パパの会改め町内会。 平和な世界で艦娘(元艦娘)ときままな日常を送ろう。 らぶいずおーる。
いつもお世話になっております。 先ほど、日付が変わったころゲーム内でケッコンしました。 これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
ケッコンおめでとうございます これからも愛して下さいね
ありがとうございます。 ほんとは昨夜中(いいご縁の日)にケッコンしたかったんですけど、ギリギリで逃しましたね。 その辺の手落ちも含めて笑ってくれてます。
とうとうか村雨ニキ、おめでとう……。 次は155やね
ありがとさま。 遠すぎる(断言)
11月になると僕の酒蔵でもいよいよ準備が始まる。 貯蔵し、精米したお米をお酒に使うために芯の部分『心白』まで削らなくてはならない。 とは言え、最近では精米工場で機械がやってくれるので非常に助かるのだが。
「捕まえたわー」 どちらかというと肝心なのは、酵母の素となる酵母菌を増やすこと。 これは本来であれば麹から作らねばならないのだが、山雲曰く我が家の中に潜んでいるらしい。 彼女が指でつまんでシャーレの中に入れて顕微鏡を見ると、確かに菌がいる。 ……菌が裸眼で見えるとは。 我が娘ながらとんでもない能力を持っている。
さてその話は少し置いといてこの間は劇についての会議が行われ、練り合わせを行われたようだ。 演劇、映画と言った芸術に乏しい僕は戸外で大人しくしていようとしたが、村雨さんの旦那さんから出ても問題ないと思いますよと言われ、それならと軽い気持ちで同席した。 葛城から前日に『社長たちに非礼が有ったら、あなたでも本気で怒るからね!』と釘を刺される。 いやいやそれは向こうが判断することだろうに。 昔から無茶振りが酷いぞ、葛城。
山雲と朝霜ちゃん、睦月ちゃんは大人たちのすぐ近くで遊んでいた。 おままごとをする姿は仲が良いなと思ったり、2人に付き合う朝霜ちゃんはお姉さんだなと感心させられたり。 そうそう飛龍も僕らが着いて、すぐやってきた。 某出版社で演劇に使われた作品の資料や台本を抱えて持ってくる気合の入れように僕はびっくり。 ……それだけ気合が入っているということか。 何か僕が居るのが引け目を感じるぞ。
僕一家、村雨さん一家が一家がやってきて、それから。 「待たせて済まなかった、そしてご足労かけて申し訳ない」 麗人のお出まし。 帽子を被った麗人、グラーフ・ツェペリンが奥さんと子供たちを連れてやってきた。 ……旦那さんの手を握る奥さんは愛しているんだなと分かる。 奥さんも優しそうな方で良かった。 比翼連理、夫婦仲が良い事を表す故事成語が有ったが、他の夫妻が仲睦まじい様子を見るのは嬉しい。
会議だが、グラーフ・ツェペリンの入れた珈琲を飲みながら行われた。 ……珈琲ってこんな美味かったっけ? いや、珈琲をあんまり飲まない僕だが香りも味も非常に良くて美味しいのだ。 僕もお茶請けに天城のお店から買ってきたケーキを出したが、コーヒーによく合う。 甘いチョコレートケーキはブラックの香りを引き立ててくれた。
(雲龍の煎れてくれる珈琲とは違う魅力が有る……)ズズズ
さて、その会議の内容。 雲龍は僕や山雲、飛龍も居るからか普段と同じように話していた。 ……相変わらず丸○くんのようなグルグルメガネをかけていたが、人見知りする彼女にしては凛と話す様はカッコいい妻であり、母であったと思う。 特に大きな変更もなく細々とした要望を取り組む、表現の方法を変える、宝塚歌劇団のような歌を取り入れるなど……。 聞き手に徹していたが、ここまで色々考えているあたり、グラーフ一家が審美眼に肥えている事は良くわかったし、村雨さんの旦那さんの出演する家族を輝かせたい気持ちも見えた。 何よりグラーフ・ツェペリンの子供たちの意見を取り入れてくれるところは頑固なドイツ人のステレオタイプだけじゃないんだなと感心させられてしまった。
これも奥さんや子供たちを愛する愛ゆえか。
会議が終わった後。 「待て、wolke」 そそくさと立ち去ろうとする雲龍にクールな声が呼び止める。 「……何かしら?」 あまり呼び止められたくなかったらしく、顔には出さないが嫌そうな声をしているのがわかる。 ……葛城は仕事で、天城はケーキの搬入等で面識があると聞いたが、雲龍はグラーフ・ツェペリンと面識が無かったけ。 「いや、特に無理難題を言うつもりは無い。 少し確認したいことがあってだな」 「なにかしら?」 「前にも飛龍を通して伝えてもらったと思うが、キチンと寝ているのかと気になってな」 「ああ、その事。 おかげさまで睡眠時間をキチンと確保するようにはしています」 「うむ。 君は独り身ではないのだから、身体は大事にしなくてはな」 「ええ、気をつけます」 「それとだな……」スッ 雲龍の目の前まで近づくとグラーフ・ツェペリンは雲龍からグルグルメガネを取る。 「その黄金の瞳、私にも見せてくれ雲龍」
大胆。 鎮守府で働いていた頃、魔術師と言う空母を風の噂で聞いていたが、こんな風に懐柔するとは。 雲龍も顔がどことなく赤らめている。 それはバレていた恥ずかしさか、それとも評価された嬉しさからか。
……僕もこれは見習わなくては。
そうそう演劇についてだが、山雲も出ることになったようだ。 海賊の一味役。
雲龍も出演を打診されたが、断っていた。 しっかり今後の作品に生かすために勉強したいとか。
そして僕は力仕事の方が似合うので証明と裏方役にさせて頂いた。
もうすぐ秋の終わり、演劇祭もあと少し。
本土の山では紅葉もピークを越えたころだろうか。それとも、もう早くも雪遊びに興じている人もいるんだろうか?どちらにせよ、こんな月明りの下ならば相当に美しかろう。僕らの配属された島にはそんな洒落たものはなく、波の音が聞こえるだけ。一人分の影に、もうひとつ小柄な影が合流する。 「こんな時間に悪いね、村雨ちゃん」 「はぁ。なんですかぁ、提督。本当ですよ、しかも外に」 ただいま11月5日フタサンサンマル。消灯時間後。そんな時間に副官を呼びつけておきながら、言葉と心の準備ができていない。世間話の話題を後出し的に探しても、星の間を目が滑るだけ。その間に、彼女はコートの袷を直して、僕を待つ。こちらは具合のいい言葉は出ずに、ただ誤魔化しに似た散歩のお誘いが限界だった。 「えーっと……あのさ」 「もう、なに?なんの相談ですか?」 「寒くなってきた、よね」 「本当、そうね。外だし。編み物でもしようかしら」 「編み物できるんだ?」 「えぇ、出来るよ。ちょっとだれど」 「そっかー……すごいね。釣りも上手だったね」 「まぁ、器用なのよね。ちょっとだけ」 「ちょっとってレベルじゃないと思う。すごいよ」 毎年の遠洋漁業の護衛としても十分な成果を上げてくれているが、この埠頭の釣り師娘の中でも人一倍の釣果を上げている印象だ。あれは艦娘ではなく、彼女個人の個性。そういう何気ない一面を見るたび、彼女たちが兵器ではなく少女であるという思いが強くなる。そういった部分をこそ大切にしていきたい……という麗句を盾にしたくはないが、あの部屋には勲章も褒章も未だに少ない。これは僕の不徳の致すところだ。 「それは光栄です。……それで、なんのご用でしたっけ?」 「うん……」 「?」 話題は行って帰って、立ち返ってしまった。村雨ちゃんは和んだようだが、僕だけは再び緊張し始める。それを感じ取れないほど、並ぶ彼女は馬鹿じゃない。少し跳ねてリズムをとるのは、それを解すためなんだろうか。 残念ながら、丁寧に結われた髪……消灯後、姉妹に黙って部屋を抜け出す際に結い直されたであろうツインテールが舞う様に目を奪われる余裕もないんだけど。 「何なに、言いにくいこと?備蓄は特に減ってない、から……何か方針の変更でも?」 跳ねた割に切り出してくるのは指揮全体の問題なあたり、根は真面目である。 「いや、特にその予定はない」 「じゃあ……あ、昼に届いてた包み?上から何か言われちゃった?」 「いや、みんなのおかげでそういうことはないよ」 「仲良しで何より!……あ、もしかして恋愛相談?提督その辺疎そうだもんね。だれだれ?」 「違う違う!」 「あら、つまんない。……誰かと喧嘩、しちゃった?」 「ううん。そんなことはないよ。大丈夫」 真面目半分、ふざけ半分だった彼女が、急に足を止めて、眉根を寄せる。純粋に心を割いているのがわかる。その姿と心の優しさが、何よりもいとおしくて、殊更安心できるような言葉を選び、微笑む。うまく笑えていただろうか。 「ふぅん。じゃあ何ですか?」 「……」 「な・ん・で・す・か」 心配の跳ね返りなのか、僕をまっすぐ見たまま語気を強める。眉の象る感情は、心配の中に焦れた呆れが混じっていて、逃がさない意思が滲む。
ここらが誤魔化しの限界。伝える覚悟を、固めなきゃ。切り出せ。 「……村雨ちゃんはさ、夢ってある?」 「夢?……そうねぇ、やっぱりみんなで無事に勝って終わりたいわよね」 「うん。そのあと。鳳翔さんはお店を開きたいって言ってる。そういうやつ」 「終わった後……終わった後か」 「そう。後の話」 「うーん、ちょっと考えたことなかったかもしれません。またみんなと話してみるね」 「……そうだね。急にごめんね」 「いえいえ。こちらこそ、張り合いのない答えでごめんなさい」 埠頭の先から、建物側へ向く。すなわち帰投で、会話の終わり。彼女が一歩ずつ、ゆっくり遠ざかる。ポケットの中で手の感覚が失せていく。心拍数が下がっていく。指先に当たる硬い感触で、頭の中で何かが弾けた。 「……あの!」 もう一度心臓を叩き起こす。心を熾す。 「!……はぁい?」 少しだけ驚いて、すぐに笑顔で振り向く彼女。緊張が目がいかれて、逆に彼女が大きく見えてきた。 「昼に来た包み、あれ、僕個人の買い物なんだ」 「はぁ」 喉が渇く。海の匂いが鼻につく。 「もし!……もし、僕が、僕らが一人と欠けず終戦まで勝てたなら」 彼女の瞳に吸い込まれる。困惑もあるが、静かに待ってくれている。波も風も、すべてのノイズが消える。
「これを。受け取ってくれますか」
かじかんだ指で、夜色の箱を開ける。月明りを受けて銀が輝く。 「……指、輪?」 「僕の夢の一部に、なってほしいんだ」 心臓が破裂しそう、という表現は本当に陳腐で、使いまわされている。小説で読んだ、脚本で見た、軍属になってから何度も思った、そのどれとも違う。痛いほどの脈動。心臓から下は存在しない。地につく足がない。腕もかろうじてついているだけ。乾ききった気管を上って、目と頭が熱い。 「ダメ、かな」 「……ねぇ、提督」 そっと香りは暖かく、声はやさしくもはっきり聞こえる。そこで初めて、大きな彼女は目の錯覚ではなく近くにいただけということを知る。目線は、海を見ている。耳が紅潮しているように見えるのは、今度こそ錯覚だろうか。 「貴方は、いつもだらしなくて、気も弱くてさ」 「うぐ」 「センスも微妙にずれてるし、あんまりカッコよくもない」 「……はい」 言葉一つ一つが心に刺さる。指輪の箱を仕舞う指先が冷たいのかすらわからない。熱のすべてが心に集まっていく。いかん。泣くな。 風がひとつ、強く吹き抜けて、獣のように鳴り叫ぶ。再び仕舞い込んだ手まで冷やされて、全身余さず凍りつくようだけれど、些細な事だった。群れの風の唸りが止んで、小さな声がここまで届く。
「だけど、好き」
声にならない声が、吐息のように抜けていく。聞き返すこともできずに、耳が拾ったそれを反芻する。好き。 「一緒にいるの、案外楽しいわ。相性いいみたい。弟みたいで、お兄さんみたいで、安心できた」 月明りを浴びる彼女は、こちらを向いてはくれない。海と空と、彼女。それだけで一枚の絵画のよう。 「でも、違うのよね。きっと提督が言ったのは、もっと……もっと近いものでしょう。……想像したらね、夢の中の私、笑顔だったの」 波の音は絶え間ない。彼女の瞳にはそれが映っているんだろうか。そのきれいな瞳には。斜め後ろからでは見えない瞳には。 「『白露型』としての私は、もちろん好き。誇りよ。『古株』として、いつも頼ってくれるのも嬉しかった」 風は弱く、穏やかになった。雲は薄く、星はまばゆく、彼女の髪は控えめに揺れる。 「でも貴方は、『私』がいいって、言ってくれたのね」 「はい。村雨ちゃんと一緒が、いい」 「……嬉しいっ」 振り向いた彼女は、今まで見たことのないような笑顔で、誰よりも美しい涙の粒を湛えていた。見惚れる僕へそのまま飛び込んできて、僕は抱きしめるのが精いっぱい。 熱が伝わる。熱を伝える。鼓動と、涙の粒が混じりあう。視線が合えば、あまりの近さに赤くなるけれど、逃げ場はない。引き合うだけ。宝石のような一瞬。二度以上は、今の僕らには危険な蜜。お互いにそう思って、片手だけを繋いで離れた。だけど、分かち合った全ては、遍く心と体に宿っている。言葉にしなくてもわかるから、頷いてゆっくり寮に帰る。 いつか、似たような季節に同じことがあったな、とぼんやり思い出すのは、しばらくは後のことだった。 月は高く、波は静かで、星が一筋流れていった。日付はもう、変わっていた。
彼女の指は戦場に出ていたとは思えないほど白く、あの頃のなけなしの俸給で買った簡素な指輪なんて、むしろ邪魔になりそうなほど美しい。もっと綺麗なものを贈ってあげたいと言う度に固辞されている。 僕の指は彼女のように美しいわけではないけれど、不慣れな当時は指輪をつければ落ち着かないところはあった。 戦闘があった。宴会があった。訓練があった。喧嘩があった。仲直りがあった。終戦があった。新しい生活があった。色とりどりの時間が流れた。 その中で僕らは、あの夜から一日たりとも指輪を外していない。きっと、これからもそうなのだろう。 問うまでもなく、そう思えるんだ。
「村雨ちゃん、いつも本当にありがとう」 「なぁに、急に。どういたしまして。ね、―――くん」 「ん?」 「こちらこそ。いつも、ありがとね」 「こちらこそ、どういたしまして」 「うふふ。あ、ワイン来たよ」
「村雨ちゃん。愛してます」 「……えぇ。私も、愛してます。―――くん」 「これからも、よろしく」 「こちらこそ」
