続いた……!
「相変わらずすごいね、バケガサは」
客席に居た内の一人が声をかけると、バケガサと呼ばれた少女はニコッとはにかんでそれに答えた。
「えへへ、ありがとー。あ、そうだ!」
心底嬉しそうな少女はそう言って、大きく丸まった風呂敷を持ち上げる。
「みてみてー、今日はこんなに沢山貰っちゃった。一緒にたべよう、カラカサ」
それを聞いて、もう一人の少女は少し俯きがちに返事をする。
「いつもごめんなさい、あなたにばかり苦労させて……」
バケガサはお手玉等の曲芸をなんでも器用にこなす。
先程やってのけた傘回しは彼女の十八番のひとつだ。
しかしその一方で、バケガサとよく似た容姿を持つ少女、カラカサの方は何をやってもてんでダメだった。
申し訳なさそうに肩を竦める少女の口元は綺麗なへの字を描いている。
「いいんだよ、気にしないで。それにこれは僕が好きでやってる事だからね」
「でも……むぐっ?!」
バケガサは何を思ったのか、なにかを言いかけて口ごもる少女の口にジャパリまんを強引に突っ込んだ。
それも結構な勢いだったので二人して地面に倒れ込む。
「んっ……」
カラカサは咄嗟のことにびっくりして涙目になるが、そんなのお構いなしにジャパリまんの進行は止まらない。
馬乗りになって、更に奥へと押し込む。
「んーっ!んーー!」
窒息しまいと必死に口を動かす。
モグモグ
モグモグモグモグモグモグモグモグ!
ごくんっ
必死の抵抗によってなんとか窒息の危機を免れた少女は、肩で息をしながらこの過激なイタズラの犯人の顔を見上げる。
「どう?元気出た?」
そう言ってニコニコと微笑む顔は少しの邪気もなくて、責める気にはなれなかった。
「ありがとう、元気出たよ。でももうしないでね」
「え〜、楽しかったからまたしたいなー?」
「やめて」
────こうして彼女たちが飢えることなく生活出来ているのは、ここ『ジャパリパーク』の土地柄のおかげだった。
ここに棲む者達は皆とても個性的ではあったが、その誰もが同様に親切にしてくれた。
中でも初めて会った『フレンズ』は特にお人好しで、カラカサ達が空腹だと知るやいなや、無償で食べ物を恵んでくれた。
それはさすがに悪いと言ってカラカサが断る横で、バケガサが既に受け取ったじゃぱりまんを半分程平らげていて……。
それを見たカラカサはひどく青ざめていた。
まるでこの世の終わりかのような顔をして、「その……だ、大丈夫…?」などとバケガサに訊いている。
その時の彼女は、見ず知らずの人に貰った食べ物を食べたらお腹を壊したり、最悪死んでしまうことがあるかもしれないと本気で思っていたのだ。
連れの体調を案ずる少女にフレンズが言う。
ボスなる者がいて、フレンズ達に無尽蔵に食べ物を配り続けていると。
だから心配はいらないのだと。
「この子は大丈夫疑っちゃいけない」と小声で呪文のように繰り返していたカラカサも、これを聞いて安心……することはなかった。
そもそも彼女が心配しているのはバケガサのことであって、初対面の相手のことなどではない。
そんな恩知らずなことを咄嗟に思ってしまったことにひどく自己嫌悪する。
それから一瞬後、カラカサは即座に膝を折り手のひらを地面についた。
体を小さく畳んで謝罪の意を全身で表すそれは、世間で言うところの土下座というやつだ。
目の前のフレンズは本当に優しくて、害意があるようにはとても思えない。
そんな彼女や、フレンズ達が慕う存在を大した理由もなく疑うなんて自分はなんておこがましいのかと自責の念にかられたのは、自己評価が果てしなく低いカラカサには当然なことで……。
悪いと思った時にはすでに額を地面にこすりつけていた。
傘回しをバケガサの十八番とするなら、カラカサの十八番はこの土下座ということになる。
それは特技と言っても遜色ない程にまでに洗練された完璧なフォームだったが、その過剰な謝意がフレンズ達にそのまま伝わったことはこのときを含めて一度たりともなかった。
カラカサの過度な謝罪が相手の神経を逆撫ですることもあったが、それは過去の話。
現在ではもう彼女の特技が発揮されることは無くなった。
度重なる謝罪の果てに、フレンズ達に土下座禁止を言い渡されたのだ。
──だから今はバケガサが傘を回している。
謝れないなら代わりにお礼を言えばいいじゃないかとバケガサが言った。
最初はカラカサもそれがいい考えだと思っていたが、次第にお礼の言葉だけ言って済ませるのは悪いと思うようになっていった。
食料を貰えるのは本当にありがたいと思っていたし、彼女もそれがちゃんと伝わるように精一杯努力したつもりだ。
でも、気持ちを言葉だけで伝えることはあまりにも難しい。
カラカサは謝りたくて仕方がなかった。
土下座をして、申し訳ない気持ちをちゃんと伝えたかった。
だけど、土下座はしたらだめ。
その悶々とした心の内を洗いざらいバケガサに話すと、意外な答えが返ってきた。
彼女は感謝の気持ちを体で表現する方法があると言い、それをその場で実演して見せたのだ。
芸をしていたのはバケガサのフレンズだったのですね
謝ってもらいたくて、人助けをするわけじゃない ということですね☺
謝られるよりもお礼を言ってもらう方が嬉しいですからね✨
唐笠ちゃんはえらく疑心暗鬼ちゃん
唐傘ちゃんはネガティブ極めちゃってるちゃんなので……