目が覚めたらなんか出来てた!!
コメント欄でゆ…っくり流していくよ!! 登場人物は例によってミバキャンのみんなだよ!! 実際の性格とかガン無視の崩壊モードなのはいつものことだけどご了承だぜ!!
※これは再放送です
――…私の声が聞こえますか…――
???「…今は何も聞きたくないな」
――いいから聞きやがれ焼き鳥にするぞ――
???「そんなに聞いてほしいか。ならば聞くぞ」
――あなたは今日、食を求めて外へ小さな旅に出るでしょう。その時困っている人がいたら積極的に助けてあげてください――
???「変な頼みだな。知らぬ者に手を差し伸べるなど。気は進まないが…出来る限り尽くそう」
――頼みましたよ…メレシスト――
その部屋は仄かに暗く、しかし感じるのはむしろ明るさで、雀の鳴く音が耳に入りながら、太陽のベールが目を覆った時、私は無意識にまぶたを開いた。
メル「………夢か…」
メル「…まるで…ファンタジーの始まりみたいだったな…」
メレシスト・ガントネル、それが私の名。けれど私を五文字で呼ぶ者は初対面ぐらいで、慣れ親しむ者からは「メル」と呼ばれている。
時計の針が縦に並ぶ時、私は立ち上がり、冷蔵庫から朝食を作って食べて1日が始まる。 だが規則性は完全にはあらず、例外というものは付き物だ。今日がその日である。
これの展開今でも覚えてるわ🤔
メル「………おいおい、食パンすらないのかよ」
食べ物がないなら調達するしかない。私は出かける支度をした。 しかしなんだろう、頭に何かよぎるものがあった。そしてそれはすぐに想起された。
メル「…助ける…か。」
この世界ではみんな自分のことばかり考えて、他人のことなど目もくれない。手伝いをしようとすれば笑われることすらもある。だが一応、一応だ。その程度の心持ちで人を助けると胸に刻み、屋根のない世界へ飛び立った。
ようやく見えた上は青色に染まっていた。まるで海のようだ。雲が魚に見える。あの雲はエビにも見えるな…。
…ああ、なんてばかなことをしたのだろう。寝ぼけたせいか、私は視てはいけない光も直に眺めて続けてしまっていた。
はっとした私はすぐに目線をおろした。立ちくらみがする。それでも、こちらにやってくるその姿ははっきりと認知できた。
???「おっ、おはよう!今日は早くない?」
彼女の名前はシャムシリア・ディエスーダ。やはりというか彼女をシャムシリアと呼ぶ者は少ない。
私は彼女をシャムと呼んでいた時期もあったが、出会ったばかりの頃の彼女はサ行の発音が苦手であったようで、名乗った際はちゃむちりあ・でぃえちゅーだと発してしまったために、多くの人は彼女を「ちゃむ」と呼び、私も次第にそう呼ぶようになった。彼女自身も気に入ってるようだから問題はないだろう。
メル「コンビニで朝食を買いに行こうと思ってな」
ちゃむ「ん…めずらしいな、コンビニで買い食いなんて。実はボクもジョギングついでに行こうと思ってたんだ。一緒に行かない?」
お互いどこのコンビニに行くかは一言も口にしなかったが、この近くにあるコンビニはひとつしかないので目的地は同じだろう。
私はうなずき、さっきまでふらついていた足を前へ前へと差し出し始めた。
しばらく歩いていると、隣の塀から何かが聞こえてきた。
「僕はネコじゃない!!」
そう叫ぶのはこの辺りでは有名な野良猫。名前はハルコ。 猫なのにヒトの言葉を話すがゆえに人気を集めているが、本人いわく昔はしゃべるネコなどたくさんいたとのこと。こいつは何年生きてるのだ。 いつも自分はネコではない、人間だと声を張り上げて言うので正直私はうるさくて苦手だ。
ちゃむ「なにを主張しようと、ネコである事実は変わらないのに」
なんて冷たいことを言うのだろう。確かにそれは揺るぎないことだが。コンビニに着いたらこいつも一緒にレンジであたためてもらおうかな。
歩みはさらに先へ。すると道の端に泣いている子供がいた。
???「おんびょー!!どべじゅびぼぼー!!んぶぁー!!びぃいぃいいいぃ!!」
つくづく幼子はどうしてあんなに大きな声で泣けるのだろうと疑問を抱くことがある。ただ泣いているということは何か困っていることがあるのだろう。
