パパの会改め町内会。 平和な世界で艦娘(元艦娘)ときままな日常を送ろう。 らぶいずおーる。
さてさて冬休みに入った。 他の家だと帰省だとか旅行とか有るけれど僕の家の場合だとそういうことはそもそも縁がなかったり。 家族には申し訳ないが仕事もあるし、家でのお正月だ。
22日、終業式。 本来であれば雲龍が運転手だけど、今日は僕が運転手。なぜなら今日は特別な日だから! さて終業式から少しして、山雲は高評価の通知票を持ってきた。体育と理科系の科目が特になかなか。 畑や野山を毎日走り回ってれば体力も付くし、観察力も高まるか。 一方で国語の科目は普通。後で雲龍が少し寂しそうだったのは、文書を書き囲んでいる環境で育てていたのにという残念な感情からだろう。 まだまだ分からないし、焦らなくていいのに。 演劇だって励んでいるのだから、きっと文系の方の力もグイッと来るよ。パソコンや外国語の授業があると聞いてどちらも苦手な僕は固まってしまったが。 最近の子供たちは僕の遙か未来へ進んでいる……。 さて、僕らは空港へ。 駐車場に車を停めて飛行機の到着を待つ。 しばらく。 時計を見れば30分位だったけど、僕には長く長く感じたその時間。 『ただいま!』 キャスターバックを引いた愛娘の朝雲が帰ってきた。 山雲は朝雲の手を嬉しそうに握っていたし、朝雲もニコニコ。微笑ましいこと限りなし、無事に帰ってきてくれて良かった。 CAとして同じ飛行機で様子を見ていた葛城曰く、落ち着いていて安心して見れたそうだ。 僕がこの子らくらいの年の頃だとテンションが上がって騒いだなーと反省。 そして新しい家族(?)のサラトガもやってきた。 向こうの学校で教鞭を執っていたが、日本について色々と勉強したかったらしい。 わざわざウチに住み込んでと言う選択肢を取るのにはビックリだが、来る者は拒まずの精神だ。 朝雲もお世話になったし、これくらいは朝飯前! そんな感じで終業式の日は特別な1日として家族が更に広がった日だった。
23日。家でのんびり。 年賀状を印刷し、お世話になった人へのメッセージを僕と娘たちで書いていたら、飛龍がやってきていつも通りの推敲作業。 これもいつも通り早く仕上がっていたので、余計なお仕事を足された雲龍。 バチバチ怒っていたが、即売会で出す本の原稿が落ちそうなので代わりに何か書いてと無茶振り。 黙々と3時間で少女漫画チックなファンタジーを書き上げたのには驚かされた。 どんだけ文才あるのか、頭の中を覗きたい。 飛龍としてはサラトガとのお話にも関心が有ったらしく、かなり会話していた。 後で聞いたが物怖じすることなく話しかけて語る飛龍にサラトガは驚いていたらしい。 大丈夫、あんなに気さくなお話をするのは村雨さんくらいだ。 雲龍は人見知りがすごいし。 ちなみにこの後、雲龍に報酬としてクリスマス・プレゼントを要求されて飛龍が唸っていた。 編集さんもお疲れ様。
24日はクリスマスイブ! 練習が入っていたとのことだが、朝雲はサラトガとお留守番。 この劇のことは朝雲に秘密だったので、サラトガに無理を言って冬休みの宿題をするようにお願いしてしまった。 安心してくれ、夜には必ず二人を連れて行くから! 村雨さんの旦那さん曰く帰省等の予定を考えてのことだそう。 グラーフさんの所とか忙しそうだし、飛龍も即売会の方に行くらしいしこれは賢明かな。 年明けに本番を迎えるこの劇。 ド素人の僕も要領がやっとわかってきた。 照明器具の使い方もこなれて来たし、観客としての意見も言えるようになってきた。 いや、本当にド素人丸出しなんだけど……。 それを取り入れてくれる村雨さんご夫妻には感謝と恐縮。 雲龍も演劇の本を買って読んでいたけれど、そのかいがあったのか初めの頃より的を得た意見を行っているように見える。 細かい修正に関して具体的に人を指定して、こうしてみて欲しいと言えるようになっていた。 こういうコツコツ勉強して、すぐに生かせる技術。 泊地にいた頃も新しい艦載機を渡すとすぐに練習して熟練度をあげていたなあと昔をついつい思い出す。 さて、主催者のグラーフさん。 立ち回りから声の出し方から指導が的確で舞台の出演者からは好評だ。 僕はあまり指導を受けないので残念なのだが、きっとそれなりの評価は得ているのだろうきっと! そうそう村雨さんは博識。 グラーフさんと雲龍が作った台本で難しい言葉を子供たちへ分かりやすく噛み砕いて教えている。 僕もよく分からない言葉に村雨さんの解説を聞いて「なるほど」と学ばせて貰った。 こういう自分たちをきちんと見て、教え諭してくれるお母さんがいるから睦月ちゃんたちも良い子なんだなあと納得しかない。 ……羨ましいのは、たまに旦那さんと笑顔を向けあっていること。 仕事とプライベートを切り離す雲龍だとこの練習の時に笑顔を全く向けてくれない。 そういう切り替えの早さがきっと執筆の速度に反映しているのだろうけれど。 そして今度は鳳翔さん達の料亭で親睦会を兼ねたクリスマス会。 村雨さんの旦那さんからの提案でサンタクロースに扮して現れた僕。 妻は吹いていたが、この会から来た朝雲からは好評だった、お菓子の靴を渡した時に目をキラキラさせていたし。 そうそう、サラトガがトナカイとサンタクロースの衣装を山雲と朝雲に用意していた。 睦月ちゃんや朝霜ちゃんが喜んでいたのにはビックリだが、さすがアメリカ育ち、クリスマスの楽しみ方を知っていたなと唸ってしまった。 雲龍は娘二人の激写に夢中、そのせいか村雨さんの旦那さんから受けた質問を要点が少し抜けているように思える。 プライベートのスイッチ入ると一気にそっちに触れるのは少し気をつけないとな……。 サラトガはグラーフ・ツェッペリンさんとお話の真っ只中、朝霜ちゃんとともに朝雲も話に入るタイミングを探っていた。 そして旦那さんたちへ僕からのクリスマス・プレゼントとして日本酒を渡せた。 お二人からはなんと紅茶とコーヒー! これは嬉しい。 イタリアの紅茶とはお墨付きを受けたブランドを貰うような気分だった。コーヒーも良い香りがする、両方楽しめるのは贅沢だなあ。 奥さんたちの方もプレゼントを交換していたようで、雲龍は頂いた眼鏡を早速かけていた。 ……メガネ好きではないが、これは良いギャップ。 さて雲龍からはと言うと葛城と選んだペアのマグカップを村雨さんへ、グラーフさんの奥さんにはペアのワイングラスを渡していた。 最初は作ったプラモデルで良いかしらと言っていたので止めてアドバイスを受けたのは正解だったかな。 そして今日は『本物』のサンタさんが家に来るし子供たちも早く寝なければならないので、僕らの会は終わった。また参加したいなあ。 そして家へ帰ると、子供たちはお風呂に入り、歯を磨いて速やかにお布団へ入った。 ふとリビングのテーブルにはビスケットが。 サラトガ曰く、朝雲がサンタさんが食べるからと作ってくれたらしい。 冬の夜長、紅茶とコーヒーにピッタリな甘味、ありがとう朝雲。
25日クリスマス。 枕元に置かれたサンタさんからのプレゼント。山雲には小物入れ、朝雲にはマフラーが届いたと喜んでいた。 その小物入れは酒樽を廃棄するときに削って作ったもの、そしてそのマフラーは雲龍がこっそり夜に作ったもの、2つとも僕らのお手製だ。実用性とオシャレ、対極的なプレゼントになってしまったが、娘達が喜んでくれたなら何より。 「Wow!」 ふふふ、子供部屋の隣の寝室からも英語で驚く声が聞こえた。 サラトガには雲龍が使っているものと同じ万年筆、そして髪留めを送った。 バタンとドアを開いて子供たちに負けず劣らずキラキラ喜ぶ姿は可愛らしいなと僕と雲龍はホカホカ。 なんとも可愛らしい先生だ。 朝の食卓は普段と違い洋食、デザートに天城の特製ケーキを出した。 濃厚なクリームと生地、そして瑞々しい果実の酸味……。 また腕を上げたなと僕は唸るしかなかった。
26日から28日にかけては大掃除を敢行。 昔ながらの古い家は普段から使っていない部屋も有る。 しまわれていた家財道具に日の光を浴びせて、箒や雑巾で掃除。 サラトガは大掃除の習慣に驚いていたが、雲龍からの説明にフムフムも頷き参加してくれた。 掃除はみんなでするもの、大掃除は一年の穢を清めて、新年を迎える大事な儀式。
29日は雲龍が即売会の方へ足を運んだ。 あまりの人の多さに驚き、疲れた様子だったが某出版社の出展スペースへ足を運んで本が売れていく姿を見て、エネルギーを貰えたと言っていた。 顔が紅潮して居るのは寒さよりも喜び。 あまり人の多い所へは行かせたくなかったが、喜んでいたので何よりだ。 この夜に飛龍が青葉さんと衣笠さんを連れて打ち上げをやったのには圧倒されたが、今日が仕事納めだったらしい。 仕方ない、しっかり飲んで労をねぎらってもらおう。
30日は餅つき。 最近はノロウイルス等の蔓延を防ぐために餅つき会を無くす動きがあるが、我が家はどこふく風。 しっかり自宅に杵と臼、モチ米も用意してあるから家で作れる。 例年は餅つき機を使って餅を作っていたが、今年はサラトガがいる。 杵と臼を使って家庭内餅つき大会だ。 僕が餅をつき、雲龍がこねていたが、山雲と朝雲もやりたいと言ってきたので手を添えて手伝ってもらった。 出来立ての餅のさわり心地を知って娘たちは驚きと喜びが混ざった様子で、粒の集まりだった蒸した米が餅になっていく姿にサラトガはとても驚いている。 お雑煮に入れる分と、鏡餅を作ったらあとは出来立てのお餅を食べるだけ。 あんころ餅と醤油と砂糖で和えた甘辛餅を食べた。 伸びる餅に驚くサラトガの顔は忘れないだろうな。 雲龍と写真に収めて成功だった。
そして31日。
こたつに入ってぐっすり眠っているのは愛娘の山雲と朝雲。 日付が変わるまで起きているといったが、二人とも22時にはウトウトしていた。 「風邪ひくわよ」と言いつつも大人しく、娘達の頭を撫でる雲龍。 慣れないおせちの支度に悪戦苦闘したためか、少し疲れているのがわかる。
「提督、日本のお酒は美味しいですね……」 ホッコリ顔を赤くして僕の作ったお酒を堪能しているのはサラトガ。4月からこっちの大学院で日本の勉強をしながら、愛娘らの英語を教えることになっているらしい。奇遇にも僕らの母校の院なので色々手助けは出来るかもしれない。
(しかし僕の家から通勤しますって……)
本来であれば学校近くの賃貸物件を借りれば良いものをと思ったが、日本文化が勉強できるからと僕の家を選んだとか。 この提案には驚いたが雲龍が快諾した事の方が大きな驚きだった。 アメリカの艦載機のプラモデルを貰ったからと言うのもあるだろうけど、それより信頼があったからなのかな。
(サラトガと雲龍のスロットで補い合うことが多かったしね) ふと昔を思い出してしまったり。
さておせち作りを終えて、そばも食べ終えて除夜の鐘も聞こえたしそろそろ。 まもなく来年だ。 来年はどうなるのか、それは分からないが子供たちや出会った人々の幸せを祈って新しい年を迎えたい。
「明けましておめでとう!」
なんだかんだ言って、冬は炬燵に緑茶が王道だと思う。普段も飲まないわけではないけれど、なんというか、苦みがまた格別だ。実家だからだろうか。それとも、新年だからだろうか。この空気はかなりすきだ。 「おじいちゃんおばあちゃんにおとしだまもらったー!」 「おー、ちゃんとお礼言った?」 「ちゃんと言ったって。てか見てただろ」 「パパは今年も心配性ってことねぇ」 挨拶は大事、心配性にもなりますよ、とは言い返さない。今更言わなくてもわかってるだろう。ずずず、とまた茶を頂く。おじいちゃんおばあちゃん…父さん母さんから受け取った少なくない教えのひとつは、ちゃんと継げているだろうか。大丈夫だろうな。信じるほかあるまい。 適当にテレビのチャンネルを変えながら、面白いものを探す。あっちもこっちも特番。正月からSen、神通さん、那珂ちゃんは忙しそうだ。映像がそのまま無事の便りとは、ありがたい平和の時代。 便りといえば、帰ったら年賀状が来ているんだろうなぁ。少しだけど、出版社宛にも毎年頂いているし、早めに受け取りに行かなきゃ。青葉とお衣は年末まで即売会?とやらで忙しかったらしいし、労いを兼ねて食事会でもするか。割り勘だけど。 父さん母さんと睦月朝霜にとって、テレビの内容は実際あまり興味は関係ないようで、適当に話題を膨らませる材料程度のようだ。学校の話、元艦娘のお姉さんの話、外国のお話、昔の話、なんでもない話。劇の話になったら僕の方にお鉢が回ってくるだろう、とぼんやりだらけていると、村雨ちゃんに写真を撮られた。なにしてんのさと言い返すのも野暮な気がして、穏やかな色の髪をもてあそぶ。今年も村雨ちゃんはかわいい。 「今年の…ほうふ?」 「目標のことよ」 「目標…そうだなぁ。ママのお手伝い、かにゃ?」 「あら。ありがとうね」 「じゃああたいは父さんの手伝いか?何すればいい?」 「元気でいてくれればそいでいいよ。睦月もね」 「私はなににしようかしら。パパに厳しく?」 「うぇ……」 ここ数ヵ月新しい人と知り合って、また色々と思ってるんだろう。あの劇に関わる皆さんが特別優秀すぎるだけだと思うんだよな!と思う反面、実際気を引き締めていかねばならんとも思う。先の即売会でも雲龍さんの筆が光ったと聞き及んでいる。切り替えの早さ、鋭さを見習うべきだなぁ。 「ねぇ、パパは?」 「抱負、ばしっとたのむよ」 「んー、ほどほどにがんばります」 「雑!」 思うところは多いけど、口にしたらこんがらがる。年の初めはこんなもんでいきましょう。
羽根つき、福笑い、凧揚げ、こま回し……。 お正月の遊びというのは多々ある。
そんなまま有る遊びの中で山雲と朝雲、サラトガがしているのは羽根つき。 カンカンと羽子板で羽根を打つ音が笑い声とともに酒蔵にいる僕にも聞こえてくる。
(本当なら旅行に連れて行ってあげたいんだけどごめん……!)
