ファンタジー系のコテハンSS
コテハン募集すんのめんどいから勝手に出演させていくわ
嫌なら嫌って言ってね
色付き文字
今より千年以上前、超大国みんポケ帝国が栄華を誇るザワザワ大陸の北方の海の上空に大きな穴が現れた。
その穴は人にとって超位生物たる魔人達が住まう“魔界”と呼ばれる世界と繋がっていた。
そして、魔界の全土を統べる魔人の王“魔王”。強欲なる魔王は、既に征服した魔界だけでなく魔界とつながったこの世界の土地をも欲した。彼の勅命により、魔人達はザワザワ大陸への侵攻をみんポケ帝国からの対話に応じるまでもなく開始した。
みんポケ帝国は魔人達の強大なる力を前になす術もなく、瞬く間にその国土の八割を魔王軍に奪われる。捕虜の発想を持たぬ魔人達は当然、侵攻した土地の人間を根こそぎ皆殺しにした。これにより、みんポケ帝国の人口は六割が損なわれた。
もはや、みんポケ帝国がこの状況を覆すことは叶わないと思われた。
しかし、希望はまだ失われていなかった。
“聖剣”。それはかつて、みんポケ帝国十代目の皇帝がその手に持ちその強大なる力をもって多国の軍勢を討ち滅ぼしザワザワ大陸を平定した魔導剣。
聖剣が
そして、帝国は逆転を図るべく企画を建てた。
それは“勇者候補育成計画”。
多岐に渡る様々な方法で、様々な人材を育成し勇者たりえる存在を生み出そうという計画である。
人々はまだ見ぬ勇者となる可能性を含んだ勇者候補達という最後の希望に想いを乗せ、ないかもしれない明日を生き続けた。
がんばれ~
雑貨屋の扱いよ
雑貨屋は当然のように聖剣で素振りをしているが、まだ勇者となった訳ではない。では、なぜ、国宝ともいえる聖剣を勇者候補に過ぎない雑貨屋が鍛練にとはいえ用いることを許されているかというのか。それは、勇者候補となった時点で既に聖剣を持ち運ぶ権限を与えられているからだ。
ならばそうなると、勇者候補間で取り合いが起こりようものだが、そうはならない。
聖剣には、勇者と認めた者以外が手に持つと、重力操作の魔法がオートで発動し重量が増加する機能がある。その重量は、急に上から大岩を手の上に落とされたと錯覚するほどである。最悪、地面と聖剣に指を挟まれて潰されることもありえる。
三百人いる勇者候補の中でも、この状態の聖剣を持ち上げることができる者は十人にも満たない。そのうち、マトモに剣として扱うことができる者は一人。そして、その選ばれた一人こそが雑貨屋である。
だが、雑貨屋は勇者候補の中でも腕力がある方ではあるが、大岩を持ち上げるほどの剛腕を持ち合わせてはいない。
そんな彼が聖剣を持ち上げることができることにも、ちゃんとしたカラクリがある。
剣身の内側に至るまで魔導刻印が刻まれ魔力を内包することで永続的に魔法の力が宿った剣を魔導剣という。
聖剣もまた、この魔道剣という種別に属す。聖剣は超常的な力をこそ宿すが、魔導剣というカテゴリーにおいては他の魔導剣と違うところはない。
そして、魔に属す剣の理を扱う術を魔法剣という。代表的な魔法剣というと、剣に魔法を付与し剣を通じてその魔法を自在に操る術などがある。
雑貨屋はこの魔法剣の才能に恵まれていたのだ。
魔法剣の扱いに長けた者は、剣に込められた魔法を操るという性質上、この魔導剣の扱いにおいても長けていた。
ゆえに雑貨屋はこの聖剣という強力な魔導剣を己の魔法剣の才能をもって、辛うじて制御しえたのである。
雑貨屋は、初め、浮遊魔法を聖剣に付与することで重量を軽減した上で、更に聖剣が魔導剣だということを活かして聖剣を僅かながら操作し聖剣の重量増加の権能の作用を弱めることで、やっと、聖剣を両手で持ってぶら下げることに成功した。
