだった」
ドブネズミ
「それはなんなんだ?あまり伸ばすとアフリカゾウが来ると思うがな」
虫喰い
「心配はいらない。そもそも『お前自身』の姿のこと、フレンズについての理解はどれくらいだ?セルリアンとの戦い続きで考えることはなかったんじゃないか?それが今からの話について重要なことだ。俺は研究所でフレンズのこともセルリアンのことも調べ尽くしてから脱出してきたから相当に詳しいつもりだ」
ドブネズミ
「『わたし自身』?」
虫喰い
「フレンズと呼ばれる存在についての基礎知識を、お前自身が理解しているかが、お前や俺を含めたこの島の未来を決める。
いいか?
フレンズはおおまかには『動物にサンドスターが反応して生まれる特殊な動物』なのはマイから聞いてると思う。
ここではお前の行動の理由を明かすために、少し入り組んだ話をする。
今いる生き物に似た別の生き物が少し前の時代にいるように、フレンズにも今いる者に似た別のフレンズが過去にもいる。
俺とお前のことをいう『ドブネズミ』のフレンズが、ちょっと前には『別のやつ』としていたということだ。
その『別のやつ』は『先代』と呼ぼうか。
この『先代』のことは研究所で聞いてると思ったが、何も知らないのか?」
ドブネズミ
「わたしはそんなこと聞いてないな、そんなことがあったとは。
で、それが言いたいことの全部か?」
虫喰い
「まだだ。
『先代』が一体『何があっていなくなったか』が焦点だ。
それは、『コノシマ・マイ』の企みが原因だという説が有力だということだ。
これを、一番お前に言いたかった。
セルリアンをけしかけてきたのもこのためだ」
コノシマ・マイという名を聞いたドブネズミは、その存在を初めて脅威として意識した。
名を本人が明かしたときは何を考えているかわからない、なんとなく怪しさがあるくらいにしか思わず、呼ばれて会いに行ったときも警戒せずに近づいた。
そのときはアフリカゾウが一緒にいて、なおかつそっちが本命の様子だったので気が引き締まらなかったのもあるが。
とにかく、ドブネズミはこの場で初めてマイを不気味に思った。
心当たりが一切ないのにも関わらず。
ドブネズミ
「………お前が、わたしに………言いたいことがなんとなくわかった気がする」
虫喰い
「そうだろう。
お前以外でなければ、俺は敵以外なんでもないやつで終わっている」
ドブネズミ
「お前は他のフレンズとはどこか違うように見えることを、より強く実感するようになったよ。イエネコが警戒するわけだ」
虫喰い
「なんとでも言ってもらっていい。
まあ、お前が心の中で整理がつくまで俺に聞きたいことでも言ってくれればいい」
ドブネズミ
「整理がつくまでか………。
なら、聞きたいことがある」
虫喰い
「いいだろう。何だ?」
ドブネズミ
「どうして、お前はわたしからは誰にも言っていない、思ってることを知っている?
お前とわたしはこの姿では初対面なんだが。老いた人間たちの棲家で別れて以来だろ」
虫喰い
「それか。大ざっぱに言えば直感からだ。
正確には記憶の共有、つまりお前が見たり聞いた物事が俺にボンヤリと流れてくるし、逆に俺の体験したこともお前はなんとなく知ってんだよ。
『この身体』特有の利点ってところだ。
それが、『先代』と『今の俺たち』にも成り立ってて、お前は『コノシマ・マイ』に不信感を持ってる。
つまり、理由はわからないが『先代』はマイに明確に敵意をもってたんだ」
ドブネズミ
「そうだったのか。
わたしのこのマイへの違和感は、過去の別のドブネズミがマイにムカついたことの延長なのか」
虫喰い
「そうだ。
俺に聞きたいことが他に無ければ外の奴らを迎えようか。
今話したことを伝えるかどうかはお前の好きにしていいが、俺からはなるべくやめておくことを薦める。
実感があるこの二人以外だとなにもわからなくて、ちょっと頭が混乱するだろう」
ドブネズミ
「そうか…………………」
ドブネズミは虫喰いの話を受けてやるべきことを見出しつつあったが、二人にこのことを話すのは、実感のないアフリカゾウとイエネコには掴みどころのない話だったと思いとどまった。
もしもそのままに話してしまうと、虫喰いと結託して敵対しているふりをしつつセルリアンに襲わせるよう仕向けていたと思われるのではないか、などといった想像を振り払っていると、イエネコとアフリカゾウが追いついてきた。
アフリカゾウ
「ちょっと!いきなり、飛び出しちゃって、何かあったらどうしようかと、思ったじゃん!」
ドブネズミ
「おお、ごめん。何のために虫喰いが今までこんなことをしてきたかどうしても知りたくてな。結果、やっぱり虫喰いはわたしたちの敵じゃなかったみたいだな」
イエネコ
「ずるいわ、ハヤブサに乗るなんて。ハヤブサはどこにいるの」
イエネコもアフリカゾウに続いて辿り着いた。ドブネズミだけを運んだハヤブサに贔屓の理由を聞こうとしているようだ。ハヤブサは、揺さぶってくるイエネコを面倒くさそうにふり払いながらも話し相手をした。