テレビのニュースでは帰省ラッシュや行楽地に出かける渋滞など出かける人が珍しくない御時世。 海が穏やかになって何年も経つ今年は海外に行く人が増えたとか減ったとか聞いたのを思い出す。 そんな中、いよいよ今年の酒が完成する間際の今は酒蔵から離れることは出来ない。 (ウチで働いてる職人さんたちはみんな帰省中だし……) しかし、それに不満を言わない家族たちには感謝しかない。 去年は売り込みで放浪してたけど、今年の夏こそは出かけよう、連れて行ってあげようと決心しながら、僕は樽の中の酒をかき混ぜる。
そうそう、雲龍も書斎に籠って仕事中。 出版社に届いたファンからの年賀状を飛龍に持ってきてもらい、読んでは返事の年賀状を書いている。 サイン会のようなファンと直接会う機会を設けないことに対する彼女なりのケジメであるらしい。 連載始めた頃から読んでくださっている熱心なファンの方や友だちに勧められて読みはじめた方まで筆まめに『返事』を書くことを毎年欠かしていない。 (飛龍が年賀状の束を持ってきたらすぐスイッチが入るのが1番凄いと思うけど……) 真面目さ、スイッチの切り替えの速さ、僕にとってはとても良い目標だ。 到底追いつけないだろうが、近づくことは意味があるはずだ。
僕の新年の抱負、彼女に近づくこと。 そうだ、家族の抱負も聞かないと……。
いつもお世話になっております。 大安吉日の今朝ゲーム内でケッコンしました。 ここの人を始め、読んでくださっている方々に感謝申し上げます。 これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
おめでとうございます。 穏やかな家庭をいつも楽しませていただいております。 末永くお幸せに。
あるアーケードの筐体で野分が演奏しようとしていたとき、インバネスコートを着た人物が野分の右隣のターンテーブルにやってきた。 「野分、隣失礼していいか?」 「は、はい、大丈夫ですけど」 「Danke.プレイ代金は私が持とう」 「え、いいんですか?」 「もちろんだとも」
野分がまず1曲目を選択する。 「あれ?最高難易度でいいのですか?野分は一番下にしますけど」 「ああ、大丈夫だ」 野分がまず選んだのは、冬のイメージのバイオリンの曲。階段を降りていくムービーが特徴的らしい。 最高難易度を選んでいたグラーフは余裕綽々の表情。これには後ろでまじまじと見ていた嵐と萩風と舞風も黙って見ているしかなかった。
2曲目も野分が選び、日本風でSEが特徴的な曲。タイトルが野分の好みらしい。 グラーフは依然笑顔のままであった。なお野分はクリアに失敗した模様。
「あぁ、3曲目は私が選ばせてくれ」 「ん?何にします?」 「そうだなぁ……」 といってグラーフが選曲した曲はときどき猫の鳴き声がするとても愉快な曲だった。 もとは別のアーケードからの曲らしい。 野分はクリアに失敗したがもう一度やってみたいとも思っていた。
これにてあっという間に2人プレーの時間は終わった。 「突然で申し訳なかったな。有難う」 「こちらこそ、素晴らしい腕前を見せていただいて感謝します」 「いやいや、例には及ばない。助言の何一つもしなかったのだから」
颯爽と現れた伯爵はこうして去っていった。 グラーフのプレイに見とれていた第四駆逐隊の皆はまたそれぞれのゲームを遊び始めた。
1月4日。世間的には仕事始めということで、青葉お衣と打ち合わせを行う。 締め切りの詰めでもないのに我が家でしているのは、新年のあいさつだとしても特殊な例だろう。待ち合わせ、というか来訪のアポは15時で、会社にはそのまま直帰と伝えているそうだ。要するに、打ち合わせが終わればそのまま新年会である。毎年恒例とはいえ、それでいいのか敏腕編集者。 ……もちろんそれでいいわけもなく、各種予定、展望、進捗について詰めていたら食卓に遅れることとなった。村雨ちゃんに呼び出されなけりゃもっと話し合っていただろうな。 酒もあまり入れられないし、新年会にしては小ぢんまりしたことになったけれど、みんな楽しそうだったからよし。 睦月、朝霜とお姉ちゃんらがお風呂に入っている間に、読者の皆様からの年賀状を眺める。昔からの人、今年初めての人。観劇から入った人、講演から入った人、もちろん小説からも。結婚した人も、子供が生まれた人も、何の因果か軍に入る人もいる。当たり前だけど、いろんな人がいる。ありがたいことだ。今年はもっとしっかり新作出せるといいなぁ。
1月5日。 青葉と衣笠が寝坊ギリギリ。慌てて出版社へ向かう準備をする。 結局、お衣が出発直前に定例会議がないことを思い出してクールダウンし、差し引き余裕を持った出発。 どうせ出かける準備をしたのだから、と新年の挨拶に行っておこうということになり、車に乗る。運転席に僕。二列目に青葉、三列目にお衣。助手席に村雨ちゃん、青葉の隣に睦月、お衣の隣に朝霜。 おかしいだろ。 どうも遊びに行くもんだと勘違いしたらしく、ご丁寧にニット帽まで被ってめかしこんでいる。いずれ見せたいとは思っていたが、いくらなんでも、アポなしで社会科見学はまずい。作家一人、編集者二人で即時にどうこうできるレベルじゃなくまずいが、二人とも乗り込んでしまっている。これを下ろすのは一苦労しそうだし、うきうきを妨げたくはない。預けるにしても義姉さんの家には三が日顔を出したばかりだ。 ……よし。
「ごめんなぁ、新年早々急に頼んじゃって」 「いいのいいの~。はたらきものはだいかんげ~」 「まだお客さんも少ないからね。三人とも人気だったわ」 「…そりゃよかった」 「……独占欲強すぎるの、ほんと治した方がいいわよ」 「……はい」 「まぁ~まぁ~、それくらいで~。ぱぁ~っと新年会しましょ~?」 「ノンアルコールでな。あ、そうだ新年といえば」 「わかってます。お年玉はあげない、でしょ?」 「ありがとね。あいさつ回りしちゃうと総額がおかしなことになるし……」 「おかたいんだから~、も~」 「堅くていいの。普段甘やかしてるんだからさ」 急なお願いながら、イタリア喫茶のもとでお仕事体験ということに着地した本日。ちょうどいいので、僕もコーヒーを頂きながらお年賀のお返しを書いて、一日ゆっくり。あんまり追加注文できないのは二人に悪いな…。早く立派になろう。 「あなた、ショートケーキはいかが?」 「あれ、美人さんが三人も」 「きゅうけいのおじかんにゃ」 「イチゴの日、だぜ」 家族と友達がいれば、ご立派じゃなくてもいいか。ここでケーキ食べたならしばらくはいいだろう。天城さんにも、悪いねぇ。
「あーあー、初めましてサラトガともうしまふ」
いよいよ冬休みも終わり、明日から学校。 緊張の面持ちのサラトガが居る。 引き攣った笑顔でひたすら自己紹介の練習中。 「明日は始業式だけだから何も怖がることは無いと思うわ」 サラッと伝える雲龍の言葉は彼女なりの心配の現れだと思うが、もう少しこう言い方というものを……。
一方で赤いランドセルを背負い合って見せあっているのは山雲と朝雲。 うん、子供たちは何も心配なさそうだ。 ニコニコ笑いながらお話している姿を見ると子供って順応性が高いなあと感心させられる。
1月は行く、2月は逃げる、3月は去る。 あっという間の年度末の頃だけどどうなることか……。
二泊三日ほど、某家の招待を受けて行っていた山間の別荘より帰ってきて、今日は一日家で過ごしていた。 ウィンタースポーツ、温泉、ダンスレッスンと盛りだくさんの三日間は大変有意義ではあったけど、そこから息つく暇なく新学期は問題ありだろう。ということで、一応ちゃんとした「お休み」として設定していたつもりなんだけど、そもそもが子供の無尽蔵の体力。今日も一日遊んで、いつも通りぐっすりだ。 宿題のやり忘れも見落としもない。ランドセルの中身は入念にチェック済み。憂うところはなく、村雨ちゃんと労をねぎらう。 「冬休み、おつかれさまでした」 「おつかれさまでした。あなたはこれから劇の追い込みね」 「あとひと月前後。立春のお祭りと、その前に航空会社と出版社の共同出資講演……かぁ」 「……不安?」 今回は大きく分けて二つ。グラーフと飛龍さんのコンビが主導になる興行としての公演と、街の芸術祭で公演するライト版。2種類あるとはいえ、照明機材や効果が劇場の関係上違うだけで、ほぼほぼ同じである。濃厚な二日間を2回で、合計4日だ。ツアー講演もお手の物なアイドル那珂ちゃんじゃあるまいし、僕らにとっては特殊な形態となる。 「正直、子供たちがねぇ。通し練習は出来たけど、本番なんて何が起きるやら。それを何度もだよ」 「あなたの初舞台も、私の初出撃も、大変なことしかなかったじゃない。悲観してもしょうがないわ」 「……ごもっともで」 「大丈夫。朝霜も睦月も、山雲ちゃんも、不安がるほど弱くないわ」 なんてことない調子でおつまみのチーズをつまむ。あとひとつ。こういうとき困るんだよな、と思いつつワイングラスを傾ける。 「それもそうだ。立派になったもんだよ」 「……あなたも、だよ。弱くないよ」 最後の1ピースを僕の口に差し出して、悪戯っぽく微笑む。またこの少女(ひと)は、何の気なしに核心を突いてくる。突かれてから図星と分かる僕も大概だけれど。 「ありがと。元気出た」 「好きだもんね、チーズ」 「好きだからね、村雨ちゃん」 「もう」
冬休みも終わり。春は近い、はず。花(たち)を愛でていられるように、尽力せねば。
今日は大雪。平地ながらもある程度積もった。 マンションの近くの公園で娘2人が遊びに出かけていた。 最初は駆け回るだけだったものの、走り疲れると雪合戦が始まった。 春風ちゃんは雪の壁を作るも、村雨ちゃんはそのスキを逃さずに投げていっている。 さすがお姉ちゃんといったところか。 雪合戦というか雪の投げ合いではあるが。
ふと、部屋を見回すとリビングにいたはずの旦那がいない。 主人はというと雪に埋まっていた。春風ちゃんの作った壁にいつの間にか一体化していた。 服装も昔の鎮守府の、それも未改造のときのものを引っ張ってきたらしく、雪にカモフラージュされていて気づくのに時間がかかってしまった。