それ以降、雑貨屋は聖剣を使いこなすべく、筋力増強と魔法剣の上達を並行して目指し、死に物狂いで鍛練した。いずれは自分こそが勇者となる者だと信じて。
そして、最近になってようやく、聖剣を使っての剣術が様になってきたところである。
ほう
雑貨屋(そろそろ聖剣の扱いにも慣れてきた。実戦に移ってどれほど使えるかを試したいところだな。といっても、生憎、城の敷地外に聖剣を持ち出すことは禁じられている。しかし、聖剣の権能を使えれば、抜け道などいくらでも作ることは可能だ)
聖剣には様々な権能を秘めている。そして、そのどれもが強力である。
雑貨屋は聖剣の数ある権能のうちの一つを発動する。
すると、雑貨屋の目の前で、聖剣と瓜二つの剣が現れて地面に突き刺さる。
今、雑貨屋が発動した権能とは、聖剣の複製である。といっても、オリジナルとは違って、使える権能も限られる上に秘める力の大きさも劣る。だが、今回、雑貨屋はこれを戦闘用に用いるつもりはない。
自由に持ち出しが可とされている聖剣だが、流石に四六時中一人の勇者候補が独占することは許されていない。といっても、勇者にもなっていないのに聖剣を持ち出そうとしてる者など、雑貨屋くらいだが。ゆえに、聖剣は定時になると、聖剣を収めるための祭壇に戻さないといけない。
聖剣の番人「雑貨屋か」
雑貨屋「聖剣を戻しに来たぞ」
聖剣の番人「うむ」
雑貨屋は番人に頷き返すと、祭壇場に上がり、祭壇の中心にある縦長の穴に聖剣を突き立てた。
雑貨屋「じゃあ、いくぞ」
聖剣の番人「…………」
雑貨屋「…………」
番人の様子をチラリと横目で確かめてから、雑貨屋はその場を去った。
雑貨屋(ふっ。上手くいった。上手くいきすぎて思わずこの場でコサックダンスを始めてしまいそうだ!節穴の番人め、あれは偽物の聖剣だ!)
そう。彼は複製した聖剣をオリジナルと偽って祭壇に戻すことで、番人の目を欺いたのだ。聖剣を外に持ち出すために。
雑貨屋(しかし、時間制限が少々面倒だな)
聖剣の複製には、一つの弱点がある。それは、複製してから一日が経つと、複製した聖剣が消滅することだ。といっても、それは、雑貨屋が聖剣の力を引き出しきれていないからなのだが。勇者なら、これを永遠に維持することが可能だ。それでも、権能を発見した初期の雑貨屋は数分としかもたなかったから、これでも遥かに上達した方なのだが。
雑貨屋「持ち出すといっても使い物になるかどうかを確かめるだけだ。サクッと終わらせて帰ってくればいいだけのことよ」
雑貨屋は、自室に置いてきた聖剣を布に包み込んで持ち出すと、門番に外出のこと言って城を抜け出した。
雑貨屋は帝都を出ると、帝都の南にある森の中を半日程走った魔獣達が多く生息する森の深奥へと向かった。
深奥へ着いた雑貨屋は早速そこでアーミーグリズリーと呼ばれる魔獣と遭遇した。アーミーグリズリーとは、全長5mの巨体を持ち全身に鋼鉄並の硬度の甲殻をまとう熊型の魔獣である。魔獣は、そのどれもが人より強靭な肉体と能力を有する。ゆえに一般人が凶暴な魔獣と出くわせば、まず助かることはない。
しかし、人類最高峰の戦士達ばかりが集う勇者候補の一人である雑貨屋はその限りではない。雑貨屋ほどになれば、アーミーグリズリー程度は単独かつ片手間で駆除できる。
実際、慣れきらぬ聖剣という得物を用いながらも、雑貨屋はアーミーグリズリーを蹂躙していた。
ザシュッ ズパッ ブシュッ
雑貨屋「ふははははははははははははははははははははははははははは。流石は聖剣だ。圧倒的切れ味で、斬るのにまるで抵抗がないぞ」
雑貨屋は目にも止まらぬ速さで走り回ってアーミーグリズリーの目を撹乱しながら、すれ違う度にアーミーグリズリーの身体を聖剣で斬り裂いていく。
鎧熊「グオオアアアアアア」
身体中が傷だらけになった鎧熊は悲鳴ともとれそうな悲痛な慟哭をあげる。