「僕らの夢に」 「「乾杯」」
~
「今頃おいしいもん食べてンだろねぇ二人は。ほい、どうぞ」 「おとと。ありがと、江風さん!」 「一年に一度だし、こういうのもいいと思うな。さ、準備はいいですか?」 「もちろんさぁ!早く、肉!肉!」 「こーら、朝霜ちゃん、お野菜も食べないと一番にはなれないからね?」 「そうそう。ちゃんと食べないとお肉焼いてあげないっぽい」 「デザートもなし、だからね」 「うぅ…食べます、野菜もたくさん食べますって」 「ふふ、いいお返事です」 「涼風、君もだからね」 「うぇっ!?流れ弾ッ!?」 「タイマーよし!じゃ、撮りますよ?」 「こけないでね?」 「もうドジっ子じゃないですから!」
かしゃり。
最近、旦那はよく棺桶で寝るようになっていた。 旦那いわく、光が届かない暗闇の世界かつ中身がふかふかでとても眠りやすいかららしい。 太陽が昇っても棺桶なら真っ暗闇だし確かにいつまでも寝れそうだ。 旦那は狭いところは好きらしい。そりゃ本になって自分の世界で眠るのも好きなわけだ。
一度でいいから入ってみたいなぁ。
「やぁ、悪いね連日」 「いいえ、気にしないで。私も楽しいもの」 水曜日のカフェ、ほかの客から離れたテーブル席にて。彼女と会うのはつい数日ぶりだったりする。 ウォースパイト。かつての鎮守府の仲間の一人で、今は劇団主宰。時に同業者、時に上司にあたる戦友だ。
先々週の日曜日は、朝霜と睦月を連れて企画チームのお歴々と打ち合わせ。 何の因果か才媛ばかりが集まってしまった現場において、山雲ちゃんのお父さんがいてくれたのは本当に助かった。男性がもう一人いるのといないのでは、やはり違う。それに、彼自身は門外漢と言っていたが、だからこそのお客さん目線での発言がいい刺激になったな。 初回と比べて雲龍さんの様子もかなり良かったし、いるんだな、その場にいるだけで安心感を与える人間ってやつは。照明周りをベースに裏方を熟す中でも、劇団の本職たちと巧く馴染むだろう。
雲龍さんは出演されないとのこと。その分脚本や演出の面を勉強されるということで、ある意味では僕の責任が大きくなったともいえる。あまり人を育てるのに自信はないが、その点あの人ならば問題なく吸収してくれるはずだ。少しでもいい刺激になればいいな、というのが建前で、独特な感覚と速筆の秘訣を少しでも感じ取りたいというのが僕の裏目標である。
村雨ちゃんには風邪の病み上がりなので大事を取って義姉さんのところでお休みしてもらっていた。親仲間との交流ができなかったのは少し惜しかったかもしれないけど、魔法使いを見るに、連れてこなくてよかった。誰にも彼にもああ近づくわけではないだろうが、もしもされたら嫉妬で凄いことになりそうだ、というのは知られないようにしておこう。それだけでひとしきり揶揄われそうだし、魔法使いの名誉にもよろしくない。
全体的に大きな問題もなく進行した先々週の打ち合わせで、一番の問題は朝霜だった。 家を出る前には「女優として打ち合わせするぞ!」と意気込んでいたものの、山雲ちゃんと睦月のお姉さんとして大半の時間を過ごすことになってしまっていた。父としてはお姉さんとしての顔が見られてよかったんだけど、本人は楽しくも悔いが残っていたらしい。 その悔いを晴らすための策が、劇団との打ち合わせへの出席。「僕が所属する劇団とも打ち合わせてくる」という話を耳聡く聞いていて、自分もでられるようにしてほしいと志願してきた。ただの思い付きじゃないことは、目と、言葉で十分。その上、睦月達に気負わせないように、夜に執務室の僕のところに一人で相談してきたことも殊勝で、提案を断る理由は一切なし。ウォースパイトと劇団メンバーに諸々了承をもらい、日曜日にセッティングさせてもらった。
「アサシモちゃん、昨日は大変だったと思うけれど、大丈夫だった?」 「疲れはしたけど、自信になったみたい。おかげさまで」 「そう?じゃあこれからはもう少し厳しくしてみようかしら」 「ん、そうしてあげて」 ザラお手製のコーヒーを味わいつつ、娘の試練を期待する。ウォースパイトは優しいから、これくらいでちょうどいいはず。 たしか先週のはドイツ式なんだっけ。あれはあれでよかったけど、イタリア式もまたよし。ウォースパイトお手製のイギリス式もまた飲みたいし、村雨ちゃんの手作りももちろんおいしい。その辺は節操無しの雑食なのは龍驤にも村雨ちゃんにも「いい趣味」と言われた僕の数少ない美点である。
「それにほら、あの後ちゃんとパーティではしゃいでたじゃない」 「そうね。本当に楽しかったわ」 「まさか神通ちゃんたちまで来れるとは思わなかったねー」 打ち合わせののち、家族や元鎮守府メンバーと合流して鳳翔さんの誕生日会を祝いに定食屋へ。夜の部を貸し切りにさせていただいて、みんなでお祝いを開催した。うちは少数メンバーだったこともあり、日曜日じゃなくても毎年結構な人数が集まっている。祝われる本人が厨房に入るのも妙なので、龍驤や春雨ちゃん、ザラをはじめ、みんなでそれぞれ料理を作るのが恒例の一大イベントだ。今年は特に、僕らの中の出世頭の川内三姉妹も到着して盛り上がったな。ちゃんと対面するのは初めての睦月が特に大興奮。学校で話さないって釘刺しがちゃんと効いてるといいな。 ともかく鳳翔さんはそれだけみんなに慕われている。ウォースパイトは特に、英国から来て心細くしているころによくしてもらっていたこともあり、鳳翔さんには娘のように懐いている。年は姉妹で通じるくらいだし、見た目で言えばウォースパイトのほうが姉にも見えるんだけど、本人たちが心地いいのならそれでいい。 「戦艦ウォースパイト」の性能自体は十二分ではあったものの、航行速度や能力のバランスのため、最前線で戦うような扱いを受けなかった。左遷ではないが、小規模の僕らの補強、および最前線の前のテスト運用として配属されたのはいつの季節だったか。戦艦をこそ己の名と呼び、ほかの子たちよりも固く緊張していた初対面はよく覚えている。 あれから一人の女性として、柔らかさを備えつつ、自分の足で凛と立つようになった。その過程で役者や劇の道を選んだのは、少なからず僕たちの影響もあるようで、誇らしく思う。
「みんな変わりがないようでよかったわ」 「全くだ。朝霜、あれから特に相談とか来なかったけど、今晩聞いてみるか」 「素直に話してくれるといいわね?」 「うぐ」 「そろそろ反抗期、くるんじゃないかしら」 「まだ……まだ早いんじゃ」 「Meetingでもしっかり話してたし、Ladyの成長は早いのよ?っふふ」 確かに打ち合わせでは、真剣さが口ばかりではない様子だった。山雲ちゃんもキャストに入るということで気合が増したんだろうか、自分の出番と同じくらい舞台全体のことを考えていた。もちろん本格的な劇、会議には不慣れで、当然未熟な部分ばかりではあったけれど、人としての成長は十分見受けられる。ここからさらに、劇を通じて成長するだろう。親ばかでもなんでも、誘ってみてよかった。 それでなくとも先週土曜日の予防接種では覚悟を決めるのが早かったし、本当に知らないうちに成長を済ませているのかもしれない。心は目で見て測れない分、あっという間に成長していることもある。幾度となく直面した当たり前の出来事だし、それを忘れていたのは傲慢だった。 その勢いで、成長を喜びつつも独り立ちで親離れされたくない複雑な気持ちをわかってほしい。いや、分かられても気恥ずかしいな。反抗期、くるのかなぁ。
思わず考え込みかける僕を見て上品に微笑み、カウンターの友人へ話しかける。 「ちょっと意地悪が過ぎたわね、ごめんなさい。そろそろ真面目な話をしましょう。Pola、おかわりをいただけるかしら」 「は~い、いつもので?」 「えぇ。おねがいね」 艦の来歴から思うところがあったらしいが、今となっては十年来の友。メニューを問うまでもない間柄。いつ見ても喜ばしい。 「僕は水で」 「え?白ワイン(Spritzer)?」 「水だっつってんでしょ」 便乗して僕もおかわりをいただきたいが、これ以上は経費で落ちない可能性もある。11月も12月も、我が家の予算は僕に厳しい。めでたいイベントに割くためなら、自分たちの小遣いを絞るべきだとずっと昔に夫婦で合意したことだから、別に文句はない。
文句を言わなくていいように、しっかり公演を成功させればいい。口を潤し、頭を冷やし、目を覚まさせる。 脚本、スポンサー、朝霜もといキャストから受けた要望。劇団のメンバーからの意見。さらに詰める必要のある部分に、不可避の予算の話など。企画室の会合がよくても、まだまだ現場の議題は山積みだ。 「さて、打ち合わせしますか」
アイドル少女のアニメを見ていると、娘たちはご機嫌。 だからってクリスマスの要望がそのグッズとは限らないので油断してはいけない。
相撲の面白さはわからないらしい。まぁ仕方ないと言えば仕方ないか。 あまり熱く語って煙たがられないようにしないとな。僕自身俄仕込みだし、なんとなくで見てる部分は大きいのでしっかり語れないんだし。
テレビの合間の学習教材CMでは、子供の可能性を謳っている。 朝霜も睦月も、その意味が本当に分かるのは先なんだろう。ならば僕らがその可能性を助けてあげないと。 この子達はどんな大人になるんだろう。
いい夫婦の日。およびいいツインテールの日。 とは言っても11月。結婚記念日、正確にはプロポーズ記念日があり、海風ちゃん、江風、鳳翔さんにウォースパイトと誕生日ラッシュがある11月だ。どれだけ工夫しても出費は大変なことになる。 そんな月の下旬なので、特別に何か贈りあったりイベントを設けたりはしない、できない。クリスマスと年末年始の予算がなくなってしまう。 だから、娘たちもツインテールにして、晩御飯をちょっといいものにして、あとはいつも通り。
そのはずだったんだけども。 「……こんばんは」 「あり、山風さん?」 「こんばんはぁ。どしたの?」 「ちょっとね。パパとママ、いる?」 日も沈み、夜の帳が落ちる前。珍しいお客が来るもので。
「…これ。結婚記念日とか、いい夫婦とかの…お祝い」 「あら、みんなからかしら。有難うね」 「……ううん。ちがう。あたしから」 「…おぉ!」 「じゃ、帰るね」 驚いた隙をつくのは、不器用な彼女の器用なところ。 それを見逃さないのが、娘たちの怖いところ。 「もう帰るの…?」 「ちょっとだけ!な?」 「あたし、そういうつもりは…」 「ふぇ…」 「……うぅ」 不器用な彼女の、優しいところ。
結局、そのまま夜は更けてしまった。 日付が日付なだけに、二人が寝付いてからでも帰ろうとする山風ちゃんを引き留めたのは、今度は僕ら。 もちろん、義姉さんたちへの連絡は済んでいる。 「山風ちゃん、今日はありがとうね」 「ほんと、嬉しかったわ」 「…どういたしまして」 「いつものだけど、グラスが違うと雰囲気変わるねぇ」 「なんだかゆったりした感じよね。うふふ」 普段からあまり積極的ではない山風ちゃん。 そんな彼女とせっかく話しのできる機会。逃すわけにはいかないし、せっかくならと贈ってくれたプレゼントであるワイングラスを使っている。 「それにしても、木製ときたか」 「…あの子たちもまだ小さいから、割れるとまずいかなって」 「ん、そーねぇ。ありがとね」 持った感触も違えば、口につける感触も変わる。然るべくして味の感じ方も変わってくる。少し厚く、重みを感じるけれど、これは安定と表現するべきだろう。ゆっくり味わうのにちょうどいい。 娘たちへの気遣いも含めてだけど、彼女の中の優しさが表れた逸品だ。 「…二人には」 「んー?」 「お世話になったけど。ちゃんとお礼、出来てない気がして」 「そんなことないわよぉ」 「あるの、村雨姉。……だから、ちゃんとあたしから、お礼したくて」 「…そっか」 もしかしたら、何かのお祝いをいつも姉妹連名でしてきたのを気にしてたのかもしれない。そこに不満も不義理も感じないけれど、否定はせずに受け取っておこう。こういうのは本人のけじめだし。 「ありがとね、山風」 「ありがと、山風ちゃん」 「…こちらこそ」 誰ともなく杯を掲げて、もう一度静かに乾杯。 「それにしてもいいセンスだよね。気に入ったよ」 「そうだ、これで日本酒もいいんじゃない?」 「…?日本酒も飲むの?意外…」
明日は祝日。娘は早起き。きっと朝からてんやわんや。 ほどほどにしないといけないけれど、そういうわけにもいかなそう。
春風ちゃんが意気揚々と招待状を自分に渡してくれた。 どれどれ。仲良しの朝風のお誕生日会があるのか。日にちは12/8の1800から……ん、12月8日なのか。 ああ困った。行かせたいのは山々なのだが、旦那の誕生日と被っているんだよなぁ。とっておきのディナーをそろそろ予約しようかなと思ったのだけど。 で、旦那が目の前を通りかかった。気まずそうな私と春風、そして招待状を見て、どんな状況か把握した旦那は開口一番、 「春風、朝風の誕生日を祝ってくるんだ。大切な朝風と友人がいるのだろう?きっと楽しい時間のはずだ。」 いつの間にか旦那に口をふさがれた私は旦那の優しい口調で春風に語りかけるのを見るしかできなかった。
笑顔を取り戻した春風をリビングに置いて私は旦那に書斎に連行された。 菫色の眼差しを私に向けて淡々と話す。 「娘の大切なものを、大事にしてくれないか?君も大切なものはあるだろう?」 「それはごもっとも、としか……。」 説教を食らってしょんぼりした私に旦那は腕を伸ばし、包み込んでくれた。 「ところでだ。」 「ん?」 「12月8日。覚えているのだろう?」 「貴方の進水日。あとは……。」 「結婚記念日だ。二人きりで愉しもうじゃないか。」 「もちろん!」
旦那が最中を買ってきた。 関西旅行のお土産らしい。 自分は小豆が苦手なのでスルーだが、娘二人が元気よく頬張っているのを見ると実に微笑ましい。
そろそろ舞台の稽古も始まる、自分は舞台に出ないけど全力でサポートしなくっちゃ。
劇の稽古。 どう演じるか、どう魅せるか、子供たちを筆頭に役者として考えて動く。 裏方である事を分かっていながら、ヒシヒシと伝わる緊張感にドキドキしながら見ていた。
