隠れ秋田県民
2021/05/29 (土) 21:29:14
「そうそう、坊のところに子供が産まれたんじゃ」
久し振りに訪ねて来たおこうが、雑談の中で言った。
「へえっ、あの子がもう親になったのかあ」
思わぬ報せに、アオが感嘆した。
境内で一緒に虫取りをした時のことが、懐かしく思い出された。
おこうは、坊に抱かれる子供を見て、珠のようだと思った。
その子供も、やがて神社へ遊びに来るようになるだろう。
そうして、この世は移り変わっていくのだ。
「昔、アオさんが言った通り、人間の社会は忙しい。
その中で坊も成長し、結婚し、親になったんじゃよ」
少女の姿をしたおこうの顔が、やけに大人びて見えた。
「どうかしたかの、アオさん」
アオの視線に気付いて、おこうが訝しんだ。
「取られた、って思ってる?」
「あ、いや…」
おこうは虚を突かれ、口をつぐむ。
ややあって、上目遣いにアオを見た。
「そうじゃな、寂しい年寄りを慰めてもらおうかの」
アオが、白い歯をこぼして笑った。
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