野球との関わり(6年生・正規チーム編・その5)
昼休憩、僕はX君を質問攻めにした。
X君の父親はプロではなかったものの、かつては実業団か何かの選手だったらしい。
それでX君も幼少期から、父親からみっちりと野球を仕込まれて育った・・とのことだった。
そして小学3年頃からはチームに入り、本格的に始めたというのだが、
質問すればするほどに、僕らとはまったく違う環境で彼が野球をしてきたことを知らされることとなった。
X君は転校してくる直前まで、リトルリーグに所属していた。
「リトルリーガー!」
今でいうところの、まるで「メジャーリーガー」のような響きとして、当時の僕らの耳には聞こえた。
僕らの住んでる地域にリトルリーグのチームは無かった。
もちろん、親がクルマで送り迎えしてくれるほど熱心であれば、どこかのチームには入れたのかもしれない。
しかし僕らの地元は「ザ・下町」で、当時の親たちは子供たちなんて放ったらかし・・みたいな環境だった。
親がかりで野球に取り組むなんて想像もできなかったし、
たとえばEチームの親たちも、誰ひとり、たったの一度ですら試合の応援に来ることはなかった。
僕「すごいね!硬球でやってたんだ!リトルリーグなんて漫画でしか知らない世界だよ」
X君「前の家がたまたまチームに近かっただけだよw」
僕「練習とか、やっぱりキツいの?」
X君「キツかったよー。すごい厳しかった」
僕「じゃあさ、この前俺らの練習の見学に来てたけど、遊んでるようにしか見えなかったんじゃない?」
X君「いやいやww 普通に楽しそうでいいなー、って思ったよ」
僕が質問攻めにしてると、そこへキャプテンのK君も加わってきた。
K君「さっき監督に聞かされたんだけど、X君、5年生のときからショートのレギュラーだったんだぜー」
僕「マジか!リトルリーグで5年生からレギュラー?それハンパじゃないよ!」
K君「しかも、ピッチャーもキャッチャーもやってたらしいよ」
X君「いやいやw やってたは大げさ。ほんの少しだけやらされることもあった程度だから」
僕「スゴイな~。なんでEチームなんかに入ってきちゃったの?もったいないよ!せめてVチームに入れば良かったのに・・」
そんな感じの話をしていると、監督が僕らのところにやって来た。
監督「今日の午後の練習試合なんだけどさー、X君、どこのポジションで出る?」
X君「どこでも。空いてるところがあれば」
僕「いやいや、ショートで出なよ!本職でしょ?」
監督「じゃあお前、セカンドでいいの?」
僕「もちろん、もちろん!」
監督「じゃあX君は1番ショートな。あとリリーフで投げてもらうと思うから、軽く投球練習しといてね」
そんな訳で、この日の練習試合は1番ショートX君、2番セカンド僕という形で挑み、
以降も「1番ショート」の座を約束されていたはずの僕は、その席をそっくりそのままX君に譲る格好となった。
また、彼が上手いのは守備だけじゃなかった。
打っては鋭いライナー性の安打を量産し、投げては小気味よくキレッキレ!
本人は「ピッチャーはやらされたことがあった程度」と謙遜してたものの、僕らから見たら十分すぎる力量だった。
こうしてEチームは、K君のワンマンチームから、K君&X君の二大看板チームへと生まれ変わり、
いよいよ新チームとして始動することになるのであった。
(つづく・・。次回、最後の救世主「落ちこぼれ君」現る)