立ててみます。
お正月SS 神隠し異聞 シロとタタラ 亜久利子異聞 バレンタイン (笑顔がまぶしい) 珠玉 Boy's Nap (元絵と) 天目一箇神異聞 (暗躍する動物) 野狐は巷間を彷徨う
テストがてら、軽いお話でも。
「シロとタタラ」
この日も、いつもと変わらぬ日のはずだった。 シロとタタラの、いつものような食事、鍛錬、お喋り。 そしていつものように、どちらが怖い鬼らしいか比べ合う。 かまくらの中で、定番のやり取りをして終わるはずだった。
シロは突然、視界が大きくぶれるのを感じた。 気付けば、自分の顔と天井の間に、タタラの顔がある。 タタラが、シロの両腕を押さえ、馬乗りになっていた。
「油断したね、姫」 タタラの表情はわからないが、陰鬱な口調だった。 「本当に、私が怖くないって、思っちゃった?」 シロは、目を丸くしてタタラを見上げていた。
タタラが嘲笑うように言う。 「一人でいるから、こんな目に遭うんだ」 今日はもう、アオや与次郎たちが訪れる予定はない。 周囲には、まったく人の気配がなかった。
「怖いよね?なんとか言いなよ」 「…怖くねえ」 つぶやくような声だが、はっきり聞こえた。 事実、怯えも暴れもしないシロに、タタラは苛立った。
「は?嘘だね」 「おめえは、怖くなんかねえ」 今度は、まっすぐタタラを見て言った。 それが一層、タタラの感情に火を付けた。
「ふざけるなッ!私は鬼だ!恐ろしい果無の赤鬼だ!」 タタラが、思い切り顔を近付けて威圧した。 しかし、シロはひるまず、正面を向いている。 「怖くねえ!」
「もういい!あんたを殺すぐらい、わけないんだ!」 業を煮やしたタタラは、シロの首に手を掛けた。 「そして、パインの下へ帰る!」
タタラが手に力を込める。 それでもシロは、眉一つ動かさずに言った。 「だったら、なしておめえは、泣いてんだ?」
いつの間にか、タタラの両目から、涙が溢れていた。 流れた涙が、ぱらぱらとシロの顔に落ちる。 「違う!私は…ああああ!」
タタラは手を離し、悲痛な叫びを上げた。 顔を覆い、頭を掻きむしり、苦しげにうめく。 シロは、黙ってタタラを見上げている。 やがて、うめき声に交じり、言葉が聞こえてきた。
「こんなこと嫌、できない…でも…」 「私は仲間になれない…駄目なのに、なんで…」 「怖いって…言えよう…」 「姫ぇ…」
タタラは力なく肩を落とし、うなだれた。 「おら、殺されても、おめえを手放す気はねえ」 シロは静かに、力強く言った。
タタラの流す涙が、とめどなくシロの顔を濡らす。 このまま水の底に沈み、溺れてしまいそうな錯覚に陥る。 たとえそうなろうと構わない、とシロは思った。
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この日も、いつもと変わらぬ日のはずだった。
シロとタタラの、いつものような食事、鍛錬、お喋り。
そしていつものように、どちらが怖い鬼らしいか比べ合う。
かまくらの中で、定番のやり取りをして終わるはずだった。
シロは突然、視界が大きくぶれるのを感じた。
気付けば、自分の顔と天井の間に、タタラの顔がある。
タタラが、シロの両腕を押さえ、馬乗りになっていた。
「油断したね、姫」
タタラの表情はわからないが、陰鬱な口調だった。
「本当に、私が怖くないって、思っちゃった?」
シロは、目を丸くしてタタラを見上げていた。
タタラが嘲笑うように言う。
「一人でいるから、こんな目に遭うんだ」
今日はもう、アオや与次郎たちが訪れる予定はない。
周囲には、まったく人の気配がなかった。
「怖いよね?なんとか言いなよ」
「…怖くねえ」
つぶやくような声だが、はっきり聞こえた。
事実、怯えも暴れもしないシロに、タタラは苛立った。
「は?嘘だね」
「おめえは、怖くなんかねえ」
今度は、まっすぐタタラを見て言った。
それが一層、タタラの感情に火を付けた。
「ふざけるなッ!私は鬼だ!恐ろしい果無の赤鬼だ!」
タタラが、思い切り顔を近付けて威圧した。
しかし、シロはひるまず、正面を向いている。
「怖くねえ!」
「もういい!あんたを殺すぐらい、わけないんだ!」
業を煮やしたタタラは、シロの首に手を掛けた。
「そして、パインの下へ帰る!」
タタラが手に力を込める。
それでもシロは、眉一つ動かさずに言った。
「だったら、なしておめえは、泣いてんだ?」
いつの間にか、タタラの両目から、涙が溢れていた。
流れた涙が、ぱらぱらとシロの顔に落ちる。
「違う!私は…ああああ!」
タタラは手を離し、悲痛な叫びを上げた。
顔を覆い、頭を掻きむしり、苦しげにうめく。
シロは、黙ってタタラを見上げている。
やがて、うめき声に交じり、言葉が聞こえてきた。
「こんなこと嫌、できない…でも…」
「私は仲間になれない…駄目なのに、なんで…」
「怖いって…言えよう…」
「姫ぇ…」
タタラは力なく肩を落とし、うなだれた。
「おら、殺されても、おめえを手放す気はねえ」
シロは静かに、力強く言った。
タタラの流す涙が、とめどなくシロの顔を濡らす。
このまま水の底に沈み、溺れてしまいそうな錯覚に陥る。
たとえそうなろうと構わない、とシロは思った。