私は声をかけてみることにした。
メル「ねぇキミ、どうしたの?」
???「いっやぁキャンディをこんなかにおとしちゃったんすよぉ」
最近の子供はそんなしゃべり方をするのか。さっきまでの泣き声はどうした。
しかし側溝に落としてしまうとは、可哀想なものだな。
メル「そうだな…お姉さん達、今からお買い物に行くんだけど、キャンディも買ってきてあげるよ」
???「ほんと!?そいつぁ運がいいことだなぁ!」
ちょっとこいつの親の顔が見てみたくなった。
ボンレイ・ショロコッドと名乗るその子は我々とともにコンビニに向かうことになった。よくよく考えると知らない人について行ってはいけないと教育されてないのだろうかこの子は。
ボンレイ…そのままでもとても呼びやすい。だが彼は「しょぼん」と呼んでほしいと頼み込んできた。なるほど、名前の頭二文字と苗字の頭二文字を組み合わせたのか。…ぼんしょじゃないのか…。
私は子供が正直苦手だ。夢に言われたとはいえ、よく声をかけれたなと自分を心で賞賛している。幸い、道中のしょぼんの世話はちゃむがしている。
ちゃむ「魔法使い?」
しょぼん「うん!大人になったらすごい魔法を使えるようになって、色んな人の役に立てたいんだ!今はまだ左ポケットに入れたものを右ポケットに移す魔法しか使えないけど…」
見たところ8歳ぐらいだか、意外と立派な夢を持っているんだな。そしてその魔法は一体何に使えるんだ。手品でお金を儲けるくらいには使えるか。
…コンビニに着いた。「ハッピーシェルフ」という名のそれは、この辺りの人々のオアシスだ。
そしてその場所ではじめに見たのは地面に落ちている黒い横長の物体。こういう得体の知れないものは近寄りたがる者と拒む者のふたたつがあるが、コンビニの入口近くにあったがゆえにその選択さえ許してはくれなかった。
ちゃむ「……人だよね、アレ」
私がそれが一体何かようやく理解したと同時に彼女はそう言った。
メル「どうしてこんなところで倒れているのだろう…」
ちゃむ「まさか…声をかけるの?」
メル「馬鹿馬鹿しいかもしれないけど…夢でそう言われたんだ。私は…それに応えてみたい」
だが返る言葉は何も無い。まさに屍のようだ。 やれやれ、急に難易度が跳ね上がるとはな。私の嫌いなゲームのパターンだ。無論、人生はゲームのように上手くは行かないのはわかりきったことだが。あるいはこれは負けイベントとやらか。
その者の腕に指を当てていたしょぼんは 「この人、脈がないよ!!」 と叫ぶに対するちゃむは胸に手を当てて 「でも心臓は動いてるよ」 と告げる。よくわかったな。 あることをすれば生きながらにして脈を止める方法があるのだという。確か脇にゴムボールを挟むことだったか。 しかしまさかゴムボールを挟みながら道端で倒れるなど普通は考えられない。きっと他の原因で脈が止ま───挟んでる。ゴムボール挟んでる。リアルな死体ごっこでもしてるおつもりなのだろうか。
???「………なんだ……お前ら…」
低い声が空気に響いた。ようやくお目覚めのようだ。 突然響いて驚いたのだろう、しょぼんはさっと自らの手を引いた一方でお前はいつまで胸に手を当てているんだ。
メル「こんなところでなにをしているんですか?」
???「なに…してるわけでもない…ただ動けないだけだ…」
ちゃむ「どこか怪我してるの?」
しょぼん「けいさつよんでやるぞ!」
そこは救急車だろう…そう言おうとしたが、こんな黒服の男が自動ドアの前で倒れ込んでいる不審な光景を見たらあながち間違いでもない気がした。
???「……いや…ただ空腹なだけだ…。なぁ、 済まないが俺を店の横に移してくれないか……?こんなところに居ちゃあ邪魔だろ…?」
その要求に答えるならばノーマルエンド止まりだ。二周目が出来るならばそうしてみたいが、あいにく人生は一回限りだ。ならば目指してやるよトゥルーエンドを。
メル「それはできません。自分の足で動いてください」
???「できればそうしたいんだがな…空腹で動けねぇんだ……」
メル「なら満たせばいいのでしょう。こんな近くにコンビニがあるじゃないですか。何がお好みです?」
???「買ってきてくれるのか?だが俺に金は一文もないぞ……」