怒り狂った鎧熊は、その剛腕を地面に叩き付けた。その衝撃で鎧熊の周囲の地面は、蜘蛛の巣状に砕ける。砕けたことで、所々の地面が隆起する。雑貨屋は急に隆起した地面に足をとられる。
雑貨屋「っ!」
雑貨屋「(やばい油断したぁ!!!)」
鎧熊はその隙を逃さず、雑貨屋へとボディタックルをしかける。
雑貨屋「(これは回避不可)」
雑貨屋「チッ」
タックルを避けるという選択肢を捨てた雑貨屋は、聖剣を地面を向くように下に構えた。そして、両手から片手に持ち返ると一瞬の動作でそれを振り上げた。
━━━魔法剣《飛燕斬》
すると、鎧熊は雑貨屋に触れることもなく、頭から尻まで縦に真っ二つとなって生き絶えた。
今、雑貨屋が繰り出したのは魔法剣の技の一つ。その内容は、風属性の魔力を剣に込めることで剣身に鋭い空気の刃をまとい、その状態の剣を振るうことで空気の刃を遠くの標的へ飛ばして当てるというもの。
《飛燕斬》は、鎧熊を切断するだけでは威力を殺しきれず、鎧熊の背後にあった岩や木々も真っ二つにしていた。
雑貨屋「クソめが」
雑貨屋「(……こんな雑魚相手に技を使ってしまうとは。僕も未熟という訳か)」
雑貨屋「まぁいい。聖剣を使った剣術の試運用は十分できた。もう少し遊ぶつもりだったが、興が削がれた。帰るとするか」
パキッ
雑貨屋がその場を去ろうとした瞬間、背後から木の枝が折れる乾いた音が響く。
雑貨屋「ん?」
雑貨屋「(この気配……。熊で遊ぶのに夢中になっていたから分からなかったが、人がいたのか……)」
雑貨屋「誰だ?」
すると、木の影から一人の少年が姿を現した。
アポかど「いや、あの、アーミーグリズリーのせいで身動きが取れなかったんだ。倒してくれてありがとう。俺はアポかどだ」
雑貨屋「ああ、この程度別に構わない。元々、助けるつもりもなかったからな。しかし、戦えそうもないのに何故こんなとこにいるんだ?」
若干咎めるような口調で雑貨屋はアポかどに問い質した。
アポかど「いや、この辺に生えてるらしいチヨウ草を探しにきたんだよなぁ」
チヨウ草とは、ある病の治療に用いられる薬草である。危険地帯である森の深奥にしか生えておらず希少なので、売買の際は高値で取引きをされる。
雑貨屋「なるほど。察するに、高価なチヨウ草を大量に採取して一攫千金を図ろうと?」
アポかど「そういうことだ!」
雑貨屋「で、ここらへんを徘徊する魔獣共にはどう対処するつもりだったんだ?」
アポかど「ぶっちゃけ、隠れてやり過ごしたりしてれば大丈夫かなぁって思ってた」
雑貨屋「アホかお前は」
楽観的なことを真顔で言うアポかどのアホ面を見ているうちに段々とイライラしてきた雑貨屋は、思わずグーでアポかどの頭を殴った。
アポかど「っっっ痛ぅ~。何すんだよぉ」
雑貨屋「お前は一般人のくせに魔獣を舐めすぎだ。というより、野生を舐めてる。流石の僕でも呆れたぞ……。常に弱肉強食の世界に身を置いている生き物が気配察知に長けていない訳がないだろが」
アポかど「いや、仰る通りです」
雑貨屋「なんかもっかい殴りてぇ」
アポかど「ひぃ~、ご勘弁をぉ~」
ムカついたからもう一度殴った。
アポかど「いてぇ」
雑貨屋「クズめ。たまたま僕が来て良かったな」
アポかど「いや、ほんとそれに関しては感謝してるよ」
雑貨屋「正直、城には早く帰りたいから、お前みたいなクズは放ってさっさと帰りたいものだが。僕も勇者候補の端くれだ。責任をもって連れ帰るとしよう」
アポかど「勇者候補。どおりで強い訳だ。ありがたいぜ。よろしく頼むな!」
雑貨屋「チッ。図々しいやつだ」
雑貨屋は、約束通りアポかどを連れ帰ると言ったが、同時に急いで城に帰る必要もあった。貧弱なアポかどのペースに合わせて帰っていたら、複製した聖剣が消滅してしまうのだ。