「ライト、しっかり睦月さんを照らして」 「ごめんなさい!」
その風景に見とれていたら脚本家、僕の妻の雲龍に怒られた。
意外と言ってはなんだが、あの雲龍が席から真剣な眼差しで見て、役者ひとりひとりの動き方について指導している。 指導する度に、厳しく凛とした響く声を出していた。
(雲龍も出れば良かったんじゃないだろうか)
あまり大声を出すタイプでは無いので、声にも驚いたがここまで堂々としている様には感心すらしてしまう。
グラーフ・ツェペリンの奥さんや村雨さんの旦那さんとも話をして、脚本の手直しをして生かしている。
飛龍曰く『作る作品に本気なところが良いところ』と言っていたが、彼女の情熱は人見知りすら超えるようだ。
「次は朝霜さんの動きに合わせて照明を当てて」 「はい!」 すっかり手足のように使われている僕。
タンクを混ぜるのに櫂を用いているがそれよりも疲れる。
これは明日の朝には筋肉痛か……。
「叱ってしまって、ごめんなさい」
稽古帰りの車中。 学校から直行で稽古に臨んだからか疲れている山雲は後部座席でグッスリ夢の中な、今。
助手席で呟くように雲龍は僕に声をかけてきた。
「ん、さっきの? 裏方としてやるべき事をして無かったのだから当然の指導でしょう」
「気にしてないの?」
「家内の情熱に答えるのが旦那さんのお努めだからさ」
「そう……」
嘘ではない本心。 ペンを握り、物静かにひっそりと原稿用紙に様々な世界を作る彼女。
そんな彼女が舞台に世界を作ろうというのだ、応援しない訳にはいくまい。 旦那として責任重大。
「演劇とか興味あったの?」
「ううん、見せたい人がいるから」
「この劇を?」
「そうよ。 帰ってくるじゃない、私たちの家族が」
「……そっか、もうすぐ帰国か」
栗色のツインテール、勝ち気な性格に似合った釣り目、強い自信のある娘。 山雲が温厚なポニーだとするなら、彼女はじゃじゃ馬か。
学校の制度を使ってアメリカに留学して勉強している彼女。
そして何より僕ら夫妻にとって自慢な娘。
「山雲もすごいのよ、『できる姿を見せるんだからー』って」
「今の山雲を見たら、驚くだろうなぁ」
「そうね」
「「朝雲は」」
【アメリカのとある街の小さな家にて】
「荷支度完璧よ!」フフン
「山雲に成長した私を見せてあげるんだからっ!」
「もう準備を終えたんですか? お早いですね」
「あら、サラ先生どうしたの?」
「準備がどれだけ終わっているか気になったので覗きに来ちゃいました、Good! これなら心配ありませんね」
「そうよ、私はきちんとやれるんだから! 先生も大きな荷物を持ってるけどどうしたの?」
「実は私も日本の学校でお勉強することになったので、山雲さんと一緒の飛行機で行く準備をしていまして」
「先生も? すごーい!」
「提督もお元気だと良いんですが……」
「みんな元気よ、たまにお仕事で来る葛城お姉さんからお話し聞いてるもの」
「そうですか、とても楽しみです!」
「わ、私の方が楽しみなんだから!」
今日はグラーフ・ツェッペリンの進水日。 いちごが乗った小さなショートケーキをひとつつまみながら、いかにもお子様向けのシャンメリーを優雅に飲む旦那に思わずうっとり。 旦那は私の視線を気にせずにケーキを食べてる。 娘2人は朝風の誕生日パーティーに行っている。二人で過ごせるのはある意味貴重な時間だ。
いつの間にか時刻はフタマルフタマル。 「もうすぐパーティーが終わるようだな。二人で車で迎えに行こう。」 そう手を握られてガレージの車に乗り込む。
娘2人を迎え、寝かしつけたあと、旦那は甘口のアイスヴァインをすすり、嗜んでいる。 「ん、飲むか?」 そう頬笑むと旦那は急に顔を近づけてきた。 まさか。 そのまま受け入れ……たわけではなく、思わず両手でほっぺをむにっと制止してしまった。 そのままほっぺたをむにむに。 旦那もまんざらではない様子で、ニコニコしながら楽しんでいたご様子。
2分ほどして、白い肌が少し赤くなってしまったのでむにむにはやめて、今度こそ。 軽く抱きかかえて、唇をふわり。 甘い甘い糖蜜のようなワインの味がした。
このあとお姫様抱っこでベッドに連れて行かれて子守唄を歌ってもらったのは別のお話。
~レヴュー「Juwel des Meeres(仮題)」~ 【演出】 ・大筋のイメージ合意OK ・舞台特有の演出、制限について アドバイス進行中→実際にみせる←去年の公演? ・そろそろタイトルを正式なものに!→キャスト、スタッフにも聞く 【キャスト】 ・劇団:問題なし ・小学生:立ちは〇 通しの緊張に慣らす必要あり←冬休み?←宿題は? ・飛:不安←覚えはいいけど仕事優先←出番調整の必要あり? ・グラ:大体OK 発声基礎 仕事もあるので仕上げは早めに ●要:発声の見直し 殺陣 小学生の息抜き 【音 照明】 ・第六次案で完成? ←全体通しを見ながら修正 ・通しで最終確認(山パパのケア大事に) 【大道具】 ・進行中 年内に完成 ・転換の練習はいつも以上に入念に(事故厳禁!) 【衣装 小道具】 ・そろそろ本物の道具でいいかも ・衣装合わせと製作ははやめに(今回は対外交渉もあり) 【広報】 ・青衣にたのむ ←僕、雲龍さんの連載 →ラジオ、テレビなど? ←テレビは無理では? ←航空社のスポンサー番組とかで…こう…? →ラジオの場合誰が出る?→ウォースパイト 僕 →グラーフさん なくはないが多忙 →雲龍さん 難しい? →川内がラジオで宣伝するとか言ってたけど大丈夫かな… →いつもの劇団の宣伝路 【財務】 ・がんばる 【その他】 ・通しの日付とシーンごとのスケジュール見直し →親睦会と忘年会(新年会?)の設定 ―――――― 「ノートよし、と」 「あなた、準備はいい?みんなは大丈夫よ」 「ん、行きますか」 空は青、風は強く、駆け抜ける空気はまさに冬。 今日は貴重な休日練習。頑張っていこう。
朝風の誕生日会。 朝風の母親のコマンダンテストが挨拶し、パーティーの幕が開ける。 「本日は、ムスメの誕生日にお越しいただいて、ありがとうございます」 「早速ですが、シュミット家より頂きましたロマネ・コンティで乾杯しましょう!カンパイ!」
春風と村雨は朝風と同じ机に招かれた。春風は朝風のグラスにシャンメリーを注いだ。 「誕生日、おめでとうございます。」 「ありがと、二人なら来てくれると思ったよ」 あれよあれよと白いテーブルクロスの上に食べきれない量の料理が運ばれてくる。 「バイキングだからね、村雨、春風。じゃんじゃん食べてもらっていいけど、無理はしちゃダメよ」 「もちろんですとも。朝風もハメを外しちゃだめですよ?」 「わかってるって!」 お腹が空いたのか、三人はつくね団子、カルパッチョ、ミニグラタン、パスタ、鮪のステーキ、手羽先と1品は少しの量だが、多くの料理を食べていった。 シャンメリーの瓶が空いた頃、コマンダンテストがおかわりの瓶とともに朝風と春風のテーブルにやってきた。 「元気で良かった、春風ちゃん。それに村雨さん」 「ありがとうございます、おかげでたくさん食べています」 「いいのかな?私ももーっと食べても」 「いいのよ、じゃんじゃん食べてもらって。まだまだ楽しみましょ」
コマンダンテストともテーブルを共にしてからしばらく経ち、パーティーも終盤に差し掛かり、デザートのケーキを取ってきた春風は朝風に質問する。 「ところで、シュミット家と朝風ちゃんのところはどういう関わりなのでしょうか?」 村雨は妹を気にかけている。 「私にはよくわからないわ。お母さんに聞けばわかると思うけど」 「あら、ちょっと突っ込みすぎたかしら。ごめんなさい」 コマンダンテストが説明に加わる。 「イイノヨ。私達は十年と少し前にシュミット家の人に助けられたの。春風ちゃんも知っていると思うけど、当時は深海棲艦の脅威がすぐそばに迫っていました。私達は船でBrestからDunkerqueまで移動しているとき、深海棲艦に襲われました。艦娘たちが深海棲艦を撃退したのですが、私達のが乗った船を探し、助けてくださったのがシュミット家の人でした。名前は確か……スタニスラス・シュミット。ドイツからフランスに渡った貴族でスタニスラス本人は伯爵と聞いていますわ。」 「あの、ロマネ・コンティも彼から頂いたものなんですか?」 「実は違うのです。シュミット家は一家が離れ離れで今やロシアのサンクトペテルブルクに施設が少しあるだけのようです。どうやら、フランスの他にもロシアでも活動していたみたいです」 「そのワインはロシアからということですか?」 「そうです。あのワインはシュミット家の施設を管理している代理人の許可を頂いて貰ったものなのです」 「ということは、その家族はもしかして……」 「いえ、私は一族はいると信じています。特にスタニスラス・シュミットは生きていると信じています。私は、彼に恩返しをしなければなりません。私も、私の夫も彼に助けられたのですから……」 「そうでしたか……。なんか、申し訳ありませんでした」 「ふむふむ、そうでしたか!私たちもスタニスラスさんを探すお手伝いはできませんか?」 「お姉ちゃん……?私もささやかながら手伝えたらと思います」 「でも、Japonにいる可能性は低いわ。なにせ欧州で活動していたみたいだから。私は艦娘になって日本に派遣されて来たけど、今もヨーロッパで探したい気持ちは山々なの」 「でもね、お母さん。日本には神風ちゃんも春風ちゃんもいるの。大切な仲間がいるの。日本にいながら探したらいいと思うわ」 「そうね、朝風。私達は一人じゃない。もしかしたら彼は日本にいるのかもしれないわ」 「少しずつ手がかりを探すことならできそうですね」 「協力します!」 「村雨ちゃん、春風ちゃん、ありがとう。必ず恩人を探してみせます。せめて、スタニスラス・シュミットが残した一人息子の手がかりでも……!」
春風はハンカチをコマンダンテストに渡した。 「せっかくの朝風ちゃんのためのパーティですもの。残りの時間は短いですが、楽しみましょう」 「Merci」
こうしてパーティーは大盛況の中終幕を迎えた。迎えの車からグラーフ・ツェッペリンが現れ、娘二人を連れて帰るときであった。 「Bonsoir, Commandant Teste」 「貴方は?」 「グラーフ・ツェッペリンだ。村雨と春風の父親を、している」 「わざわざ、送るのですね」 「夜も遅いからな。こちらこそ、娘を招待していただき、感謝する」 コマンダンテストは『Graf Zeppelin』の名刺を受け取り、車が闇夜に消えるのを見つめていた。
「クリスマス対策会議をします!」 「おーっ!」 「……なんでうちでやるんですかね、義姉さん」 ついつい疑問をこぼしつつ、昼時のゲストの白露義姉さんと夕立ちゃん、そして村雨ちゃんと僕の分、四人分のミルクティの用意をする。させられていると言ってもいい。 「ごめんね、騒がしくって……」 「まぁまぁ、いいじゃないの?私たちも子供たちのプレゼント、考えなきゃいけないでしょ」 「まーそうだけども」 「今年も一緒にパーティするんだから、これが一番効率がいい!」 「睦月ちゃんや朝霜ちゃんの分のお菓子も持ってきてるっぽい!」 「もちろんあの子たちが来るまでに会議は終わらせるよ?ほら座った座った!」 言いくるめられて言う通り。これでもこの人たちの上司だった過去があると自分でも信じられない。否、あの頃も給仕くらいはさせられて、もとい、していた気もする。ともかく、今は義姉と義妹と愛妻である。炬燵を囲んで、パーティの準備を始めよう。
「……これでどうでしょう、夕立さん」 議長の真剣な声が、クリスマス会議会計担当に問う。静寂の中、電卓を叩き、メモ帳をペンが走り、本職会計から受け取った資料と見比べて、そして。 「……予算内!大丈夫っぽい!」 無事、認可され、緊張の糸が解ける。会議を始めて数時間、これにて決着。白露義姉さんは寝転がり、村雨ちゃんは息をつく。夕立ちゃんも同じく安心した様子で、手早く会計道具を片付ける。「いつ帰ってきてもおかしくないっぽい」とは、気の利いたことで。 そしてその予見通り……と言うほどではないけど、息抜きもそこそこに睦月が帰ってきた。お姉ちゃん二人に喜んでいるところ悪いが、先に宿題をしてもらおう。僕がそう言わずとも提案し、その上監督役を買って出てくれるあたり、義姉さんも大人になったものだとしみじみしてしまう。全く、誰目線なんだか。村雨ちゃんも同じことを考えていたのか、二人を見て優しい目をしていた。
「……あのさ、おじさんいつも5時には解散しましょうって言ってるよね。暗くて危なくなるからって」 「うぅ」 「…ごめんなさい」 「そんなこと言っても、冬なんだから仕方ないじゃーん!いっちばん早く暗くなる季節って知らないのぉ?」 「白露義姉さんが口答えしない!」 17時をしばらく回って、遊びに来ていた如月ちゃんと清霜ちゃんの送迎をしている。いくら同じ小学校区の近所だからって、子供の足なら時間がかかる暗い道を、女の子だけで帰すわけにはいかない。自転車を荷台に詰め込んで、今日「も」楽しいロスタイム……そう、「今日も」である。恒例になりつつあるのはあまりよくない傾向なので、厳しめの口調で釘をさすが、まさか助手席からの反撃が雨あられとは思わなかった。 「だいたい、もっと早く注意すればよかったんじゃないの?お・じ・さ・ん?」 「お前がいつまでもこの子たちを放さなかったせいだろ!」 「あーお前って言った~!お義姉ちゃんにそういう言葉遣いいけないんだ!」 「うるさい!お前はお前だ!」 「……なんだか、懐かしいっぽい」 前言撤回、こいつはいくつになっても一番の悪戯娘。よそ見をできないからわからないけれど、わかる。白露はあの頃と同じ顔で笑っている。僕も、あの頃に戻っているのだろうか。 なんだ、かんだと言い合っている間にくすくす、と背後から押し殺した笑い声が聞こえてくる。少女三人、特にちょっと叱ってしまった二人が楽しいならそれでいいかもしれない。清霜ちゃんはちょっと大笑いしすぎな気がするけど、咎めるほどではない。…というか、朝霜ほどではない。 「なぁに笑ってるの、おじさん」 「なんでもない。あと白露、お前はそう呼ぶな」 そして、送り慣れた家に着く。しかして、すこし見慣れない姿。自転車を下ろして、つい見惚れてしまう。 「すごい……」 「うふふ、もうすぐクリスマスですもの。父が張り切っちゃって」 「イルミネーションか。いいお父さんだね」 「いいなぁ、わたしもパパにお願いしようかなぁ」 「それじゃね、如月ちゃん!」 「はい、また今度。今日はありがとうございました」 彼女はドアから踊るように降りて、一礼。光を浴びて、髪が、髪飾りが輝く。最後に一言、「舞台のこと、また連絡するね」と付け加えると、「楽しみにしていますね」と微笑んで応えた。迎えに出てきたお母様は、如月ちゃんに似て美しい。彼女も旦那様の一番なんだろう。僕の村雨ちゃんと同じように。