3人が戻ってくる頃を見計らってコーヒーを淹れる。今回は伯爵お気に入りのダルマイヤー。 3人共砂糖マシマシが好きなので用意。特に伯爵には砂糖3倍増し。 村雨ちゃんと春風ちゃんはいい感じに戻ってきたが、旦那は戻ってこず。 しばらく待っていたらちっちゃくなったグラーフが戻ってきた。 コーヒーを少しティースプーンであげると眠ってしまったのであまりは冷蔵庫へ。起きたら電子レンジで温めてあげよう。
しかし小さくなった旦那はとてもかわいいなぁ。ころんと突っ伏してしあわせそうにしている。 こっちまで幸せな気分になりそうだ。
3人で旦那を見つめていたらいつの間にか眠ってしまった。 起きるといつの間にか自分の頬を背もたれにしていてまったりしていたグラーフがいた。 相変わらずかわいいので指でほっぺたをつんつん。 なーぐーと鳴いたのもかわいい。
さてさて、もうすぐ劇の本番だが、これで大丈夫なものなのか……。 主人いわく、「パーフェクト。」という評だからあまり気にはかけないではおこう。
土曜日。海がほど近く温暖なこの街で、しっかり雪が降るのは年に数度あるかどうか。 貴重な光景に、子供たちは当然目を輝かせていた。
本当は、結構しっかり練習するつもりだったんだけどな。 ちゃんと練習する!と意気込んでくれた三人の気持ちだけ受け取って、遊びの時間をとりました。せっかくの雪、もったいないし。 楽しむ姿も勿論だけど、それだけはしゃぐ気持ちを抑えての先ほどの申し出には、流石に感動せずにはいられない。 立派に育ってくれてるなぁ。なんて呟いたら、ハンカチいる?って。村雨ちゃん、僕がいつも感涙する前提でしゃべるのやめてくれないかな。変なイメージつくからさ。 ……ハンカチはもらう。いい香りだ。
後に少し吹雪いてきたので、ホール内に退散。 そこからは予定通り、厳しめにいきました。本番まではあと少し。ここからはちょいと、ビシッとしめますよ。
ピアノを弾きながら英語の歌を歌う。 楽しみながら英語がわかるようにサラトガは授業をしていると山雲と朝雲から聞いた。 生まれて初めての書き初めにチャレンジしたり、休み時間には子供たちとドッジボールをしたりと自分から積極的に子供達の輪に入ろうしていたこともあり、すっかり人気の先生のようだ。
一方で復学(?)した朝雲もクラスの子たちと馴染んできたようで何より。 最近は山雲と仲良くしている睦月ちゃんに嫉妬している素振りを見せているという。 くれぐれもケンカにならないことをヒヤヒヤしている。 「子供たちが曲がりそうになった時に糺すのは必要だけど、無理に真っ直ぐ伸ばすのは成長の阻害を助長すると思うわ」 過保護な僕とは対照的に雲龍は子どもたちの自主性に任せるべきと放任気味。 ……いや、口ではそう言いながらも食卓では毎日学校で何をしたから、どんな友達と何して遊んだか会話をしながら聞き出していたっけ。
子どもたちの世界にどのように立ち入るのか、僕にとっての課題はそこかもしれない。 村雨さんの旦那さんみたいに自然に自然に子どもたちと仲良くしないと!
さて暦の上で春になるその日に劇はまもなく本番。 秋からずっと練習してきたこともあり本当に見違えた。子どもたちは可愛らしいし、役者さんらは縦横無尽にその演技力を遺憾なく発揮する。 そして雲龍は動かない。 これ以上、手を加えたら壊れるからと見に徹している。
何を考えているのか分からない雲龍の瞳、しかし一時期よりも柔らかく優しく見守っているのが分かる。
朝雲もサラトガも、天城に葛城にもノビノビと躍動するみんなの集大成を見せたい。 もちろん僕の照明さばきをふくんで。
「英語を習いたい、ねぇ」 年明けから来るようになったサラトガ先生。聞くところによればアメリカの出身だそうで、ネイティブの英語で勉強できるのは子供たちにとっては素晴らしいことだ。うちの子たちの先生、ウォースパイトの英国英語と違うところがどの程度あるのかはわからない――二人とも日本語ペラペラだから、正直話す英語の差異に気付くタイミングがない――けれど、そこまで支障が出てないなら大丈夫だろうな……と思っていた矢先に、朝霜のお願いである。 「朝雲ちゃん、だったかしら。その子が英語以外もすごくって、対抗心メラメラみたいよ」 「あー……留学してたんだっけ。そりゃ勝てないでしょ」 「あなたに似ないで気が強いものねぇ、朝霜」 「うるしゃい」 辛口の一言を、まろやかなホットミルクで誤魔化す。まぁね、そこばかりは似ないでよかったよ。
「……ただの負けん気ってだけでもないみたい」 「そか。朝霜、この半年で大きくなったもんなぁ」 「劇も、鎮守府訪問も、全部この半年だもの。大きくなるわよ」 「嬉しいような、寂しいような」 「よろこびましょっ」 広い世界で沢山の人と出会うこと。朝霜にも睦月にも、大変な経験だ。 「鎮守府」という場所のこと。軍属時代の僕らのこと、僕ら以外のこと。現役の少女たち。 観客だった劇の世界へ、自分たちが入ること。一つのもののために、色々な人が動くこと。 イギリス、イタリア、アメリカ、ドイツ。海の向こうの国のひとのこと。同じ年ごろでもそこへ行った人のこと。 会う度、話す度、衝撃と感動をもらっているらしい。それは言葉にも、話にも、話さなくても伝わってくる。感受性豊かな年頃に、連れまわした甲斐はあったかな。 「春には6年生……かぁ」 「はやいものねー…」
「それより先に劇だけどね」 「今週末、それこそ『はやいもの』ね。出来は?」 「ばっちり」 「よかった。最近こわかったよ」 「ありゃ、そう?」 「そう。時々急にスイッチ入れるんだもん」 「あちゃー……」 9割完成のところを、最後の研磨としてポイントを伝えただけのつもりだったんだけど、そんなに怖かったか。劇団はともかく、今回初めての皆さんは「通し」での注意点が意外と嵩張ってしまったのは事実である。もっと早くにシーンを繋いだ練習を提案して、各所指摘しなかった僕が悪いといえば悪い。任せていいだろうと思わせる才女たちも悪いのでは? ともかく、白露家をはじめとした鎮守府の一同、劇に興味ありげの如月ちゃんと運動会で雲龍さんを「借り」てた清霜ちゃん、卒業も近い由良ちゃん鹿島ちゃん。風の鎮守府の面々……声をかけられるところは一通り誘ったけれど、楽しんでいただくのに心配も抜かりもない。みんな同じ公演に来るとは限らないけど。 「ま、今大丈夫だから大丈夫だよ」 「もうあんな顔しないでね」 「しないしないー」
「原稿の締め切りの度にその顔してるってことも、自覚してね」 「……はぁい」 急にトーンと目が変わるのは、お互い様だと思うんだ。額をつついてくる人差し指を、甘んじて受け止めた。
先の土日で、出版社と航空社の協賛公演が行われた。 半年間磨き上げてきただけあって、大きなミスもなく、アドリブまで入れる余裕をもっての終演だ。 昼夕公演を連日は子供たちに負担が大きいかと思い、過保護な父としては当初反対していたのだが、終わってみれば全く杞憂だったようで。エネルギーを余らせてカーテンコールでも大騒ぎ…とはいかないけれど、ちゃんと舞台上では女優であった。
そんな女優たちも、今は少女としてぐっすり。 自分たちの劇が、自分たちの想像以上に好評なことも、三人娘宛ての手紙やプレゼントが届いていることも知らない。 (自分たちの『芸名』が「雰囲気とやる気を出す」ことは二の次で、本名を出すことに対する僕の過剰な――七光り呼ばわりとか、個人情報とかへの――心配から発案されたことも、もちろん知らない。Senこと川内のラジオでは「知り合いの子が~」と言っていたこともあって、三人ともどこかの事務所所属だと思われているはず) 色んな事があるけれど、そういうのは全てが終わってからでいい。 今はただ、夢を見せて、夢を見ていてくれればいい。
「ね、――くん」 「なに?」 「いい夢、見ましょうね」 「……ん。一緒にね。おやすみ」 「おやすみ。…きゃっ」 ただの気まぐれか、いつかの口説き文句の引用か。偶然にも、娘に願ったことを言い当てられた格好になる。 心を読まれた気がして、気恥ずかしくなって、愛しい彼女を抱き寄せた。
先週末の公演から一週間。 旦那は相変わらずすやすやしてるし、娘たちは勉強にお絵かき、テレビと休日を満喫している。
冬の終わりを告げる公演。乗り打ち2連続、合計4回の公演は無事に終幕を告げた。子供たちがメインと言いつつも、グラーフや飛龍がいることによって本格的な劇として仕上がった。通しの稽古では大人と子供で噛み合わないところもあったが、さすが伯爵が見込んだキャスト。本番は劇場が変わろうとも誰も動じず。舞台に立つ者に限らず、大道具、小道具、照明、音声と裏方も皆が劇の世界に入り込んだのであった。 カーテンコールが終わったあとの拍手はどの回も1分以上続いたと思う。 航空会社及び出版社の公演は全席招待制にしてみたものの、観覧応募はどちらも殺到、倍率は5倍以上となっていた。 街の芸術祭の方は地域の方に優待はあるものの、あとの半分は先着順で、それも朝早くから列をなしていた。 間違いなくはポスターのメインに採用したグラーフと子どもたちのおかげだ。
昨日の立春の祭りもステージイベントに呼ばれ、歌を披露した街で引っ張りだこの夫と娘二人。なんだか羨ましいなぁと思いつつ、あんなに誇れる娘を持っているんだとちょっぴりの自慢と少しの責任感が生まれたり生まれなかったり。 久々の家族で家に過ごす休日。春眠暁を覚えずというのはまだ早いが、暖房の効いた部屋で思い思いに過ごす心温まる日々はこんなに素晴らしく幸せなものだと感じている。そんな中、伯爵のブラックベリーがベルを鳴らした。主人は寝ぼけた顔で、受話器に耳を当てた。
「もしもし、こちらアレクサンドル・スタニスラヴォヴィチ。」 「……ああ、瑞鳳か。そうだ、私がグラーフ・ツェッペリンだ。貴方と話すのは久しぶりだな。」 「ああ、それか。ちょっと待ってくれ。家内と話す。」 グラーフが受話器から手を話し、彼がいるこたつに自分を呼ぶ。 「瑞鳳から6月のツアーの斡旋を受けたが、休みは大丈夫か?」 今なら有給取れるからと、もちろんオーケーの返事を返した。ちなみに瑞鳳は旅行会社のツアー予約担当。もちろん自分とは仕事の関わりもあるけど、プライベートなところでもお世話になっていることも多い。そんな瑞鳳が彼に電話で斡旋を直接するものだから恐らくはかなり少数か、何かの記念のツアーだろう。返事を返してすぐ、グラーフは受話器を手に取った。 「瑞鳳、お待たせした。家内も付き添えるとのことだ。」 「日時はそれで決まりだな。分かった。ではまたその日に。」 グラーフは受話器を取るとスケジュール帳にすぐさま予定を書き込んだ。 あえて彼に旅の内容は聞かなかったものの、どんな旅なのだろう。彼のシンボルマークのケルト紋が表紙に描かれたスケジュール帳がこたつの上に置かれていたのを私は少し気になってしまった。