ちゃむ「お金も持たずにコンビニに足を運んだわけ?なにを考えたらこうなるのよ…」
メル「私が奢れば済む問題でしょう」
???「…!?お前…見ず知らずの人に奢るだと…?」
メル「お金ならいくらでもありますよ。お金持ちはお金のない人に恵むべきだと考えておりますから」
別にそんなことはない。ただ流れが自然になるように言っただけで本当はお金はそんなたくさんあるわけではない。付け加えた持論も、庶民的な私の富豪への願望にすぎないのだろう。
???「………かたじけない」
そして我々はようやく店内に入った。
リカ「らっしゃいませー」
この時間は友人のルリカケス・ドラフォガンがこのコンビニで仕事をしている。ここまで読めばどーせ気づくであろう、ルリカケスと呼ぶものは少なく、周りからはリカと呼ばれている。
さて、しょぼんが落としたというキャンディと同じものをカゴに入れ、あの男への食料を探すことにしたが、そういえば何が食べたいかを聞き出せていなかった。いや、私が心の中で独り言を言っているうちに聞き流してしまったのだろう。
メル「そういえば、あの人はなにを食べたがってたんだっけ?」
ちゃむ「なんでもいいけど、できれば米があるものがいいって言っていたよ」
米派か。なんでもいいならこのエビフライの入った弁当でいいか。 それにしても美味しそうだな。私もこれにしようか。どうやらこれで最後らしいし。
レジに向かおうとした時、隣から声が聞こえてきた。
???「あれー?エビフライどこー?」
???「ユミちゃんエビフライ食べたかったの?うーん…売り切れちゃったみたいだねぇ」
ユミ「残念だなぁ…。ここのおいしいのに」
どうやらとても好評らしい。是非とも食べてみたいものだ。しかし今まさに目の前に困っている人がいることにふと気付いた。
メル「あの、こちらお譲りしますよ」
ユミ「ええ!?いいんですか!?」
コンビニは近いところにある。またのちに買いに行けばいいのだ。
???「よかったねぇ…。あ、お姉さんありがとうございます」
メル「いえ、私は他でもよかったので」
私はこのとんかつ弁当でいいか。
レジで精算を済ませ、コンビニを出たのち、あの男にエビフライ弁当を渡した。 男はすぐに弁当を口にした。
???「う……うまい!初めてだ……こんなうまいものを食べたのは……!」
食材を火で焼くことを覚えた人類のような反応をしている。よほど美味しいのだなそれは。 ……まて、いま考えてみればこのとんかつ弁当の方を渡せば私がエビフライを食べれたじゃないか。まったく、私は本当に機転が効かないな。
???「こんなうまいものを買って頂いて本当に感謝している。どうか礼をさせてくれ」
男はそう言うと、左手で一冊の本を取り出してきた。一方右手でゴムボールをポケットにしまった。ほんとなんなんだそれ。
???「これは魔道書だ。俺が今までに編み出した魔法をここに書き出している。…といっても原本ではなく複製品だがな。販売もしているがとても高額で取引されている。あんたが魔法に興味がなかったとしても、金にはなるぜ」
魔法?こいつは魔法使いだったのか。…と思ったその時隣にいた未来の魔法使いは叫びだした。
しょぼん「もしかして!!大魔法使いのサヴァーカさんですか!?」
大魔法使い…?どうやら有名な人らしい。
サヴァーカ「大…ってほどでもねぇが…まぁそうだ」
しょぼん「ほ…ほんものだ…!!ぼくのあこがれなんです!!」
サヴァーカ「そ…そうか…うれしいよ」
その後、しょぼんはサインをもらったりしたのちに、我々はサヴァーカさんと別れてコンビニを後にした。
…金になる本…か。お金はほしい…が、これはもっと必要としている人がいるはずだ。
メル「ねぇ、これあげるよ。私にはいらないし」
しょぼん「いいの!?これ貴重なんだよ!!」
メル「あなたの将来のためにも、これはあなたが持つべきだよ」
未来の魔法使いしょぼんはとても喜んでいる。今回は困った人を助けたわけではないが…まぁこれはこれで清々しい気分になったしいいだろう。
ちゃむ「ほんとどうしちゃったのかなぁメル。いつもはインスタント焼きそばについてるお好みでかける七味すら分けてくれないくらいケチなのに」