雪が降りそうで、降らない夜。清霜ちゃんに舞台の話をしながら、闇を照らして進んでいく。最愛の家族のもとへ、早く帰してあげなければ。
師匠(せんせい)が走るくらい忙しい時期の師走。 実際は当て字とか、師匠ではなく坊主だとか諸説あるが、僕としては師匠は面白いんじゃないかなと思っているのでそういうことにしよう。
昨年まではのほほんとどこ吹く風だったうちの先生(妻)だが、今年はそうも言ってられないようだ。グラーフさんからの要望が多く、それを反映させようと考えているらしい。
「それでも本業のエッセイに全く支障が出てないから大したものよ! 担当として鼻が高いわ〜」と気楽な言葉を放つ飛龍も体重が落ちたとか言っている。 民間の即売会に某出版社が出展するということでその作品の推敲で慌ただしいらしい。
ああもういよいよ年末かぁ。
僕の仕事も忙しい。 麹が出来ていよいよタンクの中では酵母たちが発行してる最中。 その様子を常日頃記録、おかしかったら蔵の温度を調整するなど、鼻と目と耳、それに手。 五感をフル活用。 (他の職人さんには頭が上がらないなあ……) ただ僕の小さな蔵ですら、お酒作りは一人ではとてもやりきれない仕事。僕の家でのお仕事に連れ添ってくれている職人さんたちには感謝の2文字に尽きる。 年が明けたら新酒、ひやおろしと出荷の時期。 火落ちの心配も無いし、今年はどんな味になるのかなと作り手ながら楽しみだ。
各々の事情を抱えながらも演劇の練習も大詰めだ。
雲龍は立ち上がって色々言うことも少なくなった、山雲も響く発声をしているし、飛龍も着ぐるみを着ながらも熱演している。
もう一人の愛娘と僕たちとともに戦ったアメリカの空母がいよいよ帰ってくるのだ。
僕も大道具の作成や照明の操作も慣れてきた、素晴らしい家族と仲間に恵まれているとアピールしたい。
そんな冬の日の夜。
さて、今日は冬至。 家の湯船には黄色い柚子が浮いている。
家になっている柚子を風呂へ入れただけの簡単なゆず湯だが、強い香りがお風呂場を超えて台所まで漂ってきた。 邪気を払うために香りの強い柚子を入れて禊を行っていたというが、ここまで漂ってくるとは恐るべし柚子の力……!
「大きいの選んできたわ〜、あま〜いなんきんね〜」 女性陣がゆず湯を堪能している間、僕は台所で夕飯の支度中。大きな大きな緑色の皮の南瓜と格闘中だ。
冬至に『ん』がつくものを食べると運気が上がるんだよと説明したら、南瓜(なんきん)をどこからともなく持ってきたのは愛娘の山雲。 あとで畑を見せてもらったが、冬のお野菜を育てているとは……。 親バカではあるが行く末が恐ろしい。
さて圧力鍋で一気に煮込みシチューにしたが、それでもまだ半分残る。
これは天城に渡してスイーツにでも家の食事でも生かしてもらおうか……。
今日の夕飯は南瓜(なんきん)のシチュー。 野菜の甘みと牛乳のコクがよく出たとても美味しいものになった。
いよいよ本番も近い、頑張ろう!
冬休み。イベントの多い季節だ。 家族との生活はいつだって色とりどりで、語ることのない日なんてそもそもないのかもしれないけれど。
22日、終業式。 持ち帰る荷物はたくさんだけど、車を出したりはしない。本当のことを言うと出したいんだけど、過保護でもいけない。と数年前たしなめられた。村雨ちゃんの言い分曰く、艦娘だって能力が完全に目覚める前から訓練してたんだし、とのことである。あの子たちは艦娘になるわけじゃないんだけど、何かにつけて保護してもカッコ悪い気もする。 お楽しみの通知表は、なかなかの高評価。ここ数か月は劇の練習もあって正直不安ではあったけど、逆に文系科目にいい作用を及ぼしているようだ。算数、理科も、パズルとかと同じようにイメージに落とし込んで出来ているらしい。 体育は僕に似ず抜群、図工もよし。難関となってくるのは社会科か?覚えること多いもんな。 親になって驚いたのが、今の子は英語もパソコンの扱いもバリバリやるんだと。英語はウォースパイトに頼って、実際会話は問題ないと思ってたんだが、朝霜の授業内容になると筆記が追い付いていないらしい。あと、睦月はまだたまにイタリア語が混ざる。朝霜も通った道なのでこれは心配していない。 総合して、今年も文句なし!お年玉弾まないといけないかもなぁ。村雨ちゃんと要相談。
23日。年賀状戦線。 娘たちは友達数人。そして祖父母と白露家へ。僕は知己、仕事関係の人。村雨ちゃんもご友人へ。鎮守府時代の元艦娘たちには、それぞれが一言ずつ書く形で。 娘たちは聞いてないけど、夜のラジオでモデル・タレントのSenちゃんが僕らの劇の宣伝をしてくれていた。……川内のやつ、毎週毎週好き勝手やってまた怒られても知らないぞ。それがウリといえばウリなんだから、いいのかね。
24日!クリスマスイブ!! 好きで無慈悲な練習計画を入れたのではなく、26日(月)以降になると帰省込み、遠出レベルで各人で予定があるだろうなぁと思ったんです。逆に24,25なんて遠出しても地獄めいて混んでるんだろうなと思ったんです。その上でちゃんと許可を頂いて開催です。 段々出来上がっては来ている。年が明けしてしばらくすれば本番を迎えるこの劇は、各自の協力もあって順調に進んでいる。時に全体のバランスを見て調整や修正を行いはするけれど、これからがらりと変わることはないだろう。まさしく軌道が安定したわけで、少しずつ余裕はできている。 子供たちも僕ら親だけでなく、劇団の役者たちにも積極的に話を聞いている。うちの二人はともかく山雲ちゃんは初顔合わせばかりのはずだったけれど、かれこれ数か月もすれば慣れるものか。大したものだ。 慣れると言えばご両親もなかなかのもの。パパさんは照明機器の扱いのコツをつかみ、また時に観客目線で目の覚めることを言ってくれる。雲龍さんは逆に専門的な部分をどんどん吸収し、世界を作っている。勉強熱心さにつけて頭の上がるところはなく、盗もうとしていた速筆のコツとは、結局性根の部分の話になりそうだ。村雨ちゃんや青葉お衣に助けられてギリギリの僕には耳の痛い話で、直視したくないな…。 グラーフは特に言うことなし。いや、本当に言うことがない。技の切れは増し、舞台演劇の間合いもつかみ、発声方法も適応させてきた。何を言えというのか。全く恐ろしい。 村雨ちゃんはそんな僕らを見ながら、陰に日向にお手伝いをしてくれている。専門としてやっているわけでなくても、流石に僕の妻を長らくしているだけのことはある。いつの間にかいろいろと覚えて、簡単なケアやサポートが立派にできる自慢の奥さんだ。子供にセリフの意味を教えたり、衣装の具合を確認したり、これが結構八面六臂。表だって僕を助けることはあまりしないけど、目が合った瞬間微笑んでくれる、それだけでいいのだ。
聖なる前夜は、そのまま料亭での親睦会へ。鳳翔さん、龍驤との約束を年内に果たせてよかった。 「少し練習場の片付けと打ち合わせがある」といって到着の時間をずらし、赤服白髭で入店。毎年恒例のサンタ装束が、今年は父三人でうちの子たちにも衝撃を与えられただろうか。ここでの共通プレゼントは所謂お菓子入りのブーツ。鳳翔さんも龍驤も欲しがらないでほしい。 一通りのオープニングを終えてからは、和洋折衷、古今東西のお料理が並ぶ大賑わいのパーティへ。途中から合流したご家族含め、皆さん楽しんでいただけたようだ。子供たちははしゃぎ、空母たちは昔話に花を咲かせ、妻同士、夫同士もまた日々の話をする。料理の話題には睦月が首を突っ込み、朝霜は異国に思いを馳せている。僕は速筆のコツを聞き出すことに失敗。なんとなく通じるものはある気がするんだけど、肝心なところを今一歩つかみきれなかった。はぐらかされた感じはしないけれど、話の広がり方、回し方が不思議な人だ。旦那さんも日々楽しいんだろうねぇ。村雨ちゃんは何の話をしていたかわからないけれど、上機嫌だったのでよし。自分の姿に似た少女に何を話していたのやら。 今夜は運転手だけにお酒を入れなかったけれど、ご自慢の日本酒を頂いた。グラーフからはコーヒーを頂いて、僕はザラの紅茶を贈る。なぜか飲み物で三角形が出来上がった。イタリア娘の紅茶ということで少し驚かれたようだけど、味はもちろん各方面のお墨付き。「コーヒーだけっていうのもなんだものね。せっかく日本にいるし、本場の人とも会えたし」と言っていた日が懐かしい。 村雨ちゃんは、確か雲龍さんに眼鏡と、グラーフのとこの奥さんに手袋だったかな。子供たちは事前に雑貨屋で小物類を選ばせている。チェックはしていないけど、義姉妹の助けもあって予算内でいいものが選べたはずだ。どうやら各々、満足していたようでなにより。 そして、あまり遅くなりすぎないうちに解散、解散。星は満天、寒空に祝福の光。
25日。白露家でのどんちゃかクリスマス。 枕元に置かれたサンタさんからのプレゼントのニット帽を被り、新作のパーティゲームを持って、いざ白露家へ。ぱっぱらー。今日は歩きだからお酒も飲める、ということで僕ら夫婦も何気なくワクワクしている。ちなみにお互いに贈りあった手編みのマフラーをしているので、村雨ちゃんの方が不格好だったりする。それでも手編みは娘たちにとっていいものらしく、来年はお菓子ブーツじゃなくマフラーがいいと早くも予約が入っている。ふむ……どうしたもんか。 ゲームあり料理あり、手作りケーキありの大騒ぎ。天城さんのところも大忙しだったんだろうかね。 プレゼント交換もまた、いい具合にごちゃごちゃであった。姉妹10人に僕、睦月に朝霜で13人もいれば嬉々交々。いやまったく、いい日であった。
ここから大みそか、帰省、あの鎮守府からの招待もいただいている。さぁて何が起きるやら。冬、冬、冬だ。
26日。クリスマスお泊り翌日。 結局長いマフラーを二人で巻くことはかなわなかった。二人きりで聖夜ってのも、出来なかった。 それでいいんです。家族や友達と一緒で、笑えてればいいんです……だなんて。正直、そんな大人になり切れないけれど、頑張って少年の自分を御して生きる。愛も恋もあってよかろ。
昼とはいえ真冬。寒さに頬を染めた彼女をつい見つめてしまう。気付かれて、微笑まれて、ドキドキ。
その僕たちを見るや否や、割って入るのは朝霜と睦月。わかった、わかった。手を繋いで帰ろう。朝霜の手は、まだ小さいけれど、確かに暖かく、しっかりしてきた。睦月はお姉ちゃんとママに挟まれてご機嫌。
奥さんは素敵で、娘たちは元気。幸せ者だなぁ。
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いつもお世話になっております。
先ほど、日付が変わったころゲーム内でケッコンしました。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
ケッコンおめでとうございます
これからも愛して下さいね
ありがとうございます。
ほんとは昨夜中(いいご縁の日)にケッコンしたかったんですけど、ギリギリで逃しましたね。
その辺の手落ちも含めて笑ってくれてます。
とうとうか村雨ニキ、おめでとう……。
次は155やね
ありがとさま。
遠すぎる(断言)
11月になると僕の酒蔵でもいよいよ準備が始まる。
貯蔵し、精米したお米をお酒に使うために芯の部分『心白』まで削らなくてはならない。
とは言え、最近では精米工場で機械がやってくれるので非常に助かるのだが。
「捕まえたわー」
どちらかというと肝心なのは、酵母の素となる酵母菌を増やすこと。
これは本来であれば麹から作らねばならないのだが、山雲曰く我が家の中に潜んでいるらしい。
彼女が指でつまんでシャーレの中に入れて顕微鏡を見ると、確かに菌がいる。
……菌が裸眼で見えるとは。
我が娘ながらとんでもない能力を持っている。
さてその話は少し置いといてこの間は劇についての会議が行われ、練り合わせを行われたようだ。
演劇、映画と言った芸術に乏しい僕は戸外で大人しくしていようとしたが、村雨さんの旦那さんから出ても問題ないと思いますよと言われ、それならと軽い気持ちで同席した。
葛城から前日に『社長たちに非礼が有ったら、あなたでも本気で怒るからね!』と釘を刺される。
いやいやそれは向こうが判断することだろうに。
昔から無茶振りが酷いぞ、葛城。
山雲と朝霜ちゃん、睦月ちゃんは大人たちのすぐ近くで遊んでいた。
おままごとをする姿は仲が良いなと思ったり、2人に付き合う朝霜ちゃんはお姉さんだなと感心させられたり。
そうそう飛龍も僕らが着いて、すぐやってきた。
某出版社で演劇に使われた作品の資料や台本を抱えて持ってくる気合の入れように僕はびっくり。
……それだけ気合が入っているということか。
何か僕が居るのが引け目を感じるぞ。
僕一家、村雨さん一家が一家がやってきて、それから。
「待たせて済まなかった、そしてご足労かけて申し訳ない」
麗人のお出まし。
帽子を被った麗人、グラーフ・ツェペリンが奥さんと子供たちを連れてやってきた。
……旦那さんの手を握る奥さんは愛しているんだなと分かる。 奥さんも優しそうな方で良かった。
比翼連理、夫婦仲が良い事を表す故事成語が有ったが、他の夫妻が仲睦まじい様子を見るのは嬉しい。
会議だが、グラーフ・ツェペリンの入れた珈琲を飲みながら行われた。
……珈琲ってこんな美味かったっけ?