ミスって名前が村雨になってますけど、気にしないでください。村雨の夫です。
~~ Juwel des Meeres、立春芸術祭公演も無事終了! 地元の方も遠くから来てくださった方もありがとうございました! 皆さんに楽しんでいただけたなら何よりです。 助演としての参加なのに沢山の応援、差し入れを頂き有難い限り!(他のメンバーは僕の5倍10倍はもらってたみたい)
つづく。 ~~ つづき
今回の公演は初めての人とのお仕事がとても多かったのが印象的です。 演劇初挑戦の雲龍さん、謎多きグラーフ伯爵、元気いっぱいの子どもたち。才覚と魅力ある女性たちに圧倒され、刺激を受ける日々でした。ウォースパイト団長もそのひとり。 妻が一番なのは揺るぎないけど。
作品について、タイトルにある「Juwel」…宝石とは?なんてこと、僕からは何も言いません。野暮ですからね。 月並みな表現だけれど、一人一人が見つけた宝石を大切にしてほしいと思います。 僕も宝石を胸に、いい具合に頑張ります。
打ち上げをどこでしようか考えつつおわり。 ~~ おまけ
近日発売予定の脚本・演出の雲龍さんのノベライズと助演の僕のサイドストーリー本もよろしくおねがいします。 海に、山に、異国に。「宝石」を探しに行きたくなったら、あの航空社がいいんじゃないかな。
宣伝しつつ今度こそおわり。おやすみなさい。 ~~
枕元の携帯を弄れば、千秋楽を迎えた劇や数時間前の感謝の発信への反応は観られるけれど。 そんなもの(と言ってしまうのも問題だ)よりも、今は村雨ちゃん。
「ふたりとも、今夜もぐっすりだったねぇ」 「ほんと、よく頑張ってたもの。さ、私たちも寝ましょう?明日も学校よ」 「そーだね。……半年、支えてくれてありがとね」 「いえいえ、いつものことですから。あ、じゃあお礼に明日のランチ、期待していいかしら?」 「ん、それじゃー鳳翔さんとこ行こっか。感想も聞きたいし」 「うふふ、たのしみ」
これにてひとまず、冬の幕引き。
すぴー…… なー……ぐー…… ツェッペリンと妻がすやすやしてる。 「ぐらたん……ぱぱ……」 「マーチ……」 寝言も可愛らしい。 そんな夫妻の寝姿を見て目が冴えてしまった春風であった。
「どうかしら?」 「うーん、舞台で私たちはこんなに強い気持ちではなかったなー。 じゃあ書き直し」 「そうね、表現を少し変えてみるわ」 書斎では雲龍が飛龍に言われて珍しく手直しの真っ最中。エッセイと違って小説(ノベライズ)ということで畑が違うこともあるからだろうか。
立春の公演は大盛況だった。 グラーフさんを全面に押し出したポスターも大反響だったし、睦月ちゃんや朝霜ちゃんも可愛らしくときめいたし……。 山雲も一生懸命演じていた姿に感動させられた。 天真爛漫なあの子があそこまで演技派だったとは。 もちろん飛龍も着ぐるみ姿で大奮闘だった。 舞台の上の役者一人ひとり、宝箱の中にある数多の宝石のように輝いていたなあ。
陰ながらではあるが僕は照明をやらせてもらい、雲龍は屋台骨となる脚本をやらせて頂いた。 雲龍にとっては初めての脚本にドキドキだったようで、大変だったと公演が終わったあとの夜に呟いていたっけ。 僕は良かったと思うけど、もう少しこうすればと思うことがまま出てきたようだ。 文藝を生業にしている人は常にこう悩んでいる? ……旦那さんを村雨さんはどう支えているんだろう。
そうそう劇の話ではあるが山雲の名演を見ていた朝雲は脱帽だった反面、今度は私も絶対出るんだからと欲望を燃やしている。 僕としては二人とも活躍する姿が見れるならそれは大きな喜びだから良いけれど、蔵の中でいきなり演技の練習を始められると僕の手が止まるから場所は考えてほしかったり。 サラトガはスタンディングオベーションで劇を高評価していたが、彼女もまた劇に出たいと思っているようだ。 写真を見せてもらったがハロウィンの際に向こうで行ったと言う変装はあまりにも迫力が……。 顔の半分が焼け爛れた鬼のようなその姿に度肝を抜かれてしまった。天城と葛城も眉を顰めていたし……。
「うん、よくできた! これがいい!」 「そう、良かった……」 「あー安心したら飲みたくなってきたなあ、ねえー飲んでもいい?」 「今年の新酒持ってくるから待ってて」 「やーりー!」 「飛龍、出版社には帰らなくていいの?」 「今日は今年初の一杯を飲むために半休にしたし、バス乗ってきたからいいの!」 「ならいいわ、あなたお願い」
はいはい……。 疲れたあとのお酒は美味しいけれど、娘たちやサラが帰ってくるから程々にすること。
新春の演劇公演、成功して本当に良かったなと思う冬の昼間。 日差しも仄かに暖かくなってきた、そろそろ春も近いかな。
この土日も大騒ぎ。単純に言って大騒ぎが三週目。公演、公演ときて、遊びの週だ。 もちろん連日連夜の酒池肉林ではなく、土曜の夜にレストランで大人中心のパーティをし、日曜は子供たちの集まりって感じ。
~~
慣れない余所行きの正装で浮足立つ僕ら四人。村雨ちゃんはいつも通り綺麗。だけど、僕は立派な席に慣れてないし、朝霜と睦月は初めてってレベル。あまり堅苦しく、ドレスコードを気にしたりはしなくていい……と言われはしたけど、それはそれ。変なところはなかったかな、と気にする一方、三人の美しい姿を観れるいい機会だった。 そんな僕らと違って、迎えるグラーフご一家は画になってる。そもそも手配したのは彼女らだし、場所にも慣れてるのか。ドレスもよくお似合いですこと。なんというか、住む世界の色が違うとでも言えばいいのか。 同じく洋装に慣れてない、と失礼にも勝手に思っていた雲龍さんご一家も、グラーフさんとこ同様立派に決まっている。酒蔵の職人さんと聞いていたから和風の家だと思っていたが、妹さんにサラトガ先生と洋風文化に触れる機会も多いらしい。 ウォースパイトは、今更言うまでもない。クイーンだもの。並ぶ劇団メンバーもまた然り。 青葉、お衣、飛龍さんもこの手のパーティの対応はバッチリ。……らしいんだけど、青衣はどうも普段のイメージとの乖離が激しい…。 ともかく、不思議なレストランにて、みんなで成功を祝いましたとさ。家族で笑って、子供は初体験して、父同士、母同士も憩う。もちろん家族の垣根を超えた交流も。よきかな、よきかな。
日曜日。小学生チーム+αが家に集まってお菓子作り教室。2月でお菓子と言えば、甘いアレですね。 睦月と山雲ちゃんはいつも通り和やか。その二人を支えるのは村雨ちゃん…ではなく、鹿島ちゃんと由良ちゃん。今年で大学卒業する彼女たちとの、最後の思い出作りというやつだ。……二人してこの町の小学校に赴任するのが決まっているのは、まだ秘密なんだそうだ。 朝霜は今回で朝雲ちゃんに二敗目。聞けばビスケットとかも作れるらしく、大差をつけられてるっぽい。敗、と剣呑な表現をしたものの、教えあって助け合える新しい友達になれそうで喜ばしい。もちろん、いつもの清霜ちゃん、如月ちゃんも一緒で賑やかな四人組。
……というのを、総監督村雨ちゃんにあとから聞いた。バレンタイン準備は男子禁制。僕は劇のサイドストーリー本を部屋で書いていたわけである。さみしかった。解散の時に試作チョコを頂けたのでまぁ、いいんだけど。
そんなこんながあって、バレンタイン当日。村雨ちゃんと娘たち、白露家連名からチョコをもらって、しあわせ。 花の女子大生はサークルとか研究室で配ってるんだろうか。山雲ちゃん、朝雲ちゃんもお父さんにちゃんと渡せたんだろうな。 朝霜に聞いたところによると、清霜ちゃんは「憧れ」として、ある意味本命のチョコを雲龍さんに(朝雲ちゃん経由で)贈ったそうな。……てことは、今僕の手元にある如月ちゃんのチョコもそういう意味だろうか。なんか買いかぶられてる気がするし、憧れるなら村雨ちゃんじゃないのかね、と聞いたら、妻子に睨まれてしまった。なぜだ。睦月の影に隠れるほかない。
何はともあれ、今はチョコを楽しむばかり。増えるかもしれない贈り物と、お返しのことは気にしない。家族からの愛を味わって、歯を磨き。ちょっと苦くてとっても甘い彼女を抱き寄せて、眠る。
ホワイトデー、どうしようかな。
三月三日、雛祭り。 女児の健やかな未来を願う桃の節句が今年もやってきた。
朝霜も睦月も、健やかに育ってきた。と節目の度に思うけれど、雛祭りならば特に「女性として」が話題に出る。女性として、ねぇ。まだ子供、と思っていても気が付けば朝霜は立派になっているし、睦月も僕らの後ろに隠れているだけじゃないし。淑女になっていくのだな。 あの子たちにとっては幸か不幸かわからないけれど(きっと幸だと信じているけれど)、僕らの周りには女性が多い。友達、家族、仕事仲間、そして退役艦娘が本当に多い。文字通り、部隊を組んで作戦行動が出来るほどいる。加えてこの一年は特に、演劇を通じた出会いもあった。タイプも様々な人の中から、それぞれの良さを学び取っていってくれているはず。二人とも不安はあるけど(言葉遣いとか)、何とかなってくれるだろう。
それになんと言っても、村雨ちゃんがいるから心配はない。何か変な踏み間違いはするまいや。勿論、彼女だけに任せやしない。僕もちゃんと見守っていきます。
……なんてことを考えてることは、雛ケーキを食べる子達は気付くことはないだろう。 10年後、15年後のお内裏様に厳戒していることも、気付かれたくないな。
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さてさて冬休みに入った。
他の家だと帰省だとか旅行とか有るけれど僕の家の場合だとそういうことはそもそも縁がなかったり。
家族には申し訳ないが仕事もあるし、家でのお正月だ。
22日、終業式。
本来であれば雲龍が運転手だけど、今日は僕が運転手。なぜなら今日は特別な日だから!