こいつをレンジであたためてもらうのを忘れていた。
それに、今どきケチなのは私だけじゃない。みんながみんな自分のことしか考えていないのだ。自分のことで精一杯なのだ。今の社会というものは。
しょぼんは魔道書を読みながら歩いている。よほど興味深々なのだろう。 そう思っていた時、これまた有名な声が聞こえてきた。
「僕は人間だ!!人間と喋れるのだ!!これを人間と呼ばずしてなんと呼ぶ!!」
例のネコだ。どうしてそこまで人間に執着するのだろう。
ちゃむ「………ネコは最後までネコとして生きる。どんなに強い願望だったとしてもね…」
彼女はまた冷たいことを呟く。 だがその呟きは決して無駄ではなかった。
しょぼん「あのネコちゃん、人間になりたいの?」
呟いたちゃむに、無垢なる少年は問いかける。
ちゃむ「うん、いつも願ってるんだよ。むなしく叶わないと思うけど」
しょぼん「いや、叶えられるかもしれないよ!ここにあるもん!」
"ここ"と指差した先には魔道書のページ。みれば変化の魔法とある。
ちゃむ「…これで人間に変身させるの?…できる?」
しょぼん「この範囲ならぼくでもわかったよ!やってみるね!」
そういうのはまず適当な材から試すものだが、まぁ私もちゃむもあのネコのことだからと止めはしなかった。
……大したものだ。魔法は成功した。私は魔法のことはよく知らないから、変化の魔法とやらがどれほど難しいかは知らないが、いずれにせよ8歳ほどの子供がやり遂げたことに私は心の中で賞賛した。
元ネコ「…お…おおっ!?二本の脚で立っている!!毛がとても薄い!!指が細かく動く!!これが…人間…!!素晴らしい!!感謝するぞ少年!!」
その喜びは今私が想像してるものより計り知れないものだろう。私は無意識に拍手を送っていた。
ちゃむ「よかったじゃんハルコ」
元ネコ「否!!それはネコの名前である!!人間となった今では新たなる名を持つことにする!!」
いやネコである自覚はやはりあったのか。しかし心機一転に名前を変えるのは良い案だ。
メル「ハルコがネコの名なら、春の反対のアキがいいんじゃないか?」
ちゃむ「随分歳食ってるし、トシアキはどう?」
トシアキ「それだ!!それがいい!!今日から僕はトシアキだ!!」
随分と気に入ってくれたようだ。まぁ、とても人間らしい名前だからだろうか。ひとつ問題があるとすれば見た目女の子だからその名前はどうなのかと思うところなのだが。
トシアキ「真の人間にしてもらった上に素敵な名前もいただいて、礼をせずにはいられぬ!!しばし待たれよ!!」
そう言うと、トシアキは塀の内側へ降り、そして何かを持ってきた。…これは…金の延べ棒?3本も持ってきている。
トシアキ「それは純金でできた延べ棒である!!今僕が受けたこの幸せは、それらと同じくらい大きいものだ!!是非受け取ってほしい!!」
我々はそれを1本ずつ受け取ると、それではと言ってトシアキはまた塀の向こう側へ去って行った。 その近くの分かれ道で、私らとは別の道で家に帰るそうなので、しょぼんともまた別れた。
トシアキ「おーい真学(マナブ)〜!!」
真学「その声はハルコだな?」
ユミ「おかえりー!」
トシアキ「刮目せよ!!二本の脚で立つこの姿を!!」
ユミ「おー!見事にヒトの姿になってる!!」
トシアキ「魔法使いの少年に変えてもらったのだ!!ついでにトシアキという名も授けてもらったぞ!!」
真学「それはよかったじゃないか。こちらも良いことがあったよ。心の汚れたこの現代で、譲るということをしてくれた優しい人に出会ったんだ」
ちゃむとも別れ、私は自分の家で先ほど買った弁当を食べていた。
メル「………ふぅ、おいしかった。とんかつも悪くないものだな」
まだ午前しか経ってはいない。だがまるで一日まるごと使ったように長く感じた。新鮮なことをすると時間が長く感じるとはこういうことなのだろう。 それにひとに手を差し伸べたおかげで、私は魔道書より高くつきそうな純金まで手に入った。あまりにも上手くできた流れで正直怖い。 しかし、この現代で人を助けることをしたのは、この報酬に見合うものだったのだろう。