いや、珈琲をあんまり飲まない僕だが香りも味も非常に良くて美味しいのだ。
僕もお茶請けに天城のお店から買ってきたケーキを出したが、コーヒーによく合う。
甘いチョコレートケーキはブラックの香りを引き立ててくれた。
(雲龍の煎れてくれる珈琲とは違う魅力が有る……)ズズズ
さて、その会議の内容。
雲龍は僕や山雲、飛龍も居るからか普段と同じように話していた。
……相変わらず丸○くんのようなグルグルメガネをかけていたが、人見知りする彼女にしては凛と話す様はカッコいい妻であり、母であったと思う。
特に大きな変更もなく細々とした要望を取り組む、表現の方法を変える、宝塚歌劇団のような歌を取り入れるなど……。
聞き手に徹していたが、ここまで色々考えているあたり、グラーフ一家が審美眼に肥えている事は良くわかったし、村雨さんの旦那さんの出演する家族を輝かせたい気持ちも見えた。
何よりグラーフ・ツェペリンの子供たちの意見を取り入れてくれるところは頑固なドイツ人のステレオタイプだけじゃないんだなと感心させられてしまった。
これも奥さんや子供たちを愛する愛ゆえか。
会議が終わった後。
「待て、wolke」
そそくさと立ち去ろうとする雲龍にクールな声が呼び止める。
「……何かしら?」
あまり呼び止められたくなかったらしく、顔には出さないが嫌そうな声をしているのがわかる。
……葛城は仕事で、天城はケーキの搬入等で面識があると聞いたが、雲龍はグラーフ・ツェペリンと面識が無かったけ。
「いや、特に無理難題を言うつもりは無い。 少し確認したいことがあってだな」
「なにかしら?」
「前にも飛龍を通して伝えてもらったと思うが、キチンと寝ているのかと気になってな」
「ああ、その事。 おかげさまで睡眠時間をキチンと確保するようにはしています」
「うむ。 君は独り身ではないのだから、身体は大事にしなくてはな」
「ええ、気をつけます」
「それとだな……」スッ
雲龍の目の前まで近づくとグラーフ・ツェペリンは雲龍からグルグルメガネを取る。
「その黄金の瞳、私にも見せてくれ雲龍」
大胆。
鎮守府で働いていた頃、魔術師と言う空母を風の噂で聞いていたが、こんな風に懐柔するとは。
雲龍も顔がどことなく赤らめている。
それはバレていた恥ずかしさか、それとも評価された嬉しさからか。
……僕もこれは見習わなくては。
そうそう演劇についてだが、山雲も出ることになったようだ。
海賊の一味役。
雲龍も出演を打診されたが、断っていた。
しっかり今後の作品に生かすために勉強したいとか。
そして僕は力仕事の方が似合うので証明と裏方役にさせて頂いた。
もうすぐ秋の終わり、演劇祭もあと少し。
本土の山では紅葉もピークを越えたころだろうか。それとも、もう早くも雪遊びに興じている人もいるんだろうか?どちらにせよ、こんな月明りの下ならば相当に美しかろう。僕らの配属された島にはそんな洒落たものはなく、波の音が聞こえるだけ。一人分の影に、もうひとつ小柄な影が合流する。
「こんな時間に悪いね、村雨ちゃん」
「はぁ。なんですかぁ、提督。本当ですよ、しかも外に」
ただいま11月5日フタサンサンマル。消灯時間後。そんな時間に副官を呼びつけておきながら、言葉と心の準備ができていない。世間話の話題を後出し的に探しても、星の間を目が滑るだけ。その間に、彼女はコートの袷を直して、僕を待つ。こちらは具合のいい言葉は出ずに、ただ誤魔化しに似た散歩のお誘いが限界だった。
「えーっと……あのさ」
「もう、なに?なんの相談ですか?」
「寒くなってきた、よね」
「本当、そうね。外だし。編み物でもしようかしら」
「編み物できるんだ?」
「えぇ、出来るよ。ちょっとだれど」
「そっかー……すごいね。釣りも上手だったね」
「まぁ、器用なのよね。ちょっとだけ」
「ちょっとってレベルじゃないと思う。すごいよ」
毎年の遠洋漁業の護衛としても十分な成果を上げてくれているが、この埠頭の釣り師娘の中でも人一倍の釣果を上げている印象だ。あれは艦娘ではなく、彼女個人の個性。そういう何気ない一面を見るたび、彼女たちが兵器ではなく少女であるという思いが強くなる。そういった部分をこそ大切にしていきたい……という麗句を盾にしたくはないが、あの部屋には勲章も褒章も未だに少ない。これは僕の不徳の致すところだ。
「それは光栄です。……それで、なんのご用でしたっけ?」
「うん……」
「?」
話題は行って帰って、立ち返ってしまった。村雨ちゃんは和んだようだが、僕だけは再び緊張し始める。それを感じ取れないほど、並ぶ彼女は馬鹿じゃない。少し跳ねてリズムをとるのは、それを解すためなんだろうか。
残念ながら、丁寧に結われた髪……消灯後、姉妹に黙って部屋を抜け出す際に結い直されたであろうツインテールが舞う様に目を奪われる余裕もないんだけど。
「何なに、言いにくいこと?備蓄は特に減ってない、から……何か方針の変更でも?」
跳ねた割に切り出してくるのは指揮全体の問題なあたり、根は真面目である。
「いや、特にその予定はない」
「じゃあ……あ、昼に届いてた包み?上から何か言われちゃった?」
「いや、みんなのおかげでそういうことはないよ」
「仲良しで何より!……あ、もしかして恋愛相談?提督その辺疎そうだもんね。だれだれ?」
「違う違う!」
「あら、つまんない。……誰かと喧嘩、しちゃった?」
「ううん。そんなことはないよ。大丈夫」
真面目半分、ふざけ半分だった彼女が、急に足を止めて、眉根を寄せる。純粋に心を割いているのがわかる。その姿と心の優しさが、何よりもいとおしくて、殊更安心できるような言葉を選び、微笑む。うまく笑えていただろうか。
「ふぅん。じゃあ何ですか?」
「……」
「な・ん・で・す・か」
心配の跳ね返りなのか、僕をまっすぐ見たまま語気を強める。眉の象る感情は、心配の中に焦れた呆れが混じっていて、逃がさない意思が滲む。
ここらが誤魔化しの限界。伝える覚悟を、固めなきゃ。切り出せ。
「……村雨ちゃんはさ、夢ってある?」
「夢?……そうねぇ、やっぱりみんなで無事に勝って終わりたいわよね」
「うん。そのあと。鳳翔さんはお店を開きたいって言ってる。そういうやつ」
「終わった後……終わった後か」
「そう。後の話」
「うーん、ちょっと考えたことなかったかもしれません。またみんなと話してみるね」
「……そうだね。急にごめんね」
「いえいえ。こちらこそ、張り合いのない答えでごめんなさい」
埠頭の先から、建物側へ向く。すなわち帰投で、会話の終わり。彼女が一歩ずつ、ゆっくり遠ざかる。ポケットの中で手の感覚が失せていく。心拍数が下がっていく。指先に当たる硬い感触で、頭の中で何かが弾けた。
「……あの!」
もう一度心臓を叩き起こす。心を熾す。
「!……はぁい?」
少しだけ驚いて、すぐに笑顔で振り向く彼女。緊張が目がいかれて、逆に彼女が大きく見えてきた。
「昼に来た包み、あれ、僕個人の買い物なんだ」
「はぁ」
喉が渇く。海の匂いが鼻につく。
「もし!……もし、僕が、僕らが一人と欠けず終戦まで勝てたなら」
彼女の瞳に吸い込まれる。困惑もあるが、静かに待ってくれている。波も風も、すべてのノイズが消える。
「これを。受け取ってくれますか」
かじかんだ指で、夜色の箱を開ける。月明りを受けて銀が輝く。
「……指、輪?」
「僕の夢の一部に、なってほしいんだ」
心臓が破裂しそう、という表現は本当に陳腐で、使いまわされている。小説で読んだ、脚本で見た、軍属になってから何度も思った、そのどれとも違う。痛いほどの脈動。心臓から下は存在しない。地につく足がない。腕もかろうじてついているだけ。乾ききった気管を上って、目と頭が熱い。
「ダメ、かな」
「……ねぇ、提督」
そっと香りは暖かく、声はやさしくもはっきり聞こえる。そこで初めて、大きな彼女は目の錯覚ではなく近くにいただけということを知る。目線は、海を見ている。耳が紅潮しているように見えるのは、今度こそ錯覚だろうか。
「貴方は、いつもだらしなくて、気も弱くてさ」
「うぐ」
「センスも微妙にずれてるし、あんまりカッコよくもない」
「……はい」
言葉一つ一つが心に刺さる。指輪の箱を仕舞う指先が冷たいのかすらわからない。熱のすべてが心に集まっていく。いかん。泣くな。
風がひとつ、強く吹き抜けて、獣のように鳴り叫ぶ。再び仕舞い込んだ手まで冷やされて、全身余さず凍りつくようだけれど、些細な事だった。群れの風の唸りが止んで、小さな声がここまで届く。
「だけど、好き」
声にならない声が、吐息のように抜けていく。聞き返すこともできずに、耳が拾ったそれを反芻する。好き。
「一緒にいるの、案外楽しいわ。相性いいみたい。弟みたいで、お兄さんみたいで、安心できた」
月明りを浴びる彼女は、こちらを向いてはくれない。海と空と、彼女。それだけで一枚の絵画のよう。
「でも、違うのよね。きっと提督が言ったのは、もっと……もっと近いものでしょう。……想像したらね、夢の中の私、笑顔だったの」
波の音は絶え間ない。彼女の瞳にはそれが映っているんだろうか。そのきれいな瞳には。斜め後ろからでは見えない瞳には。
「『白露型』としての私は、もちろん好き。誇りよ。『古株』として、いつも頼ってくれるのも嬉しかった」
風は弱く、穏やかになった。雲は薄く、星はまばゆく、彼女の髪は控えめに揺れる。
「でも貴方は、『私』がいいって、言ってくれたのね」
「はい。村雨ちゃんと一緒が、いい」
「……嬉しいっ」
振り向いた彼女は、今まで見たことのないような笑顔で、誰よりも美しい涙の粒を湛えていた。見惚れる僕へそのまま飛び込んできて、僕は抱きしめるのが精いっぱい。
熱が伝わる。熱を伝える。鼓動と、涙の粒が混じりあう。視線が合えば、あまりの近さに赤くなるけれど、逃げ場はない。引き合うだけ。宝石のような一瞬。二度以上は、今の僕らには危険な蜜。お互いにそう思って、片手だけを繋いで離れた。だけど、分かち合った全ては、遍く心と体に宿っている。言葉にしなくてもわかるから、頷いてゆっくり寮に帰る。
いつか、似たような季節に同じことがあったな、とぼんやり思い出すのは、しばらくは後のことだった。
月は高く、波は静かで、星が一筋流れていった。日付はもう、変わっていた。
彼女の指は戦場に出ていたとは思えないほど白く、あの頃のなけなしの俸給で買った簡素な指輪なんて、むしろ邪魔になりそうなほど美しい。もっと綺麗なものを贈ってあげたいと言う度に固辞されている。
僕の指は彼女のように美しいわけではないけれど、不慣れな当時は指輪をつければ落ち着かないところはあった。
戦闘があった。宴会があった。訓練があった。喧嘩があった。仲直りがあった。終戦があった。新しい生活があった。色とりどりの時間が流れた。
その中で僕らは、あの夜から一日たりとも指輪を外していない。きっと、これからもそうなのだろう。
問うまでもなく、そう思えるんだ。
「村雨ちゃん、いつも本当にありがとう」
「なぁに、急に。どういたしまして。ね、―――くん」
「ん?」
「こちらこそ。いつも、ありがとね」
「こちらこそ、どういたしまして」
「うふふ。あ、ワイン来たよ」
「村雨ちゃん。愛してます」
「……えぇ。私も、愛してます。―――くん」
「これからも、よろしく」
「こちらこそ」
「僕らの夢に」
「「乾杯」」
~
「今頃おいしいもん食べてンだろねぇ二人は。ほい、どうぞ」
「おとと。ありがと、江風さん!」
「一年に一度だし、こういうのもいいと思うな。さ、準備はいいですか?」
「もちろんさぁ!早く、肉!肉!」
「こーら、朝霜ちゃん、お野菜も食べないと一番にはなれないからね?」
「そうそう。ちゃんと食べないとお肉焼いてあげないっぽい」
「デザートもなし、だからね」
「うぅ…食べます、野菜もたくさん食べますって」
「ふふ、いいお返事です」
「涼風、君もだからね」
「うぇっ!?流れ弾ッ!?」
「タイマーよし!じゃ、撮りますよ?」
「こけないでね?」
「もうドジっ子じゃないですから!」
かしゃり。
最近、旦那はよく棺桶で寝るようになっていた。
旦那いわく、光が届かない暗闇の世界かつ中身がふかふかでとても眠りやすいかららしい。
太陽が昇っても棺桶なら真っ暗闇だし確かにいつまでも寝れそうだ。
旦那は狭いところは好きらしい。そりゃ本になって自分の世界で眠るのも好きなわけだ。
一度でいいから入ってみたいなぁ。
「やぁ、悪いね連日」
「いいえ、気にしないで。私も楽しいもの」
水曜日のカフェ、ほかの客から離れたテーブル席にて。彼女と会うのはつい数日ぶりだったりする。
ウォースパイト。かつての鎮守府の仲間の一人で、今は劇団主宰。時に同業者、時に上司にあたる戦友だ。