さて終業式から少しして、山雲は高評価の通知票を持ってきた。体育と理科系の科目が特になかなか。 畑や野山を毎日走り回ってれば体力も付くし、観察力も高まるか。 一方で国語の科目は普通。後で雲龍が少し寂しそうだったのは、文書を書き囲んでいる環境で育てていたのにという残念な感情からだろう。 まだまだ分からないし、焦らなくていいのに。 演劇だって励んでいるのだから、きっと文系の方の力もグイッと来るよ。パソコンや外国語の授業があると聞いてどちらも苦手な僕は固まってしまったが。 最近の子供たちは僕の遙か未来へ進んでいる……。
さて、僕らは空港へ。
駐車場に車を停めて飛行機の到着を待つ。
しばらく。
時計を見れば30分位だったけど、僕には長く長く感じたその時間。
『ただいま!』
キャスターバックを引いた愛娘の朝雲が帰ってきた。
山雲は朝雲の手を嬉しそうに握っていたし、朝雲もニコニコ。微笑ましいこと限りなし、無事に帰ってきてくれて良かった。
CAとして同じ飛行機で様子を見ていた葛城曰く、落ち着いていて安心して見れたそうだ。
僕がこの子らくらいの年の頃だとテンションが上がって騒いだなーと反省。
そして新しい家族(?)のサラトガもやってきた。
向こうの学校で教鞭を執っていたが、日本について色々と勉強したかったらしい。
わざわざウチに住み込んでと言う選択肢を取るのにはビックリだが、来る者は拒まずの精神だ。 朝雲もお世話になったし、これくらいは朝飯前!
そんな感じで終業式の日は特別な1日として家族が更に広がった日だった。
23日。家でのんびり。
年賀状を印刷し、お世話になった人へのメッセージを僕と娘たちで書いていたら、飛龍がやってきていつも通りの推敲作業。
これもいつも通り早く仕上がっていたので、余計なお仕事を足された雲龍。
バチバチ怒っていたが、即売会で出す本の原稿が落ちそうなので代わりに何か書いてと無茶振り。
黙々と3時間で少女漫画チックなファンタジーを書き上げたのには驚かされた。 どんだけ文才あるのか、頭の中を覗きたい。
飛龍としてはサラトガとのお話にも関心が有ったらしく、かなり会話していた。 後で聞いたが物怖じすることなく話しかけて語る飛龍にサラトガは驚いていたらしい。 大丈夫、あんなに気さくなお話をするのは村雨さんくらいだ。 雲龍は人見知りがすごいし。
ちなみにこの後、雲龍に報酬としてクリスマス・プレゼントを要求されて飛龍が唸っていた。 編集さんもお疲れ様。
24日はクリスマスイブ!
練習が入っていたとのことだが、朝雲はサラトガとお留守番。 この劇のことは朝雲に秘密だったので、サラトガに無理を言って冬休みの宿題をするようにお願いしてしまった。 安心してくれ、夜には必ず二人を連れて行くから!
村雨さんの旦那さん曰く帰省等の予定を考えてのことだそう。 グラーフさんの所とか忙しそうだし、飛龍も即売会の方に行くらしいしこれは賢明かな。
年明けに本番を迎えるこの劇。 ド素人の僕も要領がやっとわかってきた。 照明器具の使い方もこなれて来たし、観客としての意見も言えるようになってきた。 いや、本当にド素人丸出しなんだけど……。 それを取り入れてくれる村雨さんご夫妻には感謝と恐縮。 雲龍も演劇の本を買って読んでいたけれど、そのかいがあったのか初めの頃より的を得た意見を行っているように見える。 細かい修正に関して具体的に人を指定して、こうしてみて欲しいと言えるようになっていた。 こういうコツコツ勉強して、すぐに生かせる技術。 泊地にいた頃も新しい艦載機を渡すとすぐに練習して熟練度をあげていたなあと昔をついつい思い出す。
さて、主催者のグラーフさん。 立ち回りから声の出し方から指導が的確で舞台の出演者からは好評だ。 僕はあまり指導を受けないので残念なのだが、きっとそれなりの評価は得ているのだろうきっと! そうそう村雨さんは博識。 グラーフさんと雲龍が作った台本で難しい言葉を子供たちへ分かりやすく噛み砕いて教えている。 僕もよく分からない言葉に村雨さんの解説を聞いて「なるほど」と学ばせて貰った。 こういう自分たちをきちんと見て、教え諭してくれるお母さんがいるから睦月ちゃんたちも良い子なんだなあと納得しかない。 ……羨ましいのは、たまに旦那さんと笑顔を向けあっていること。 仕事とプライベートを切り離す雲龍だとこの練習の時に笑顔を全く向けてくれない。 そういう切り替えの早さがきっと執筆の速度に反映しているのだろうけれど。
そして今度は鳳翔さん達の料亭で親睦会を兼ねたクリスマス会。 村雨さんの旦那さんからの提案でサンタクロースに扮して現れた僕。 妻は吹いていたが、この会から来た朝雲からは好評だった、お菓子の靴を渡した時に目をキラキラさせていたし。 そうそう、サラトガがトナカイとサンタクロースの衣装を山雲と朝雲に用意していた。 睦月ちゃんや朝霜ちゃんが喜んでいたのにはビックリだが、さすがアメリカ育ち、クリスマスの楽しみ方を知っていたなと唸ってしまった。 雲龍は娘二人の激写に夢中、そのせいか村雨さんの旦那さんから受けた質問を要点が少し抜けているように思える。 プライベートのスイッチ入ると一気にそっちに触れるのは少し気をつけないとな……。 サラトガはグラーフ・ツェッペリンさんとお話の真っ只中、朝霜ちゃんとともに朝雲も話に入るタイミングを探っていた。
そして旦那さんたちへ僕からのクリスマス・プレゼントとして日本酒を渡せた。
お二人からはなんと紅茶とコーヒー! これは嬉しい。
イタリアの紅茶とはお墨付きを受けたブランドを貰うような気分だった。コーヒーも良い香りがする、両方楽しめるのは贅沢だなあ。
奥さんたちの方もプレゼントを交換していたようで、雲龍は頂いた眼鏡を早速かけていた。 ……メガネ好きではないが、これは良いギャップ。 さて雲龍からはと言うと葛城と選んだペアのマグカップを村雨さんへ、グラーフさんの奥さんにはペアのワイングラスを渡していた。 最初は作ったプラモデルで良いかしらと言っていたので止めてアドバイスを受けたのは正解だったかな。
そして今日は『本物』のサンタさんが家に来るし子供たちも早く寝なければならないので、僕らの会は終わった。また参加したいなあ。
そして家へ帰ると、子供たちはお風呂に入り、歯を磨いて速やかにお布団へ入った。 ふとリビングのテーブルにはビスケットが。 サラトガ曰く、朝雲がサンタさんが食べるからと作ってくれたらしい。 冬の夜長、紅茶とコーヒーにピッタリな甘味、ありがとう朝雲。
25日クリスマス。
枕元に置かれたサンタさんからのプレゼント。山雲には小物入れ、朝雲にはマフラーが届いたと喜んでいた。 その小物入れは酒樽を廃棄するときに削って作ったもの、そしてそのマフラーは雲龍がこっそり夜に作ったもの、2つとも僕らのお手製だ。実用性とオシャレ、対極的なプレゼントになってしまったが、娘達が喜んでくれたなら何より。
「Wow!」
ふふふ、子供部屋の隣の寝室からも英語で驚く声が聞こえた。 サラトガには雲龍が使っているものと同じ万年筆、そして髪留めを送った。 バタンとドアを開いて子供たちに負けず劣らずキラキラ喜ぶ姿は可愛らしいなと僕と雲龍はホカホカ。 なんとも可愛らしい先生だ。
朝の食卓は普段と違い洋食、デザートに天城の特製ケーキを出した。 濃厚なクリームと生地、そして瑞々しい果実の酸味……。 また腕を上げたなと僕は唸るしかなかった。
26日から28日にかけては大掃除を敢行。
昔ながらの古い家は普段から使っていない部屋も有る。 しまわれていた家財道具に日の光を浴びせて、箒や雑巾で掃除。 サラトガは大掃除の習慣に驚いていたが、雲龍からの説明にフムフムも頷き参加してくれた。 掃除はみんなでするもの、大掃除は一年の穢を清めて、新年を迎える大事な儀式。
29日は雲龍が即売会の方へ足を運んだ。 あまりの人の多さに驚き、疲れた様子だったが某出版社の出展スペースへ足を運んで本が売れていく姿を見て、エネルギーを貰えたと言っていた。 顔が紅潮して居るのは寒さよりも喜び。 あまり人の多い所へは行かせたくなかったが、喜んでいたので何よりだ。 この夜に飛龍が青葉さんと衣笠さんを連れて打ち上げをやったのには圧倒されたが、今日が仕事納めだったらしい。 仕方ない、しっかり飲んで労をねぎらってもらおう。
30日は餅つき。
最近はノロウイルス等の蔓延を防ぐために餅つき会を無くす動きがあるが、我が家はどこふく風。 しっかり自宅に杵と臼、モチ米も用意してあるから家で作れる。 例年は餅つき機を使って餅を作っていたが、今年はサラトガがいる。 杵と臼を使って家庭内餅つき大会だ。 僕が餅をつき、雲龍がこねていたが、山雲と朝雲もやりたいと言ってきたので手を添えて手伝ってもらった。 出来立ての餅のさわり心地を知って娘たちは驚きと喜びが混ざった様子で、粒の集まりだった蒸した米が餅になっていく姿にサラトガはとても驚いている。 お雑煮に入れる分と、鏡餅を作ったらあとは出来立てのお餅を食べるだけ。 あんころ餅と醤油と砂糖で和えた甘辛餅を食べた。 伸びる餅に驚くサラトガの顔は忘れないだろうな。 雲龍と写真に収めて成功だった。
そして31日。
こたつに入ってぐっすり眠っているのは愛娘の山雲と朝雲。 日付が変わるまで起きているといったが、二人とも22時にはウトウトしていた。
「風邪ひくわよ」と言いつつも大人しく、娘達の頭を撫でる雲龍。 慣れないおせちの支度に悪戦苦闘したためか、少し疲れているのがわかる。
「提督、日本のお酒は美味しいですね……」
ホッコリ顔を赤くして僕の作ったお酒を堪能しているのはサラトガ。4月からこっちの大学院で日本の勉強をしながら、愛娘らの英語を教えることになっているらしい。奇遇にも僕らの母校の院なので色々手助けは出来るかもしれない。
(しかし僕の家から通勤しますって……)
本来であれば学校近くの賃貸物件を借りれば良いものをと思ったが、日本文化が勉強できるからと僕の家を選んだとか。
この提案には驚いたが雲龍が快諾した事の方が大きな驚きだった。 アメリカの艦載機のプラモデルを貰ったからと言うのもあるだろうけど、それより信頼があったからなのかな。
(サラトガと雲龍のスロットで補い合うことが多かったしね)
ふと昔を思い出してしまったり。
さておせち作りを終えて、そばも食べ終えて除夜の鐘も聞こえたしそろそろ。
まもなく来年だ。
来年はどうなるのか、それは分からないが子供たちや出会った人々の幸せを祈って新しい年を迎えたい。
「明けましておめでとう!」
なんだかんだ言って、冬は炬燵に緑茶が王道だと思う。普段も飲まないわけではないけれど、なんというか、苦みがまた格別だ。実家だからだろうか。それとも、新年だからだろうか。この空気はかなりすきだ。
「おじいちゃんおばあちゃんにおとしだまもらったー!」
「おー、ちゃんとお礼言った?」
「ちゃんと言ったって。てか見てただろ」
「パパは今年も心配性ってことねぇ」
挨拶は大事、心配性にもなりますよ、とは言い返さない。今更言わなくてもわかってるだろう。ずずず、とまた茶を頂く。おじいちゃんおばあちゃん…父さん母さんから受け取った少なくない教えのひとつは、ちゃんと継げているだろうか。大丈夫だろうな。信じるほかあるまい。
適当にテレビのチャンネルを変えながら、面白いものを探す。あっちもこっちも特番。正月からSen、神通さん、那珂ちゃんは忙しそうだ。映像がそのまま無事の便りとは、ありがたい平和の時代。
便りといえば、帰ったら年賀状が来ているんだろうなぁ。少しだけど、出版社宛にも毎年頂いているし、早めに受け取りに行かなきゃ。青葉とお衣は年末まで即売会?とやらで忙しかったらしいし、労いを兼ねて食事会でもするか。割り勘だけど。
父さん母さんと睦月朝霜にとって、テレビの内容は実際あまり興味は関係ないようで、適当に話題を膨らませる材料程度のようだ。学校の話、元艦娘のお姉さんの話、外国のお話、昔の話、なんでもない話。劇の話になったら僕の方にお鉢が回ってくるだろう、とぼんやりだらけていると、村雨ちゃんに写真を撮られた。なにしてんのさと言い返すのも野暮な気がして、穏やかな色の髪をもてあそぶ。今年も村雨ちゃんはかわいい。
「今年の…ほうふ?」
「目標のことよ」
「目標…そうだなぁ。ママのお手伝い、かにゃ?」
「あら。ありがとうね」
「じゃああたいは父さんの手伝いか?何すればいい?」
「元気でいてくれればそいでいいよ。睦月もね」
「私はなににしようかしら。パパに厳しく?」
「うぇ……」
ここ数ヵ月新しい人と知り合って、また色々と思ってるんだろう。あの劇に関わる皆さんが特別優秀すぎるだけだと思うんだよな!と思う反面、実際気を引き締めていかねばならんとも思う。先の即売会でも雲龍さんの筆が光ったと聞き及んでいる。切り替えの早さ、鋭さを見習うべきだなぁ。
「ねぇ、パパは?」
「抱負、ばしっとたのむよ」
「んー、ほどほどにがんばります」
「雑!」
思うところは多いけど、口にしたらこんがらがる。年の初めはこんなもんでいきましょう。
羽根つき、福笑い、凧揚げ、こま回し……。
お正月の遊びというのは多々ある。
そんなまま有る遊びの中で山雲と朝雲、サラトガがしているのは羽根つき。 カンカンと羽子板で羽根を打つ音が笑い声とともに酒蔵にいる僕にも聞こえてくる。
(本当なら旅行に連れて行ってあげたいんだけどごめん……!)