夢の中で語りかけてきたあの声は誰なのかは私には知り得ない。だが、きっとこの地球のどこかで少ないながらもいるのであろう、人が助け合う世界を望む人の念だったのかもしれない。
―END―
懐かしい
おつ
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???「変な頼みだな。知らぬ者に手を差し伸べるなど。気は進まないが…出来る限り尽くそう」
――頼みましたよ…メレシスト――
その部屋は仄かに暗く、しかし感じるのはむしろ明るさで、雀の鳴く音が耳に入りながら、太陽のベールが目を覆った時、私は無意識にまぶたを開いた。
メル「………夢か…」
メル「…まるで…ファンタジーの始まりみたいだったな…」
メレシスト・ガントネル、それが私の名。けれど私を五文字で呼ぶ者は初対面ぐらいで、慣れ親しむ者からは「メル」と呼ばれている。
時計の針が縦に並ぶ時、私は立ち上がり、冷蔵庫から朝食を作って食べて1日が始まる。
だが規則性は完全にはあらず、例外というものは付き物だ。今日がその日である。
これの展開今でも覚えてるわ🤔
メル「………おいおい、食パンすらないのかよ」
食べ物がないなら調達するしかない。私は出かける支度をした。
しかしなんだろう、頭に何かよぎるものがあった。そしてそれはすぐに想起された。
メル「…助ける…か。」
この世界ではみんな自分のことばかり考えて、他人のことなど目もくれない。手伝いをしようとすれば笑われることすらもある。だが一応、一応だ。その程度の心持ちで人を助けると胸に刻み、屋根のない世界へ飛び立った。
ようやく見えた上は青色に染まっていた。まるで海のようだ。雲が魚に見える。あの雲はエビにも見えるな…。
…ああ、なんてばかなことをしたのだろう。寝ぼけたせいか、私は視てはいけない光も直に眺めて続けてしまっていた。
はっとした私はすぐに目線をおろした。立ちくらみがする。それでも、こちらにやってくるその姿ははっきりと認知できた。
???「おっ、おはよう!今日は早くない?」
彼女の名前はシャムシリア・ディエスーダ。やはりというか彼女をシャムシリアと呼ぶ者は少ない。
私は彼女をシャムと呼んでいた時期もあったが、出会ったばかりの頃の彼女はサ行の発音が苦手であったようで、名乗った際はちゃむちりあ・でぃえちゅーだと発してしまったために、多くの人は彼女を「ちゃむ」と呼び、私も次第にそう呼ぶようになった。彼女自身も気に入ってるようだから問題はないだろう。
メル「コンビニで朝食を買いに行こうと思ってな」
ちゃむ「ん…めずらしいな、コンビニで買い食いなんて。実はボクもジョギングついでに行こうと思ってたんだ。一緒に行かない?」
お互いどこのコンビニに行くかは一言も口にしなかったが、この近くにあるコンビニはひとつしかないので目的地は同じだろう。
私はうなずき、さっきまでふらついていた足を前へ前へと差し出し始めた。
しばらく歩いていると、隣の塀から何かが聞こえてきた。
「僕はネコじゃない!!」
そう叫ぶのはこの辺りでは有名な野良猫。名前はハルコ。
猫なのにヒトの言葉を話すがゆえに人気を集めているが、本人いわく昔はしゃべるネコなどたくさんいたとのこと。こいつは何年生きてるのだ。
いつも自分はネコではない、人間だと声を張り上げて言うので正直私はうるさくて苦手だ。
ちゃむ「なにを主張しようと、ネコである事実は変わらないのに」
なんて冷たいことを言うのだろう。確かにそれは揺るぎないことだが。コンビニに着いたらこいつも一緒にレンジであたためてもらおうかな。
歩みはさらに先へ。すると道の端に泣いている子供がいた。
???「おんびょー!!どべじゅびぼぼー!!んぶぁー!!びぃいぃいいいぃ!!」
つくづく幼子はどうしてあんなに大きな声で泣けるのだろうと疑問を抱くことがある。ただ泣いているということは何か困っていることがあるのだろう。
私は声をかけてみることにした。
メル「ねぇキミ、どうしたの?」
???「いっやぁキャンディをこんなかにおとしちゃったんすよぉ」
最近の子供はそんなしゃべり方をするのか。さっきまでの泣き声はどうした。
