雑貨屋「(だが、奴の身体は最早虫の息。このまま攻め続けていたらいずれ力尽きる)」
それから雑貨屋は、一撃一撃に威力を込め、かつ、豪雨のような怒濤の連撃をアポかどへと叩き込んだ。雑貨屋の剣を受ける度に、アポかどの身体は血が飛び散らせて辺りを塗らした。
そんな中であった。
アポかど「……酷い……やつだな……お前……。クックック」
雑貨屋「!」
ヒュンッ
雑貨屋は咄嗟に背後へと跳躍した。防御で手一杯だった筈のアポかどが反撃してきたからだ。
あまりに得体が知れなくて、つい下がってしまったのだ。
既に痛みと失血で気を失っていたアポかどが急に口を開いたことへの困惑もあったが、気絶してなお油断なくアポかどを洞察していた雑貨屋は豹変ともいえるようなアポかどの雰囲気の変化を察したのだ。
雑貨屋「お前……アポかどか?」
アポかど?「さあ……誰だろうな……私は……ゲホッゴホッ」
雑貨屋「これも聖剣の権能なのか。……まさか、聖剣そのものの意思か」
アポかど?「ああ、正解だ……。だが、……100点とは……言えない……」
雑貨屋「そうか。だが、そんなことどうでもいい。今ここでその肉体を死に追いやれば、僕はまたお前を使って勇者を目指せる。……勇者にでもならないとあのクソ女には届かないんだよ……!僕の元に戻れ!そして、僕をお前の持ち主だといい加減に認めろ!」
アポかど?「残念ながら……お前には無理だ……」
雑貨屋「そのボロボロの身体でも言えるか」
アポかど?「そおいう意味じゃあないんだけどなぁ……。まぁ、どの道、私を倒すことは出来ないんだけどな」
雑貨屋「っ!」
雑貨屋「(コイツ、何かする気だな!)」
雑貨屋「やらせるか!」
雑貨屋は渾身の踏み込みでアポかどへと斬撃を叩き込んだ。当然、聖剣はそれを受け止める。
流石にその一撃には耐えられなかったのか、アポかどの身体は仰向けになるように背後によろけた。
アポかど?「重い……な。……だが……」
━━━《完全回復》
アポかど?「よっと」
ドガッ
雑貨屋「ガッ」
雑貨屋の顎がしたたかにアポかどの爪先によって突き上げられる。背後に倒れる勢いを利用してアポかどが蹴りを放ったのだ。
アポかどは、そのまま地面に手を突いて、軽やかに倒立後転することで体勢を整えた。
対して、雑貨屋は頭を蹴り上げられたことで脳震盪を起こして気を失うが、アポかどに蹴られる寸前にそれに気付いて微妙に打点をずらしたことで瞬時に復活することができ、若干ぐらつきながらもその場に踏み留まる。
雑貨屋「なっ……!」
雑貨屋は戦慄する。
アポかどが最初に出会った頃と変わらない姿に戻っていたからだ。流血によって真っ赤に染まった筈の衣服は元の薄汚い黄土色に戻り、《勁剣撃》で身体中に負った致命傷は全てがなくなっていた。まるで、世界でアポかどだけ、時が戻ったかのように。そう錯覚するほどにアポかどは戻っていた。
アポかど?「驚いたろ。これが勇者の力だ。お前は確かに勤勉だが、ただの魔法剣では引き出せる権能は限られる。お前の行いは全て無駄だったんだ」
雑貨屋「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だぁ!!!人の心を持たない武器風情が滅茶苦茶なことを言うなぁ!!!!」
アポかど?「(それは間違ってるんだけどなぁ。まぁ、訂正する必要もないか)」
アポかど?「どうだ?まだ私と戦うのか、雑貨屋?」