先々週の日曜日は、朝霜と睦月を連れて企画チームのお歴々と打ち合わせ。
何の因果か才媛ばかりが集まってしまった現場において、山雲ちゃんのお父さんがいてくれたのは本当に助かった。男性がもう一人いるのといないのでは、やはり違う。それに、彼自身は門外漢と言っていたが、だからこそのお客さん目線での発言がいい刺激になったな。
初回と比べて雲龍さんの様子もかなり良かったし、いるんだな、その場にいるだけで安心感を与える人間ってやつは。照明周りをベースに裏方を熟す中でも、劇団の本職たちと巧く馴染むだろう。
雲龍さんは出演されないとのこと。その分脚本や演出の面を勉強されるということで、ある意味では僕の責任が大きくなったともいえる。あまり人を育てるのに自信はないが、その点あの人ならば問題なく吸収してくれるはずだ。少しでもいい刺激になればいいな、というのが建前で、独特な感覚と速筆の秘訣を少しでも感じ取りたいというのが僕の裏目標である。
村雨ちゃんには風邪の病み上がりなので大事を取って義姉さんのところでお休みしてもらっていた。親仲間との交流ができなかったのは少し惜しかったかもしれないけど、魔法使いを見るに、連れてこなくてよかった。誰にも彼にもああ近づくわけではないだろうが、もしもされたら嫉妬で凄いことになりそうだ、というのは知られないようにしておこう。それだけでひとしきり揶揄われそうだし、魔法使いの名誉にもよろしくない。
全体的に大きな問題もなく進行した先々週の打ち合わせで、一番の問題は朝霜だった。
家を出る前には「女優として打ち合わせするぞ!」と意気込んでいたものの、山雲ちゃんと睦月のお姉さんとして大半の時間を過ごすことになってしまっていた。父としてはお姉さんとしての顔が見られてよかったんだけど、本人は楽しくも悔いが残っていたらしい。
その悔いを晴らすための策が、劇団との打ち合わせへの出席。「僕が所属する劇団とも打ち合わせてくる」という話を耳聡く聞いていて、自分もでられるようにしてほしいと志願してきた。ただの思い付きじゃないことは、目と、言葉で十分。その上、睦月達に気負わせないように、夜に執務室の僕のところに一人で相談してきたことも殊勝で、提案を断る理由は一切なし。ウォースパイトと劇団メンバーに諸々了承をもらい、日曜日にセッティングさせてもらった。
「アサシモちゃん、昨日は大変だったと思うけれど、大丈夫だった?」
「疲れはしたけど、自信になったみたい。おかげさまで」
「そう?じゃあこれからはもう少し厳しくしてみようかしら」
「ん、そうしてあげて」
ザラお手製のコーヒーを味わいつつ、娘の試練を期待する。ウォースパイトは優しいから、これくらいでちょうどいいはず。
たしか先週のはドイツ式なんだっけ。あれはあれでよかったけど、イタリア式もまたよし。ウォースパイトお手製のイギリス式もまた飲みたいし、村雨ちゃんの手作りももちろんおいしい。その辺は節操無しの雑食なのは龍驤にも村雨ちゃんにも「いい趣味」と言われた僕の数少ない美点である。
「それにほら、あの後ちゃんとパーティではしゃいでたじゃない」
「そうね。本当に楽しかったわ」
「まさか神通ちゃんたちまで来れるとは思わなかったねー」
打ち合わせののち、家族や元鎮守府メンバーと合流して鳳翔さんの誕生日会を祝いに定食屋へ。夜の部を貸し切りにさせていただいて、みんなでお祝いを開催した。うちは少数メンバーだったこともあり、日曜日じゃなくても毎年結構な人数が集まっている。祝われる本人が厨房に入るのも妙なので、龍驤や春雨ちゃん、ザラをはじめ、みんなでそれぞれ料理を作るのが恒例の一大イベントだ。今年は特に、僕らの中の出世頭の川内三姉妹も到着して盛り上がったな。ちゃんと対面するのは初めての睦月が特に大興奮。学校で話さないって釘刺しがちゃんと効いてるといいな。
ともかく鳳翔さんはそれだけみんなに慕われている。ウォースパイトは特に、英国から来て心細くしているころによくしてもらっていたこともあり、鳳翔さんには娘のように懐いている。年は姉妹で通じるくらいだし、見た目で言えばウォースパイトのほうが姉にも見えるんだけど、本人たちが心地いいのならそれでいい。
「戦艦ウォースパイト」の性能自体は十二分ではあったものの、航行速度や能力のバランスのため、最前線で戦うような扱いを受けなかった。左遷ではないが、小規模の僕らの補強、および最前線の前のテスト運用として配属されたのはいつの季節だったか。戦艦をこそ己の名と呼び、ほかの子たちよりも固く緊張していた初対面はよく覚えている。
あれから一人の女性として、柔らかさを備えつつ、自分の足で凛と立つようになった。その過程で役者や劇の道を選んだのは、少なからず僕たちの影響もあるようで、誇らしく思う。
「みんな変わりがないようでよかったわ」
「全くだ。朝霜、あれから特に相談とか来なかったけど、今晩聞いてみるか」
「素直に話してくれるといいわね?」
「うぐ」
「そろそろ反抗期、くるんじゃないかしら」
「まだ……まだ早いんじゃ」
「Meetingでもしっかり話してたし、Ladyの成長は早いのよ?っふふ」
確かに打ち合わせでは、真剣さが口ばかりではない様子だった。山雲ちゃんもキャストに入るということで気合が増したんだろうか、自分の出番と同じくらい舞台全体のことを考えていた。もちろん本格的な劇、会議には不慣れで、当然未熟な部分ばかりではあったけれど、人としての成長は十分見受けられる。ここからさらに、劇を通じて成長するだろう。親ばかでもなんでも、誘ってみてよかった。
それでなくとも先週土曜日の予防接種では覚悟を決めるのが早かったし、本当に知らないうちに成長を済ませているのかもしれない。心は目で見て測れない分、あっという間に成長していることもある。幾度となく直面した当たり前の出来事だし、それを忘れていたのは傲慢だった。
その勢いで、成長を喜びつつも独り立ちで親離れされたくない複雑な気持ちをわかってほしい。いや、分かられても気恥ずかしいな。反抗期、くるのかなぁ。
思わず考え込みかける僕を見て上品に微笑み、カウンターの友人へ話しかける。白ワイン ?」
「ちょっと意地悪が過ぎたわね、ごめんなさい。そろそろ真面目な話をしましょう。Pola、おかわりをいただけるかしら」
「は~い、いつもので?」
「えぇ。おねがいね」
艦の来歴から思うところがあったらしいが、今となっては十年来の友。メニューを問うまでもない間柄。いつ見ても喜ばしい。
「僕は水で」
「え?
「水だっつってんでしょ」
便乗して僕もおかわりをいただきたいが、これ以上は経費で落ちない可能性もある。11月も12月も、我が家の予算は僕に厳しい。めでたいイベントに割くためなら、自分たちの小遣いを絞るべきだとずっと昔に夫婦で合意したことだから、別に文句はない。
文句を言わなくていいように、しっかり公演を成功させればいい。口を潤し、頭を冷やし、目を覚まさせる。
脚本、スポンサー、朝霜もといキャストから受けた要望。劇団のメンバーからの意見。さらに詰める必要のある部分に、不可避の予算の話など。企画室の会合がよくても、まだまだ現場の議題は山積みだ。
「さて、打ち合わせしますか」
アイドル少女のアニメを見ていると、娘たちはご機嫌。
だからってクリスマスの要望がそのグッズとは限らないので油断してはいけない。
相撲の面白さはわからないらしい。まぁ仕方ないと言えば仕方ないか。
あまり熱く語って煙たがられないようにしないとな。僕自身俄仕込みだし、なんとなくで見てる部分は大きいのでしっかり語れないんだし。
テレビの合間の学習教材CMでは、子供の可能性を謳っている。
朝霜も睦月も、その意味が本当に分かるのは先なんだろう。ならば僕らがその可能性を助けてあげないと。
この子達はどんな大人になるんだろう。
いい夫婦の日。およびいいツインテールの日。
とは言っても11月。結婚記念日、正確にはプロポーズ記念日があり、海風ちゃん、江風、鳳翔さんにウォースパイトと誕生日ラッシュがある11月だ。どれだけ工夫しても出費は大変なことになる。
そんな月の下旬なので、特別に何か贈りあったりイベントを設けたりはしない、できない。クリスマスと年末年始の予算がなくなってしまう。
だから、娘たちもツインテールにして、晩御飯をちょっといいものにして、あとはいつも通り。
そのはずだったんだけども。
「……こんばんは」
「あり、山風さん?」
「こんばんはぁ。どしたの?」
「ちょっとね。パパとママ、いる?」
日も沈み、夜の帳が落ちる前。珍しいお客が来るもので。
「…これ。結婚記念日とか、いい夫婦とかの…お祝い」
「あら、みんなからかしら。有難うね」
「……ううん。ちがう。あたしから」
「…おぉ!」
「じゃ、帰るね」
驚いた隙をつくのは、不器用な彼女の器用なところ。
それを見逃さないのが、娘たちの怖いところ。
「もう帰るの…?」
「ちょっとだけ!な?」
「あたし、そういうつもりは…」
「ふぇ…」
「……うぅ」
不器用な彼女の、優しいところ。
結局、そのまま夜は更けてしまった。
日付が日付なだけに、二人が寝付いてからでも帰ろうとする山風ちゃんを引き留めたのは、今度は僕ら。
もちろん、義姉さんたちへの連絡は済んでいる。
「山風ちゃん、今日はありがとうね」
「ほんと、嬉しかったわ」
「…どういたしまして」
「いつものだけど、グラスが違うと雰囲気変わるねぇ」
「なんだかゆったりした感じよね。うふふ」
普段からあまり積極的ではない山風ちゃん。
そんな彼女とせっかく話しのできる機会。逃すわけにはいかないし、せっかくならと贈ってくれたプレゼントであるワイングラスを使っている。
「それにしても、木製ときたか」
「…あの子たちもまだ小さいから、割れるとまずいかなって」
「ん、そーねぇ。ありがとね」
持った感触も違えば、口につける感触も変わる。然るべくして味の感じ方も変わってくる。少し厚く、重みを感じるけれど、これは安定と表現するべきだろう。ゆっくり味わうのにちょうどいい。
娘たちへの気遣いも含めてだけど、彼女の中の優しさが表れた逸品だ。
「…二人には」
「んー?」
「お世話になったけど。ちゃんとお礼、出来てない気がして」
「そんなことないわよぉ」
「あるの、村雨姉。……だから、ちゃんとあたしから、お礼したくて」
「…そっか」
もしかしたら、何かのお祝いをいつも姉妹連名でしてきたのを気にしてたのかもしれない。そこに不満も不義理も感じないけれど、否定はせずに受け取っておこう。こういうのは本人のけじめだし。
「ありがとね、山風」
「ありがと、山風ちゃん」
「…こちらこそ」
誰ともなく杯を掲げて、もう一度静かに乾杯。
「それにしてもいいセンスだよね。気に入ったよ」
「そうだ、これで日本酒もいいんじゃない?」
「…?日本酒も飲むの?意外…」
明日は祝日。娘は早起き。きっと朝からてんやわんや。
ほどほどにしないといけないけれど、そういうわけにもいかなそう。
春風ちゃんが意気揚々と招待状を自分に渡してくれた。
どれどれ。仲良しの朝風のお誕生日会があるのか。日にちは12/8の1800から……ん、12月8日なのか。
ああ困った。行かせたいのは山々なのだが、旦那の誕生日と被っているんだよなぁ。とっておきのディナーをそろそろ予約しようかなと思ったのだけど。
で、旦那が目の前を通りかかった。気まずそうな私と春風、そして招待状を見て、どんな状況か把握した旦那は開口一番、
「春風、朝風の誕生日を祝ってくるんだ。大切な朝風と友人がいるのだろう?きっと楽しい時間のはずだ。」
いつの間にか旦那に口をふさがれた私は旦那の優しい口調で春風に語りかけるのを見るしかできなかった。
笑顔を取り戻した春風をリビングに置いて私は旦那に書斎に連行された。
菫色の眼差しを私に向けて淡々と話す。
「娘の大切なものを、大事にしてくれないか?君も大切なものはあるだろう?」
「それはごもっとも、としか……。」
説教を食らってしょんぼりした私に旦那は腕を伸ばし、包み込んでくれた。
「ところでだ。」
「ん?」
「12月8日。覚えているのだろう?」
「貴方の進水日。あとは……。」
「結婚記念日だ。二人きりで愉しもうじゃないか。」
「もちろん!」
旦那が最中を買ってきた。
関西旅行のお土産らしい。
自分は小豆が苦手なのでスルーだが、娘二人が元気よく頬張っているのを見ると実に微笑ましい。
そろそろ舞台の稽古も始まる、自分は舞台に出ないけど全力でサポートしなくっちゃ。
劇の稽古。
どう演じるか、どう魅せるか、子供たちを筆頭に役者として考えて動く。
裏方である事を分かっていながら、ヒシヒシと伝わる緊張感にドキドキしながら見ていた。
