雑貨屋は帝都を出ると、帝都の南にある森の中を半日程走った魔獣達が多く生息する森の深奥へと向かった。
深奥へ着いた雑貨屋は早速そこでアーミーグリズリーと呼ばれる魔獣と遭遇した。アーミーグリズリーとは、全長5mの巨体を持ち全身に鋼鉄並の硬度の甲殻をまとう熊型の魔獣である。魔獣は、そのどれもが人より強靭な肉体と能力を有する。ゆえに一般人が凶暴な魔獣と出くわせば、まず助かることはない。
しかし、人類最高峰の戦士達ばかりが集う勇者候補の一人である雑貨屋はその限りではない。雑貨屋ほどになれば、アーミーグリズリー程度は単独かつ片手間で駆除できる。
実際、慣れきらぬ聖剣という得物を用いながらも、雑貨屋はアーミーグリズリーを蹂躙していた。
ザシュッ ズパッ ブシュッ
雑貨屋「ふははははははははははははははははははははははははははは。流石は聖剣だ。圧倒的切れ味で、斬るのにまるで抵抗がないぞ」
雑貨屋は目にも止まらぬ速さで走り回ってアーミーグリズリーの目を撹乱しながら、すれ違う度にアーミーグリズリーの身体を聖剣で斬り裂いていく。
鎧熊「グオオアアアアアア」
身体中が傷だらけになった鎧熊は悲鳴ともとれそうな悲痛な慟哭をあげる。
怒り狂った鎧熊は、その剛腕を地面に叩き付けた。その衝撃で鎧熊の周囲の地面は、蜘蛛の巣状に砕ける。砕けたことで、所々の地面が隆起する。雑貨屋は急に隆起した地面に足をとられる。
雑貨屋「っ!」
雑貨屋「(やばい油断したぁ!!!)」
鎧熊はその隙を逃さず、雑貨屋へとボディタックルをしかける。
雑貨屋「(これは回避不可)」
雑貨屋「チッ」
タックルを避けるという選択肢を捨てた雑貨屋は、聖剣を地面を向くように下に構えた。そして、両手から片手に持ち返ると一瞬の動作でそれを振り上げた。
━━━魔法剣《飛燕斬》
すると、鎧熊は雑貨屋に触れることもなく、頭から尻まで縦に真っ二つとなって生き絶えた。
今、雑貨屋が繰り出したのは魔法剣の技の一つ。その内容は、風属性の魔力を剣に込めることで剣身に鋭い空気の刃をまとい、その状態の剣を振るうことで空気の刃を遠くの標的へ飛ばして当てるというもの。
《飛燕斬》は、鎧熊を切断するだけでは威力を殺しきれず、鎧熊の背後にあった岩や木々も真っ二つにしていた。