ヤマノスしゃべり場

SSスレ / 29

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「また傷が増えたわね」
村の外れで、女が眉をひそめて言った。
前髪に付けた髪留めが、西日を受けて輝いた。

相手は、お沢稲荷。
古館山を拠点に、雄勝一帯を統べる女である。
左目の周りと右肩に、包帯が巻かれている。
妖を退治した際に受けた傷だった。

そうでなくとも、精悍な体のあちこちに傷跡がある。
しかし、本人は外見など気にしていない。
元々切り揃えられていたであろう髪はぼさぼさで、
長い後ろ髪を、後頭部で一つにまとめていた。

お沢が不敵に笑った。
鋭い右目で、不安げな女の顔を見つめている。

「いつものことだ。心配するなアグリコ」
「いつもだから心配するのよ」
“亜久利子”と呼ばれた女も、土着の神であった。

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