「ライト、しっかり睦月さんを照らして」
「ごめんなさい!」
その風景に見とれていたら脚本家、僕の妻の雲龍に怒られた。
意外と言ってはなんだが、あの雲龍が席から真剣な眼差しで見て、役者ひとりひとりの動き方について指導している。
指導する度に、厳しく凛とした響く声を出していた。
(雲龍も出れば良かったんじゃないだろうか)
あまり大声を出すタイプでは無いので、声にも驚いたがここまで堂々としている様には感心すらしてしまう。
グラーフ・ツェペリンの奥さんや村雨さんの旦那さんとも話をして、脚本の手直しをして生かしている。
飛龍曰く『作る作品に本気なところが良いところ』と言っていたが、彼女の情熱は人見知りすら超えるようだ。
「次は朝霜さんの動きに合わせて照明を当てて」
「はい!」
すっかり手足のように使われている僕。
タンクを混ぜるのに櫂を用いているがそれよりも疲れる。
これは明日の朝には筋肉痛か……。
「叱ってしまって、ごめんなさい」
稽古帰りの車中。
学校から直行で稽古に臨んだからか疲れている山雲は後部座席でグッスリ夢の中な、今。
助手席で呟くように雲龍は僕に声をかけてきた。
「ん、さっきの? 裏方としてやるべき事をして無かったのだから当然の指導でしょう」
「気にしてないの?」
「家内の情熱に答えるのが旦那さんのお努めだからさ」
「そう……」
嘘ではない本心。
ペンを握り、物静かにひっそりと原稿用紙に様々な世界を作る彼女。
そんな彼女が舞台に世界を作ろうというのだ、応援しない訳にはいくまい。
旦那として責任重大。
「演劇とか興味あったの?」
「ううん、見せたい人がいるから」
「この劇を?」
「そうよ。 帰ってくるじゃない、私たちの家族が」
「……そっか、もうすぐ帰国か」
栗色のツインテール、勝ち気な性格に似合った釣り目、強い自信のある娘。
山雲が温厚なポニーだとするなら、彼女はじゃじゃ馬か。
学校の制度を使ってアメリカに留学して勉強している彼女。
そして何より僕ら夫妻にとって自慢な娘。
「山雲もすごいのよ、『できる姿を見せるんだからー』って」
「今の山雲を見たら、驚くだろうなぁ」
「そうね」
「「朝雲は」」
【アメリカのとある街の小さな家にて】
「荷支度完璧よ!」フフン
「山雲に成長した私を見せてあげるんだからっ!」
「もう準備を終えたんですか? お早いですね」
「あら、サラ先生どうしたの?」
「準備がどれだけ終わっているか気になったので覗きに来ちゃいました、Good! これなら心配ありませんね」
「そうよ、私はきちんとやれるんだから! 先生も大きな荷物を持ってるけどどうしたの?」
「実は私も日本の学校でお勉強することになったので、山雲さんと一緒の飛行機で行く準備をしていまして」
「先生も? すごーい!」
「提督もお元気だと良いんですが……」
「みんな元気よ、たまにお仕事で来る葛城お姉さんからお話し聞いてるもの」
「そうですか、とても楽しみです!」
「わ、私の方が楽しみなんだから!」
今日はグラーフ・ツェッペリンの進水日。
いちごが乗った小さなショートケーキをひとつつまみながら、いかにもお子様向けのシャンメリーを優雅に飲む旦那に思わずうっとり。
旦那は私の視線を気にせずにケーキを食べてる。
娘2人は朝風の誕生日パーティーに行っている。二人で過ごせるのはある意味貴重な時間だ。
いつの間にか時刻はフタマルフタマル。
「もうすぐパーティーが終わるようだな。二人で車で迎えに行こう。」
そう手を握られてガレージの車に乗り込む。
娘2人を迎え、寝かしつけたあと、旦那は甘口のアイスヴァインをすすり、嗜んでいる。
「ん、飲むか?」
そう頬笑むと旦那は急に顔を近づけてきた。
まさか。
そのまま受け入れ……たわけではなく、思わず両手でほっぺをむにっと制止してしまった。
そのままほっぺたをむにむに。
旦那もまんざらではない様子で、ニコニコしながら楽しんでいたご様子。
2分ほどして、白い肌が少し赤くなってしまったのでむにむにはやめて、今度こそ。
軽く抱きかかえて、唇をふわり。
甘い甘い糖蜜のようなワインの味がした。
このあとお姫様抱っこでベッドに連れて行かれて子守唄を歌ってもらったのは別のお話。
~レヴュー「Juwel des Meeres(仮題)」~
【演出】
・大筋のイメージ合意OK
・舞台特有の演出、制限について アドバイス進行中→実際にみせる←去年の公演?
・そろそろタイトルを正式なものに!→キャスト、スタッフにも聞く
【キャスト】
・劇団:問題なし
・小学生:立ちは〇 通しの緊張に慣らす必要あり←冬休み?←宿題は?
・飛:不安←覚えはいいけど仕事優先←出番調整の必要あり?
・グラ:大体OK 発声基礎 仕事もあるので仕上げは早めに
●要:発声の見直し 殺陣 小学生の息抜き
【音 照明】
・第六次案で完成? ←全体通しを見ながら修正
・通しで最終確認(山パパのケア大事に)
【大道具】
・進行中 年内に完成
・転換の練習はいつも以上に入念に(事故厳禁!)
【衣装 小道具】
・そろそろ本物の道具でいいかも
・衣装合わせと製作ははやめに(今回は対外交渉もあり)
【広報】
・青衣にたのむ ←僕、雲龍さんの連載
→ラジオ、テレビなど? ←テレビは無理では? ←航空社のスポンサー番組とかで…こう…?
→ラジオの場合誰が出る?→ウォースパイト 僕
→グラーフさん なくはないが多忙
→雲龍さん 難しい?
→川内がラジオで宣伝するとか言ってたけど大丈夫かな…
→いつもの劇団の宣伝路
【財務】
・がんばる
【その他】
・通しの日付とシーンごとのスケジュール見直し
→親睦会と忘年会(新年会?)の設定
――――――
「ノートよし、と」
「あなた、準備はいい?みんなは大丈夫よ」
「ん、行きますか」
空は青、風は強く、駆け抜ける空気はまさに冬。
今日は貴重な休日練習。頑張っていこう。
朝風の誕生日会。
朝風の母親のコマンダンテストが挨拶し、パーティーの幕が開ける。
「本日は、ムスメの誕生日にお越しいただいて、ありがとうございます」
「早速ですが、シュミット家より頂きましたロマネ・コンティで乾杯しましょう!カンパイ!」
春風と村雨は朝風と同じ机に招かれた。春風は朝風のグラスにシャンメリーを注いだ。
「誕生日、おめでとうございます。」
「ありがと、二人なら来てくれると思ったよ」
あれよあれよと白いテーブルクロスの上に食べきれない量の料理が運ばれてくる。
「バイキングだからね、村雨、春風。じゃんじゃん食べてもらっていいけど、無理はしちゃダメよ」
「もちろんですとも。朝風もハメを外しちゃだめですよ?」
「わかってるって!」
お腹が空いたのか、三人はつくね団子、カルパッチョ、ミニグラタン、パスタ、鮪のステーキ、手羽先と1品は少しの量だが、多くの料理を食べていった。
シャンメリーの瓶が空いた頃、コマンダンテストがおかわりの瓶とともに朝風と春風のテーブルにやってきた。
「元気で良かった、春風ちゃん。それに村雨さん」
「ありがとうございます、おかげでたくさん食べています」
「いいのかな?私ももーっと食べても」
「いいのよ、じゃんじゃん食べてもらって。まだまだ楽しみましょ」
コマンダンテストともテーブルを共にしてからしばらく経ち、パーティーも終盤に差し掛かり、デザートのケーキを取ってきた春風は朝風に質問する。
「ところで、シュミット家と朝風ちゃんのところはどういう関わりなのでしょうか?」
村雨は妹を気にかけている。
「私にはよくわからないわ。お母さんに聞けばわかると思うけど」
「あら、ちょっと突っ込みすぎたかしら。ごめんなさい」
コマンダンテストが説明に加わる。
「イイノヨ。私達は十年と少し前にシュミット家の人に助けられたの。春風ちゃんも知っていると思うけど、当時は深海棲艦の脅威がすぐそばに迫っていました。私達は船でBrestからDunkerqueまで移動しているとき、深海棲艦に襲われました。艦娘たちが深海棲艦を撃退したのですが、私達のが乗った船を探し、助けてくださったのがシュミット家の人でした。名前は確か……スタニスラス・シュミット。ドイツからフランスに渡った貴族でスタニスラス本人は伯爵と聞いていますわ。」
「あの、ロマネ・コンティも彼から頂いたものなんですか?」
「実は違うのです。シュミット家は一家が離れ離れで今やロシアのサンクトペテルブルクに施設が少しあるだけのようです。どうやら、フランスの他にもロシアでも活動していたみたいです」
「そのワインはロシアからということですか?」
「そうです。あのワインはシュミット家の施設を管理している代理人の許可を頂いて貰ったものなのです」
「ということは、その家族はもしかして……」
「いえ、私は一族はいると信じています。特にスタニスラス・シュミットは生きていると信じています。私は、彼に恩返しをしなければなりません。私も、私の夫も彼に助けられたのですから……」
「そうでしたか……。なんか、申し訳ありませんでした」
「ふむふむ、そうでしたか!私たちもスタニスラスさんを探すお手伝いはできませんか?」
「お姉ちゃん……?私もささやかながら手伝えたらと思います」
「でも、Japonにいる可能性は低いわ。なにせ欧州で活動していたみたいだから。私は艦娘になって日本に派遣されて来たけど、今もヨーロッパで探したい気持ちは山々なの」
「でもね、お母さん。日本には神風ちゃんも春風ちゃんもいるの。大切な仲間がいるの。日本にいながら探したらいいと思うわ」
「そうね、朝風。私達は一人じゃない。もしかしたら彼は日本にいるのかもしれないわ」
「少しずつ手がかりを探すことならできそうですね」
「協力します!」
「村雨ちゃん、春風ちゃん、ありがとう。必ず恩人を探してみせます。せめて、スタニスラス・シュミットが残した一人息子の手がかりでも……!」
春風はハンカチをコマンダンテストに渡した。
「せっかくの朝風ちゃんのためのパーティですもの。残りの時間は短いですが、楽しみましょう」
「Merci」
こうしてパーティーは大盛況の中終幕を迎えた。迎えの車からグラーフ・ツェッペリンが現れ、娘二人を連れて帰るときであった。
「Bonsoir, Commandant Teste」
「貴方は?」
「グラーフ・ツェッペリンだ。村雨と春風の父親を、している」
「わざわざ、送るのですね」
「夜も遅いからな。こちらこそ、娘を招待していただき、感謝する」
コマンダンテストは『Graf Zeppelin』の名刺を受け取り、車が闇夜に消えるのを見つめていた。
「クリスマス対策会議をします!」
「おーっ!」
「……なんでうちでやるんですかね、義姉さん」
ついつい疑問をこぼしつつ、昼時のゲストの白露義姉さんと夕立ちゃん、そして村雨ちゃんと僕の分、四人分のミルクティの用意をする。させられていると言ってもいい。
「ごめんね、騒がしくって……」
「まぁまぁ、いいじゃないの?私たちも子供たちのプレゼント、考えなきゃいけないでしょ」
「まーそうだけども」
「今年も一緒にパーティするんだから、これが一番効率がいい!」
「睦月ちゃんや朝霜ちゃんの分のお菓子も持ってきてるっぽい!」
「もちろんあの子たちが来るまでに会議は終わらせるよ?ほら座った座った!」
言いくるめられて言う通り。これでもこの人たちの上司だった過去があると自分でも信じられない。否、あの頃も給仕くらいはさせられて、もとい、していた気もする。ともかく、今は義姉と義妹と愛妻である。炬燵を囲んで、パーティの準備を始めよう。
「……これでどうでしょう、夕立さん」
議長の真剣な声が、クリスマス会議会計担当に問う。静寂の中、電卓を叩き、メモ帳をペンが走り、本職会計から受け取った資料と見比べて、そして。
「……予算内!大丈夫っぽい!」
無事、認可され、緊張の糸が解ける。会議を始めて数時間、これにて決着。白露義姉さんは寝転がり、村雨ちゃんは息をつく。夕立ちゃんも同じく安心した様子で、手早く会計道具を片付ける。「いつ帰ってきてもおかしくないっぽい」とは、気の利いたことで。
そしてその予見通り……と言うほどではないけど、息抜きもそこそこに睦月が帰ってきた。お姉ちゃん二人に喜んでいるところ悪いが、先に宿題をしてもらおう。僕がそう言わずとも提案し、その上監督役を買って出てくれるあたり、義姉さんも大人になったものだとしみじみしてしまう。全く、誰目線なんだか。村雨ちゃんも同じことを考えていたのか、二人を見て優しい目をしていた。
「……あのさ、おじさんいつも5時には解散しましょうって言ってるよね。暗くて危なくなるからって」
「うぅ」
「…ごめんなさい」
