雑貨屋「クソめが」
雑貨屋「(……こんな雑魚相手に技を使ってしまうとは。僕も未熟という訳か)」
雑貨屋「まぁいい。聖剣を使った剣術の試運用は十分できた。もう少し遊ぶつもりだったが、興が削がれた。帰るとするか」
パキッ
雑貨屋がその場を去ろうとした瞬間、背後から木の枝が折れる乾いた音が響く。
雑貨屋「ん?」
雑貨屋「(この気配……。熊で遊ぶのに夢中になっていたから分からなかったが、人がいたのか……)」
雑貨屋「誰だ?」
すると、木の影から一人の少年が姿を現した。
アポかど「いや、あの、アーミーグリズリーのせいで身動きが取れなかったんだ。倒してくれてありがとう。俺はアポかどだ」
雑貨屋「ああ、この程度別に構わない。元々、助けるつもりもなかったからな。しかし、戦えそうもないのに何故こんなとこにいるんだ?」
若干咎めるような口調で雑貨屋はアポかどに問い質した。
アポかど「いや、この辺に生えてるらしいチヨウ草を探しにきたんだよなぁ」
チヨウ草とは、ある病の治療に用いられる薬草である。危険地帯である森の深奥にしか生えておらず希少なので、売買の際は高値で取引きをされる。
雑貨屋「なるほど。察するに、高価なチヨウ草を大量に採取して一攫千金を図ろうと?」
アポかど「そういうことだ!」
雑貨屋「で、ここらへんを徘徊する魔獣共にはどう対処するつもりだったんだ?」
アポかど「ぶっちゃけ、隠れてやり過ごしたりしてれば大丈夫かなぁって思ってた」
雑貨屋「アホかお前は」
楽観的なことを真顔で言うアポかどのアホ面を見ているうちに段々とイライラしてきた雑貨屋は、思わずグーでアポかどの頭を殴った。
アポかど「っっっ痛ぅ~。何すんだよぉ」
雑貨屋「お前は一般人のくせに魔獣を舐めすぎだ。というより、野生を舐めてる。流石の僕でも呆れたぞ……。常に弱肉強食の世界に身を置いている生き物が気配察知に長けていない訳がないだろが」
アポかど「いや、仰る通りです」
雑貨屋「なんかもっかい殴りてぇ」
アポかど「ひぃ~、ご勘弁をぉ~」
ムカついたからもう一度殴った。
アポかど「いてぇ」
雑貨屋「クズめ。たまたま僕が来て良かったな」
アポかど「いや、ほんとそれに関しては感謝してるよ」
雑貨屋「正直、城には早く帰りたいから、お前みたいなクズは放ってさっさと帰りたいものだが。僕も勇者候補の端くれだ。責任をもって連れ帰るとしよう」
アポかど「勇者候補。どおりで強い訳だ。ありがたいぜ。よろしく頼むな!」
雑貨屋「チッ。図々しいやつだ」