日研北海道地区 新べらクラブ掲示板

おめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします

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 少し書き込みが滞っておりましたが、体調面を含めて特段はなく、冬眠をば現在進行形真っ只中であります。
 さて、釣りに関しては「行っていないので、書き込みネタもない」といったことですからセンナキコトでありました。
 ただ、趣味の落語を少々書き溜めておりました。
 個人的には、西なら桂米朝、東なら古今亭志ん朝が好きな落語家であります。
 両人ともに故人ではありますが、素晴らしい芸と思っております。
 そうしたことで、落語を創作するときには、「今日は米朝で」とか「今日は志ん朝で」など故人ならではをいいことにで、勝手に思いを馳せております、どこかで彼らが「生きていたならばこんな風に演じたのでは」との不遜極まりない思い込みで書き綴っております。
 そうしたことで、実は本日日研の本部のホムペに掲載されたので、まるっとをこちらにも掲載させていただきます。
 へら鮒繋がりではあること、またオフシーズンの寂しい事情を埋めるためのなにがしとして、稚拙ですがお慰みになれば幸いです。
 以下に申し上げますが管理人的には志ん朝を意識しました、まあ江戸っ子弁ですから言わずもがなですが。
 出囃子の『老松』をチンドンシャンと奏でます・・・。

 え~っ、最近やっと落ち着きを見せてきてはおりますが、ひとっ頃は流行り病で随分と難儀をさせられました。
忌み言葉というんでしょうか、流行り病の名を具体的に申し上げるのさえ憚れようかといったほどに、まさにお口にマスクでありますれば、誠に残念ながらも時には尊い命さえ失うことになった方もいらっしゃいまして、昨今の落ち着きを取り戻してきた世の中を見渡しますと、ああ健康とは、日常とはなんとありがたいことかと切に思わされます。
 さて、病だ患ったは事ほど左様に大変な大事でありますが、ところがいくら健康自慢でも、おそらくは生涯で一度は掛かってしまう病患いがございます。
 都々逸に「あきらめました、どうあきらめた、あきらめきれぬと、あきらめた」なんてえのがありますな、「文明開化で規則が変わる、変わらないのは恋の道」なんてえのもあります、まあ恋の悩みに時代の今昔、洋の東西はないといったところでしょうか。
 時は令和に入りましたが、ここ北海道のとある街には、未だ人情深いお付き合いが存在する時代遅れの町がございます。

  熊:ご隠居
ご隠居:はいはい、おや熊さんどうなすった
  熊:あっしゃー女にもてたい
ご隠居:あいかわらずお前さんは話が早すぎて面喰らいますね、まあ世の中のお職人とはそうしたもんですが、お前さんはそれにしても早すぎですね
  熊:あっしゃー、まどるっこしいのが一番腹が立つんでい、この間も海苔屋のばばあが「あら熊さん相変わらず様子がいいねー、アタシがもう10年若かったら」なんてぬかしやがるんで、「やるかー、表へ出ろい」って言ってやったら、腰を抜かして地べたに座りしょんべんしやがってね
ご隠居:おいおい、威勢がいいのは結構だけど、おばあさんは熊さんあんたの男っぷりを褒めてくれたんじゃないかい
  熊:へっ、喧嘩を売ってきたんじゃねーんですかい?ってあの婆が10年若くっても60じゃねーかー、くそおー舐めやがって、ご隠居これから婆をとっちめに行ってき
ご隠居:これこれ、熊さんまあ落ち着きなさい、話の元は女にもてたいじゃなかったのかい
  熊:おっと、あの婆命拾いしたな、ご隠居そうなんですよ、中小路のトメ公ご隠居もご存じでやしょ
ご隠居:はいはい、左官のお職人のトメさんね
  熊:あのトメ公が、くっなんとあのトメ公がくーっ
ご隠居:まあまあ、お茶が入ったからお上がんなさい
  熊:おっと流石ご隠居気が利く、しかしこれまた随分と燗が付いてやすねー
ご隠居:おいおい日中からお茶ケはいけません、熊さんお茶ですよ
  熊:なんでい、随分とすっと出てきたと思ったら、茶柱もんかよ、ご隠居も相変わらず気が利かねーな―
ご隠居:おいおい随分だね、まあ落ち着いてゆっくりとお話しなさい
  熊:けっ、茶菓子の一つも出さずに
ご隠居:熊さん、あたしだって暇なわけじゃーないんですよ、お前さんとは20年前ほどのよちよち歩きの赤子の時からの知り合いだし、なにより亡くなったお前さんのおとっつあんにはそりゃーお世話になったんです、だからあたしゃー実の子供だと思ってこれまで接してきたんですから
  熊:でやしょー、おやじが世話したんだから、まあ茶でも飲んでだまって聞きなさいよー
ご隠居:おいおい、うちが出したお茶ですよー、まあいいでしょでトメさんがどうかなさったんですか
  熊:と、トメ公っと、あんのやろう!ちょっとごめんなすって怒鳴り込んできやすから
ご隠居:熊さん、確か向こうは祝言の準備中ですよ、ヤボは立派なお職人のすることではないんじゃありませんか
  熊:祝言っと、ご隠居あんたが仕組んだんですかー、事によっちゃ許さねーぞー
ご隠居:仕組むとは人聞きが悪いですね、まあ取り持ったといったことなら、確か仲人は、左官の親方がなすってると聞きましたが
  熊:あの立派な親方ですかい、あんのやろう、流石にちょっと相手が悪すぎるが、いつかみてろ
ご隠居:人の祝い事に目くじらを立てるとは、熊さんお職人仲間のおめでたなんですから慶んで上げたらいいじゃありませんか
  熊:なにいってんでい、俺がもらえない嫁をあんのやろうが「お先に」っと貰ってやがるんですから、おらぁ許せねー
ご隠居:何ですか、それじゃーお前さんは、先を越されだけのことで、こうやって頭のてっぺんから湯気ですか
  熊:ご隠居、ご隠居だからあっしも穏便に話してやすが、そこいらの若いものならとうに張り倒してますぜ
ご隠居:おいおい、随分と物騒な話ですね、それじゃーお前さんは嫁さえもらえれば鞘に納めてくれるんですね
  熊:判ればいいんだよ、わかれば