テレビのニュースでは帰省ラッシュや行楽地に出かける渋滞など出かける人が珍しくない御時世。 海が穏やかになって何年も経つ今年は海外に行く人が増えたとか減ったとか聞いたのを思い出す。
そんな中、いよいよ今年の酒が完成する間際の今は酒蔵から離れることは出来ない。
(ウチで働いてる職人さんたちはみんな帰省中だし……)
しかし、それに不満を言わない家族たちには感謝しかない。 去年は売り込みで放浪してたけど、今年の夏こそは出かけよう、連れて行ってあげようと決心しながら、僕は樽の中の酒をかき混ぜる。
そうそう、雲龍も書斎に籠って仕事中。
出版社に届いたファンからの年賀状を飛龍に持ってきてもらい、読んでは返事の年賀状を書いている。
サイン会のようなファンと直接会う機会を設けないことに対する彼女なりのケジメであるらしい。
連載始めた頃から読んでくださっている熱心なファンの方や友だちに勧められて読みはじめた方まで筆まめに『返事』を書くことを毎年欠かしていない。
(飛龍が年賀状の束を持ってきたらすぐスイッチが入るのが1番凄いと思うけど……)
真面目さ、スイッチの切り替えの速さ、僕にとってはとても良い目標だ。
到底追いつけないだろうが、近づくことは意味があるはずだ。
僕の新年の抱負、彼女に近づくこと。
そうだ、家族の抱負も聞かないと……。
いつもお世話になっております。
大安吉日の今朝ゲーム内でケッコンしました。
ここの人を始め、読んでくださっている方々に感謝申し上げます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
おめでとうございます。
穏やかな家庭をいつも楽しませていただいております。
末永くお幸せに。
あるアーケードの筐体で野分が演奏しようとしていたとき、インバネスコートを着た人物が野分の右隣のターンテーブルにやってきた。
「野分、隣失礼していいか?」
「は、はい、大丈夫ですけど」
「Danke.プレイ代金は私が持とう」
「え、いいんですか?」
「もちろんだとも」
野分がまず1曲目を選択する。
「あれ?最高難易度でいいのですか?野分は一番下にしますけど」
「ああ、大丈夫だ」
野分がまず選んだのは、冬のイメージのバイオリンの曲。階段を降りていくムービーが特徴的らしい。
最高難易度を選んでいたグラーフは余裕綽々の表情。これには後ろでまじまじと見ていた嵐と萩風と舞風も黙って見ているしかなかった。
2曲目も野分が選び、日本風でSEが特徴的な曲。タイトルが野分の好みらしい。
グラーフは依然笑顔のままであった。なお野分はクリアに失敗した模様。
「あぁ、3曲目は私が選ばせてくれ」
「ん?何にします?」
「そうだなぁ……」
といってグラーフが選曲した曲はときどき猫の鳴き声がするとても愉快な曲だった。
もとは別のアーケードからの曲らしい。
野分はクリアに失敗したがもう一度やってみたいとも思っていた。
これにてあっという間に2人プレーの時間は終わった。
「突然で申し訳なかったな。有難う」
「こちらこそ、素晴らしい腕前を見せていただいて感謝します」
「いやいや、例には及ばない。助言の何一つもしなかったのだから」
颯爽と現れた伯爵はこうして去っていった。
グラーフのプレイに見とれていた第四駆逐隊の皆はまたそれぞれのゲームを遊び始めた。
1月4日。世間的には仕事始めということで、青葉お衣と打ち合わせを行う。
締め切りの詰めでもないのに我が家でしているのは、新年のあいさつだとしても特殊な例だろう。待ち合わせ、というか来訪のアポは15時で、会社にはそのまま直帰と伝えているそうだ。要するに、打ち合わせが終わればそのまま新年会である。毎年恒例とはいえ、それでいいのか敏腕編集者。
……もちろんそれでいいわけもなく、各種予定、展望、進捗について詰めていたら食卓に遅れることとなった。村雨ちゃんに呼び出されなけりゃもっと話し合っていただろうな。
酒もあまり入れられないし、新年会にしては小ぢんまりしたことになったけれど、みんな楽しそうだったからよし。
睦月、朝霜とお姉ちゃんらがお風呂に入っている間に、読者の皆様からの年賀状を眺める。昔からの人、今年初めての人。観劇から入った人、講演から入った人、もちろん小説からも。結婚した人も、子供が生まれた人も、何の因果か軍に入る人もいる。当たり前だけど、いろんな人がいる。ありがたいことだ。今年はもっとしっかり新作出せるといいなぁ。
1月5日。
青葉と衣笠が寝坊ギリギリ。慌てて出版社へ向かう準備をする。
結局、お衣が出発直前に定例会議がないことを思い出してクールダウンし、差し引き余裕を持った出発。
どうせ出かける準備をしたのだから、と新年の挨拶に行っておこうということになり、車に乗る。運転席に僕。二列目に青葉、三列目にお衣。助手席に村雨ちゃん、青葉の隣に睦月、お衣の隣に朝霜。
おかしいだろ。
どうも遊びに行くもんだと勘違いしたらしく、ご丁寧にニット帽まで被ってめかしこんでいる。いずれ見せたいとは思っていたが、いくらなんでも、アポなしで社会科見学はまずい。作家一人、編集者二人で即時にどうこうできるレベルじゃなくまずいが、二人とも乗り込んでしまっている。これを下ろすのは一苦労しそうだし、うきうきを妨げたくはない。預けるにしても義姉さんの家には三が日顔を出したばかりだ。
……よし。
「ごめんなぁ、新年早々急に頼んじゃって」
「いいのいいの~。はたらきものはだいかんげ~」
「まだお客さんも少ないからね。三人とも人気だったわ」
「…そりゃよかった」
「……独占欲強すぎるの、ほんと治した方がいいわよ」
「……はい」
「まぁ~まぁ~、それくらいで~。ぱぁ~っと新年会しましょ~?」
「ノンアルコールでな。あ、そうだ新年といえば」
「わかってます。お年玉はあげない、でしょ?」
「ありがとね。あいさつ回りしちゃうと総額がおかしなことになるし……」
「おかたいんだから~、も~」
「堅くていいの。普段甘やかしてるんだからさ」
急なお願いながら、イタリア喫茶のもとでお仕事体験ということに着地した本日。ちょうどいいので、僕もコーヒーを頂きながらお年賀のお返しを書いて、一日ゆっくり。あんまり追加注文できないのは二人に悪いな…。早く立派になろう。
「あなた、ショートケーキはいかが?」
「あれ、美人さんが三人も」
「きゅうけいのおじかんにゃ」
「イチゴの日、だぜ」
家族と友達がいれば、ご立派じゃなくてもいいか。ここでケーキ食べたならしばらくはいいだろう。天城さんにも、悪いねぇ。
「あーあー、初めましてサラトガともうしまふ」
いよいよ冬休みも終わり、明日から学校。
緊張の面持ちのサラトガが居る。
引き攣った笑顔でひたすら自己紹介の練習中。
「明日は始業式だけだから何も怖がることは無いと思うわ」
サラッと伝える雲龍の言葉は彼女なりの心配の現れだと思うが、もう少しこう言い方というものを……。
一方で赤いランドセルを背負い合って見せあっているのは山雲と朝雲。
うん、子供たちは何も心配なさそうだ。
ニコニコ笑いながらお話している姿を見ると子供って順応性が高いなあと感心させられる。
1月は行く、2月は逃げる、3月は去る。
あっという間の年度末の頃だけどどうなることか……。
二泊三日ほど、某家の招待を受けて行っていた山間の別荘より帰ってきて、今日は一日家で過ごしていた。少女 は、何の気なしに核心を突いてくる。突かれてから図星と分かる僕も大概だけれど。
ウィンタースポーツ、温泉、ダンスレッスンと盛りだくさんの三日間は大変有意義ではあったけど、そこから息つく暇なく新学期は問題ありだろう。ということで、一応ちゃんとした「お休み」として設定していたつもりなんだけど、そもそもが子供の無尽蔵の体力。今日も一日遊んで、いつも通りぐっすりだ。
宿題のやり忘れも見落としもない。ランドセルの中身は入念にチェック済み。憂うところはなく、村雨ちゃんと労をねぎらう。
「冬休み、おつかれさまでした」
「おつかれさまでした。あなたはこれから劇の追い込みね」
「あとひと月前後。立春のお祭りと、その前に航空会社と出版社の共同出資講演……かぁ」
「……不安?」
今回は大きく分けて二つ。グラーフと飛龍さんのコンビが主導になる興行としての公演と、街の芸術祭で公演するライト版。2種類あるとはいえ、照明機材や効果が劇場の関係上違うだけで、ほぼほぼ同じである。濃厚な二日間を2回で、合計4日だ。ツアー講演もお手の物なアイドル那珂ちゃんじゃあるまいし、僕らにとっては特殊な形態となる。
「正直、子供たちがねぇ。通し練習は出来たけど、本番なんて何が起きるやら。それを何度もだよ」
「あなたの初舞台も、私の初出撃も、大変なことしかなかったじゃない。悲観してもしょうがないわ」
「……ごもっともで」
「大丈夫。朝霜も睦月も、山雲ちゃんも、不安がるほど弱くないわ」
なんてことない調子でおつまみのチーズをつまむ。あとひとつ。こういうとき困るんだよな、と思いつつワイングラスを傾ける。
「それもそうだ。立派になったもんだよ」
「……あなたも、だよ。弱くないよ」
最後の1ピースを僕の口に差し出して、悪戯っぽく微笑む。またこの
「ありがと。元気出た」
「好きだもんね、チーズ」
「好きだからね、村雨ちゃん」
「もう」
冬休みも終わり。春は近い、はず。花(たち)を愛でていられるように、尽力せねば。
今日は大雪。平地ながらもある程度積もった。
マンションの近くの公園で娘2人が遊びに出かけていた。
最初は駆け回るだけだったものの、走り疲れると雪合戦が始まった。
春風ちゃんは雪の壁を作るも、村雨ちゃんはそのスキを逃さずに投げていっている。
さすがお姉ちゃんといったところか。
雪合戦というか雪の投げ合いではあるが。
ふと、部屋を見回すとリビングにいたはずの旦那がいない。
主人はというと雪に埋まっていた。春風ちゃんの作った壁にいつの間にか一体化していた。
服装も昔の鎮守府の、それも未改造のときのものを引っ張ってきたらしく、雪にカモフラージュされていて気づくのに時間がかかってしまった。
3人が戻ってくる頃を見計らってコーヒーを淹れる。今回は伯爵お気に入りのダルマイヤー。
3人共砂糖マシマシが好きなので用意。特に伯爵には砂糖3倍増し。
村雨ちゃんと春風ちゃんはいい感じに戻ってきたが、旦那は戻ってこず。
しばらく待っていたらちっちゃくなったグラーフが戻ってきた。
コーヒーを少しティースプーンであげると眠ってしまったのであまりは冷蔵庫へ。起きたら電子レンジで温めてあげよう。