なので、アポかどを肩に背負いながら走ることで、その問題を解決した。
アポかど「少々お腹が苦しいけど、こいつは楽だな。得した気分だぜ」
雑貨屋「お前、男としてこの格好、少しはみっともないと思わないのかよ……」
アポかど「いや、全然」
雑貨屋「図太いやつめ……。ん?あれは……」
雑貨屋は視界の端に映ったある物に気付き、急に動きを止める。
アポかど「ぐえっ」
雑貨屋「魔人か……」
雑貨屋達より100mほど離れた先には、かつてヴォルフヘイム大陸へと侵入してケーニッヒ帝国を蹂躙した魔人、その一人がいた。
雑貨屋「ちょうどいい。忌々しい魔人め。今ここで俺が殺してやる」
今から魔人と戦う雑貨屋は、当然ながらアポかどを背負いながらというのは邪魔なので彼を下ろした。そして、未だに使いこなしきれていない聖剣を使って戦うことに少々不安があったので、聖剣も置いていくことにした。
雑貨屋は聖剣を、覆っていた布を解いて地面に深々と突き刺した。
雑貨屋「おい、お前はここでこの剣を見張りながら隠れていろ」
アポかど「お、おう」
雑貨屋「くくく。こんなところで魔人に会えるなんて。己の不運が愛らしい」
予備の剣を引き抜くと、雑貨屋は魔人に向けて疾走した。
魔人「ぬ?殺気━━」
雑貨屋「遅すぎるぞ、馬鹿め!」
ズパッ
魔人「くっ」
気配を消して魔人の背後に回って、ある程度離れた距離から放った《飛燕斬》は魔人の右腕に当たって切断した。
雑貨屋「チッ、外れたか」
本来、雑貨屋は首を切断するつもりで放ったのだが、相手の反応速度は予想よりも速く、間一髪身体をひねることで即死は避けられてしまった。結果的に、奇襲として、半分成功で半分失敗といったところか。
といっても、この程度はまだ雑貨屋も想定内なので、取り乱すことはない。
急に攻撃されて混乱しながらも、魔人はなんとか雑貨屋からの追撃に対処する。残った片手から、真っ直ぐにこちらに飛んできた雑貨屋に向けて魔力球を放つ。
雑貨屋は勢いを一切緩めずめず、体勢を低めることでそれを避ける。そして、二度目の《飛燕斬》を放った。
背中から翼を生やし、飛行の体勢になっていた魔人は上に飛び上がることでそれを避ける。
魔人の翼は、通常の鳥が持つ翼とは違い滑空ではなく風属性の魔力で風を直接操ることで飛行する。なので、その飛行は自在であり、鳥より速い。
飛び上がった魔人は、雑貨屋を踏み潰すべく真上から急降下する。
それを雑貨屋は横に跳躍することで避ける。魔人の踏みつけをくらった地面が砕け散る。食らえばひとたまりもないだろう。
再び飛び上がった魔人は、再度の踏みつけ攻撃を雑貨屋に繰り出した。
継続的にくる魔人からの踏みつけ攻撃を避け続ける雑貨屋。怒涛の連撃に反撃する余地すらない。しかし、最初は紙一重の回避だったが、攻撃を見切り始めた雑貨屋は次第に余裕をもって回避するようになる。
そして、完全に攻撃を見切った雑貨屋は、魔人の攻撃に合わせてカウンターを決める。降ってきた魔人に対して、雑貨屋自身も跳び上がってすれ違い様に魔人に斬撃を浴びせたのだ。雑貨屋のカウンターによって、魔人は残ったもう片方の腕と片翼を切断される。
魔人「……人間ごときがぁ!」
魔人は口ではそう言ったが、目の前の人間に勝つことは不可能だと考え、撤退することを決める。
魔人は地面に着地すると同時に背を向けて駆け出した。
雑貨屋「ふはは、逃げろ逃げろォ!」
あれほどのダメージを与えたのだ。逃がす訳がない。
雑貨屋「ん?」
だが、雑貨屋はあることに気付く
雑貨屋「……あっちの方向はまずいなぁ」
魔人が惨めに逃げ出す姿に愉悦を抱くのも一瞬。一転して雑貨屋の心境は焦りへと変わる。
魔人が逃げた方向は、アポかどがいる方向であった。