 とまあ、短気を絵にかいたような熊さんですが、言い換えれば一本気、何かに夢中になるっていと、とことんまで突き詰めなけりゃおさまりが付かない性分です。これが仇になって飲む打つ買うにうつつを抜かすといったことにならない生真面目さも持ち合わせています。そうした生来の気性が仕事に向いたから腕が上がらないはずもなく、世間では熊に並ぶものなしとした評判の良い大工さんがもっぱらでありました。

ご隠居:ばあさん、熊が嫁が欲しいと言ってきましたよ
  嫁:あらまあ、そういえばそんな年頃になりましたかねー
ご隠居:あれの先代がなくなった年の15の時に、中川の親方のところに修業に入って、もう10年だから25になる
  嫁:お前さんが、間に入って親方に頼み込んでからもうそんなに経つんですねー
ご隠居:わたしも、熊の一本気の気性をああそれは大層心配しましたが、よくぞここまで立派なお職人になるとは
  嫁:本当にねー、ただあの性格ですからあっちこっちとぶつかりますわね、性根はまっすぐですから本当にもう少しだけ丸くなってくれたら
  嫁:そういえばお前さんの若い頃も大層短気でしたねー、所帯を持ったころは随分とあちこちでぶつかって、今の熊さんと瓜二つでしたね、それがあれを始めてからはすっかり角が取れて、今じゃ都々逸のお師匠さんと近所で慕われて、長じてあちこちから相談ごとを持ち込まれるようになったんですから、わからないもんですねー
ご隠居:おいおい、私の若いころといったってもう30年も前のことじゃありませんか、だいたい確かにあの頃は私だって多少は気性に荒さはあったかもしれませんが、熊ほどのことはありませんでした
  嫁:あらあら、私には熊さんよりも上等とお見受けいたしましたけど、あれを始めてからのお前さんは大層まあるくおなりになって、それが仕事にも生きる、私はそのころからのお前さんと一緒になって、周りからはそりゃー随分と心配されましたけど、「鬼が仏の裏返し」なんて言われるほどでおかげさまで私は大事にしてもらいました、ことによると、熊さんも短気の虫さえ治まればお前さんのような都々逸の一つも出るような、仏様になるかもしれませんねー
ご隠居:仏様?縁起でもねーや、様なんぞつけなさんな、兎に角、趣味で熊の気性の角をまあるくして嫁を持たせるってぃ算段だ
  嫁:あらあら、お前さん自身も大手を振って釣りに行けるんですから、私から見ると一石二鳥って算段が見え隠れ、「嫁を取らせるそのためだよと今朝もあなたは釣支度」ってなところでしょう

 とまあ楽屋裏のこうしたご内緒話があって、要は熊さんの短気を治めてそのための処方として、御隠居の趣味であるへら鮒釣りをしてもらうといった寸法になったのでありました。今のままの熊の性格では、何より折角もらっても上手くいかないことは明白です。
ご隠居の例に倣わば、今でこそすっかり角が取れてまあるくなったご隠居も、この趣味を始める前は喧嘩上等の荒くれものでしたので、性格をまあるくするのならとの手形の裏書は十分との算段でありました。
 