しかし小さくなった旦那はとてもかわいいなぁ。ころんと突っ伏してしあわせそうにしている。
こっちまで幸せな気分になりそうだ。
3人で旦那を見つめていたらいつの間にか眠ってしまった。
起きるといつの間にか自分の頬を背もたれにしていてまったりしていたグラーフがいた。
相変わらずかわいいので指でほっぺたをつんつん。
なーぐーと鳴いたのもかわいい。
さてさて、もうすぐ劇の本番だが、これで大丈夫なものなのか……。
主人いわく、「パーフェクト。」という評だからあまり気にはかけないではおこう。
土曜日。海がほど近く温暖なこの街で、しっかり雪が降るのは年に数度あるかどうか。
貴重な光景に、子供たちは当然目を輝かせていた。
本当は、結構しっかり練習するつもりだったんだけどな。
ちゃんと練習する!と意気込んでくれた三人の気持ちだけ受け取って、遊びの時間をとりました。せっかくの雪、もったいないし。
楽しむ姿も勿論だけど、それだけはしゃぐ気持ちを抑えての先ほどの申し出には、流石に感動せずにはいられない。
立派に育ってくれてるなぁ。なんて呟いたら、ハンカチいる?って。村雨ちゃん、僕がいつも感涙する前提でしゃべるのやめてくれないかな。変なイメージつくからさ。
……ハンカチはもらう。いい香りだ。
後に少し吹雪いてきたので、ホール内に退散。
そこからは予定通り、厳しめにいきました。本番まではあと少し。ここからはちょいと、ビシッとしめますよ。
ピアノを弾きながら英語の歌を歌う。
楽しみながら英語がわかるようにサラトガは授業をしていると山雲と朝雲から聞いた。
生まれて初めての書き初めにチャレンジしたり、休み時間には子供たちとドッジボールをしたりと自分から積極的に子供達の輪に入ろうしていたこともあり、すっかり人気の先生のようだ。
一方で復学(?)した朝雲もクラスの子たちと馴染んできたようで何より。
最近は山雲と仲良くしている睦月ちゃんに嫉妬している素振りを見せているという。
くれぐれもケンカにならないことをヒヤヒヤしている。
「子供たちが曲がりそうになった時に糺すのは必要だけど、無理に真っ直ぐ伸ばすのは成長の阻害を助長すると思うわ」
過保護な僕とは対照的に雲龍は子どもたちの自主性に任せるべきと放任気味。
……いや、口ではそう言いながらも食卓では毎日学校で何をしたから、どんな友達と何して遊んだか会話をしながら聞き出していたっけ。
子どもたちの世界にどのように立ち入るのか、僕にとっての課題はそこかもしれない。
村雨さんの旦那さんみたいに自然に自然に子どもたちと仲良くしないと!
さて暦の上で春になるその日に劇はまもなく本番。
秋からずっと練習してきたこともあり本当に見違えた。子どもたちは可愛らしいし、役者さんらは縦横無尽にその演技力を遺憾なく発揮する。
そして雲龍は動かない。
これ以上、手を加えたら壊れるからと見に徹している。
何を考えているのか分からない雲龍の瞳、しかし一時期よりも柔らかく優しく見守っているのが分かる。
朝雲もサラトガも、天城に葛城にもノビノビと躍動するみんなの集大成を見せたい。
もちろん僕の照明さばきをふくんで。
「英語を習いたい、ねぇ」
年明けから来るようになったサラトガ先生。聞くところによればアメリカの出身だそうで、ネイティブの英語で勉強できるのは子供たちにとっては素晴らしいことだ。うちの子たちの先生、ウォースパイトの英国英語と違うところがどの程度あるのかはわからない――二人とも日本語ペラペラだから、正直話す英語の差異に気付くタイミングがない――けれど、そこまで支障が出てないなら大丈夫だろうな……と思っていた矢先に、朝霜のお願いである。
「朝雲ちゃん、だったかしら。その子が英語以外もすごくって、対抗心メラメラみたいよ」
「あー……留学してたんだっけ。そりゃ勝てないでしょ」
「あなたに似ないで気が強いものねぇ、朝霜」
「うるしゃい」
辛口の一言を、まろやかなホットミルクで誤魔化す。まぁね、そこばかりは似ないでよかったよ。
「……ただの負けん気ってだけでもないみたい」
「そか。朝霜、この半年で大きくなったもんなぁ」
「劇も、鎮守府訪問も、全部この半年だもの。大きくなるわよ」
「嬉しいような、寂しいような」
「よろこびましょっ」
広い世界で沢山の人と出会うこと。朝霜にも睦月にも、大変な経験だ。
「鎮守府」という場所のこと。軍属時代の僕らのこと、僕ら以外のこと。現役の少女たち。
観客だった劇の世界へ、自分たちが入ること。一つのもののために、色々な人が動くこと。
イギリス、イタリア、アメリカ、ドイツ。海の向こうの国のひとのこと。同じ年ごろでもそこへ行った人のこと。
会う度、話す度、衝撃と感動をもらっているらしい。それは言葉にも、話にも、話さなくても伝わってくる。感受性豊かな年頃に、連れまわした甲斐はあったかな。
「春には6年生……かぁ」
「はやいものねー…」
「それより先に劇だけどね」
「今週末、それこそ『はやいもの』ね。出来は?」
「ばっちり」
「よかった。最近こわかったよ」
「ありゃ、そう?」
「そう。時々急にスイッチ入れるんだもん」
「あちゃー……」
9割完成のところを、最後の研磨としてポイントを伝えただけのつもりだったんだけど、そんなに怖かったか。劇団はともかく、今回初めての皆さんは「通し」での注意点が意外と嵩張ってしまったのは事実である。もっと早くにシーンを繋いだ練習を提案して、各所指摘しなかった僕が悪いといえば悪い。任せていいだろうと思わせる才女たちも悪いのでは?
ともかく、白露家をはじめとした鎮守府の一同、劇に興味ありげの如月ちゃんと運動会で雲龍さんを「借り」てた清霜ちゃん、卒業も近い由良ちゃん鹿島ちゃん。風の鎮守府の面々……声をかけられるところは一通り誘ったけれど、楽しんでいただくのに心配も抜かりもない。みんな同じ公演に来るとは限らないけど。
「ま、今大丈夫だから大丈夫だよ」
「もうあんな顔しないでね」
「しないしないー」
「原稿の締め切りの度にその顔してるってことも、自覚してね」
「……はぁい」
急にトーンと目が変わるのは、お互い様だと思うんだ。額をつついてくる人差し指を、甘んじて受け止めた。
先の土日で、出版社と航空社の協賛公演が行われた。
半年間磨き上げてきただけあって、大きなミスもなく、アドリブまで入れる余裕をもっての終演だ。
昼夕公演を連日は子供たちに負担が大きいかと思い、過保護な父としては当初反対していたのだが、終わってみれば全く杞憂だったようで。エネルギーを余らせてカーテンコールでも大騒ぎ…とはいかないけれど、ちゃんと舞台上では女優であった。
そんな女優たちも、今は少女としてぐっすり。
自分たちの劇が、自分たちの想像以上に好評なことも、三人娘宛ての手紙やプレゼントが届いていることも知らない。
(自分たちの『芸名』が「雰囲気とやる気を出す」ことは二の次で、本名を出すことに対する僕の過剰な――七光り呼ばわりとか、個人情報とかへの――心配から発案されたことも、もちろん知らない。Senこと川内のラジオでは「知り合いの子が~」と言っていたこともあって、三人ともどこかの事務所所属だと思われているはず)
色んな事があるけれど、そういうのは全てが終わってからでいい。
今はただ、夢を見せて、夢を見ていてくれればいい。
「ね、――くん」
「なに?」
「いい夢、見ましょうね」
「……ん。一緒にね。おやすみ」
「おやすみ。…きゃっ」
ただの気まぐれか、いつかの口説き文句の引用か。偶然にも、娘に願ったことを言い当てられた格好になる。
心を読まれた気がして、気恥ずかしくなって、愛しい彼女を抱き寄せた。
先週末の公演から一週間。
旦那は相変わらずすやすやしてるし、娘たちは勉強にお絵かき、テレビと休日を満喫している。
冬の終わりを告げる公演。乗り打ち2連続、合計4回の公演は無事に終幕を告げた。子供たちがメインと言いつつも、グラーフや飛龍がいることによって本格的な劇として仕上がった。通しの稽古では大人と子供で噛み合わないところもあったが、さすが伯爵が見込んだキャスト。本番は劇場が変わろうとも誰も動じず。舞台に立つ者に限らず、大道具、小道具、照明、音声と裏方も皆が劇の世界に入り込んだのであった。
カーテンコールが終わったあとの拍手はどの回も1分以上続いたと思う。
航空会社及び出版社の公演は全席招待制にしてみたものの、観覧応募はどちらも殺到、倍率は5倍以上となっていた。
街の芸術祭の方は地域の方に優待はあるものの、あとの半分は先着順で、それも朝早くから列をなしていた。
間違いなくはポスターのメインに採用したグラーフと子どもたちのおかげだ。
昨日の立春の祭りもステージイベントに呼ばれ、歌を披露した街で引っ張りだこの夫と娘二人。なんだか羨ましいなぁと思いつつ、あんなに誇れる娘を持っているんだとちょっぴりの自慢と少しの責任感が生まれたり生まれなかったり。
久々の家族で家に過ごす休日。春眠暁を覚えずというのはまだ早いが、暖房の効いた部屋で思い思いに過ごす心温まる日々はこんなに素晴らしく幸せなものだと感じている。そんな中、伯爵のブラックベリーがベルを鳴らした。主人は寝ぼけた顔で、受話器に耳を当てた。
「もしもし、こちらアレクサンドル・スタニスラヴォヴィチ。」
「……ああ、瑞鳳か。そうだ、私がグラーフ・ツェッペリンだ。貴方と話すのは久しぶりだな。」
「ああ、それか。ちょっと待ってくれ。家内と話す。」
グラーフが受話器から手を話し、彼がいるこたつに自分を呼ぶ。
「瑞鳳から6月のツアーの斡旋を受けたが、休みは大丈夫か?」
今なら有給取れるからと、もちろんオーケーの返事を返した。ちなみに瑞鳳は旅行会社のツアー予約担当。もちろん自分とは仕事の関わりもあるけど、プライベートなところでもお世話になっていることも多い。そんな瑞鳳が彼に電話で斡旋を直接するものだから恐らくはかなり少数か、何かの記念のツアーだろう。返事を返してすぐ、グラーフは受話器を手に取った。
「瑞鳳、お待たせした。家内も付き添えるとのことだ。」
「日時はそれで決まりだな。分かった。ではまたその日に。」
グラーフは受話器を取るとスケジュール帳にすぐさま予定を書き込んだ。
あえて彼に旅の内容は聞かなかったものの、どんな旅なのだろう。彼のシンボルマークのケルト紋が表紙に描かれたスケジュール帳がこたつの上に置かれていたのを私は少し気になってしまった。
ミスって名前が村雨になってますけど、気にしないでください。村雨の夫です。
~~
Juwel des Meeres、立春芸術祭公演も無事終了!
