野球との関わり(6年生・正規チーム編・その3)
もうすぐ新6年生として一学期を迎えようとしていた春休み。
僕らEチームはいつものように、ランニング、キャッチボール、守備練習といったルーティンをこなしていた。
するとグラウンドに、見慣れない少年が父親とおぼしき人に連れられて姿を現した。
ちょっとダサめの私服を着た少年はグラウンドの隅に立って、僕らが練習する光景を長時間に渡って眺めていた。
「誰だろ」「見たことある?」「ない」「5年生くらい?」
僕らは練習の合間に少年の姿を盗み見て、コソコソと話していた。
Eチームは、隣接する3つの小学校に通う子供たちによって構成されていたが、
どの学校の連中に聞いても、その少年を知る者はいなかった。
それは下級生たちに聞いても同じだった。
練習が昼休憩に入る直前、監督は選手全員をホームベース付近に集合させると、
その少年に向かって手招きをし、近くに来るよう促した。
そして少年を僕らに紹介した。
「次の練習日から参加してくれることになった、新メンバーのX君。今度から6年生だ」
続けて監督は、X君に自己紹介するよう促した。
見るからに大人しそうなX君だったが、意外にもハキハキとした口調で、
「○○小学校に転校することになったXです。よろしくお願いします」と言って、ペコリと頭を下げた。
僕らもそれにつられて「よろしくお願いしまーす!」と声を合わせ、帽子をとってペコリと頭を下げた。
紹介が終わると昼休憩に入り、X君は帰っていった。
僕らはそれぞれが持参したおにぎりをかじりながら、X君についてあれこれ話した。
「6年生だって」「少し小さいね。5年かと思った」
「野球できるのかな」「スポーツやる感じには見えないね」
「なんか頭のテッペン、キューピーちゃんみたいだったぞ?」
「白衣着て実験室にいそうなタイプだよね」「図書室とか放送室にもいそう」
好き勝手なことを言いながら、僕らはX君のキャラクターイメージを膨らませていった。
「でも、いい奴っぽかったよね」「それは言える。挨拶とかもちゃんとしてたし」
総じて好印象を抱かせたX君ではあったが、かもし出す雰囲気が野球をプレーする姿と結びつかなかった。
「初心者かもしれないから、ちゃんと面倒見てあげようぜ」
そんな感じで会話を終え、僕らは午後の練習に入っていった。
そして次の練習日。
真新しいEチームのユニホームを身にまとったX君が、バットとグローブを手にグラウンドにやって来た。
(つづく)