ご隠居:そいじゃな熊、お前は嫁が欲しいんだな
  熊:だから何度もそう言ってんじゃねーかー、早いとこ見繕ってくれよ
ご隠居:よしわかった、いいかそれじゃー嫁を貰うってのは、そこいらで駄菓子を買ってくるのとはわけが違う、当たるを幸いに斬り進むってなわけにはいかないんだ、お前の性根を入れ替えなくっちゃあことは進みません
  熊:なんでい、その性根を入れ替えるってのは
ご隠居:お前が中川の親方のところへ修行に入ったのは、今から10年前だ
  熊:古い話だねー
ご隠居:私がお前さんのおとっつあんの親代わりと、いやさ縁こそ結んではいないが心底父親として、中川の親方に頼んで出来た話だ
  熊:おう、古いうえに恩までおっ被せて、確かにご隠居はあっしの親父とは思ってやすがね、さてはこの先の話は十二単衣にあるだけ恩をおっ被せるって算段でやすか
ご隠居:一々話の腰を折らずに聞きなさい、あの時、天涯孤独のお前に言い聞かせたことがあったな
  熊:何でい
ご隠居:修業に際しては、どんなに意にそぐわない小言も、必ず全てお前の身になる、私を信じて、師匠や兄弟子の小言は全て親の言葉、私の言葉として「はい」の返事しかできないぞ、「親の小言となすびの花は千に一つの無駄もなし」、そう言ったな
  熊:おうよ、気に入らない兄弟子もいたけど、唇噛んでそのなすびの何とかをお題目にこれまでやってきたんでえい
ご隠居:どうだ、今まさに10年たってどこから小言が聞こえるか
  熊:そういやあ、5年目ぐらいからはとんとご無沙汰でやすねぇー
ご隠居:熊、今じゃその同じ小言をお前の弟弟子の三太や四之介に聞かせてないかい
  熊:そうなんですよ、あいつらときたら腕も上がっていねいのに生意気ばかりしやがって
ご隠居:熊、いまじゃーお前が筆頭だ、なすびが実をつけたんだよ
  熊:じゃ早速ぬか床に放り込んで
ご隠居:実の付けるまで10年だ、だけども熊お前さんが付けた実は大層大きい、世辞でもなく世間では熊に並ぶものなしと評判も上々です
  熊:よせやい、照れるじゃねーかー
ご隠居:そこは、まだまだと謙遜の一つも言うところですよ
  熊:そんなまどるっこしいことは言えねー、だって本当のことじゃねーかー
ご隠居:まあ確かにそうだが、まあいいでしょう
ご隠居:いいかい熊、今度は嫁取りです、あの10年前、修業に入るに際してのあの言葉をもう一度お前にあたしゃーいうよ、今後のなすびの実は趣味になります
  熊:趣味ですかい、嫁じゃなくってですかい
ご隠居:その趣味が必ず嫁にお前を導きます、というよりその趣味を始めることで嫁なんざーすぐに向こうからわさわさ束になって
  熊:それじゃー選るのがてーへんてなもんですが、本当にその趣味って野郎で、嫁が来ますかねー
ご隠居:来る
  熊:でその趣味って野郎には、いつ会えるんです
ご隠居:いやいや、会うんじゃなくって始めるんです
  熊:始めるってぃと、ご隠居の下手な都々逸みてーにチン・トン・シャンってな
ご隠居:下手なは余計ですが、まあそうしたもんです、私が週に二遍ほど朝から留守にすることは知ってますね」
  熊:まさかあれですかい
ご隠居:そうです、この先へら鮒釣りをお前さんにはしてもらいます
  熊:ご隠居、折角のお話ですが、この度は失礼いたしやした、この話はこれまでで、なかったこと、水にしていただきやしょう
ご隠居:嫁はいらんとな
  熊:いやそりゃー嫁は欲しいけど、御隠居のあれだけは勘弁してくれーなー、あんなのを始めるとあっしまで、喰えもしない魚を釣って、なんて脇に回って言われるんですから
ご隠居:そうかい、それじゃー生涯独り者で過ごすことになりますがいいんですね
  熊:よしてくださいな、ご隠居もう少し世間体の良い趣味ってやつはねーんですかい
ご隠居:ほう、世間体が悪い、脇に回って四の五の言われるそれが嫌ならば嫁などいらないと、あなたはおっしゃるのですかい
  熊:そう凄まれても、仏と評判のご隠居が、鬼に変わりなすったねどうも
ご隠居:そうさねあたしゃーこの趣味を四の五の言われるのは許せないね、したことがないヤツに言われてもまあ笑って済ませますが、熊お前まで、まあいいでしょう、そうかい、それなら無いことは無いで、私の持ち合わせの趣味と言ったらチン・トン・シャンになりますがそれでもいいんですね」
  熊:そりゃーあっしには余計無理だ、まいったなー、わかりやした、ご隠居、あっしにも聊かながら顔ってもんがあります、それを曲げてそのへら鮒釣りってやつをさせていただきやすが、嫁ができたらすっぱりと止めやすがいかがでやしょう
ご隠居:ああ勿論です、そのためにそれをするんですから、見事華燭の宴・高砂の暁にはあとは好きになさい
  熊「わかりやした、ついでで申し訳ありませんが、ついては道中は頬被りをさせていただきやすが
ご隠居:何でも好きになさい、早速明日の明け六つに私のところへいらっしゃい、段取りは全て私がしておきます、お前は身一つでいいからね
  熊:これまた早速ですね、身一つって言っても頬被りの手ぬぐいだけは持ってきやす
ご隠居:ああ勝手になさい、ってそうだな、身一つでと言っても腹も身の内だ、それとなばあさんに言ってお前さんの弁当も用意しておくからね
  熊:ありがてー、ばあおっとおかみさんの唐茄子のアベカワをお願いしてくださいまし、あっしゃーあれさえあれば
ご隠居:はいはい、お前は本当に唐茄子に目がないねー