しかし側溝に落としてしまうとは、可哀想なものだな。
メル「そうだな…お姉さん達、今からお買い物に行くんだけど、キャンディも買ってきてあげるよ」
???「ほんと!?そいつぁ運がいいことだなぁ!」
ちょっとこいつの親の顔が見てみたくなった。
ボンレイ・ショロコッドと名乗るその子は我々とともにコンビニに向かうことになった。よくよく考えると知らない人について行ってはいけないと教育されてないのだろうかこの子は。
ボンレイ…そのままでもとても呼びやすい。だが彼は「しょぼん」と呼んでほしいと頼み込んできた。なるほど、名前の頭二文字と苗字の頭二文字を組み合わせたのか。…ぼんしょじゃないのか…。
私は子供が正直苦手だ。夢に言われたとはいえ、よく声をかけれたなと自分を心で賞賛している。幸い、道中のしょぼんの世話はちゃむがしている。
ちゃむ「魔法使い?」
しょぼん「うん!大人になったらすごい魔法を使えるようになって、色んな人の役に立てたいんだ!今はまだ左ポケットに入れたものを右ポケットに移す魔法しか使えないけど…」
見たところ8歳ぐらいだか、意外と立派な夢を持っているんだな。そしてその魔法は一体何に使えるんだ。手品でお金を儲けるくらいには使えるか。
…コンビニに着いた。「ハッピーシェルフ」という名のそれは、この辺りの人々のオアシスだ。
そしてその場所ではじめに見たのは地面に落ちている黒い横長の物体。こういう得体の知れないものは近寄りたがる者と拒む者のふたたつがあるが、コンビニの入口近くにあったがゆえにその選択さえ許してはくれなかった。
ちゃむ「……人だよね、アレ」
私がそれが一体何かようやく理解したと同時に彼女はそう言った。
メル「どうしてこんなところで倒れているのだろう…」
ちゃむ「まさか…声をかけるの?」
メル「馬鹿馬鹿しいかもしれないけど…夢でそう言われたんだ。私は…それに応えてみたい」
だが返る言葉は何も無い。まさに屍のようだ。
やれやれ、急に難易度が跳ね上がるとはな。私の嫌いなゲームのパターンだ。無論、人生はゲームのように上手くは行かないのはわかりきったことだが。あるいはこれは負けイベントとやらか。
その者の腕に指を当てていたしょぼんは
「この人、脈がないよ!!」
と叫ぶに対するちゃむは胸に手を当てて
「でも心臓は動いてるよ」
と告げる。よくわかったな。
あることをすれば生きながらにして脈を止める方法があるのだという。確か脇にゴムボールを挟むことだったか。
しかしまさかゴムボールを挟みながら道端で倒れるなど普通は考えられない。きっと他の原因で脈が止ま───挟んでる。ゴムボール挟んでる。リアルな死体ごっこでもしてるおつもりなのだろうか。
???「………なんだ……お前ら…」
低い声が空気に響いた。ようやくお目覚めのようだ。
突然響いて驚いたのだろう、しょぼんはさっと自らの手を引いた一方でお前はいつまで胸に手を当てているんだ。
メル「こんなところでなにをしているんですか?」
???「なに…してるわけでもない…ただ動けないだけだ…」
ちゃむ「どこか怪我してるの?」
しょぼん「けいさつよんでやるぞ!」
そこは救急車だろう…そう言おうとしたが、こんな黒服の男が自動ドアの前で倒れ込んでいる不審な光景を見たらあながち間違いでもない気がした。
???「……いや…ただ空腹なだけだ…。なぁ、 済まないが俺を店の横に移してくれないか……?こんなところに居ちゃあ邪魔だろ…?」
その要求に答えるならばノーマルエンド止まりだ。二周目が出来るならばそうしてみたいが、あいにく人生は一回限りだ。ならば目指してやるよトゥルーエンドを。
メル「それはできません。自分の足で動いてください」
???「できればそうしたいんだがな…空腹で動けねぇんだ……」
メル「なら満たせばいいのでしょう。こんな近くにコンビニがあるじゃないですか。何がお好みです?」
???「買ってきてくれるのか?だが俺に金は一文もないぞ……」
ちゃむ「お金も持たずにコンビニに足を運んだわけ?なにを考えたらこうなるのよ…」
メル「私が奢れば済む問題でしょう」
???「…!?お前…見ず知らずの人に奢るだと…?」