「そんなこと言っても、冬なんだから仕方ないじゃーん!いっちばん早く暗くなる季節って知らないのぉ?」
「白露義姉さんが口答えしない!」
17時をしばらく回って、遊びに来ていた如月ちゃんと清霜ちゃんの送迎をしている。いくら同じ小学校区の近所だからって、子供の足なら時間がかかる暗い道を、女の子だけで帰すわけにはいかない。自転車を荷台に詰め込んで、今日「も」楽しいロスタイム……そう、「今日も」である。恒例になりつつあるのはあまりよくない傾向なので、厳しめの口調で釘をさすが、まさか助手席からの反撃が雨あられとは思わなかった。
「だいたい、もっと早く注意すればよかったんじゃないの?お・じ・さ・ん?」
「お前がいつまでもこの子たちを放さなかったせいだろ!」
「あーお前って言った~!お義姉ちゃんにそういう言葉遣いいけないんだ!」
「うるさい!お前はお前だ!」
「……なんだか、懐かしいっぽい」
前言撤回、こいつはいくつになっても一番の悪戯娘。よそ見をできないからわからないけれど、わかる。白露はあの頃と同じ顔で笑っている。僕も、あの頃に戻っているのだろうか。
なんだ、かんだと言い合っている間にくすくす、と背後から押し殺した笑い声が聞こえてくる。少女三人、特にちょっと叱ってしまった二人が楽しいならそれでいいかもしれない。清霜ちゃんはちょっと大笑いしすぎな気がするけど、咎めるほどではない。…というか、朝霜ほどではない。
「なぁに笑ってるの、おじさん」
「なんでもない。あと白露、お前はそう呼ぶな」
そして、送り慣れた家に着く。しかして、すこし見慣れない姿。自転車を下ろして、つい見惚れてしまう。
「すごい……」
「うふふ、もうすぐクリスマスですもの。父が張り切っちゃって」
「イルミネーションか。いいお父さんだね」
「いいなぁ、わたしもパパにお願いしようかなぁ」
「それじゃね、如月ちゃん!」
「はい、また今度。今日はありがとうございました」
彼女はドアから踊るように降りて、一礼。光を浴びて、髪が、髪飾りが輝く。最後に一言、「舞台のこと、また連絡するね」と付け加えると、「楽しみにしていますね」と微笑んで応えた。迎えに出てきたお母様は、如月ちゃんに似て美しい。彼女も旦那様の一番なんだろう。僕の村雨ちゃんと同じように。
雪が降りそうで、降らない夜。清霜ちゃんに舞台の話をしながら、闇を照らして進んでいく。最愛の家族のもとへ、早く帰してあげなければ。
師匠(せんせい)が走るくらい忙しい時期の師走。
実際は当て字とか、師匠ではなく坊主だとか諸説あるが、僕としては師匠は面白いんじゃないかなと思っているのでそういうことにしよう。
昨年まではのほほんとどこ吹く風だったうちの先生(妻)だが、今年はそうも言ってられないようだ。グラーフさんからの要望が多く、それを反映させようと考えているらしい。
「それでも本業のエッセイに全く支障が出てないから大したものよ! 担当として鼻が高いわ〜」と気楽な言葉を放つ飛龍も体重が落ちたとか言っている。
民間の即売会に某出版社が出展するということでその作品の推敲で慌ただしいらしい。
ああもういよいよ年末かぁ。
僕の仕事も忙しい。
麹が出来ていよいよタンクの中では酵母たちが発行してる最中。
その様子を常日頃記録、おかしかったら蔵の温度を調整するなど、鼻と目と耳、それに手。
五感をフル活用。
(他の職人さんには頭が上がらないなあ……)
ただ僕の小さな蔵ですら、お酒作りは一人ではとてもやりきれない仕事。僕の家でのお仕事に連れ添ってくれている職人さんたちには感謝の2文字に尽きる。
年が明けたら新酒、ひやおろしと出荷の時期。
火落ちの心配も無いし、今年はどんな味になるのかなと作り手ながら楽しみだ。
各々の事情を抱えながらも演劇の練習も大詰めだ。
雲龍は立ち上がって色々言うことも少なくなった、山雲も響く発声をしているし、飛龍も着ぐるみを着ながらも熱演している。
もう一人の愛娘と僕たちとともに戦ったアメリカの空母がいよいよ帰ってくるのだ。
僕も大道具の作成や照明の操作も慣れてきた、素晴らしい家族と仲間に恵まれているとアピールしたい。
そんな冬の日の夜。
さて、今日は冬至。
家の湯船には黄色い柚子が浮いている。
家になっている柚子を風呂へ入れただけの簡単なゆず湯だが、強い香りがお風呂場を超えて台所まで漂ってきた。
邪気を払うために香りの強い柚子を入れて禊を行っていたというが、ここまで漂ってくるとは恐るべし柚子の力……!
「大きいの選んできたわ〜、あま〜いなんきんね〜」
女性陣がゆず湯を堪能している間、僕は台所で夕飯の支度中。大きな大きな緑色の皮の南瓜と格闘中だ。
冬至に『ん』がつくものを食べると運気が上がるんだよと説明したら、南瓜(なんきん)をどこからともなく持ってきたのは愛娘の山雲。
あとで畑を見せてもらったが、冬のお野菜を育てているとは……。
親バカではあるが行く末が恐ろしい。
さて圧力鍋で一気に煮込みシチューにしたが、それでもまだ半分残る。
これは天城に渡してスイーツにでも家の食事でも生かしてもらおうか……。
今日の夕飯は南瓜(なんきん)のシチュー。
野菜の甘みと牛乳のコクがよく出たとても美味しいものになった。
いよいよ本番も近い、頑張ろう!
冬休み。イベントの多い季節だ。
家族との生活はいつだって色とりどりで、語ることのない日なんてそもそもないのかもしれないけれど。
22日、終業式。
持ち帰る荷物はたくさんだけど、車を出したりはしない。本当のことを言うと出したいんだけど、過保護でもいけない。と数年前たしなめられた。村雨ちゃんの言い分曰く、艦娘だって能力が完全に目覚める前から訓練してたんだし、とのことである。あの子たちは艦娘になるわけじゃないんだけど、何かにつけて保護してもカッコ悪い気もする。
お楽しみの通知表は、なかなかの高評価。ここ数か月は劇の練習もあって正直不安ではあったけど、逆に文系科目にいい作用を及ぼしているようだ。算数、理科も、パズルとかと同じようにイメージに落とし込んで出来ているらしい。
体育は僕に似ず抜群、図工もよし。難関となってくるのは社会科か?覚えること多いもんな。
親になって驚いたのが、今の子は英語もパソコンの扱いもバリバリやるんだと。英語はウォースパイトに頼って、実際会話は問題ないと思ってたんだが、朝霜の授業内容になると筆記が追い付いていないらしい。あと、睦月はまだたまにイタリア語が混ざる。朝霜も通った道なのでこれは心配していない。
総合して、今年も文句なし!お年玉弾まないといけないかもなぁ。村雨ちゃんと要相談。
23日。年賀状戦線。
娘たちは友達数人。そして祖父母と白露家へ。僕は知己、仕事関係の人。村雨ちゃんもご友人へ。鎮守府時代の元艦娘たちには、それぞれが一言ずつ書く形で。
娘たちは聞いてないけど、夜のラジオでモデル・タレントのSenちゃんが僕らの劇の宣伝をしてくれていた。……川内のやつ、毎週毎週好き勝手やってまた怒られても知らないぞ。それがウリといえばウリなんだから、いいのかね。
24日!クリスマスイブ!!
好きで無慈悲な練習計画を入れたのではなく、26日(月)以降になると帰省込み、遠出レベルで各人で予定があるだろうなぁと思ったんです。逆に24,25なんて遠出しても地獄めいて混んでるんだろうなと思ったんです。その上でちゃんと許可を頂いて開催です。
段々出来上がっては来ている。年が明けしてしばらくすれば本番を迎えるこの劇は、各自の協力もあって順調に進んでいる。時に全体のバランスを見て調整や修正を行いはするけれど、これからがらりと変わることはないだろう。まさしく軌道が安定したわけで、少しずつ余裕はできている。
子供たちも僕ら親だけでなく、劇団の役者たちにも積極的に話を聞いている。うちの二人はともかく山雲ちゃんは初顔合わせばかりのはずだったけれど、かれこれ数か月もすれば慣れるものか。大したものだ。
慣れると言えばご両親もなかなかのもの。パパさんは照明機器の扱いのコツをつかみ、また時に観客目線で目の覚めることを言ってくれる。雲龍さんは逆に専門的な部分をどんどん吸収し、世界を作っている。勉強熱心さにつけて頭の上がるところはなく、盗もうとしていた速筆のコツとは、結局性根の部分の話になりそうだ。村雨ちゃんや青葉お衣に助けられてギリギリの僕には耳の痛い話で、直視したくないな…。
グラーフは特に言うことなし。いや、本当に言うことがない。技の切れは増し、舞台演劇の間合いもつかみ、発声方法も適応させてきた。何を言えというのか。全く恐ろしい。
村雨ちゃんはそんな僕らを見ながら、陰に日向にお手伝いをしてくれている。専門としてやっているわけでなくても、流石に僕の妻を長らくしているだけのことはある。いつの間にかいろいろと覚えて、簡単なケアやサポートが立派にできる自慢の奥さんだ。子供にセリフの意味を教えたり、衣装の具合を確認したり、これが結構八面六臂。表だって僕を助けることはあまりしないけど、目が合った瞬間微笑んでくれる、それだけでいいのだ。
聖なる前夜は、そのまま料亭での親睦会へ。鳳翔さん、龍驤との約束を年内に果たせてよかった。
「少し練習場の片付けと打ち合わせがある」といって到着の時間をずらし、赤服白髭で入店。毎年恒例のサンタ装束が、今年は父三人でうちの子たちにも衝撃を与えられただろうか。ここでの共通プレゼントは所謂お菓子入りのブーツ。鳳翔さんも龍驤も欲しがらないでほしい。
一通りのオープニングを終えてからは、和洋折衷、古今東西のお料理が並ぶ大賑わいのパーティへ。途中から合流したご家族含め、皆さん楽しんでいただけたようだ。子供たちははしゃぎ、空母たちは昔話に花を咲かせ、妻同士、夫同士もまた日々の話をする。料理の話題には睦月が首を突っ込み、朝霜は異国に思いを馳せている。僕は速筆のコツを聞き出すことに失敗。なんとなく通じるものはある気がするんだけど、肝心なところを今一歩つかみきれなかった。はぐらかされた感じはしないけれど、話の広がり方、回し方が不思議な人だ。旦那さんも日々楽しいんだろうねぇ。村雨ちゃんは何の話をしていたかわからないけれど、上機嫌だったのでよし。自分の姿に似た少女に何を話していたのやら。
今夜は運転手だけにお酒を入れなかったけれど、ご自慢の日本酒を頂いた。グラーフからはコーヒーを頂いて、僕はザラの紅茶を贈る。なぜか飲み物で三角形が出来上がった。イタリア娘の紅茶ということで少し驚かれたようだけど、味はもちろん各方面のお墨付き。「コーヒーだけっていうのもなんだものね。せっかく日本にいるし、本場の人とも会えたし」と言っていた日が懐かしい。
村雨ちゃんは、確か雲龍さんに眼鏡と、グラーフのとこの奥さんに手袋だったかな。子供たちは事前に雑貨屋で小物類を選ばせている。チェックはしていないけど、義姉妹の助けもあって予算内でいいものが選べたはずだ。どうやら各々、満足していたようでなにより。
そして、あまり遅くなりすぎないうちに解散、解散。星は満天、寒空に祝福の光。
25日。白露家でのどんちゃかクリスマス。
枕元に置かれたサンタさんからのプレゼントのニット帽を被り、新作のパーティゲームを持って、いざ白露家へ。ぱっぱらー。今日は歩きだからお酒も飲める、ということで僕ら夫婦も何気なくワクワクしている。ちなみにお互いに贈りあった手編みのマフラーをしているので、村雨ちゃんの方が不格好だったりする。それでも手編みは娘たちにとっていいものらしく、来年はお菓子ブーツじゃなくマフラーがいいと早くも予約が入っている。ふむ……どうしたもんか。
ゲームあり料理あり、手作りケーキありの大騒ぎ。天城さんのところも大忙しだったんだろうかね。
プレゼント交換もまた、いい具合にごちゃごちゃであった。姉妹10人に僕、睦月に朝霜で13人もいれば嬉々交々。いやまったく、いい日であった。
ここから大みそか、帰省、あの鎮守府からの招待もいただいている。さぁて何が起きるやら。冬、冬、冬だ。
26日。クリスマスお泊り翌日。
結局長いマフラーを二人で巻くことはかなわなかった。二人きりで聖夜ってのも、出来なかった。
それでいいんです。家族や友達と一緒で、笑えてればいいんです……だなんて。正直、そんな大人になり切れないけれど、頑張って少年の自分を御して生きる。愛も恋もあってよかろ。
昼とはいえ真冬。寒さに頬を染めた彼女をつい見つめてしまう。気付かれて、微笑まれて、ドキドキ。
その僕たちを見るや否や、割って入るのは朝霜と睦月。わかった、わかった。手を繋いで帰ろう。朝霜の手は、まだ小さいけれど、確かに暖かく、しっかりしてきた。睦月はお姉ちゃんとママに挟まれてご機嫌。
奥さんは素敵で、娘たちは元気。幸せ者だなぁ。