本文7
カレント達はセルリアンの目撃証言のあった港町へ向かっていた。
山の斜面に作られたバイパスは道幅も広く走りやすい。開けはなされた窓から見上げた空は青く清み渡っていた。
カレント「いいか、トワ。稽古を付けてやるとは言ったがな、訓練で体得出来る事は限りなく少ない。」
カレントがバスを運転しながらトワに言った。
トワ「と言いますと?」
カレント「...訓練で得ることが出来るのは”技術”だけだ。むしろこれは人間の”強さ”の20%ほどにしかならない。」
カレントにそう言われて、トワは困惑した。カレントの言っている意味が分からなかった。努力だけでは強くれないと言う事だろうか?
トワ「じゃあ"強さ"とは...?どうすれば強くなれるんですか?」
カレント「そう答えを急ぐな。強くなるにはお前は何が必要だと思う?」
トワは少しだけ考えて答えた。
トワ「才能...ですか?」
するとカレントは苦笑しながら
カレント「才能だけで強くなれるなら誰も苦労しない。天才だ天才だと言われて落ちぶれていったヤツを俺はごまんと見てきた。」
トワ「では何が...」
カレント「ここだよ」
カレントはトワの胸をゴンとこずいた。
トワ「痛い!何ですか急に!?」
カレント「わからないか?そこには何がある?....おっと、胸筋だなんて言うなよ?」
トワは胸に手を当てた。暖かさと鼓動が手に伝わってくる。
トワ「・・・・・・こころ?」
カレント「そうだ。大切なのは"こころ"だ。自らの意思を貫ける精神力だ。」
トワ「精神力...」
カレント「精神力が無かったり、腐ったヤツはいくら技術があっても実力の30%も発揮出来ない。」
トワ「・・・・・・」
カレント「だが、逆に精神力があれば実力の150%を発揮することだって出来る。」
真剣に聞き入るトワにカレントは笑いかけた。
カレント「そしてお前にはそれは備わってる(最初会った時はそんな風に見えなかったが...)。お前は初めて撃つ銃で、見事セルリアンを撃ち抜いてみせた。お前に彼女達を救いたいと言う強い意思があったからだ。この時点でお前は十分強い。」
トワ「そんな...恐縮です..」
カレント「だがな、トワ。"こころ"も"強さ"のうち50%に過ぎない。技術のほかにもお前にはまだ足りない物がある。」
トワ「なんですか...?」
カレント「”強さ”の最後の要素、経験だ。」
トワ「経験...」
カレント「日本には"習うより慣れろ"と言う言葉がある。俺はこれを聞いたとき妙に納得したよ。その通りだ。」
トワ「・・・・・」
カレント「何故なら実戦の中でしか、直感は養えないからだ。それに実戦と訓練では空気がまるで違う。この空気に慣れておかないとパフォーマンスが十分に発揮出来ない。」
トワ「なるほど...」
カレントの口から滝の様に流れる言葉は、どれも重みと説得力があった。きっと今話してくれている事はカレント自信の"経験"なのだろう。
カレント「.....おっと。もうじき港に着くぞ。話はまた後だ。」
突然先程までと目つきの変わったカレントが言った。
トワ「え?あ!はい!ありがとうございました。勉強になりました。」
気が付くと峠に差し掛かっていた。この峠を下ればセルリアンの目撃証言のあった港町に着く。
本来ならカレントはこの港に着港するはずだった。
トワ「有力な情報が得られるといいんですが....」
カレント「・・・・・・・」
カレントはだんだん近づいてきた海を黙って眺めていた。
To be continued