メル「お金ならいくらでもありますよ。お金持ちはお金のない人に恵むべきだと考えておりますから」
別にそんなことはない。ただ流れが自然になるように言っただけで本当はお金はそんなたくさんあるわけではない。付け加えた持論も、庶民的な私の富豪への願望にすぎないのだろう。
???「………かたじけない」
そして我々はようやく店内に入った。
リカ「らっしゃいませー」
この時間は友人のルリカケス・ドラフォガンがこのコンビニで仕事をしている。ここまで読めばどーせ気づくであろう、ルリカケスと呼ぶものは少なく、周りからはリカと呼ばれている。
さて、しょぼんが落としたというキャンディと同じものをカゴに入れ、あの男への食料を探すことにしたが、そういえば何が食べたいかを聞き出せていなかった。いや、私が心の中で独り言を言っているうちに聞き流してしまったのだろう。
メル「そういえば、あの人はなにを食べたがってたんだっけ?」
ちゃむ「なんでもいいけど、できれば米があるものがいいって言っていたよ」
米派か。なんでもいいならこのエビフライの入った弁当でいいか。
それにしても美味しそうだな。私もこれにしようか。どうやらこれで最後らしいし。
レジに向かおうとした時、隣から声が聞こえてきた。
???「あれー?エビフライどこー?」
???「ユミちゃんエビフライ食べたかったの?うーん…売り切れちゃったみたいだねぇ」
ユミ「残念だなぁ…。ここのおいしいのに」
どうやらとても好評らしい。是非とも食べてみたいものだ。しかし今まさに目の前に困っている人がいることにふと気付いた。
メル「あの、こちらお譲りしますよ」
ユミ「ええ!?いいんですか!?」
コンビニは近いところにある。またのちに買いに行けばいいのだ。
???「よかったねぇ…。あ、お姉さんありがとうございます」
メル「いえ、私は他でもよかったので」
私はこのとんかつ弁当でいいか。
レジで精算を済ませ、コンビニを出たのち、あの男にエビフライ弁当を渡した。
男はすぐに弁当を口にした。
???「う……うまい!初めてだ……こんなうまいものを食べたのは……!」
食材を火で焼くことを覚えた人類のような反応をしている。よほど美味しいのだなそれは。
……まて、いま考えてみればこのとんかつ弁当の方を渡せば私がエビフライを食べれたじゃないか。まったく、私は本当に機転が効かないな。
???「こんなうまいものを買って頂いて本当に感謝している。どうか礼をさせてくれ」
男はそう言うと、左手で一冊の本を取り出してきた。一方右手でゴムボールをポケットにしまった。ほんとなんなんだそれ。
???「これは魔道書だ。俺が今までに編み出した魔法をここに書き出している。…といっても原本ではなく複製品だがな。販売もしているがとても高額で取引されている。あんたが魔法に興味がなかったとしても、金にはなるぜ」
魔法?こいつは魔法使いだったのか。…と思ったその時隣にいた未来の魔法使いは叫びだした。
しょぼん「もしかして!!大魔法使いのサヴァーカさんですか!?」
大魔法使い…?どうやら有名な人らしい。
サヴァーカ「大…ってほどでもねぇが…まぁそうだ」
しょぼん「ほ…ほんものだ…!!ぼくのあこがれなんです!!」
サヴァーカ「そ…そうか…うれしいよ」
その後、しょぼんはサインをもらったりしたのちに、我々はサヴァーカさんと別れてコンビニを後にした。
…金になる本…か。お金はほしい…が、これはもっと必要としている人がいるはずだ。
メル「ねぇ、これあげるよ。私にはいらないし」
しょぼん「いいの!?これ貴重なんだよ!!」
メル「あなたの将来のためにも、これはあなたが持つべきだよ」
未来の魔法使いしょぼんはとても喜んでいる。今回は困った人を助けたわけではないが…まぁこれはこれで清々しい気分になったしいいだろう。
ちゃむ「ほんとどうしちゃったのかなぁメル。いつもはインスタント焼きそばについてるお好みでかける七味すら分けてくれないくらいケチなのに」
こいつをレンジであたためてもらうのを忘れていた。
それに、今どきケチなのは私だけじゃない。みんながみんな自分のことしか考えていないのだ。自分のことで精一杯なのだ。今の社会というものは。