地元の方も遠くから来てくださった方もありがとうございました!
皆さんに楽しんでいただけたなら何よりです。
助演としての参加なのに沢山の応援、差し入れを頂き有難い限り!(他のメンバーは僕の5倍10倍はもらってたみたい)
つづく。
~~
つづき
今回の公演は初めての人とのお仕事がとても多かったのが印象的です。
演劇初挑戦の雲龍さん、謎多きグラーフ伯爵、元気いっぱいの子どもたち。才覚と魅力ある女性たちに圧倒され、刺激を受ける日々でした。ウォースパイト団長もそのひとり。
妻が一番なのは揺るぎないけど。
つづく。
~~
つづき
作品について、タイトルにある「Juwel」…宝石とは?なんてこと、僕からは何も言いません。野暮ですからね。
月並みな表現だけれど、一人一人が見つけた宝石を大切にしてほしいと思います。
僕も宝石を胸に、いい具合に頑張ります。
打ち上げをどこでしようか考えつつおわり。
~~
おまけ
近日発売予定の脚本・演出の雲龍さんのノベライズと助演の僕のサイドストーリー本もよろしくおねがいします。
海に、山に、異国に。「宝石」を探しに行きたくなったら、あの航空社がいいんじゃないかな。
宣伝しつつ今度こそおわり。おやすみなさい。
~~
枕元の携帯を弄れば、千秋楽を迎えた劇や数時間前の感謝の発信への反応は観られるけれど。
そんなもの(と言ってしまうのも問題だ)よりも、今は村雨ちゃん。
「ふたりとも、今夜もぐっすりだったねぇ」
「ほんと、よく頑張ってたもの。さ、私たちも寝ましょう?明日も学校よ」
「そーだね。……半年、支えてくれてありがとね」
「いえいえ、いつものことですから。あ、じゃあお礼に明日のランチ、期待していいかしら?」
「ん、それじゃー鳳翔さんとこ行こっか。感想も聞きたいし」
「うふふ、たのしみ」
これにてひとまず、冬の幕引き。
すぴー……
なー……ぐー……
ツェッペリンと妻がすやすやしてる。
「ぐらたん……ぱぱ……」
「マーチ……」
寝言も可愛らしい。
そんな夫妻の寝姿を見て目が冴えてしまった春風であった。
「どうかしら?」
「うーん、舞台で私たちはこんなに強い気持ちではなかったなー。 じゃあ書き直し」
「そうね、表現を少し変えてみるわ」
書斎では雲龍が飛龍に言われて珍しく手直しの真っ最中。エッセイと違って小説(ノベライズ)ということで畑が違うこともあるからだろうか。
立春の公演は大盛況だった。
グラーフさんを全面に押し出したポスターも大反響だったし、睦月ちゃんや朝霜ちゃんも可愛らしくときめいたし……。
山雲も一生懸命演じていた姿に感動させられた。
天真爛漫なあの子があそこまで演技派だったとは。
もちろん飛龍も着ぐるみ姿で大奮闘だった。
舞台の上の役者一人ひとり、宝箱の中にある数多の宝石のように輝いていたなあ。
陰ながらではあるが僕は照明をやらせてもらい、雲龍は屋台骨となる脚本をやらせて頂いた。
雲龍にとっては初めての脚本にドキドキだったようで、大変だったと公演が終わったあとの夜に呟いていたっけ。
僕は良かったと思うけど、もう少しこうすればと思うことがまま出てきたようだ。
文藝を生業にしている人は常にこう悩んでいる?
……旦那さんを村雨さんはどう支えているんだろう。
そうそう劇の話ではあるが山雲の名演を見ていた朝雲は脱帽だった反面、今度は私も絶対出るんだからと欲望を燃やしている。
僕としては二人とも活躍する姿が見れるならそれは大きな喜びだから良いけれど、蔵の中でいきなり演技の練習を始められると僕の手が止まるから場所は考えてほしかったり。
サラトガはスタンディングオベーションで劇を高評価していたが、彼女もまた劇に出たいと思っているようだ。
写真を見せてもらったがハロウィンの際に向こうで行ったと言う変装はあまりにも迫力が……。
顔の半分が焼け爛れた鬼のようなその姿に度肝を抜かれてしまった。天城と葛城も眉を顰めていたし……。
「うん、よくできた! これがいい!」
「そう、良かった……」
「あー安心したら飲みたくなってきたなあ、ねえー飲んでもいい?」
「今年の新酒持ってくるから待ってて」
「やーりー!」
「飛龍、出版社には帰らなくていいの?」
「今日は今年初の一杯を飲むために半休にしたし、バス乗ってきたからいいの!」
「ならいいわ、あなたお願い」
はいはい……。
疲れたあとのお酒は美味しいけれど、娘たちやサラが帰ってくるから程々にすること。
新春の演劇公演、成功して本当に良かったなと思う冬の昼間。
日差しも仄かに暖かくなってきた、そろそろ春も近いかな。
この土日も大騒ぎ。単純に言って大騒ぎが三週目。公演、公演ときて、遊びの週だ。
もちろん連日連夜の酒池肉林ではなく、土曜の夜にレストランで大人中心のパーティをし、日曜は子供たちの集まりって感じ。
~~
慣れない余所行きの正装で浮足立つ僕ら四人。村雨ちゃんはいつも通り綺麗。だけど、僕は立派な席に慣れてないし、朝霜と睦月は初めてってレベル。あまり堅苦しく、ドレスコードを気にしたりはしなくていい……と言われはしたけど、それはそれ。変なところはなかったかな、と気にする一方、三人の美しい姿を観れるいい機会だった。
そんな僕らと違って、迎えるグラーフご一家は画になってる。そもそも手配したのは彼女らだし、場所にも慣れてるのか。ドレスもよくお似合いですこと。なんというか、住む世界の色が違うとでも言えばいいのか。
同じく洋装に慣れてない、と失礼にも勝手に思っていた雲龍さんご一家も、グラーフさんとこ同様立派に決まっている。酒蔵の職人さんと聞いていたから和風の家だと思っていたが、妹さんにサラトガ先生と洋風文化に触れる機会も多いらしい。
ウォースパイトは、今更言うまでもない。クイーンだもの。並ぶ劇団メンバーもまた然り。
青葉、お衣、飛龍さんもこの手のパーティの対応はバッチリ。……らしいんだけど、青衣はどうも普段のイメージとの乖離が激しい…。
ともかく、不思議なレストランにて、みんなで成功を祝いましたとさ。家族で笑って、子供は初体験して、父同士、母同士も憩う。もちろん家族の垣根を超えた交流も。よきかな、よきかな。
日曜日。小学生チーム+αが家に集まってお菓子作り教室。2月でお菓子と言えば、甘いアレですね。
睦月と山雲ちゃんはいつも通り和やか。その二人を支えるのは村雨ちゃん…ではなく、鹿島ちゃんと由良ちゃん。今年で大学卒業する彼女たちとの、最後の思い出作りというやつだ。……二人してこの町の小学校に赴任するのが決まっているのは、まだ秘密なんだそうだ。
朝霜は今回で朝雲ちゃんに二敗目。聞けばビスケットとかも作れるらしく、大差をつけられてるっぽい。敗、と剣呑な表現をしたものの、教えあって助け合える新しい友達になれそうで喜ばしい。もちろん、いつもの清霜ちゃん、如月ちゃんも一緒で賑やかな四人組。
……というのを、総監督村雨ちゃんにあとから聞いた。バレンタイン準備は男子禁制。僕は劇のサイドストーリー本を部屋で書いていたわけである。さみしかった。解散の時に試作チョコを頂けたのでまぁ、いいんだけど。
そんなこんながあって、バレンタイン当日。村雨ちゃんと娘たち、白露家連名からチョコをもらって、しあわせ。
花の女子大生はサークルとか研究室で配ってるんだろうか。山雲ちゃん、朝雲ちゃんもお父さんにちゃんと渡せたんだろうな。
朝霜に聞いたところによると、清霜ちゃんは「憧れ」として、ある意味本命のチョコを雲龍さんに(朝雲ちゃん経由で)贈ったそうな。……てことは、今僕の手元にある如月ちゃんのチョコもそういう意味だろうか。なんか買いかぶられてる気がするし、憧れるなら村雨ちゃんじゃないのかね、と聞いたら、妻子に睨まれてしまった。なぜだ。睦月の影に隠れるほかない。
何はともあれ、今はチョコを楽しむばかり。増えるかもしれない贈り物と、お返しのことは気にしない。家族からの愛を味わって、歯を磨き。ちょっと苦くてとっても甘い彼女を抱き寄せて、眠る。
ホワイトデー、どうしようかな。
三月三日、雛祭り。
女児の健やかな未来を願う桃の節句が今年もやってきた。
朝霜も睦月も、健やかに育ってきた。と節目の度に思うけれど、雛祭りならば特に「女性として」が話題に出る。女性として、ねぇ。まだ子供、と思っていても気が付けば朝霜は立派になっているし、睦月も僕らの後ろに隠れているだけじゃないし。淑女になっていくのだな。
あの子たちにとっては幸か不幸かわからないけれど(きっと幸だと信じているけれど)、僕らの周りには女性が多い。友達、家族、仕事仲間、そして退役艦娘が本当に多い。文字通り、部隊を組んで作戦行動が出来るほどいる。加えてこの一年は特に、演劇を通じた出会いもあった。タイプも様々な人の中から、それぞれの良さを学び取っていってくれているはず。二人とも不安はあるけど(言葉遣いとか)、何とかなってくれるだろう。
それになんと言っても、村雨ちゃんがいるから心配はない。何か変な踏み間違いはするまいや。勿論、彼女だけに任せやしない。僕もちゃんと見守っていきます。
……なんてことを考えてることは、雛ケーキを食べる子達は気付くことはないだろう。
10年後、15年後のお内裏様に厳戒していることも、気付かれたくないな。