雑貨屋も急いで駆け出した。
雑貨屋はなんとかして魔人に追い付こうとするが、魔人の方が身体能力は高く、結局、距離を詰めることはできなかった。
とうとうアポかどがいる地点に魔人が到達しようとした瞬間、唐突にそこ一帯が光に包まれる。
次の瞬間、天に届くほど巨大な光の柱が弾けるようにして現れた。
雑貨屋「は?」
光の柱は現れたことで、森一帯に眩いばかりの光と激しい衝撃が突き抜けていく。それに対して、雑貨屋は目を塞いで、ただ踏ん張ることしかできなかった。
やがて、時間が経つと、光の柱は霧散するように消滅していった。
光の柱が消えた跡には、森に穴を開けるように広い更地が広がっていた。
アポかどは、更地の中心に聖剣を片手に立ち尽くしていた。
~雑貨屋の回想・終了~
聖剣はアポかどと一体化しているらしく、雑貨屋が無理矢理手放させようとしても、霧散するように無数の光に粒に分かれてアポかどの体内に消えてしまった。
結局、雑貨屋は聖剣を取り戻すことができなかった。
雑貨屋「…………」ボケー
アポかど「おい……。おいって。お前の大切なもの取っちゃったの悪かったって。でもあのときはしょうがなかったんだよ。いきなり魔人がこっちに向かってきたから咄嗟に近くにあったあの剣を手に取るしかなかったんだよ」
雑貨屋「…………」ボケー
アポかどは、ショックで放心し続ける雑貨屋と一緒にいるのが気まずすぎて参っていた。かれこれ二時間はこんな状態である。
そんな中、ようやく雑貨屋が口を開いた。
雑貨屋「……お前」
アポかど「ん?」
雑貨屋「さっきの光、どうやって出したんだ?」
アポかど「どうやってって言われてもなぁ……。なんとなく思いっきりあの剣を振り回したら出たとしか……」
雑貨屋「なんとなく、か……。僕が聖剣の権能を使うときは繊細な魔力コントロールを要するというのに、なんとなくで、しかも権能の中でも難易度の高い《聖覇斬》を出すことができるというのか……。それも、あんな巨塔と見紛うような巨大な光を……。所詮、僕の力は勇者の模倣でしかなかったのか……。どおりで聖剣はいつまで経っても僕を認めてくれない訳だ……。くは、ははは」
アポかど「……いや、ほんと申し訳ないとは思ってるんだって」
いきなり自虐し始める雑貨屋に居たたまれなくなるアポかど。
あげ
なんだただの勇者か
いい話だった
雑貨屋「……なあ、死んでくれないか?」
アポかど「は?」
あまりにと突拍子のないことを言われて、アポかどは雑貨屋が口にした言葉を半ば理解できず困惑する。
アポかど「いや、死ぬ訳ないじゃん」
雑貨屋「だよな。じゃあ、力づく……。人殺しになっちゃうなぁ。嫌だなぁ」
アポかど「何……言ってんだよ……」
次の瞬間、アポかどの掌から聖剣が光の奔流と共に現れる。そして、アポかどの身体は彼の意識を離れて、勝手に現れた聖剣を両手で強く握り締めて、鋭い動きで背後へとそれを振り回した。
綺麗な一文字の剣閃を描く筈であった凪ぎ払いは途中で何かとぶつかり、その軌道を止められる。聖剣を止めた物の正体は、雑貨屋が手に持つ真剣であった。
アポかどは困惑する。身体が勝手に動いたこと。今この瞬間の直前まで自分の正面にいた雑貨屋が、いつのまにか背後にいて、なぜか剣を抜いて自分の聖剣とつば競り合っているという状況。訳がわからなかった。
雑貨屋「やはり発動したか。使い手に命の危機が迫った場合、聖剣が使い手の身体を操作して自動で防御の姿勢を取らせる権能……」
アポかど「なんだよそれ……。命の危機って……」
雑貨屋「なるほど。権能を把握しきれていない今がチャンスという訳だな」
アポかど「おい待てよ」
アポかどの狼狽をよそに、雑貨屋の姿が視界が消える。
それと同じくして、再びアポかどの意識とは関係なく身体が勝手に動く。
