雑貨屋「……なあ、死んでくれないか?」
アポかど「は?」
あまりにと突拍子のないことを言われて、アポかどは雑貨屋が口にした言葉を半ば理解できず困惑する。
アポかど「いや、死ぬ訳ないじゃん」
雑貨屋「だよな。じゃあ、力づく……。人殺しになっちゃうなぁ。嫌だなぁ」
アポかど「何……言ってんだよ……」
次の瞬間、アポかどの掌から聖剣が光の奔流と共に現れる。そして、アポかどの身体は彼の意識を離れて、勝手に現れた聖剣を両手で強く握り締めて、鋭い動きで背後へとそれを振り回した。
綺麗な一文字の剣閃を描く筈であった凪ぎ払いは途中で何かとぶつかり、その軌道を止められる。聖剣を止めた物の正体は、雑貨屋が手に持つ真剣であった。
アポかどは困惑する。身体が勝手に動いたこと。今この瞬間の直前まで自分の正面にいた雑貨屋が、いつのまにか背後にいて、なぜか剣を抜いて自分の聖剣とつば競り合っているという状況。訳がわからなかった。
雑貨屋「やはり発動したか。使い手に命の危機が迫った場合、聖剣が使い手の身体を操作して自動で防御の姿勢を取らせる権能……」
アポかど「なんだよそれ……。命の危機って……」
雑貨屋「なるほど。権能を把握しきれていない今がチャンスという訳だな」
アポかど「おい待てよ」
アポかどの狼狽をよそに、雑貨屋の姿が視界が消える。
それと同じくして、再びアポかどの意識とは関係なく身体が勝手に動く。
アポかど「(まただ……!)」
いつのまにかアポかどの背後に回っていた雑貨屋からの攻撃を、聖剣が迎撃する。
剣と剣がぶつかり合う衝撃で アポかどの全身の骨が軋む。
アポかど「ぐぅ……っ」
雑貨屋「この動き、皇室式剣術か。それも、かなり高度な技量だ。十代目皇帝の剣術が聖剣にインプットされてるのか……?」
淡々と考察をブツブツと口にする雑貨屋。
混乱し続けるアポかどに対して、雑貨屋は目の前の敵を殺すための算段をただ冷徹に組み立てていた。