アフリカゾウは、虫喰いを警戒して不安そうにドブネズミの背後に隠れようとしていた。しかし、後ろに立って肩に両手を置くその行動は、背がドブネズミより低くないために、逆にドブネズミの強力な近距離パワータイプのスタンドに見えるようになってしまった。
ドブネズミは、アフリカゾウに虫喰いをすぐに攻撃する様子がないことを確認してからこの場にいる全員に聞こえるように呼びかけた。
ドブネズミ
「イエネコ、今は忙しいかもしれないがちょっと聞いてくれ。さっき、虫喰いから聞いた話をわたしはこの場で話しておくことにする。わたしは覚悟を決めた」
アフリカゾウ
「ほんと?」
ドブネズミは、つい先ほど虫喰いが話したこと【マイを倒す計画】をアフリカゾウとイエネコにも明かした。先代のドブネズミの件も余さず説明し、情報共有を進めた。イエネコは話が終わった直後、ハヤブサに興味をなくしドブネズミに迫った。
イエネコ
「あんた………そんな突拍子もない話信じるの?そりゃあ、私はあんたじゃあないからものの感じる程度が違うって知ってるわよ、けど。だけど………私自信の判断が一番信じられる。あんたがこれからしようとしてること、やっぱり止めなきゃならない。痛いのはちょっとだけだからおとなしくしなさい、ネズミたち」
ドブネズミ
「待て!わたしは虫喰いの話を信じてはいるが、本当にマイのことを狩ってやろうとしてると思われたら困る!」
イエネコ
「何それ?言い訳はふん縛ってから聞くわ」
虫喰い
「イエネコ………そうか。お前はあいつの家の者だったな」
イエネコ
「虫喰い!無駄なおしゃべりはよしなさい!」
ドブネズミ
「ああっ!話から聞いたこと信じるなら今の言葉も信じるもんじゃあねえのかッ!?お前こそ大人しくしろ!」
イエネコは、ネズミ二人のことが危ない企みをしているようにしか見えなくなっていた。アフリカゾウの力を持ってすればこの場を収めることは容易いが、その力はしばらくの間だけ沈黙することを選び、代わりに虫喰いに耳を傾けた。
アフリカゾウ
「虫喰い。今さっきなんて言った?私の耳が良いのは知ってると思ってたけど」
虫喰い
「ほう。あいつをここまで連れてきただけはあるな。さっき言おうとしたのはそこのネコのアニマルガールのことだが、俺の調べた情報が確かなら、あいつはマイが研究所に連れてきた飼い猫だ。しかも、俺やお前たちと違って、生きた動物がサンドスターによってヒト化している。唯一、奴の想定外の出来事」
アフリカゾウ
「ドブネズミちゃんのことは連れてきたわけじゃないんだけど………そうなんだね。それが関係してるの?ドブネズミちゃんのさっきの話のことは………」
虫喰い
「正直、それはわからない。奴に直に問い詰める以外に確認のしようがない。と、もういいだろう。俺はこれで失礼する。あのイエネコに捕まったら、俺のセルリアンでも逃げるのは難しそうだしな。お前たちは、また多くのセルリアンに出くわすだろうが、俺にはどうしようもない。頑張って、研究所までもどるんだ。調査に協力しているフリをしてな」
アフリカゾウ
「あ、どこ行くの?」
虫喰い
「使えそうなセルリアンをまた調達しに行く。各地の食料の在り処をお前たちのために残しといてやろう。じゃあな」
アフリカゾウ
「ま、まって!ちょっとしか……」
虫喰いは少しだけ離れると地中から現れたセルリアンの中に入り込み、地面の振動で探知できるアフリカゾウにも行方がわからなくなってしまった。
一瞬の出来事のため、アフリカゾウは何が起きたのかが頭中を駆け巡っていた。追いかけっこをしていたドブネズミとイエネコには、急に気配が消えたように感じられ、それまでのハチャメチャが嘘のように大人しくなった。
アフリカゾウ
「どこかに行っちゃった………虫喰い、ドブネズミちゃんに似てるからすんなり話しかけられたけど、やっぱりちょっと怖いな」
ハヤブサ
「そんなことないぞ。やつとはまだ縁を切らずに済みそうだ」
アフリカゾウ
「ハヤブサちゃん?大丈夫だった?」
ハヤブサ
「ああ。やつから仕事の依頼がきた。これでまた私の住処で待つ二人を安心させることができる。急がないと間に合わなさそうなんで、これでしばらくお別れだ」
未だネコとネズミの二人は虫喰い探しに没頭しているため、アフリカゾウだけが飛び立つハヤブサを見送ることができた。
アフリカゾウ
「まったく。あの二人の世話は大変だね。でも、それがいいんだよね」
旅の中では積極的に動き、ドブネズミとイエネコを見守ってきたアフリカゾウはハヤブサと自身を重ねて見ていた。
To Be Continued
3ヶ月以上更新が止まってましたが、ちびちびと書き連ねてここまで来ました。ようやく半分くらいの予定です。
絵を描くことでも『虫喰いでないフレンズ』を表現できることに気が付き、だんだん遅くなってきました。