アポかど「(まただ……!)」
いつのまにかアポかどの背後に回っていた雑貨屋からの攻撃を、聖剣が迎撃する。
剣と剣がぶつかり合う衝撃で アポかどの全身の骨が軋む。
アポかど「ぐぅ……っ」
雑貨屋「この動き、皇室式剣術か。それも、かなり高度な技量だ。十代目皇帝の剣術が聖剣にインプットされてるのか……?」
淡々と考察をブツブツと口にする雑貨屋。
混乱し続けるアポかどに対して、雑貨屋は目の前の敵を殺すための算段をただ冷徹に組み立てていた。
雑貨屋「このガードを抜けるのは少々面倒くさいな……。しょうがない」
雑貨屋は、つば競り合っている最中であるのにも関わらず、力ませていた身体を脱力させた。
それによって、押し合っていた力の片方がなくなったことで均衡が崩れ、この瞬間まで雑貨屋の剣を押し退けようと踏ん張っていたアポかどの身体の体勢が前のめりに崩される。
アポかど「うあっ……」
雑貨屋「フンッ」
━━━はかしこ流剣術《勁剣撃》
次の瞬間、アポかどの全身に激痛が走る。全身の肉という肉が破裂し、骨という骨が砕けた。
今アポかどに起こったことは、雑貨屋が繰り出した剣技によるものである。
これは、敵とつば競り合った状態から全身の筋肉を弛緩させ、そこから瞬間的に最大まで筋肉を膨張させることで凄まじい衝撃を生み、その衝撃を接した状態にある己と敵の剣を通して敵に流し込むことで、敵の肉体を体内から破壊する技。アポかどの身体はこれによってズタズタにされたのだ。
アポかど「……っ……かはっ……」
全身から血飛沫が噴き、口からは大量の血が流れる。アポかどは一瞬の内に血塗れとなった。
雑貨屋「これでもまだ動かせられるのか……!」
しかし、それでも、雑貨屋が追撃で放った斬撃をアポかどが手に持つ聖剣は防いだ。
瀕死状態のアポかどの身体を酷使してでも 、聖剣はアポかどを守り続けていたのだ。
流石クズの雑貨屋だぜ!
しえん
雑貨屋「(だが、奴の身体は最早虫の息。このまま攻め続けていたらいずれ力尽きる)」
それから雑貨屋は、一撃一撃に威力を込め、かつ、豪雨のような怒濤の連撃をアポかどへと叩き込んだ。雑貨屋の剣を受ける度に、アポかどの身体は血が飛び散らせて辺りを塗らした。
そんな中であった。
アポかど「……酷い……やつだな……お前……。クックック」
雑貨屋「!」
ヒュンッ
雑貨屋は咄嗟に背後へと跳躍した。防御で手一杯だった筈のアポかどが反撃してきたからだ。
あまりに得体が知れなくて、つい下がってしまったのだ。
既に痛みと失血で気を失っていたアポかどが急に口を開いたことへの困惑もあったが、気絶してなお油断なくアポかどを洞察していた雑貨屋は豹変ともいえるようなアポかどの雰囲気の変化を察したのだ。
雑貨屋「お前……アポかどか?」
アポかど?「さあ……誰だろうな……私は……ゲホッゴホッ」
雑貨屋「これも聖剣の権能なのか。……まさか、聖剣そのものの意思か」
アポかど?「ああ、正解だ……。だが、……100点とは……言えない……」
雑貨屋「そうか。だが、そんなことどうでもいい。今ここでその肉体を死に追いやれば、僕はまたお前を使って勇者を目指せる。……勇者にでもならないとあのクソ女には届かないんだよ……!僕の元に戻れ!そして、僕をお前の持ち主だといい加減に認めろ!」
アポかど?「残念ながら……お前には無理だ……」
雑貨屋「そのボロボロの身体でも言えるか」
アポかど?「そおいう意味じゃあないんだけどなぁ……。まぁ、どの道、私を倒すことは出来ないんだけどな」
雑貨屋「っ!」
雑貨屋「(コイツ、何かする気だな!)」
雑貨屋「やらせるか!」
雑貨屋は渾身の踏み込みでアポかどへと斬撃を叩き込んだ。当然、聖剣はそれを受け止める。