しょぼんは魔道書を読みながら歩いている。よほど興味深々なのだろう。
そう思っていた時、これまた有名な声が聞こえてきた。
「僕は人間だ!!人間と喋れるのだ!!これを人間と呼ばずしてなんと呼ぶ!!」
例のネコだ。どうしてそこまで人間に執着するのだろう。
ちゃむ「………ネコは最後までネコとして生きる。どんなに強い願望だったとしてもね…」
彼女はまた冷たいことを呟く。
だがその呟きは決して無駄ではなかった。
しょぼん「あのネコちゃん、人間になりたいの?」
呟いたちゃむに、無垢なる少年は問いかける。
ちゃむ「うん、いつも願ってるんだよ。むなしく叶わないと思うけど」
しょぼん「いや、叶えられるかもしれないよ!ここにあるもん!」
"ここ"と指差した先には魔道書のページ。みれば変化の魔法とある。
ちゃむ「…これで人間に変身させるの?…できる?」
しょぼん「この範囲ならぼくでもわかったよ!やってみるね!」
そういうのはまず適当な材から試すものだが、まぁ私もちゃむもあのネコのことだからと止めはしなかった。
……大したものだ。魔法は成功した。私は魔法のことはよく知らないから、変化の魔法とやらがどれほど難しいかは知らないが、いずれにせよ8歳ほどの子供がやり遂げたことに私は心の中で賞賛した。
元ネコ「…お…おおっ!?二本の脚で立っている!!毛がとても薄い!!指が細かく動く!!これが…人間…!!素晴らしい!!感謝するぞ少年!!」
その喜びは今私が想像してるものより計り知れないものだろう。私は無意識に拍手を送っていた。
ちゃむ「よかったじゃんハルコ」
元ネコ「否!!それはネコの名前である!!人間となった今では新たなる名を持つことにする!!」
いやネコである自覚はやはりあったのか。しかし心機一転に名前を変えるのは良い案だ。
メル「ハルコがネコの名なら、春の反対のアキがいいんじゃないか?」
ちゃむ「随分歳食ってるし、トシアキはどう?」
トシアキ「それだ!!それがいい!!今日から僕はトシアキだ!!」
随分と気に入ってくれたようだ。まぁ、とても人間らしい名前だからだろうか。ひとつ問題があるとすれば見た目女の子だからその名前はどうなのかと思うところなのだが。
トシアキ「真の人間にしてもらった上に素敵な名前もいただいて、礼をせずにはいられぬ!!しばし待たれよ!!」
そう言うと、トシアキは塀の内側へ降り、そして何かを持ってきた。…これは…金の延べ棒?3本も持ってきている。
トシアキ「それは純金でできた延べ棒である!!今僕が受けたこの幸せは、それらと同じくらい大きいものだ!!是非受け取ってほしい!!」
我々はそれを1本ずつ受け取ると、それではと言ってトシアキはまた塀の向こう側へ去って行った。
その近くの分かれ道で、私らとは別の道で家に帰るそうなので、しょぼんともまた別れた。
トシアキ「おーい真学(マナブ)〜!!」
真学「その声はハルコだな?」
ユミ「おかえりー!」
トシアキ「刮目せよ!!二本の脚で立つこの姿を!!」
ユミ「おー!見事にヒトの姿になってる!!」
トシアキ「魔法使いの少年に変えてもらったのだ!!ついでにトシアキという名も授けてもらったぞ!!」
真学「それはよかったじゃないか。こちらも良いことがあったよ。心の汚れたこの現代で、譲るということをしてくれた優しい人に出会ったんだ」
ちゃむとも別れ、私は自分の家で先ほど買った弁当を食べていた。
メル「………ふぅ、おいしかった。とんかつも悪くないものだな」
まだ午前しか経ってはいない。だがまるで一日まるごと使ったように長く感じた。新鮮なことをすると時間が長く感じるとはこういうことなのだろう。
それにひとに手を差し伸べたおかげで、私は魔道書より高くつきそうな純金まで手に入った。あまりにも上手くできた流れで正直怖い。
しかし、この現代で人を助けることをしたのは、この報酬に見合うものだったのだろう。
夢の中で語りかけてきたあの声は誰なのかは私には知り得ない。だが、きっとこの地球のどこかで少ないながらもいるのであろう、人が助け合う世界を望む人の念だったのかもしれない。
―END―
懐かしい
おつ