カラスカーも未だの明け六つ、お職人はやはり時間には厳しいと見えて熊が雨戸をたたきます

 どんどんどん
  熊:ご隠居―嫁取りに来ましたよー
ご隠居:これこれ、ご近所に迷惑が掛かります、そこの木戸は空いてますからすっとお入りなさい
  熊:ばばぁじゃなくっておかみさん、唐茄子は
  嫁:はいはい、こっちの一回り大きなお重が熊さんのですからね
  熊:ありがてー、それじゃーまた今度
ご隠居:熊、嫁はどうする
  熊:おっと、そうだった、ご隠居早く嫁を取りにいきやしょう
ご隠居:全く、おい熊そっちの長細い鞄と四角い鞄を担いでくれ
  熊:あいよ、随分と重いねー、あっしの道具箱とそんなに変わらないですね
ご隠居:じゃばあさん行ってきますよ、熊何をしてるんです
  熊:ご隠居と一緒に出かけるところを、知り合いにでも見られるっていと、脇に回ってあんの野郎まで喰えもしねー魚をなんて四の五の・・・
ご隠居:熊、荷物を担いでその被り物なら盗人家業に見られますよ!
  熊:おっと、ちげーねー
  嫁:熊さん嫁さんが釣れるといいね

 ようよう東の空が白んでまいりました。
 朝の空気は凛として背筋を伸ばします。
 ご隠居と熊が辿り着いた先は、遊水境と看板のかかったところでございました。

  熊:ご隠居、随分と大勢が並んでやすが、皆嫁を取るために並んでいるんですかい
ご隠居:いやいや、ほとんどの人はもうとっくにご利益にあずかって、あれはいわばお礼参りみたいなもんです
  熊:へーぇー、おどろいたねどうも、あれだけの雁首に全部嫁があてがわれるっていことは、この神様てえかへら鮒釣りっていのは大層なご利益ですねー
ご隠居:熊、私たちの番ですよ早速入場しましょう、熊、そこの長い鞄の右側に私のお財布が入ってますからそこから二人分50円をだしてくださいな」
  熊:さすがにご利益のある神様だお賽銭もなかなかのもんですねー、ご隠居、で嫁はどこです
ご隠居:今日の明日はいくら何でも授かりませんよ、お参りでも百たび踏まねばならないのですから、兎に角私の横にお座りなさい、そのうち両隣に嫁が座ることになりますから
  熊:両隣って、ご隠居日本は一夫多妻ってわけにゃー
ご隠居:熊よ、選るんじゃなかったのかい
  熊:一人でも難儀しているのに、末は二人から選るんですかい
ご隠居:いやさ熊よ、両隣どころかお前さんの心がけ次第ではこの桟橋の端から端までを並べて選ることになるかもしれませんよ
  熊:くーっ、話半分にしてもご隠居たまりませんねー

 とまあ、熊さんは嫁を釣らんがそのために、ご隠居は大好きなへら鮒を釣るために、二人の釣りは桟橋を舟に見立てて呉越同舟で始まりました。
この日は一日の長でありますれば、ご隠居は次々と釣り上げますが、当然のこと如何にご隠居が丁寧に教えても熊さんにはへら鮒は中々釣れません。
西の空に日が隠れようかといったところで、漸く熊さんの竿が曲がりました。

管理人
作成: 2025/01/11 (土) 11:50:54
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