流石にその一撃には耐えられなかったのか、アポかどの身体は仰向けになるように背後によろけた。
アポかど?「重い……な。……だが……」
━━━《完全回復》
アポかど?「よっと」
ドガッ
雑貨屋「ガッ」
雑貨屋の顎がしたたかにアポかどの爪先によって突き上げられる。背後に倒れる勢いを利用してアポかどが蹴りを放ったのだ。
アポかどは、そのまま地面に手を突いて、軽やかに倒立後転することで体勢を整えた。
対して、雑貨屋は頭を蹴り上げられたことで脳震盪を起こして気を失うが、アポかどに蹴られる寸前にそれに気付いて微妙に打点をずらしたことで瞬時に復活することができ、若干ぐらつきながらもその場に踏み留まる。
雑貨屋「なっ……!」
雑貨屋は戦慄する。
アポかどが最初に出会った頃と変わらない姿に戻っていたからだ。流血によって真っ赤に染まった筈の衣服は元の薄汚い黄土色に戻り、《勁剣撃》で身体中に負った致命傷は全てがなくなっていた。まるで、世界でアポかどだけ、時が戻ったかのように。そう錯覚するほどにアポかどは戻っていた。
アポかど?「驚いたろ。これが勇者の力だ。お前は確かに勤勉だが、ただの魔法剣では引き出せる権能は限られる。お前の行いは全て無駄だったんだ」
雑貨屋「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だぁ!!!人の心を持たない武器風情が滅茶苦茶なことを言うなぁ!!!!」
アポかど?「(それは間違ってるんだけどなぁ。まぁ、訂正する必要もないか)」
アポかど?「どうだ?まだ私と戦うのか、雑貨屋?」
俺は出さないでね
了解
雑貨屋「……いや、勝負は……やってみないとわからないんだ……」
聖剣の絶大な力を頭でようやく飲み込んだことにより、一周回って冷静になる雑貨屋。
雑貨屋は興奮して乱した気を深呼吸を繰り返すことで落ち着けると、厳しい顔つきをしながらも再び剣を構えた。今は何としても聖剣の奪取を優先したかった。ここで取り乱していても何も得られない。
アポかど?「勝てるつもり……というよりは勝たなきゃいけない、か。まぁ、お前がそこまで強迫観念に駆られる理由もわかるさ。お前の性格から考えれば、だけどな」
雑貨屋「お前に僕の何が解るというんだ……」
アポかど?「ああ、わかるさ。お前の掌を通して、お前の中の色々なものをみせてもらったよ。ほんとは今の俗世がどうなっているのかの情報収集をするだけのつもりだったんだが、……ついつい面白くて他のものも見てしまったよ」
雑貨屋「貴様ァ……!」
アポかど?「……ゆうれい、だったか」
雑貨屋「ッ!!!」
アポかど?「綺麗な子じゃないか。その上、お前に献身的だ。男にとってはこれほど理想的な女性はいない」
雑貨屋「そんな、訳がない……!」
アポかど?「ああ、そうだな。お前にとっては彼女は理想から程遠い。むしろ、疎ましかろう。故にお前は彼女を嫌う。その最たる理由、それはお前より優秀だから」
雑貨屋「ああ……そうだよ……っ」
雑貨屋は、ヤケクソ気味にアポかどの言葉に頷いた。もはや、それを否定したところで何の意味もないから。
雑貨屋にとって、彼女は女神だった。
可憐な容姿、雑貨屋にだけ優しくしてくれる一面を持ち、そして、あらゆることにおいての類い希なる優秀さ。
彼女は彼の憧れそのもの。もしかしたら、それは今でも変わらないのかもしれない。
かつての雑貨屋は、今のように強気な態度を取るような少年ではなかった。物事の覚えは悪く、体はひ弱で足はノロマ。少し動くだけでドジをやらかす程にどんくさかった。常に誰かに助けてもらい足を引っ張らないと生きていけない人間、それが彼だった。
そんな彼を守ってくれる存在こそがゆうれいという少女であった。
おら書くんだよあくしろ